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第7話 「魔法少女と護衛依頼」

次回『魔法少女とグッズ開発』

第7話 「魔法少女の護衛依頼」


 魔法少女生活二十日目。いつものようにギルドに向かった俺たちだったが、女性の先輩冒険者に呼び止められ街でも有数の商会――ブルーローズ商会へと連れてこられた。


「なるほど、そういうことですか」


「……はい、急なことで申し訳ありません」


 案内された応接室で先輩は商会の女社長マリー・ブルーローズに深々と頭を下げる。


 本来は先輩が彼女の護衛依頼を受けていた。だが、昨夜の食事が傷んでいたらしくパーティーごと壊滅的なダメージを受けてしまい、依頼の遂行が不可能になった。そして――


「それで、この二人がその代理の冒険者ですか?」


 マリー社長の視線が代理を頼まれた俺たちに向けられる。その三十前で先代から社長を引き継いだという彼女の鋭い視線に思わず身がすくんだ。


「……子供にしか見えませんが本当に戦えますの?」


 少しの沈黙の後、最初に口を開いたのはマリー社長だった。まあ、明らかに子供にしか見えない俺を不審に思うのは無理もなかった。


「マリー社長、大丈夫です。このリオンは見た目は子供ですけど実力は折り紙付きです」


 俺たちが答えるより早く、先輩が進んで女社長に答える。魔法少女になった俺が先輩から一定以上の評価をされていることが内心嬉しかった。


「まあ、ちょうど任せられそうな女性パーティーが彼女たちしかいなかったのもありますけど」


「……」


 ただ選ばれた理由に男嫌いのマリー社長のために女パーティー限定という条件が含まれていたことには未だに納得がいっていなかった。


「まあ、あなたのことは信頼していますし、その推薦であれば信じましょう」


 定期的にマリー社長から護衛依頼を受けているらしい先輩は社長に信頼されているらしく、社長もそれ以上の追及はしなかった。


「「よろしくお願いします」」


 改めて俺とセリナはマリー社長へ頭を下げた。


 こうして俺たちとマリー社長、馬車の運転手も兼ねた社長秘書の四人と一匹は馬車に乗って目的地への温泉旅館へと出発した。



◇◇◇◇



『……暇だな』


「護衛依頼なんて暇でいいだろ」 


 馬車出発からしばらく、馬車の後方で見張りをしている俺の元へバフォがやってきた。


 そんな時、馬車の前方の方で獣の声と炸裂音が聞こえてる。俺は馬車の外側を回って馬車の前方にいるセリナの元へと向かった。


「魔物か?」


「あっ、リオン。これぐらいなら私一人で大丈夫だから後ろを見てて」


 前方に行くとセリナが馬車に近寄ってくる猿の魔物を次々と撃破していた。そのため馬車は速度を緩めることなく進んでいった。


 そしてその襲撃をあしらった後はまたしばらく何もない道中が続いた。



◇◇◇◇



「……止まって‼」


 突然のセリナの大声の後、馬車が急停止する。


「な、なん……おわっ!?」


 そしてその直後、何かが爆発するような大きな音と激しい揺れが馬車を襲った。


「セレナ!」


 慌てて馬車を飛び降りた俺は全速力で馬車の前方へと向かう。そしてそこにいた元凶を見た俺は思わず足を止める。


「サラマンダーだと!?」


 馬車を襲ったものはアースドレイクの同等の体躯を持ち、全身が炎のように赤い鱗に包まれた大トカゲ――サラマンダーだった。


「どうしてこんなところに……」


 サラマンダーはアースドレイクとほぼ同格の亜竜だが俺が足を止めた理由はもう一つある。それはサラマンダーの本来の生息地が火山帯であり、僻地とはいえこんなところに現れることはありえなかったからだ。


「……リオン、来るよ!」


「……しまっ!?」


 奇妙な事態に頭を巡らせていると後ろからセリナの声がかかる。反応が遅れた俺の前ではサラマンダーの胸元がより赤く膨れ上がっていた。


 ――そしてその直後、人一人をゆうに上回る巨大な火球がサラマンダーの口から放たれた。


「……くっ」


 俺は慌てて障壁を貼ったが反応が遅れたせいで完全に防ぐことは出来なかった。


「リオン、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。社長たちを頼む」


「分かった」


 最低限のやりとりで俺たちはサラマンダーの撃破と社長たちの護衛に別れる。もちろん俺がサラマンダーの担当だ。


「そう何度もやらせるかよ」


 サラマンダーが再度火球を放つ前に俺は駆け出し、距離を詰める。


「おっと」


 もちろんサラマンダーも棒立ちなわけもなく、小規模の火炎を吐いてきた。だが、それも元の俺ならともかく今の俺なら躱すのに難はなかった。


「くらえっ!」


 火炎を躱し、サラマンダーの目前までたどり着いた俺はその前足を切りつける。その体はアースドレイクほどの固さはなく、確かな手ごたえがあった。


「このまま……っと!?」


 追撃を加えようとした俺の前にたった今切ったばかりの前足が迫る。剣で防御したことで直撃は防いだが、その大質量に俺は大きく吹き飛ばされてしまった。


「……どういうことだよ」


 距離を取った俺は改めて切ったはずの前足をじっと見る。すると切った部位にはしっかり切った形跡があり、全く効いていないわけではないようだった。


「黙って考えてる暇はないか」


 足の切り傷について考えているとサラマンダーは再び火球用の溜めを開始した。そのため俺は全速力で再び距離を詰める。


 そしてそのまま近距離での膠着した戦いが始まった。そして何度も攻撃を繰り返すことでサラマンダーが切っても動けるのはただ単に治癒力が高く少し切ったぐらいでは簡単にくっついてしまうということが分かった。


