第3話 「魔法少女の体と風呂と」
「……疲れた」
夜遅くようやく拠点にしている借家に帰った俺は変身解除してなんとか鎧を脱いだ。そしてブカブカになった部屋着に着替えると倒れるようにベッドへと突っ伏した。
「お疲れ~」
『いや~、中々楽しかったぞ』
一方でその一部始終を見ていたセリナとバフォメールは俺の後ろでにやにやと眺めている。
「……いや、帰れよ。今日はもう休ませてくれ」
俺は起き上がることもなく二人に心からの本音を伝える。魔法少女になってからの精神的な疲れに俺の体はもう限界だった。
「それは駄目。女の子になったんだからちゃんと身支度はしておかなきゃ。ほら、脱いで脱いで」
だが、セリナはそれを却下し俺の服を脱がそうと掴んだ。
「やめろって! あと俺の体がどうなってるか詳しく見たいだけだろ!」
「失敬な。一割ぐらいは本心だよ!」
「九割は興味本位じゃねえか!!」
俺は抵抗したが魔法少女ではないただの少女の力ではセリナには敵わない。魔法少女になれば振りほどけただろうが魔法少女パワーで本気で抵抗しようものならセリナに怪我をさせかねなかった。
そして裸に剥かれた俺はそのまま風呂場へと連れていかれた。当たり前だがその股間に長年連れ添った相棒はなく、寂しい気持ちになる。――胸もまだまだ発展途上といったところだ。
◇◇◇◇
「……!?」
「女の子同士だしそんなに目を逸らさなくて大丈夫だよ?」
「切り替え早すぎるだろ、お前」
風呂場についたセリナは躊躇なく服を脱ぎ始める。俺はとっさに明後日の方を向いた。
「私も恥じらいがないわけじゃないけどリオンだし……それに早めに慣れた方がいいと思うよ」
「……それはそうだけな」
覚悟を決めた俺は前を向き、セリナの方を見た。セリナの体は子供の頃に見た時のものとは比べ物にならないほど大人の体に育っていた。育っていたのだが――
「どうかな? ……どうかした?」
いっちょ前にポーズを取るセリナだったが、すぐに俺の異変に気付いたようで声をかけてくる。
「……びっくりするぐらい反応しない」
俺は今の自分の状況を包み隠さずセリナに話した。いくら幼馴染とはいえ若い女体に一切反応がなかったことに俺は驚きを隠せなかった。
「流石にそれはちょっとむかつくというか……いや、女の子になったことで好みも変わってきてる……?」
最初はムッとしたセリナだったが、すぐにその理由について考え始めた。
『まあ、そういうことはあるかもな』
「バフォメール!」
「バフォちゃん!」
風呂場まで入って来たバフォメールに俺とセリナは声を上げる。
「出てけよ」
「待て待て。我は上位存在。お前たちの反応を楽しんでも欲情などせん。お前たちは獣の交尾で興奮できるか?」
「……でもなあ」
理屈は分かったが納得できない俺はセリナに助けを求めた。するとセリナは一人考え事をしていた。
「……いた方が色々聞けて便利かな」
「お前はそういうやつだよなあ」
羞恥心よりも興味を取ったセリナに俺はため息をつく。呆れた俺はバフォメールの同行を許すことにした。
「それじゃあ久しぶりに洗いっこしようか」
「いいけどその手はなんだ」
脱衣所から風呂場に移るとセリナは早速、お互いで体を洗うことを提案する。その提案自体はこの際、結構だが明らかにまさぐろうとしている両手を看過するわけにはいかなかった。
「まあまあいいじゃないの。その体、じっくり調べさせてよ~」
「うおっ!?」
俺の牽制もむなしく、好奇心でいっぱいになったセリナは俺に向かって突っ込んでくる。
「うわ~、柔らかい。もちもちぃ~」
「やめろ~!!」
セリナの手が俺の体のあちこちをまさぐり、その体も俺に押しつけられる。そのことに俺は焦らずにはいられなかったが、男の性欲が消えていたことだけは救いだった。
