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第4話 「魔法少女と買い物」

「……ふわぁ」


 ベッドの上で目を覚ます。一番最初に目に入るのは見慣れた借家の天井、そして次に目に入ったのは__


「……流石に夢じゃないか」


 いまだに見慣れない少女になった自身の体に俺は大きくため息をつく。寝る前に未成熟な体を軽く触ってはみたが、あちこちいじるほどの度胸はなかった。。


「流石にこれで買い物に行くわけにはいかないよな。……変身」


 今日はこれから買い物に行く予定だったがサイズが合わなくなった男だった時のシャツで行くわけにはいかないので俺は渋々魔法少女に変身した。


「……やっぱり、まだ慣れないな」


 髪の毛と同じように派手なピンクの衣装。魔法少女姿にはまだ抵抗があったが流石にノーパン、ダボダボシャツよりはマシだった。


「とりあえずセリナを起こしに行くか」


 簡単に身支度を整えた俺はセリナを起こしに向かった。


「セリナ、起きてるか~?」


 セリナの部屋のドアを叩きながら名前を呼ぶ。冒険者になる前、故郷の村にいた頃からの習慣だった。


「やっぱり今日は駄目か」


 返事が返ってこないので俺はセリナの部屋の鍵を手に取る。ただでさえ三回に二回くらいしか起きないのに加えて、昨日はバフォと夜更かししていたようだから、今回は駄目だと思っていた。


「セリナ、起き……」


 いつものように鍵を開け、扉に手をかけようとしたその直前で勝手に扉が開く。


『おはよう、リオン。体に異常はないか?』


「……ああ、おはよう」


 扉が開いて目があった黒山羊のぬいぐるみ、バフォが朝の挨拶をしてきたので俺は反射的に言葉を返した。


「……とりあえず状況を聞いてもいいか? バフォ」


 俺は壁に映し出された魔法少女? の映像とバフォの横で眠っているセリナに目をやった後でバフォに尋ねた。


『魔法少女の説明もかねて我の魔法少女集を見ていたのだが途中で眠ってしまってな』


「そうか」


 バフォからの回答は概ね予想通りのものだった。


「寝たのがどれくらいの時間だったかは分かるか?」


『詳しく覚えていないが夜は明けていたな』


「……そうか。……っと」


 俺はバフォの言葉に小さくため息をつく。そしてセリナを担ぎ、ベッドへと寝かせた。小さくなっていても魔法少女の力ならセリナを担ぐぐらいなら問題なかった。


『優しいな』


「いつものことだ。それより映像を切ってくれないか。セリナが起きちまう」


 セリナを寝かせた俺は彼女がしっかり眠れるように魔法少女の映像を切るようにバフォに伝えた。


『問題ない。今はセリナへの音は遮断してある』


「なんでもありだなお前。……後遺症はないんだよな?」


『それは保証する』


「そうか」


 バフォはぬいぐるみの小さな首の可動域で小さく頷いた。


「せっかくだから俺も魔法少女の解説をしてもらってもいいか?」


『ああ、もちろんだ』


 セリナが起きるまで暇なので俺もバフォに魔法少女集を見せてもらおうとすると、バフォは急に前のめりになった。


 そして目の前で流されていた魔法少女の映像が一旦途切れると違った映像が壁へと映し出された。そこには見たこともない景色が映し出されていた。


「……これが異世界か」


『先に言っておくが異世界について詳しく説明していたらキリがないから本筋と関係ないところはあまり尋ねるなよ』


「分かった」


 バフォの口ぶりからセリナが魔法少女と関係ないことも色々聞いたんだろうなと確信しつつ、俺は魔法少女集を見る。それは様々な魔法少女の誕生し、魔法少女として活躍する物語で少女一人一人にそれぞれの物語があった。



