4.物質と情報:DNA、記憶、文明、構造保存
――「残るもの」とは何か?世界の記憶装置としての存在たち
情報とは何か?
それは目に見えず、手で触れることもできないが、存在のすべてに宿っている“かたち”である。そして、物質とは何か?
それは変化し、壊れ、流転するものでありながら、**情報を「留める容器」**である。
本節では、**DNA、記憶、文明という三つの観点から、「物質と情報の関係性」**を掘り下げていく。それらは単なるデータではなく、「構造保存装置」としての本質を持ち、無限螺旋構造の中で情報を次の層へと運ぶ役割を果たす。
● DNA:生物の「構造保存装置」
DNA(デオキシリボ核酸)は、生命が数十億年にわたって継承してきた情報媒体である。
この二重らせん構造は、単なる物質構造ではなく、複製・修復・変異・発現という情報処理の機能を備えた、自己保存型プログラムである。
特筆すべきは、DNAはただ生物の「設計図」であるにとどまらず、生命の構造的記憶=情報の継承そのものであるという点だ。
遺伝子情報は物質として存在しながら、環境に応じて自己修正を行い、情報を“変化させつつ保存”する能力を持つ。
ここに見られるのは、変化と保存の両立=螺旋的記憶継承という構造原理である。
● 記憶:脳内構造と情報の再構築
一方、人間の脳における「記憶」もまた、物質と情報の重なりによって成立している。
脳内のニューロンネットワークは、外界から得た情報を電気信号と化学物質によって保存・再構築する。
だが、記憶とは単なる“保存された映像”ではない。記憶は再生のたびに再構築され、変化する動的な情報構造である。
つまり、記憶とは「構造保存」と「再解釈」の間に存在する曖昧な存在であり、常にその人の意識状態・感情・文化的文脈によって意味が更新される。
この性質は、情報が物質によって記録され、意識によって再編されるという、双方向的構造を示している。
● 文明:言語・文字・メディアによる構造保存
人類は進化の過程で、「外部記憶装置」としての文明を生み出した。
・文字による記録
・建築や遺跡という構造物
・紙、石版、インターネットという記録媒体
これらはすべて、“情報を物質に封じ込める”ための技術であり、世界の記憶を未来へ運ぶ構造保存装置である。
文明における情報保存とは、「文化のDNA」とも言える。
宗教、法律、技術、芸術などの情報が物理的媒体により残され、世代を越えて“思考様式”や“価値観”が継承される。
このとき人類は、自己意識だけでなく、社会的構造の記憶を保持するという二重の情報層を持つに至った。
● 構造保存とは“成長する記憶”である
無限螺旋構造において、物質と情報の関係は一方向ではない。
情報が物質に蓄積され、物質が情報の解釈を変え、再び情報が物質を変える。この循環が、螺旋的に成長し続ける構造保存の基本原理である。
・DNAは遺伝子という情報を変異と淘汰を通じて進化させ
・記憶は神経構造の再構築によって自らを変化させ
・文明はメディアや技術によって情報伝達手段を進化させてきた
この全てに共通しているのは、「情報は変化しながら保存される」という時間的パラドックスである。
● 小結:「残る」ということの本当の意味
私たちは「残すこと」に価値を見出す。写真、日記、建物、言葉、記憶――。
だが、残るものとは、**変化せずに保存されるものではなく、変化を受け入れながら“構造として自己を保つもの”**である。
無限螺旋構造において、物質と情報は、変わりながら続く・崩れながら受け継がれる・壊れながら進化するという逆説的な共存を成し遂げる。
そして、私たちが「存在する」ということは、この構造保存の渦中にある“螺旋のひとつの節”である。




