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第1話 「魔法少女始まりました」

「決めた。私、冒険者になる!」

 

 村の魔物退治にやってきた冒険者の活躍を見た幼馴染は、青髪を揺らしてそう言った。


「ああ、俺もなる」


 そして、同じく冒険者に憧れた俺も彼女に頷いた。


 ――それから四年、俺たちは冒険者になった。



◇◇◇◇



 鋭い牙と爪を持った狼の魔物シルバーファングが俺へと迫る。だが、そんな直線的な動きなら捌くのは簡単だった。


「食らうかよ!」


 俺は左手の大楯でシルバーファングの突進を受け止め、逆に押し返す。反撃を受けたシルバーファングは体勢を崩し、地面に叩きつけられた。


「とどめだ!」


 俺はシルバーファングへ駆け出し、剣を振りかぶる。しかし、それが振り下ろされるよりも早く、後方から飛来した魔法の矢がシルバーファングの体を貫いた。


「……」


「お疲れ~。リオン、怪我はない?」


「……ああ、大丈夫だ。セリナ」


 獲物を横取りされ、肩透かしを食らった俺の背後から声がかかる。振り返れば、魔法の矢を放った張本人――幼馴染のセリナがいた。


「そう? ちょっとしんどそうだけど」


「大丈夫だって」


 実際、怪我はない。ただ十数匹いた狼のうち俺が倒したのはそのうちのたった三匹だったことを気にしていた。


「お前こそ怪我はないか?」


「大丈夫。リオンが守ってくれたもん」


 俺の言葉にセリナはニコリと笑う。


「ならいい」


 その笑顔に俺は自分の役割が果たせていることに安堵した。


「とりあえず先に片づけるか」


「そうだね」


 改めて周りを見回し、残党がいないことを確認した俺たちはシルバーファングの死骸の処理を始めた。


「……本当にこれでいいのかなあ」


「何か言った?」


「いや、独り言だ。気にするな」


 ついつい心の声が口に出てしまい、俺は適当にごまかした。


「あっそ」


 俺の返事にセリナは深く追及せず、片付けへと戻る。その背中に俺は一抹の寂しさを覚えた。


 子供の頃に憧れた冒険者になってから三年。十七歳の現在、俺たち二人の冒険者ランクは下から二番目のC級だ。


 だが、セリナはC級の中でも群を抜いた実力者。一方の俺は中の下といったところだった。だから俺はセリナの足を引っ張らないよう、サポートができるよう盾役を買って出た。


 でも本当にこれでいいのか? セリナにはもっと相応しいパーティーがあるんじゃないかと悩んでいる自分がいた。


「何、この感じ?」


「なんだ!?」


 そんな時、急に周囲の空気が重くなった。そして次の瞬間――地面から黒い泥のようなものが湧き上がり、それは巨大な人間の上半身のような姿に変貌する。



「なんだこいつは!?」


「スライム? ローパー? いや、違う」


 突然現れた見たこともない怪物に俺たちは困惑しながらも戦闘態勢を取る。その直後、怪物はその両腕を鞭のようにしならせ、俺たちへと振り下ろしてきた。


「……くっ、重いな」


 怪物の両腕は防ぐことはできたが、その衝撃は腕が痺れるほど強烈だった。もちろん一撃で終わるわけもなく続く攻撃を俺は必死に受け止める。


「全然効いてない!?」


 俺が怪物の攻撃を防いでいる間、セリナは様々な魔法を怪物に放っていたがあまり効果はないようだった。


「……動きが止まった?」


「よく分からないが一旦撤退……」


 そんな中、急に怪物の動きが止まる。倒しきれそうにないと思った俺たちは撤退を視野に入れたが、その直後怪物の顔にあたる部分に光が集まり始めた。


「セリナ、伏せろ!!」


 怪物の大技のための溜めだった。俺は大慌てでセリナの眼前へと移動する。……その直後、集中していた光が俺たちに向かって衝撃波となって放たれた。


「……こんなところで」


 俺は衝撃波を盾で受け止める。だが、力及ばず力尽きてしまった。



◇◇◇◇



「……ここは?」


 力尽きた俺は周囲全てが暗闇の空間で目を覚ました。


『……リオン。力が欲しいか?』


「誰だ!?」


 頭の中に無機質な声が響く。俺は慌てて周囲を見渡したが暗闇が広がっているだけだった。


『そんなことを言っている場合か?』


「セリナ!!」


 謎の声が含みを持たせるように告げた瞬間、暗闇の一部がぼんやりと光り出す。するとそこには怪物と単身で戦うセリナの姿が映し出された。


『改めて問おう? 力が欲しいのか?』


「……その力があればセリナを助けられるのか?」


 俺は今も怪物と戦っているセリナの姿を見ながら謎の声へと問いかける。


『それは保証しよう。だが代償としてお前の姿を異形へと変える。それでもいいか?』


「……なんだと!?」


 謎の声の予想外の言葉に俺は言葉に詰まる。……そして俺は再び映し出されたセリナの姿を見た。セリナの後ろには現実世界の俺が倒れていて、セリナは俺がとどめを刺されないよう必死に戦っていた。


 そしてその表情は先ほどよりも険しくなり、まだ大きな傷はないが、小さな傷が増えていた。


「……分かった。力をくれ」


 俺はセリナを助けるため、異形になってでも彼女を助ける道を選んだ。


『了解した』


 俺の返答に無機質だった声に僅かだが笑みがにじむ。そして次の瞬間――光が暗闇を呑み込んだ。



◇◇◇◇



「……戻った」


 気づくと俺は現実世界に戻っていた。そして泥の怪物は、再び大技のために力を溜め始めていた。


「セリナ!!」


 セリナを救うため、俺は全力で駆け出す。その体は今までとは別物のように軽く、俺の突き出した拳はそのまま怪物の体を貫通した。


「……やったか?」


 俺の拳によって怪物の体は大半が吹き飛び、残りは泥のように溶けていった。それを確認した俺はセリナへと振り返る。セリナは自分に回復魔法をかけてはいたが、命に別状はなさそうだった。


「セリナ、大丈夫か?」


「あなたは……?」


 声をかけられたセレナは困惑した表情で俺のことを見つめる。この時、俺は謎の声の言っていた代償のことを思い出した。


「俺だよ。リオンだよ。まあ、力の代わりにこんな姿になっちまったけどな」


 セリナですら俺と気づかないほど変わり果てたことに残念な気持ちはある。だが、それでもセリナを守れたことに後悔はなかった。


「リオン? 本当に? 女の子になっちゃったの?」


「ああ、俺だよ。……女の子?」


 セリナの女の子という言葉に俺の思考は停止する。


「ほら」


「……これが俺?」


 セリナは魔法で人間大の水鏡を作り出す。そこにはド派手なピンク髪をツインテールに、フリルだらけの服を着た十一、十二歳に見える少女が映し出された。


「……な、ない!」


 俺は大慌てで自分のスカートをめくる。――そこにはついさっきまであったはずのものがなくなっていた。


「なんじゃこりゃああああ!?」


 俺の驚愕の声が森中に木霊する。改めて聞くと随分声も高くなっていた。

次回『魔法少女とマスコット(邪神)』

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