◇◇◇◇



「……ん~、リオン、バフォちゃんおはよう」


「おはよう」


『おはよう、セリナ』


 昼近くになりようやく目を覚ましたセリナは眠たげな目で、俺たちとあいさつを交わした。


「……ん~? リオンも魔法少女集見てたの?」


 そして俺たちの後ろで魔法少女集の映像が流されていることに気づいたセリナはそのことを尋ねてきた。


「暇だったからな」


「……どこまで?」


 俺が肯定するとセリナはベッドから降り、そのまま俺の前まで迫る。その顔には不満と怒りが混じっていた。


『質問を控えた分、リオンのほうが先に進んでいるな』


「それじゃあ私もそこまで見る!」


 バフォがセリナの質問に答えると彼女は駄々っ子のようなことを言い出した。


「やめろ。それやったら絶対途中で止まらなくなるだろ」


「……むぅ」


 俺に止められたセリナは明らかに不満げだったが自分に自制心がないことの自覚はあるのでそれ以上の反対はしなかった。


「バフォちゃん。今晩もまた見せてね」


『ああ、もちろんだ』


「ありがとう。バフォちゃん!」


 気持ちを切り替えたセリナはバフォに続きを見せてもらう約束を取り付けるとそのまま抱き着く。セリナはスキンシップが激しいせいで時々相手を勘違いさせることがあるがバフォなら問題なさそうなので俺は放っておくことにした。


「それじゃあ私も用意するね」


 そう言って、セリナは服を着替え始める。俺の目の前で平然と着替えを始めるのは、俺が男だった頃からのことだが目のやり場に困ることは変わらない。なので俺はバフォを持って部屋の外に出た。


『昨日、共に風呂にまで入ったのに今更ではないか?』


「それはそうなんだけどさあ……」


 バフォの言い分はもっともだったが素直に頷くことは出来なかった。


「ごめん、お待たせ」


 そうこうしているうちにセリナの準備が終わり、改めて俺たちは俺の私服の買い物へと向かった。



◇◇◇◇



「も、もう駄目だ」


『フハハハハ、早速楽しませてくれるな』


「……だから言ったのに」


 選択を誤り苦しむ俺に対してバフォがワザとらしく笑い、セリナは俺を横目でため息をついた。


「まさかこんなに腹の容量が減っているとは……」


 そう少女化した俺の胃は以前に比べてかなり縮んでいて、男の時には余裕で食べられていた量の半分もいかない段階で満腹になっていた。


「手伝ってもいいけど私もそんなには食べられないよ」


 食べ残しに罰則があるわけではないが残すのには良心の呵責があった。そんな俺の内心を察してセリナはこちらに声をかける。


『一応言っておくが我は戦力外だからな』


 一応バフォの方にも目をやったがぬいぐるみの体には無理があった。もっとも戦力になったところで、協力してくれるかは怪しいが。


「……いくぞぉ!」


 覚悟を決めた俺は残っていた昼食に向かう。……七割が限界だった。


「お待たせ。……もう駄目そう?」


「……もう無理」


 昼飯チャレンジの途中、トイレのために席を離れたセリナに俺は惨敗の結果を告げる。


「立てる?」


「……なんとか」


 セリナの心配に俺は大丈夫だと立ち上がったが、少しふらついてしまった。


「ならいいけど……お手洗いの方は大丈夫?」


「ん~、そっちはまだ大丈夫だろ」


 続くセリナの言葉に特に尿意を感じていなかった俺は大丈夫だと答えた。


「そう。それじゃあ行こうか」


「ああ」


 こうして俺たちは昼飯を大分残してしまったことを軽く後悔しつつも飯屋を後にした。



◇◇◇◇




「……なあ、今向かっている店って後どれくらいで着くんだ?」


「あっちの大通りを右に曲がって少しだからもう少しだよ」


「……そうか」


 服屋へと向かう途中、俺はセリナに服屋までの距離について尋ねる。飯屋を出る時には何ともなかった尿意が急に襲ってきたからだ。


「……もしかしてお手洗い?」


「はっ、いや、違うぞ」


「そっか」


 セリナの言葉を咄嗟に否定したが、彼女はそれに淡々と返した。


『墓穴を掘ってるぞ』


「だよなあ」


 自分でも強く否定すぎたことに気づいたが時すでに遅かった。


「向こうにもお手洗いはあったと思うけどそれまでもちそう?」


「……多分な」


 セリナの心配に俺は言葉を濁す。元の体ならともかく、今の体でははっきり大丈夫だとは断言できなかった。


「バフォ、何とかできないか?」


『面白そうな展開に手を貸す必要が?』


「鬼! 悪魔! 邪神!」


『ククク……』


 バフォにも助けを求めたが、返答は人外らしい非情なものだった。そのため俺は漏らさないよう細心の注意を挟みながらも勇み足で歩みを進める。


「セリナ、トイレの場所は分かるか?」


「……確か入って右すぐだったかな?」


「分かった」


 しばらくしてついに目的の店が見えた。その瞬間、俺は一人走り出す。


「いらっしゃいませ~」


「トイレ、借ります!」


「お手洗いはこちらです~」


 店までたどり着いた俺は店員にトイレの場所を再確認すると勢いよくトイレへと駆け込んだ。


「……変身解除!」


 トイレに入った俺はすぐさま変身解除でボロシャツ+ノーパンになる。その直後、おしっこが滝のように勢いよく放出された。


「やっぱり女子の方がおしっこが近いのかな。……はあ」


 色んな意味でつるつるになった股間を見ながら俺は男と女の体の違い、そしていなくなった相棒のことを想う。昨日までずっと一緒だった相棒がいなくなったことに俺は未だに慣れなかった。


