恋のライバルは川の神!? お姫様争奪バトル勃発!
「でいあねいら、そいつは誰だ?」
森の奥から、低く響く声がした。
現れたのは――あけろおす。川の神。でいあねいらの“婚約者”を名乗る男だった。
「へらくれす。彼が、私の父が決めた婚約者よ」
「えっ、そんなの聞いてないんですけど!?」
「私だって、聞かされただけよ。好きでもないのに……」
その言葉に、ぼくの中で何かが弾けた。
彼女が、無理やり誰かに決められるなんて――そんなの、絶対に許せない。
(……誰かの意思じゃなくて、自分の心で選ぶ。あたらんたさんも、きっとそう言うだろうな)
ふと、あの丘の上で風のように笑っていた彼女の姿がよぎる。
でも今、ぼくの目の前には――でいあねいらがいる。
彼女の瞳は、迷いながらも、ぼくを信じようとしている。
「だったら、ぼくと勝負してください! でいあねいらの気持ちは、彼女自身が決めるべきです!」
「ふん、筋肉バカが。神に勝てると思うなよ」
あけろおすは姿を変えた。
巨大な蛇に、猛牛に――神の力を誇示するように、次々と変化して襲いかかってくる。
でも、ぼくは負けなかった。
筋肉と根性と、なにより――でいあねいらを守りたいって気持ちで、勝った。
最後にあけろおすが地に伏したとき、森に静寂が戻った。
そして、でいあねいらが、そっとぼくのもとへ歩み寄ってきた。
「……へらくれす、あなた……」
彼女の瞳は、少し潤んでいて、でもまっすぐぼくを見ていた。
その視線に、ぼくの心臓はバクバク鳴っていたけど――言わなきゃ、後悔する。
(あたらんたさん……ぼく、今度こそ、ちゃんと伝えます)
「ぼく、あなたのことが好きです。結婚してください!」
言った。言っちゃった。
でも、彼女は――
「……ほんとに、変な人」
そう言って、ふわっと笑った。
そして、ぼくの手をそっと握って、少しだけ顔を赤らめながら、こう言った。
「でも……私のために、あんなに必死になってくれて……うれしかった。すごく、うれしかったの」
「でいあねいら……」
「だから……その、もしよかったら……」
彼女は、ぼくの胸にそっと額を寄せて、
まるで聞こえるか聞こえないかの声で、こうつぶやいた。
「……わたしも、あなたのこと……好き、かも」
その瞬間、世界がふわっと明るくなった気がした。
神様だろうが、運命だろうが、関係ない。
この手を、絶対に離さないって、心に誓った。