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第8話 「魔法少女のグッズ開発」

 魔法少女生活三十日目。俺たちはギルドからの伝言で再びブルーローズ商会へと向かった。


「お待たせしましたわね」


「いえ、マリー社長こそお疲れ様です」


 応接室で待つこと、数十分。マリー社長と何か手荷物を持った秘書が入って来た。両名とも急いできたのか少し息を切らしていた。


「急なお呼び立てをして申し訳ありません。試作品が出来たので、一度見てもらおうと思いまして」


 マリー社長が秘書に目配せすると、秘書は手荷物の中身を机の上に並べ始める。それは魔法少女の俺がデザインされたバッジや俺の形の人形だった。


「……試作品? マリー社長、これは一体……?」


「あら? セリナさんから話は聞いていませんか?」


 俺が初耳だったことが予想外だったらしいマリー社長も驚いた表情になる。そして俺と社長は同時にセリナへと振り向いた。


「セリナ」


「セリナさん」


 俺とマリー社長の二人から一斉に目線を向けられたセリナはゆっくりと目を逸らした。


「……リオンは押しに弱いから、グッズ化をある程度進めてたら断らないと思って……」


『ちなみに我は知っていたぞ』


 まあ、バフォが言わないのは納得だった。セリナもある意味納得ではあるが。


「……セリナ。俺の目を見ろ」


「使用料は払ってくれるそうだし、いいでしょ?」


 セリナに正面に向くように言ったが、彼女は目を逸らしたまま目的が金だったことを白状した。


「――変身」


「……ぐえっ」


 俺は魔法少女に変身すると、そのままセリナの首根っこを掴んだ。


「マリー社長、少し廊下をお借りします」


「壊したりしたら弁償ですよ」


「分かりました」


 俺はマリー社長に一言断るとセリナを廊下まで引きづっていった。ついでにバフォもついてきた。


「……げほっ、げほっ」


 廊下に出た俺はセリナを解放した。解放されたセリナは全力で呼吸を繰り返す。


「よし、セリナ。その壁に手をつけて立て」


「……もしかしてリオン、怒ってる?」


「立て」


 セリナの言葉に俺は一言で返した。


「……しょうがないなあ。はい、これでいい?」


「ああ」


 セリナはため息をつきながらゆっくりと壁に手をつけて立ち、俺に言われた通り背中を向ける形になる。


「それから怒ってるに決まってるだろう。でも今は時間がないから一発で許してやるよ」


 俺はセリナの背後に立つ。昔から何度怒られても懲りないセリナだが一つだけ苦手とするものがあった。俺は右手を上げ、その手のひらに力を込める。


「え、一発ってな……いっだ~い!!」


 スパーン!と小気味いい音がセリナの悲鳴と共に響く。村にいた子供時代、やんちゃが過ぎたセリナは母親にお尻を叩かれるのが大の苦手だった。 


 流石に元の俺ではそんなことをしたら絵面が酷すぎて出来なかったが、女扱いが様になってきた今なら気兼ねせずこの幼馴染(バカ)のケツを叩くことが出来た。


「すみません、戻りました」


「うう~、痛い……」


 応接室に戻った俺はマリー社長へ頭を下げる。セリナはソファーに座る時にも痛がっていたが完全に自業自得だった。


「……セリナさん、だから信頼と信用は大事だといったでしょう。親しき中にも礼儀あり、ですよ」


「……はい」


 そんなセリナにはマリー社長もため息をつきながら忠告を入れた。セリナは未だに震える声で頷いたがどうせまた懲りずにやらかすだろうなという悪い信頼が俺にはあった。


 だが、その時はその時またケツを叩けばいいとも俺は思った。


「それで商品化のことはどうしましょうか?」


「……改めて詳しい話を聞いてからでもいいですか?」


「……そうですわね」


 何も商品化の詳細を聞かされていなかった俺は改めてマリー社長に情報を尋ねた。最終的には最初の予定通り、商品化の許可・協力の代わりに一定の報酬を受け取るという形に落ちついた。


「ね。やっぱりそうなったでしょ?」


「今度は生尻叩いていいか?」


「ひぃ!?」


 俺が右手を構えるとセリナはお尻を抑えながら俺から距離を取る。最近、特にペースを取られていた俺としては弱みを握れて大満足だった。



◇◇◇◇



 商品化の交渉が終わった俺たちはそのまま商会の奥の大広間に案内された。そこには木彫職人、金細工師、人形師、縫い子と様々な職人たちがいた。


「おおっ、これが噂の」


「なるほど、なるほど」


「確かにこれは売れそうだ」


「えっ、これを再現するの?」


 魔法少女姿の俺に視線が一気に集中する。その視線はギルドや街中でよくある興味本位というよりも商品化に向いているか、どんな商品を作るかといった作り手目線のものだった。


