母さん、重大発表しすぎ問題
その日、ぼくはいつものように、縁側でおやつのハチミツヨーグルトを食べていた。
スプーンですくって、口に運んで、うん、今日も甘くて幸せ。
「へらくれす、ちょっと話があるの」
母さん――あるくめねが、いつになく真剣な顔でぼくの前に座った。
その時点で、ぼくの中の警報が鳴った。
(あ、これ……おやつの時間に言う話じゃないやつだ)
「なに? ぼく、また壺割ったのバレた?」
「違うの。もっと大事なことよ」
母さんは、少しだけ目を伏せてから、ぼくをまっすぐ見た。
「へらくれす、あんたの父親は、ぜうすなのよ」
……スプーンが手から落ちた。
ヨーグルトが畳にポトリと落ちる音が、やけに大きく聞こえた。
「……え? ぜうすって、あの空から雷落とす神様の?」
「そうよ。神々の王。あと、浮気性」
「最後の情報いらない!!」
ぼくは思わず立ち上がって叫んだ。
いやいやいや、ちょっと待って。神様? 王様? 浮気性? 情報量が多すぎる!
「じゃあ、ぼくって……神の子?」
「そう。正確には“半神”ってやつね。人間と神様のハーフ」
「ハーフって……そんな軽いノリで言う!?」
母さん――あるくめねは、普通の人間の女性。
でも、ぜうすが人間に化けて近づいてきて、ぼくが生まれたらしい。
「つまり、ぼくの出生って、神様のナンパから始まってるの?」
「まあ……そうね。しかも、ぜうすったら、あなたのおじいちゃんに化けて近づいてきたのよ」
「え、ちょっと待って!? それ、倫理的にアウトじゃない!?」
「でも、あなたが生まれてきてくれて、私は幸せよ」
母さんはそう言って、ぼくの頭を優しく撫でた。
その手はあったかくて、でもどこか、少しだけ震えていた。
「だから、これからいろいろあると思うけど……がんばってね」
「え、なにそのフラグ立てる感じ!? “これから”ってなにがあるの!?」
母さんは答えなかった。ただ、少しだけ寂しそうに笑った。
そのときのぼくは、まだ知らなかった。
このあと、神々の嫉妬と怒りと試練と冒険と、あと毒蛇が待っていることを――。