第6話 「魔法少女と討伐依頼」
次回『魔法少女と護衛依頼』
第6話 「魔法少女と討伐依頼」
魔法少女生活四日目。一昨日、買ったばかりの女児服を着た俺はギルドの前で大きく深呼吸をした。
(……魔法少女衣装よりはマシだ。魔法少女衣装よりはマシだ)
「リオン、準備はいい?」
「……ああ、行くぞ」
覚悟を決めた俺はゆっくりとギルドへと足を踏み入れる。すると中にいたギルド職員や冒険者の目が一斉に俺の方へと向いた。
「おっ、来たか」
「え、あれがリオン……? 随分かわいくなったな」
「今日は服が違うんだな」
注目はされているが初日のように近寄って来る者はいなかった。俺も余計なことはせず依頼掲示板へと歩みを進めた。
「どれにしようか」
「……そうだな。これとかどうだ?」
掲示板に貼られた各依頼に軽く目を通した俺は一つの討伐依頼を指差す。その途端、二人の男が俺たちに声をかけてきた。
「おいおい、お前ら二人だけで大丈夫か?」
「というかその状態でちゃんと戦えるのか?」
「ビル、ベン」
二人の男、ビルとベン。二人は俺たちと同世代の冒険者でそれぞれ元の俺より少し強いぐらいの強さだった。
「なんだ心配してくれるのか?」
「まあそれなりの付き合いだからな。あとちゃんと戦えるのかって」
「お前だけならともかくセリナちゃんにまで何かあったら困るからな」
二人とは同世代ということもあり、何度か組んだこともあった。そんな二人が声をかけてきたのは俺たちへの心配のようだった。
実際、俺が選んだ依頼はこれまでの俺たち二人だけでは荷が重い相手ではある。だが、魔法少女になった今なら勝てると思ったし、なにより一昨日の出費をさっさと回収しておきたかった。
「この体、こう見えても前より強いんだよ」
「本当かよ」
ビルは俺を見た後、セリナの方を見る。
「うん。魔法少女になった今のリオンの方が強いよ」
「……そういうことなら、まあ」
「セリナちゃんの分析が間違ってるとは思わないけど……」
二人はセリナの言葉に納得していない、というより不安な様子だった。
「それなら一緒に行くか?」
「いいのか!」
「それでもいいならまあ」
煮え切らない二人に俺は一緒に依頼に行くことを提案すると二人はその案に乗り気だった。今更だがベンの方はセリナのことが好きで、セリナ本人もその好意には気づいている。
だが、ベンから行動を起こさない限り、セリナは何もしないつもりらしい。要するに脈なしだ。
「別にいいよな。セリナ?」
「私は魔法少女の観察が出来ればいいよ~」
『我も別に構わんぞ』
セリナに確認を取ると便乗してバフォも頷いた。まあ、特に問題はないので心の中で「お前には聞いてねえ」と突っ込んでおく。
「それじゃあそういうことで……」
「ちょっと待った。そういうことなら俺も連れて行ってくれ」
「あっ、それじゃあ私もせっかくだし」
「魔法少女には色んな意味で興味があるしね」
話に区切りがついたと思えば他の冒険者たちも便乗して依頼参加に名乗りを上げ始める。そのノリはビル、ベンのような心配ではなく単なる魔法少女への興味のようだった。
「そんなに来たら報酬ほぼなくなるじゃねえか」
ビルとベンの時点で報酬分が半分になっているのにそれ以上に増やされるわけにいかなかった。その後も少しもめたが、最終的には俺たちとビルとベンの四人で依頼に臨むことになった。
◇◇◇◇
「……この辺でいいか。変身!」
街から馬車に乗り、依頼先手前に着いたところで俺は魔法少女の姿へと変身する。
「うおっ」
「いつの間に」
そして一瞬で服を切り替えた俺にビルとベンは驚愕の表情をする。
「変身するなら先に言ってくれよ」
「もう一回! もう一回頼む」
「……分かったよ。変身解除」
二人があまりにせがむので俺はもう一度変身してやることにした。
「変身!」
「おおっ」
「凄えなあ」
改めて変身する俺を見た二人は俺の一瞬の変化に感激していた。
「「もう一回、もう一回」」
『次はしっかりポーズを取ってな』
「やらねえよ!」