「……このままだと埒が明かないな」


 サラマンダーの爪や牙、そして火炎を躱しながら数十回は切りつけたが有効打にはならない。しかし、アースドレイクよりも素早いサラマンダーに大技を当てるのは困難だった。


「……やってみるか」


 作戦を思いついた俺は再びサラマンダーから距離を取る。すると距離が離れた俺に対してサラマンダーは火球を放つための溜めを開始した。


「ピンクインパルス」


 サラマンダーの火球攻撃を予見していた俺はブルーインパルスを俺色に変えた新技ピンクインパルスを放つ。


 その桃色の閃光は火球を放つためにエネルギーを貯めていた胸元を撃ち抜く。そしてその直後、行き場を失ったエネルギーが爆発しサラマンダーの全身を包んだ。


「……流石にもう動けないよな」


 爆発が晴れた後、サラマンダーの様子を確認すると胸元周辺は跡形もなく吹き飛んでいた。


「みんなも無事か」


 サラマンダーの撃破を確認した俺は改めてセリナやマリー社長たちの方へと振り返った。するとそこには無事な姿のセリナ、マリー社長、社長秘書、バフォの三人と一匹の姿があった。


「やったね。リオン」


「ああ、セリナもお疲れ」


 みんなの元へ向かった俺はセリナとお互いの健闘を称えてハイタッチをする。


「マリー社長もお怪我とか大丈夫でしょうか?」


「ええ、お陰様で私たちも馬車も無事ですわ」


 セリナとのやり取りを終えた俺はマリー社長に怪我の安否を確認するが怪我もなく、むしろ上機嫌なぐらいだった。


「それから一度謝っておきますわ」


 そしてマリー社長は急に俺に向かって頭を下げた。


「え?」


「なにっ?」


「社長!?」


 マリー社長の突然の行動に俺、セリナ、そして社長秘書まであっけに取られた。


「あなたのことは正直舐めていました。ですがサラマンダーを単身。しかもあんなに見栄えよく倒すとは感服しましたわ」


「だからって頭まで下げなくても……」


「商売を生業とする上で一番大事なことは分かりますか?」


「……お金ですか?」


「いいえ」


 マリー社長の突然の問いに、俺は答えたが社長は首を横に振った。


「……それじゃあ資本とかですか?」


「いいえ」


 俺に続いてセリナも答えたがマリー社長は首を横に振った。


「もちろん元手や資本は重要です。ですがそれ以上に信用、信頼。あるいは伝手がなければいくらお金や資本があっても取引相手がいなければ商売にはなりませんのよ」


 そういうとマリー社長は馬車まで戻っていった。その後はこれといったこともなく俺たちは目的地の温泉旅館へと辿り着いた。



◇◇◇◇



『本当に行かなくてよかったのか?』


「いや、行くわけには行かないだろ」


 温泉旅館に着いた俺たちはマリー社長に女湯に誘われたがそれを断った俺は一人女湯の前に残っていた。この体に慣れてきたとはいえ流石に赤の他人であるマリー社長たちと一緒に風呂に入るのには躊躇いがあった。


 ちなみに今日は貸し切りらしい。山奥の隠れ家的な旅館とはいえ流石商会の社長だ。


『なら男湯はどうだ?』


「……貸し切りとはいえそれもなあ」


『ククク……存分に悩むといい』


「お前さあ」


 そんな感じの他愛のない話を俺とバフォはしばらく続けた。


「あれ? リオン、ずっと待ってたの?」


「護衛だしな」


 しばらくしてセリナ、マリー社長、社長秘書の三人が温泉から上がって来た。


「それではリオンさんも入っていらしたらどうですか?」


 俺とセリナの会話が終わったのを見計らってアリア社長が声をかけてくる。


「護衛はいいんですか?」


「ええ、セリナさんもいますからね。報酬の一部だと思っていただければ」


「そうですか。それではありがたくちょうだいします」


 俺はマリー社長へ頭を下げた。


「それではセリナさん。お願いしますね」


「はい、分かりました」


 そしてマリー社長はセリナを連れて客室の方へ向かった。こうして残された俺は一人温泉へ入ることに――


「……いや、どうしてお前も来たし」


『暇だからな』


 訂正。俺は着いてきたバフォと一人と一匹で温泉に入ることになった。


『まあ、これからはあまり退屈せずにすみそうだがな』


「どういうことだ?」


『確定事項ではないから言えんな』


「お前さあ」


 その後も一応言及したがバフォからそれ以上の情報は得られなかった。 


 それはそれとして商会の社長がわざわざ通う温泉だけあってその気持ちよさは今まで俺が味わったものの中でも一番のものだった。 ――だが、この選択が間違いだったと俺は後悔することになる。

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