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ぎりしゃしんわ  作者: ほめろすとかいろいろ
5/18

メデューサは、ぼくだけを見ていた。

「お前、メデューサって知ってるか?」


その日、ぼくはいつものように筋トレしてた。

岩を持ち上げてたら、ぺるせうす先輩が唐突にそんなことを言い出した。


「え、あの……目を合わせたら石になるっていう、あのヤバいやつですよね?」


「そうそう。髪の毛がヘビで、顔見たら即アウトのやつ」


「なんでそんな危険生物の話を、昼下がりの雑談みたいに始めるんですか……」


ぺるせうす先輩は、ギリシャ界隈でも有名な英雄。

イケメンで、爽やかで、ちょっと天然。

でも、やるときはやる。そんな人。


「でもさ、最近噂があるんだよ。メデューサ、誰かを待ってるらしい」


「……誰か?」


「さあな。でも、なんか……哀しい目をしてるってさ」


その言葉が、なぜか胸に引っかかった。


そしてぼくは、ぺるせうす先輩と一緒にメデューサの巣へ向かうことになった。

あてな様から借りた鏡の盾を手に、暗く湿った洞窟を進む。


「へらくれす、絶対に目を合わせるなよ。絶対だぞ」


「はいはい……」


でも、ぼくは――見てしまった。


鏡越しに映ったその瞳。

それは、恐怖でも怒りでもなかった。


ただ、ひとりぼっちの少女のような、寂しさだった。


「……どうして、来たの?」


その声は、意外にも優しかった。

メデューサは、ぼくを見つめていた。直接じゃない。鏡越しに。


「君は……人を石にするんじゃないのか?」


「そうよ。でも、あなたは……違う気がしたの」


彼女の髪のヘビたちが、静かに揺れる。

その姿は、どこか儚く、美しかった。


「ねえ、私を……見てくれる?」


「……見たら、ぼく、石になるよ?」


「それでもいいの。誰かに、ちゃんと見てほしかったの」


ぼくは、鏡の盾をそっと下ろした。


「バカ! 何してんだよ!?」

ぺるせうす先輩の声が遠くで響く。


でも、ぼくは目を閉じて、そっと言った。


「君が、誰かを待ってたって聞いた。

……それが、ぼくだったらいいなって、思ったんだ」


静寂の中、そっと頬に触れる温もりがあった。


「ありがとう。あなたが、最初で最後の人だった」


目を開けたとき、そこにメデューサの姿はなかった。

ただ、ひとつの石像が、微笑んでいた。


それは、まるで――

恋を知った少女の、最後の笑顔のようだった。

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