俺はまだ変身させようとする二人とポーズ指定をするバフォの言葉をはっきりと拒否した。
「仕方ねえか。……そういえば魔法少女っていうのは素手で戦うのか?」
ふてくされるビルだったが俺を見て素手なことが気になったようだった。
「いや、こうやって出せるんだ」
俺は魔法少女としての武器の剣を作り出す。そしてそれを見たビルとベンの目はさっきの変身を見た時以上に輝いていた。
「なんだそれ、凄えな」
「かっけえ」
「そうだろ、そうだろ」
二人の様子に調子が良くなった俺は剣や他の武器を作ったり、消したりを繰り返した。
「……あんまりやってると日が暮れちゃうよ」
「……そうだな」
「悪かった」
「ごめんね、セリナちゃん」
セリナのため息に我に返った俺たちは彼女に頭を下げ、歩みを進める。何事にも好奇心旺盛だが、既知になったものへの興味は薄いセリナであった。
◇◇◇◇
「いたぞ。グランベアだ」
「中々の大物だな」
森の中を進み、俺たちは今回の討伐目標であるグランベアを発見した。グランベアは通常の熊よりも二回りは大きい熊の魔物でその一撃は大木を一撃でなぎ倒すほどの危険な魔物だった。
「……三人は見ててくれるか?」
そしてそんなグランベアを前に身構える三人に俺は自分一人で挑むことを伝えた。
「おいおい、本当に大丈夫か?」
「その恰好じゃ格好つけてもしまらねえぞ」
魔法少女の力を知らないビルとベンは俺に心配するが、セリナは何も言わなかった。
「セリナも止めなくていいのか?」
「リオンってこうなったら聞かないし時間の無駄だよ」
何も言わないことをビルがセリナに尋ねたが、セリナは幼馴染だけあって俺のことをよく分かっていた。
「まあ、大丈夫だと思うけど気をつけてね」
「ああ、行ってくる」
話がまとまったので俺は一人、グランベアの前まで正面から近づいて行く。そして俺に気づいたグランベアがその俺の何倍もある巨体をゆっくりとこちらに向けた。
そして、それだけで今の俺の全体重を超えていそうな巨大な腕を俺に向かって振り下ろそうとする。――だがその一撃が俺に届くことはなかった。
「一撃かよ」
「……まさか本当に強くなってるとは」
「ね、言ったでしょ」
『まあ、これぐらいはやってもらわないと困るな』
グランベアの体を一閃で切り裂いた俺の元へ、三人と一匹がぞろぞろとやって来た。
「どうだった?」
「グランベアを一撃なんてギルドの中でも上位なんじゃないか?」
「それはどうも」
ビルの言葉に俺は感嘆し、礼を述べる。
「それからリオン。格好つけるのはいいけどそんなスカートで動き回ると丸見えだぞ」
「……え?」
そして、続くベンからの言葉に俺は思考が停止した。
「ああ、ピンクと白の縞だったな」
「何見てんだよ。てめえら!」
俺は慌ててスカートを抑える。ちなみにパンツも魔法少女衣装の時は固定されていた。
「いや、見ろって言ったのはお前だろ」
「そうだ、そうだ」
「……確かにそうだったけども」
二人の言い分は屁理屈に近かったが言い出したのは俺である以上言及することは出来なかった。
「……セリナ?」
二人への言及を諦めた俺は今までの魔法少女の戦いを見てきたセリナへ目にやった。
「てっきり気にしてないのかと」
「……確かに俺も言われるまで気にしてなかったな」
確かに今までパンツを見られることなんて気にしていなかった。だが、今感じるこの恥かしさは一体何なのか、俺は自分のことが分からなくなった。
「いやー、楽しませてくれる」
とりあえずこの様子を見て大笑いするバフォへは殺意が湧いた。
「……さっさとグランベアの解体するぞ。手伝え」
ビルとベンがいる状況でバフォにこの思いをぶつけることが出来ない。気持ちを切り替えるため、俺はグランベアの解体に取りかかることにした。
「へいへい」
「早くしないと痛んじまうから……」
俺の気持ちを察したビルとベンも解体に参加しようとこちらへ向かってくる。だがその時、二人の背後の地面がわずかだが盛り上がった。
「後ろだっ!」
