へーら様、嫉妬の女神すぎる
ぼくの出生がバレたのは、たぶん神界のゴシップ女王・あふろでぃてが喋ったせいだと思う。
「ねえ聞いた? ぜうす様、また浮気したんですって〜♡ しかも今度は人間相手よ〜♡」
「え〜マジ〜? また? 何人目〜?」
「しかも子どもまでできたらしいわよ〜♡ 名前は……えっと、へらくれす?」
その瞬間、神界の空気が凍った。
「……へらくれす?」
その名を口にしたのは、へーら様。
ぜうすの正妻にして、結婚と嫉妬と復讐の女神。
「また浮気!? しかも人間相手!? しかも子どもまで!?」
神殿の柱が「バキィッ!」と音を立ててヒビ割れた。
雷でも落ちたのかと思ったけど、違う。へーら様の怒りのオーラだった。
「ぜうす……あの男、何度目だと思ってるのよ……!」
神々の王妃が怒ると、天候が荒れる。
空は曇り、風が唸り、オリュンポス山の頂が震える。
そして、その怒りの矛先は――当然、ぼくに向かう。
「へらくれす……あなた、消えてもらうわ」
「え、ぼくまだおむつ取れてないんですけど!?」
いやいやいや、待って!?
ぼく、まだ人生始まってすらないんだけど!?
神様って、赤ちゃんにも容赦ないの!?
「あなたが存在するだけで、私のプライドが傷つくのよ」
「プライドって、そんなに繊細なものだったの!?」
へーら様は、静かに手をかざした。
その指先から、何かヤバそうな魔力がにじみ出ている。
「さようなら、へらくれす。あなたの物語は、ここで終わりよ」
「いやいやいや、始まったばっかりなんですけど!?」
ぼくの人生、まだプロローグすら終わってないのに――
神々の世界は、容赦なく理不尽だった。