「……変身」


 用足しを終えた俺は再び魔法少女姿になり、店の中へと戻った。



◇◇◇◇



「……さてどうするか」


 改めて店内を見渡すと魔法少女衣装のような煌びやかなものが数多く並んでいて、安さと丈夫さの実用性重視の店を普段使っている俺には未知の領域だった。


「あっ、○○。大丈夫だった?」


「ああ、なんとかな」


「よかった。早速だけどこれなんかどうかな?」


 俺が右往左往しているうちにセリナが服を持ってくる。それは魔法少女服に比べれば地味だが今の俺の見た目年齢に合ったかわいらしい子供服だった。


「いや、ちょっとま……」


『我的にはこれがいいと思うぞ』


 セリナにツッコもうとした矢先、別方向からバフォが服を魔法か何かで浮かせながらやってきた。しかもそれもフリフリした女児らしい服だった。


「何やってんだお前!?」


 バフォの奇行に俺は思わず大声が出る。そのせいで店全体が一気に静まりかえってしまった。


「お客様。何かございましたでしょうか?」


「すみません、この子こういうお店は初めてでこういった服は恥ずかしかったみたいで……」


 口調は丁寧だが圧のある店員に、セリナは申し訳なさそうに嘘の事情を話す。


「うるさくしてごめんなさい」


 そしてそれに合わせて俺も頭を下げた。


「……いえ、ですが騒ぐのは他のお客様のご迷惑にもなりますのでご遠慮くださいね」


「はい」


「はい」 


 店員は最後に一言注意を言い残すと持ち場へと戻っていった。


「ごめんな。セリナ」


「まあ、私もあれにはびっくりはしたよ」


『正直、今回はすまなかった。こういうのは我の趣味ではない』


 俺がセリナに謝ると、バフォも反省したのか謝ってきた。


「まあ、いいけど次から一言言ってくれ。周りは気づいていないんだろうけどさ」


『そうだな。気をつけよう』


 例によってバフォがうまくやっていたらしく、服が浮いていた件には店員や他の客は気づいていない。そのため改めて俺の服選びが始まった。


「それじゃあ改めて、これはどうかな?」


『リオン、こっちもどうだ?』


「二人ともどうしてスカートなんだよ。ズボンでいいだろ。ズボンで」


 声量に気をつけつつ、俺は二人の持ってきた服にダメ出しする。二人は相変わらず女児用、しかもスカートばかりを持ってくる。


「魔法少女の服はスカートだから日常でもスカートになれておいた方がいいと思うの」


「……確かに」


『その方が面白そうだからな』


「お前はもうちょっと取り繕えよ」


 俺はどうにかスカートを履かないで済む方法を考えた。……考えたが、いい案は浮かばずスカートを買うことになった。


「いやあ、買い物がこんなに大変だったとはな」


 色々と疲れた俺はため息をついた。


「えっ、買い物は終わってないよ?」


「えっ?」


 その途端、想定外の言葉に驚くセリナに、俺は同じ言葉を返した。


「リオンに必要なのは服だけじゃないよ。鏡に櫛に化粧品にそれから……」


「そんなに?」


 服を買うだけだと思っていた俺は必要物品の多さに驚かざるを得なかった。。


「当たり前でしょ。私もいくつか省けるなら省いておきたいけどちゃんとやっておいた方が色々お得だし」


「……あー、お前がその辺しっかりしてるのってそういう」


 興味本位が優先のセリナが美容に気を使っていることに今になって納得がいった。美容自体に興味はなく美容によって得られるメリットのために美容をしていたらしい。


「というわけで行くよ。リオン、バフォちゃん」


「分かったよ」


『いざいざ』


 こうして俺たち二人と一匹は買い物を続けることになったが気づけば日が暮れていた。しばらく買い物はこりごりだとこの時の俺は強く思った。

次回『魔法少女の特訓と真実』

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