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最終話 「魔法少女たちの行く末」

「マナ・エッジ・ルミナ!」


 魔法少女化によって大きさも数も段違いに強化された魔力の刃が、街に沸いた白い化け物たちを切り裂く。不気味なほどに真っ白なそれはバフォの泥魔人に似ていたが、より硬く、流動的で水銀のようだった。


「一体一体は弱いね」


「ああ、だけどその分、数が多い」


 白魔人は大人一人ほどの大きさだが、群れをなして押し寄せてきていた。セリナの魔法で大部分を一掃し、残りは俺が片付ける。


「とりあえず、こっちでいいんだよな?」


「うん。周りの結界みたいなのも気になるけどこの白いのは向こうからみたいだし、そっちが先決かな」


 俺たちは白魔人が来る方へ向かう。進めば進むほど白魔人の数が増えていく。だが、もう一つ気になるのが街全体を囲むように現れた結界だった。


「ところでその理由は?」


「女の勘!」


「……マジかよ。あとやっぱり飛べるのずるいぞ」


 セリナの行動理由に俺は思わずツッコミを入れる。ついでに魔法少女になってから杖に乗って飛べるようになったセリナを羨む。


「魔法少女って飛ぶものでしょ?」


「……いや、まあ。それもそうか?」


 セリナの言葉を否定しようとしたが、確かに魔法少女集で見た魔法少女たちの多くは空を飛んでいた。もちろん飛べない魔法少女もいたが。


「……って、そんなこと気にしてる場合じゃないな」


 俺は雑念を振り払って、白魔人の大元へと向かった。



 ◇◇◇◇



「あれが大元か?」


「そうっぽいね」


 白魔人の大元を探っていった俺たちは以前にヒーローショーをした広場に辿り着く。そこでは家一つ分はありそうな白い立方形に先着の冒険者たちが攻撃を加えていた。


「いけそうか?」


「おっ、二人とも来てくれたか。残念ながら俺たちには固すぎる」


「セリナちゃん、やっちゃってくれ」


 先に着いてビルとベンに状況を尋ねたが、あまり芳しくないようだった。


「それじゃあ俺たちがやってる」


「ああ、やってみてくれ。みんな、一旦下がってくれ」


 俺たちが攻撃を申し出ると、ビルは周りの冒険者を下がらせた。


「私から行くね」


「ああ、任せた」


 火力の高いセリナに攻撃を任せる。そして、今まさに攻撃を加えようとしたその時だった。


『遅かったな』


「……え?」


「これはバフォと同じ!?」


 突然、脳内に声が響く。バフォと同じ性質だったが、明らかに別の存在のものだった。

 

