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1.始まりは脳を破壊されながら

 僕、矢沢(やざわ)比呂(ひろ)には可愛い異性の幼馴染がいる。

 僕が思春期を迎えて女子として意識し始めた頃には、彼女はとてつもなく美人になっていた。幼馴染のはずなのに、声をかけることすら戸惑ってしまうくらいに。

 そんな幼馴染の彼女のことが好きだ。異性として意識する前から、まだ幼かった頃からほのかな恋心を抱いていたのだ。

 僕が一番初めに、好きだったんだ……っ。


「なっ……!?」


 とある日の、夕暮れの教室。

 僕の幼馴染、羽柴(はしば)美月(みつき)が所属するクラス。

 そこには、決して見たくなかった光景が広がっていた。


「俺……羽柴さんのことが好きなんだ」

「嬉しい……私も(いずみ)くんのこと、好きだったの……」


 放課後の教室で、見つめ合う二人の男女。夕焼けの中で絶好の告白シチュエーション。

 高校生らしいピンク色の青春を、僕は間の悪いことに目撃してしまったのだ。

 これが知らない人であれば、心の中だけでそっと祝福していただろう。

 だけど、告白されたのは僕の幼馴染であり、想い人だ。

 僕が見ている前で、幼い頃からずっと想い続けていた好きな子を奪われてしまった……っ。


「はっ!?」


 はっと目が覚める。知らないうちに自室のベッドで眠っていたようだ。

 どうやって帰ったかも覚えていない。

 美月が僕以外の男子に告白されていた後の記憶が、すっぽりと抜け落ちていた。


「いや、ははっ……悪い夢でも見ていたかな……」


 そうか。さっきの光景は夢だったのか。

 なんて悪夢を見せてくれるんだ。まったく、勘弁してほしいよ。せっかく夢を見るのなら、僕と美月が付き合っている場面でも見せてくれたらよかったのに。

 乾いた笑いを零す。制服のまま寝ていたらしく、汗でびっしょりだった。


「比呂、美月ちゃんが来たわよ」

「うおっ!?」


 ノックもなしに母さんが顔を覗かせる。男子高校生のプライベート空間に対して気遣いがなさすぎる!


「って、え? 美月が……?」

「お邪魔しまーす」


 声が詰まった。

 母さんと入れ替わるようにして部屋に入ってきたのは、さっき夢に出ていた幼馴染の美月だったからだ。

 栗色のセミロングの髪、可愛らしく整った顔、華奢な体躯。見慣れた幼馴染の姿。

 男子からの人気がそれなりにあり、「可愛い女子」の話題ではその中の一人として名を連ねるほどの美人さんだ。


「もうっ、比呂ったら制服のまま寝てたの? 本当にだらしがないんだから」


 そんな美人さんの彼女が、僕に気安い調子で接してくれる。

 まさに幼馴染の距離感だ。


「ははっ、疲れてたみたいで……」

「あのね、比呂には真っ先に報告しようと思ってきたの」

「え?」


 美月は僕の言葉を最後まで聞く前に切り出した。

 なんの躊躇いもなく、同級生男子のベッドに腰掛ける美月。これが幼馴染の距離感。無条件で信頼してくれているのだと、それだけのことで伝わってくる。

 そんな近い距離から、彼女は笑顔でこう言い放ったのだ。


「あのね……私、彼氏ができたの」


 目の前が真っ暗になった。

 どうやら、悪夢だと思っていた光景は、残念ながら現実だったらしい。


「泉くんって知ってる? G組の男子なんだけどね……。私、彼のことずっといいなって思ってたんだけど、その泉くんから放課後に告白されちゃったの!」


 美月が興奮気味に何か言っている。でも、しゃべっている言葉の意味が理解できなかった。

 わかるのは、美月が嬉しそうに笑っているということくらいなもので……。嫌がっているだとか、嘘だとか夢だとか、僕の勘違いだとか……そんな都合のいい展開ではないということだけは確かだった。


 僕がずっと好きだった幼馴染。

 幼い頃からほのかな恋心を抱いていて、思春期を迎えたことで異性として好きなのだと自覚した。

 きっといつか……いつか、この想いを伝えられたらいいなと……。あまりにも悠長なことを考えていた。

 そのいつかは訪れることなく、大事に育ててきた僕の恋は、あっさりと終わってしまった。


「ふぅ、比呂に報告してスッキリしたよ。聞いてくれてありがとね」

「ははっ……お、幼馴染なんだから当然だよ」


 晴れ晴れとした笑顔を輝かせている美月に、今更「付き合うなんて嘘だよね?」と泣きつくこともできず。生返事を吐き出すだけで精一杯だった。


「だよね! 私たち、今までもこれからもずっと幼馴染だもんね!」


 曇りのない笑顔で放たれた言葉が、僕の心を打ち砕いた。

 そう、僕と美月はただの幼馴染で、それ以上でも以下でもなかった。

 幼馴染は、男女の関係とは別物だったのだ。

 意識していたのは僕ばかりで、美月は異性ではなく、家族みたいな関係として僕を見ていたのだろう。


「これで報告終わりっ。じゃあ私は帰るから。バイバイ比呂」

「ば、バイバイ……」


 いつもの「バイバイ」が、僕の恋心に対して向けられているように思えてしまう。

 振り絞った別れのあいさつが、僕の最後の意地だった。

 バタンとあっさり閉められたドアを、僕はいつまでも見つめていた。

 それから、どれくらい時間が経っただろうか?


「クソがあああああぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁぁーーっ!!」


 僕は突然絶叫し、暴れ回った。

 現実を受け入れられなくて……。その負荷が、僕の脳を破壊してしまったのかもしれない。



BSSから始まる青春ラブコメものです(不穏なスタート?)

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