「ありがと」
「……はあ、はあ。気は済んだか?」
少しすると一段落したのかセリナは俺から手を離し、再び何かを考え始めた。
「バフォちゃん、確かこの体は成長はしないんだよね?」
セリナはバフォメールに目を向けると、魔法少女の成長について尋ねる。魔法少女の体が成長しないことについては俺が鎧に潰された後に簡単にだが聞いていた。
「ああ、そういうタイプの魔法少女もいるが我の趣味でないのでな。寿命は人並にあるが見た目はそれまで変わらん」
「それじゃあ妊娠は? 赤ちゃんはできるの? 産まれた赤ちゃんも魔法少女になるの?」
「え?」
続くセリナの突拍子のない質問に俺は思わず声が出た。
『子供は出来るぞ。ただし普通の子供だがな』
「そっか」
「……そっか?」
しかし、俺の言葉は流され二人はそのまま話を続ける。
「ただ子供が出来ないなら生のセッ〇スを見せてもらおうと思ったし、魔法少女の子供が生まれるなら産んでくれた方が戦力になるからいいかなって」
セリナの考えはあまりにも俺個人の意思を無視したものだった。
「見学したいならどっかの店で見せてもらうか自分でやれよ。後者は論外」
「お店の人は融通が利かなくてね。自分でやるのは最悪妊娠のリスクがあるし」
「お前さあ」
セリナの非人道的のくせに諸々のリスクは考えている思考に俺は呆れるしかなかった。
「ねえ、バフォちゃん。私たちに絶対妊娠しないおちんちんを生やせたりしない?」
「いや、ちょっと待てよ」
俺をよそにバフォメールに声をかけるセリナ。セリナの好奇心の暴走は止まらない。
「俺を入れられる側にするのは止めろ」
なくした相棒が戻ることのは嬉しいが、入れられる方は嫌だ。
「せっかくだったら私もどんな感じなのか試してみたいんだもん」
「お前さあ」
セリナの好奇心には本当に呆れるしかなかった。
「それでどうなのバフォちゃん。いけるの?」
セリナは沈黙しているバフォメールに改めて問いかける。
『……我の手にかかればその程度は造作でもない。造作でもないがそれをやってしまえばジャンルが変わってしまう。まだまだこの関係で楽しみたい我としては手を貸すことは出来ん』
「ジャンル?」
「種類、種別のことだ。ふたな……生やすのは我が楽しみたい種類ではない」
「なら出来ないっていえばよかったんじゃないのか?」
『言ったであろう。下級存在に嘘をつくなど、興がそがれる』
「……思ったより真面目なんだな。お前」
俺はバフォメールのことを少しだけ、ほんの少しだけだが見直した。
「……へきしっ!?」
そんな時、セリナが派手にくしゃみをした。
「……いい加減真面目に風呂に入るぞ」
「……そうだね」
裸のまま体も洗わずそのままでいたせいで体を冷やしてしまったセリナに俺は普通に風呂に入るよう提案する。するとセリナは叱られた子供のように小さく頷いた。
「色々あったけど今日は楽しかったね」
「……まあ、そうだな」
体を洗った俺たちは二人一緒に湯船に浸かった。子供の頃からお互い見た目は変わったとはいえ色々懐かしくて中々悪くなかった。
『明日もよろしく頼むぞ』
感傷に浸っていた俺に湯船にぷかぷかと浮いたバフォメールが声をかけてくる。防水仕様らしい。
「……うん、まあ。一応な」
「あっ、そういえばバフォちゃん。後で魔法少女集っていうの見せてね」
「ああ、もちろんだ。リオンも見ないか」
「いや、俺はもう寝る。また今度にしてくれ」
なにはともあれ、大変な日々はまだまだ続きそうだった。
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次回『魔法少女と買い物』