英雄のはじまりは、ベビーベッドから。
その夜、ぼくはベビーベッドでぐっすり眠っていた。
ミルクも飲んだし、おむつも替えてもらったし、母さんの子守唄も聞いた。
つまり、完璧な赤ちゃんライフを満喫していたわけだ。
……なのに。
「ふふふ……これで終わりね」
へーら様が、夜の闇に紛れて忍び込んできた。
手には、うねうね動く2匹の毒蛇。目が赤く光ってて、完全にアウト。
「この子がいなくなれば、ぜうすも少しは反省するでしょう」
(いや、絶対しないと思うよ!?)
毒蛇がベビーベッドに放り込まれたその瞬間――
ぼくの手が、勝手に動いた。
右手で一匹、左手で一匹。
毒蛇を、ぎゅっと握りつぶした。
「……なっ!?」
へーら様の顔が、ほんの一瞬だけ引きつった。
あれが、ぼくの“英雄物語”の始まりだった。
それからのぼくは、どんどん強くなっていった。
岩を持ち上げ、獣を倒し、困ってる人を助けて――
「英雄へらくれす」の名は、神々にも人間にも知られるようになった。
でも、強さだけじゃ守れないものもあった。
ある日、へーら様の呪いで、ぼくは一瞬だけ正気を失い、
自分の手で、大切な人たちを傷つけてしまった。
「へらくれす、あなた……自分が何をしたか、わかってるの?」
神託の巫女が、神殿の奥から現れて、ぼくをまっすぐ見つめていた。
「……えっと、寝ぼけて家壊した?」
「違うわよ! 家族を……!」
その言葉に、ぼくの心臓がギュッと縮んだ。
「……ぼく、そんなつもりじゃ……」
「わかってるわ。でも、神々の世界では“つもり”じゃ済まされないの」
そして、神託が下された。
「十二の試練を乗り越えよ。さすれば、罪は清められ、神に近づくであろう」
「……え、十二も? 3つとかじゃダメ?」
「ダメです」
完全にブラック企業の上司ムーブだった。
報酬は「罪の清算」と「神に近づく権利」。有給も出ないし、命の保証もない。
でも、やるしかなかった。
もう二度と、大切な人を傷つけたくなかったから。
こうして、ぼくの試練生活が始まった。
神話級のブラックミッション、開幕である!