「な、なんだ!?」


「頭の中に声が……」


 しかも今回は、俺やセリナ以外の冒険者にも聞こえているようだった。


『ギャラリーは邪魔だ』


 再び脳内に声が響く。更に立方体が白い光を放ち、視界を奪う。


「……何が……みんなは!? それにこれは結界!」


 光はすぐに収束し、視界が戻る。セリナ以外の冒険者たちの姿が消え、広場を覆うように結界が展開されていた。


「大丈夫、リオン。他のみんなは外にいるみたい」


「……本当だ」


 狼狽える俺にセリナが一点を指差す。その先には、外から結界を壊そうとしている消えた冒険者たちの姿があった。つまり、俺たち以外は外に転移させられたらしい。


「俺たちだけ閉じ込められたってことか」


「そうみたいだね」


 俺たちは状況を整理する。小さな結界の中に残されたのは俺たち二人と白い立方体。理由は分からないが、これが立方体の仕業であることは明白だった。


『物分かりは悪くないな』


 再び脳内に声が響き、白い立方体が動き出す。立方体のあちこちが伸び縮みし、巨大な魔人態へと変化した。


「お前は一体何なんだ?」


 巨大な白魔人に向かって、俺は問いかける。


『お前たちのような下等存在に名乗る名はない』


「やっぱりバフォちゃんと同じ?」


 巨大な白魔人に話は通じたものの名乗らなかった。そして俺も薄々感じていたことをセリナが先に口にする。


『そう、僕も奴と同じ上位存在だ。だが僕は奴のような甘ちゃんとは違う。下等存在も魔法少女も絶望させて壊した方が楽しいだろう?』


「……うわあ」


「ああ、そういう」


 白魔人はスタンピードの元凶として分かりやすいほど悪趣味だった。そしてバフォの株が少し上がった。


『だが、呼び名がないのも不便だな。……お前たちに破滅と絶望を与える者、バッドエンドということにしておこう』


「バッドエンドだと? 舐めやがって。行くぞ、セリナ!」


「うん!」


『フハハハ、その顔が絶望に代わるその瞬間を楽しみにしているよ』


 構える俺たちに対して、バッドエンドは笑う。そして。その体中から無数の触手が伸び、俺たちに向かって襲いかかってくる。


「……っと、と」


「すごいね、これ」


 バッドエンドの無数の触手が俺たちに襲いかかり、避けた触手が地面をえぐる。技術も何もない力任せの攻撃だったが、物量にものをいわせたその猛攻は凄まじかった。


「おらっ!」


 隙を見て触手の一本を魔法の剣で切断する。だが、切断した触手はすぐに他の触手が回収され、復活してしまう。


「アイシクル・ランス・ルミナ!」


 人より大きな特大の氷槍が次々と放たれ、バッドエンドを串刺しにする。だが、氷槍はすぐに溶かされ、空いた穴もすぐに再生されてしまう。


『どうしたこんなものか?』


「……くそっ」


「これが上位存在」


 バッドエンドは俺たちを嘲り笑う。攻撃が効いていないというわけではなさそうだったが、有効打にはならずこのままではじり貧だった。


「……どうすれば」


「リオン、ちょっといい?」


「どうした、セリナ?」


「このままじゃジリ貧だし賭けに出ようと思うの。私の全力をあいつにぶつけるから、その力を貯めるまで守ってくれる?」


「……」


 セリナの提案に俺はつい言葉を失う。だが次の瞬間、大きく叫んだ。


「そうだよ。どうしてこんなこと忘れてたんだよ!」


「……リオン?」


 俺の突然の大声にセリナは目を丸くした。


「悪い、悪い。賭けには乗るぜ。お前を守るのが俺の役目だからな。頼むぜ、相棒」


 俺は前に出て、魔法の障壁を展開する。この先には絶対に進ませない。


「……リオン。頼まれたからにはしっかりやらないとね」


 後ろでしょうがないなと笑うセリナの声。その後、セリナは魔法の詠唱を始めた。


『お前、一人で僕の相手をするつもりか?』


 俺たちの意図を察したバッドエンドは俺の障壁へと攻撃を開始する。当たり前だ。魔法少女になってすっかり忘れていたが俺の役割はセリナのサポート。今度こそ俺はその役割を果たす。


「……ぐぬぬ」


 俺の障壁をなかなか破れないバッドエンドはあからさまに機嫌が悪くなり、攻撃がどんどん苛烈になっていく。だが、それを通すわけにはいかなかった。


『……苛立たしい。だが、この障壁がある限りそちらも僕に攻撃を当てることは不可能だぞ』


 バッドエンドの攻撃が破壊力よりも速度に特化したものへと変わる。どうやらセリナの全力攻撃のために俺が障壁を解除する隙を狙っているようだった。


「……おまたせ。リオン!」


「ああ、撃て!」


「やらせる……なにっ!?」


 セリナの全力攻撃と同時に俺の障壁を解除する。その隙は一瞬もなく、隙を狙っていたバッドエンドへと直撃した。 


「……やったか?」


『やられるものかー!』


 土煙の中からバッドエンドが勢いよく姿を現す。直撃した部分が消し飛んでいたがまだ戦意を失ってはいない。


『この下等存在……ぐっ、……がっ!?』


「なんだ?」


 俺たちへ攻撃を再開しようとしたバッドエンド。だが、突然その体のあちこちが爆発し、バッドエンドはのたうち回った。

 

『……バフォメール、あの日和見があ……』


「……バフォの仕業なのか?」


「多分、そうだと思う」


 バッドエンドは忌々しそうにバフォの名を呟く。どうやらバフォはバフォで戦っているようだった。


「このまま畳みかけるぞ」


「うん。合わせるよ」


「「ブロッサム(グラン)バースト!!」」


 俺とセリナは桃色と深い青、二色の力の奔流を放つ。それはバッドエンドの体を更に削る。


『この僕がこんなところで……こんなところで~!!』


 度重なる攻撃にバッドエンドの体は崩壊を始め、光の粒子のようなものが漏れ出す。それに激昂したバッドエンドは俺たちを囲っていた結界を解除すると遥か上空まで飛び上がった。


「……逃げるつもりか?」


「リオン、障壁! あいつ特攻してくるつもりだよ」


『もう遅い!』


 上空まで飛び上がったバッドエンドはこちらに向かって反転する。


『この街ごと道ずれだあ!!』


 上空から急降下してくるバッドエンド。街全体に張られた結界をそのままなのでこのままでは奴のいう通り、街ごと破壊されてしまう。


「させるか!」


 俺は上空に障壁を展開し、バッドエンドの特攻を防ぐ。


「……ぐっ」


『死ね、死ね、死ね……』


 大質量の一撃。粒子化したバッドエンドの体は推進力としてその体を加速させる。


「リオン!」


「セリナ!」


 押されている俺をセリナが支える。セリナは補助魔法をかけてくれたが、それでも押されているのは変わらず障壁にもヒビが入り始めた。


『あきらめろ……』


「……諦められるかよ」


 バッドエンドが自滅するまであと少し、もう少し。だが、こちらの障壁のヒビの拡大も止まらない。


 ――そんな時、声が響く。


「ブロッサム―、頑張れー!」


「……この声は? アイちゃん! それにマリー社長たちまで」


 声をした方を見る。するとアイちゃんやマリー社長を始めとして大勢の街の人やビル、ベンたち冒険者仲間がすぐ近くまで駆けつけていた。広場の結界が解けたことでここまで近づけたようだった。