俺の言葉とほぼ同時に地面が激しく揺れ、地中からグランベアを上回る巨大なトカゲが姿を現した。それはアースドレイクと呼ばれる地中を自在に移動する亜竜の一種だった。
「!?」
ビルとベンは慌てて武器を構えて振り返ろうとしたが、既にアースドレイクの巨大な顎が二人を噛み砕かんと開いていた。――しかし、それが二人に届くことはなく、アースドレイクは大きく弾き返された。
「……? なんだ」
「弾かれた?」
「……間に合った」
アースドレイクを弾き返したのは俺が作り出した透明な魔法の障壁だった。二人を守ろうととっさに作り出した間に合わせの障壁だったがなんとかうまくいった。
「……畳みかけるぞ」
「ああ」
「俺たちもいくぜ」
ひるんだアースドレイクに俺は追撃を仕掛け、ビルとベンもそれに続く。だが、アースドレイクの全身は地中を進むために固い鱗に覆われていて、グランベアのように切り裂くことは出来なかった。
「三人とも下がって! ……アイシクル・ランス!」
アースドレイクの固い鱗に苦戦していたところで背後からセリナの声がかかる。その声を合図に俺たち三人がアースドレイクから離れた直後、アースドレイクの周囲に氷の槍が展開され次々と発射されていった。
「リオン、アースドレイクの鱗には物理攻撃よりも魔法攻撃。そして弱点は鱗の薄い首元!」
セリナは氷槍を発射しながらアースドレイクの弱点を説明を始め、それが終えると同時に特大の氷槍をアースドレイクの首元に放つ。そしてその一撃によって鱗がこぼれが落ち、筋繊維が露出した。
「待て、こら」
「逃がすかよ」
「カース・バインド!」
思わぬ劣勢にアースドレイクは地面に潜って逃げようとしたがビルとベンによって止められた。更に動きが鈍ったところでセリナの束縛魔法がアースドレイクの動きを完全に止める。
「今だよ。リオン」
「任せろ」
俺はそのチャンスを見逃さずアースドレイクへと駆け出す。狙うはもちろんセリナの魔法によって生身が露出した首元だ。
「ブルーインパルス!」
アースドレイクに肉薄した俺はその首元に直接ブルーインパルスを放つ。青い閃光がアースドレイクの首元から頭部まで貫き、アースドレイクは地に伏した。
「……やったか」
ブルーインパルスの反動でその場に座り込んだ俺はピクリとも動かないアースドレイクに安堵の息を漏らす。竜の中では下の方とはいえ、数日前の俺にはアースドレイクを倒すなんてことは全く考えられないことだったからだ。
「やったね、リオン」
「やるじゃねえか。っていうかあんなの出せるなら見せてくれよ」
「魔法少女っていうのは本当凄えな」
そして俺の元へ三人が集まり、労いの言葉をかけてくれた。
「あれ、使うと疲れるから嫌なんだよ」
「そうか」
「それはそうとお前の色と合ってないんじゃないか?」
「……それはそうだな」
ビルの言葉に他の魔法少女の技を借りたものなので今度からピンクインパルスにでも変えようかなと思った。
「それにしてもこんなところにアースドレイクが現れるなんてびっくりしたね」
「ああ、もっと奥地にいるようなやつだったよな?」
『そうなのか?』
不自然なアースドレイクの出現について話していると今まで会話に入ってこなかったバフォが突然、俺の肩に乗りかかった。
「……いきなり話に入ってくるなよ。二人には見えてないんだから」
『少し気になることがあってな』
ビルとベンに気取られないよう小声で返すとバフォは何やら意味深なことを言った。
「気になること?」
『だが、おそらく気のせいだ。気にするな』
それだけいうとバフォは俺たちから少し離れた場所へ移動した。
「おーい、さっさと解体始めようぜ」
「本当に日が暮れちまう」
「……そうだな」
バフォの言葉について考えているとビルとベンから解体を急かされる。結局、グランベアとアースドレイクの解体は日暮れまでには終わらず、解体出来た一部分のみ持って帰ることになった。
そして俺のアースドレイク撃破の情報はビルとベンによって瞬く間に、魔法少女としての俺の実力はギルド中にも少しずつ広まっていった。