表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぎりしゃしんわ  作者: ほめろすとかいろいろ
12/18

すれ違いの恋と、ケンタウロスの罠

「……ねえ、へらくれす。最近ちょっと、人気ありすぎじゃない?」


でいあねいらが、ぼくの隣でぷいっとそっぽを向いた。

その頬はふくらんでいて、でも耳までほんのり赤い。かわいい。


「えっ、ぼく何かしたっけ?」


「してないのが問題なの……ばか」


市場に行けば、村の女の子たちが「へらくれすさま〜♡」って手を振ってくるし、

鍛冶屋のおじさんには「おう英雄様、今日も筋肉バッキバキだな!」って褒められる。


ぼくはただ、旅して、困ってる人を助けてるだけなんだけどなぁ。


「でいあねいらは、ぼくの一番大事な人だよ?」


そう言うと、彼女はちょっとだけ黙って、でもすぐに小さな声で、


「……うそつき。そう言って、またどっか行っちゃうくせに」


そんなやりとりも、いつもの甘いやきもち。

でも――その日、旅の途中で出会ったケンタウロス、ねっそすが、すべてを変えた。


「おや、これはまた美しい方だ。おふたり、川を渡るのですか?」


ねっそすはにこにこと笑って、でいあねいらを背に乗せて川を渡り始めた。

でも、次の瞬間――彼は彼女をさらおうとした。


「でいあねいら!!」


ぼくはすぐに矢を放ち、ねっそすを射抜いた。

彼は倒れながら、でいあねいらにささやいた。


「……この血を、愛の証として使うといい。彼の心を、永遠にあなたのものにできる」


でいあねいらは、震える手でその血を受け取った。

その瞳には、恐れと、そして――ぼくを失いたくないという、強い想いがあった。


数日後。

ぼくが旅から戻ると、でいあねいらは、ちょっとだけ不安そうに笑っていた。


「……ねえ、へらくれす。これ、新しい衣……。旅の疲れ、癒してほしくて」


「ありがとう。でいあねいらの手作り? うれしいな」


「……うん。ちょっとだけ、特別な仕上げをしたの」


それが、ねっそすの血が塗られた“毒の衣”だったことを、

そのときのぼくは、まだ知らなかった。


でも、あのときの彼女の笑顔は、

今でも、ぼくの胸の奥で、やさしく、痛く、焼きついている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