「みんな、逃げてくれ」


「逃げるってどこへ?」


「ふふっ、結界で逃げ場がない以上、私たちに出来るのはあなたたちを応援することだけですよ」


 少しでも遠くに逃げてほしいと伝えたが、マリー社長が逃げられないから応援に来たと伝える。確かに結界があるから逃げ切るのは難しかった。だが、中心のここよりは被害がマシのはずだった。


「そうだよ。負けないで!」


「頑張れ、ブロッサム・ルミナ! グラン・ルミナ!」


「気張れよ。リオン」


「後で奢ってやるからよ」


「……みんな」


 周りの人たちにも言葉をかけられ、改めて思う。この街を守りたい、この街の人たちを守りたいと。


「……リオン」


「ああ、ここまで言われちゃやるしかないよな。この街を――この街の全てを俺は守る!!」


 俺は街を守るための想いを障壁に込めた。すると、破れかけていた障壁が修復され、姿を変える。それはアイちゃんからもらった花と同じピンク色の五枚の花弁のように広がった。


「ばか……な……」


 その直後、バッドエンドの体が限界を迎え爆発を起こす。だが、花弁の障壁はびくともしなかった。


「……やったのか」


「やったね。リオン」


「おい、ちょっと待てって、抱きつくなって!」


 安堵の吐息を漏らす俺にセリナが抱き着く。魔法少女パワー全開で振り払おうとしても同じ魔法少女のセリナは振り払えない。


「ブロッサム、ありがとう!」


「かっこよかったー!」


「やったな、リオン。セリナ」


「セリナちゃんもさっきの魔法凄かったよ」


「いやー、いいものを見せてもらった」


「ふふ、流石は私が見込んだだけのことはありますわね」


「みんなの応援のおかげですよ」


 周りのアイちゃんやマリー社長、他の街の人たちや冒険者仲間が俺たちの周りに集まって来る。

 

 その後俺たちは何度も歓声を浴び、拍手を受け、胴上げまでされる。そしてその騒ぎが落ち着き、解放される頃にはすっかり日が落ちていた。



 ◇◇◇◇



「……ふぅ、疲れた」


「そうだね」


 借家に戻った俺たちは、ようやく安堵の息を漏らす。


「……バフォちゃん、どうしたのかな?」


「あいつなら勝手に帰ってくるだろ」


 落ち着いた俺たちは未だに戻って来ないバフォのことを話す。バフォがそう簡単にやられるとは思えないが、相手が同格の上位存在となれば心配がないとはいえなかった。


『我がいなくてそんなに寂しかったのか?』


「バフォ!」


「バフォちゃん!」


 脳内に直接響く声。直感的に後ろを向くと、そこにはいつも通りのバフォが立っていた。


「なんだ、生きてたのか」


『あんな若造に負けてたまるか。……だが、回復に少し時間がかかってしまった。せっかくの一大イベントを直接見れないとは』


 バフォは軽口を返すと、離れてしまったことを悔しそうに語る。ただ口ぶりからして一部始終を見てはいたようだ。


「見てはいたのかよ」


『当然だ』


「お前さあ」


「でも、それでこそバフォちゃんだよ」


「まあ、そうだな」


 セリナの言葉に俺も同意する。それでこそ邪神バフォメールだ。


『さて、リオン。今回はよくやった。……ところで元の姿に戻りたくはないか?』


「今更だな。どんな姿だろうが俺は俺。出来ることをやるだけだ」


 バフォの問いかけに俺は迷わず答える。だが、悩んでいた俺なら即答出来なかっただろう。


「それに、本気で元に戻す気なんてないんだろ?」


『ククク……よく分かっているな』


「やっぱりな」


「まあバフォちゃんはそうじゃないとね」


 バフォの言葉に俺は呆れ、セリナは笑う。すっかりいつもの空気だ。


『ならば改めて――これからもよろしく頼むぞ。ブロッサム・ルミナ、グラン・ルミナ』


「ああ」


「もちろん」


 こうして俺たちは新しい明日へと踏み出す。そんな俺たちが英雄と呼ばれるS級冒険者になるのはそう遠くない日のことだった。


 ――そして俺とセリナの魔法少女グッズは街を超え、国を超え発売されることになる。僅差だが俺のグッズの方が売り上げは上だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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