「社長、お時間はいつまででしょうか?」


「服には触ったりしても大丈夫ですか?」


 実物を見たことでやる気になった社員たちはマリー社長へと一斉に質問を投げかける。


「リオンさん、食事や休憩は用意しますので夜までお付き合い大丈夫でしょうか?」


「分かりました」


 特に予定もなかった俺はマリー社長の言葉に同意する。


「服に触ったり細かいところはあなたから指示をお願いします」


「分かりました」


「それでは私は別件もありますので一旦退室させてもらいますわね」


 そういうとマリー社長は大広間を後にした。そして――


「リオンさんでしたね。ひとまず全体図を見るためにいくつかポーズを……」


「待って、その前に一回服の素材を確かめさせてよ」


「ちょっと待て。まずは……」


「光線が出せるって聞いたんですけど魔法とは違うんですか?」


「えっと、ちょっと……」


 マリー社長が退室した途端、職人たちが俺の周りを囲んで一斉にまくしたてる。ただ個人の問題なのか部署の問題なのか全く統制が取れておらず、複数人の重なった言葉に俺はまったく対応することが出来なかった。


「……この体勢、あとどれくらいかかります?」


 俺は大広間の中心にポーズを取って立つ。その周りには大勢の職人が俺を囲ってスケッチやメモを取っていた。


「このポーズはあと十分ほどですね。あっ、右腕が下がってますよ」


「……すみません」


 職人の一人に指摘され、俺は右腕を上げなおす。そして今の言葉からこのポーズの後でいくつポーズをやらされることになると確信した俺は商品化を受けたことへの後悔を始めた。


「あー、これってこうなってるんだ」


『中々、興味深い』


 一方、大広間の傍ら。既に作業に入っている職人の様子をセリナとバフォは興味深そうに見学していた。その声は熱心に作業に集中している人間がほとんどの大広間内でよく響く。


「ところでこの名前ですが魔法少女リオンだけでは印象が薄くはないでしょうか?」


「確かにそうだよねえ。マジカルリオンとかの方がいいかな?」


『せっかくだからピンクインパルスももう少し派手な名前にしたいところだな』


「しっかり売り出したいですからねえ」


 そして一人の職員との会話で俺の魔法少女としての名前まで勝手に考え始めた。


「おいこら、そこ。またケツ、叩くぞ!」


「だから動かないください!」


「すみません」


 セリナの行動についつい動いてしまった俺は職員に怒られてしまった。


「逃げるよ。バフォちゃん」


『いや、別に我はいいのでは?』


 それはそうと俺の言葉にセリナはバフォを抱えて逃げるように出ていった。口ぶり的にバフォは戻ってくるかと思ったが結局最後まで戻ってこなかった。


「……いい肌触り。このドレス生地は一体どこで?」


「……さ、さあ」


 長い長いポーズ写生の後、休憩を挟むと次は人形、装飾担当の職人が俺の魔法少女服のあちこちを至近距離で見て、触って調べ始める。そんな中でドレスの素材について尋ねられたがバフォとの契約で出来たものなので詳細を答えることが出来なかった。


「そうですか。ならこれに近いのはラクス布でしょうか」


「いや待て。ラクス布なんて使ったら量産向けの予算が納まらないだろ」


「それにここは流石に簡略化しないと無理が……」


「そこをやってこその職人だろうが!」


 布から糸、装飾品一つとっても職人同士で意見が分かれる。同じ職人といってもそれぞれこだわりが違うようだった。


「リオンさんはどう思いますか?」


「え、いやそれはよく分からないので……」


 素人の俺に振られてもどうしようもなかった。その後も各素材や装飾品によるもめ事が続く。時間としてはいくつものポーズを連続で取った写生の時よりも短かったが、白熱した挙句に無茶振りが飛んでくるのは中々に疲れた。


 そして日も落ちたころ、マリー社長が戻って来た。


「お疲れ様ですわ。これが今日の報酬になります」


「ありがとうございます。……こんなに?」


 マリー社長から渡された報酬に俺は目を丸くする。その報酬額は下手な魔物討伐よりも上だった。


「相応の報酬を渡すのが筋という物ですわ」


「……マリー社長」


 目的のためなら報酬をケチることはないマリー社長の人望が改めて理解できた。


「それではまた明日もよろしくお願いしますわ。それからグッズの完成の暁には宣伝用のショーを開催します。……ご出演、お願いできますわね?」


「……社長?」


 そして逃げ場を作らない社長の狡猾さも俺は理解することになった。

次回『魔法少女ショー』

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