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2 興味

「断る」


 一考する素振りも見せず、ベンディゲイドブランはキツい口調でそれに応じた。


「おや、素気ない」


 フィリベルトは笑顔のまま顎に手をやり、自分より拳一つ分背の高いベンディゲイドブランを軽く見上げた状態で、


「お金なら出しますよ? お弟子さんのお給金も弾みます。悪い話ではないと思うのですが……」


 笑顔のままで器用に、困ったような空気を醸し出す。


「金の問題ではない。儂達は自由気まま、平和に暮らしたいんじゃ。皇族や貴族の泥沼になんぞ、足を踏みれたくはない」


 ベンディゲイドブランはそう言うと、アルニカの肩に手を置き、


「戻るぞ」


 と、一言。


(……)


 アルニカは、一瞬考え、口を開く。


「その、専属魔法使いというものは、皇族方をお守りするための大事な役目を持つ魔法使いだとあたしは認識しておりますが、それで間違いないでしょうか、第一皇子殿下」

「何を言っておる!」「うん?」

「いえ──」


 アルニカは、怒り顔のベンディゲイドブランと、首を傾げたフィリベルトの顔を見比べ、馬車の近くで立っている黒髪の青年へもちらりと視線を向け、


「あなたに、興味が湧きましたもので」


 と、フィリベルトに向き直り、そう言った。


「興味、とはどういうものかな。お嬢さん」

「そのままです。興味。その物事が感じさせる趣き。もしくはある対象に対する関心、です」


 フィリベルトを見上げ、アルニカは淡々と言う。


「ふぅん? それは、さっきの話への関心かな? それとも、」


 フィリベルトは、アルニカに顔を寄せ、


「私自身への関心かな?」


 と、艶を纏った声で問いかけた。


「両方ですね」


 それに対し、顔色一つ変えず、アルニカは答える。


「あたし達はそれほど貧しくはありませんが、備えあれば憂いなし、とも申しますし。それに、先程からの殿下の口調、仕草、態度」

「私の?」

「失礼ながら、殿下は専属魔法使いなど、本当は所望していないのでは、と」


 その言葉に、フィリベルトは目を瞬かせ。


「何を企んでいるのかと、気になりますね」


 続けられたそれに、


「──ふっ」


 フィリベルトは、くつくつと喉の奥で笑い出した。


「面白いね、君」

「どうも」

「いい加減にせんか!」

「うわっ」「おっと」


 二人を引き離すようにして、ベンディゲイドブランはアルニカを抱き上げると、


「この子になにかしてみろ。お主ら跡形もなく消し飛ばしてやろう」


 地を這うような低い声で、そう口にした。


「おや、それは恐ろしい。魔法使い殿にとってそのお嬢さんは、格別大切な存在なのですね?」

「お主には関係のないことじゃ」

「じーちゃん。落ち着いて。あたし何もされてないから」

「何かあってからでは遅いのじゃぞ」


 こちらに心配そうな顔を向けるベンディゲイドブランに、アルニカは笑いかける。


「大丈夫。……殿下」


 アルニカは、抱き上げられているせいでフィリベルトを見下ろす形になりながら、


「それで、殿下の真の思惑は、どのようなものなのでしょう」

「そうだねぇ……ここではなんなので、家に上げていただけるならば、お話いたしましょう。ベンディゲイドブラン殿、お嬢さん」

「だって。じーちゃん」

「入れる気はない」

「……じーちゃん、話を聞くだけだから。ね?」


 アルニカはベンディゲイドブランの首に抱きつき、そのままぎゅう、と抱き締める。


「……少しだけじゃぞ」

「ありがとう、じーちゃん」


 そんなやり取りを見ていたフィリベルトは、ちらりと後ろに視線を寄越し、


「ネリ」


 そう大きくもない声で呼びかけた。


「はい」


 動いたのは、先程の黒髪の青年。フィリベルトと同程度の背丈らしい、ネリと呼ばれたその青年は、フィリベルトのもとまでやって来ると、


「なんでしょう、殿下」


 ぴしりと姿勢を正して、フィリベルトに顔を向ける。


「いや、君にも同席してほしくてね。良いでしょうか、魔法使い殿」


 前に向き直り微笑むフィリベルトのそれに、ベンディゲイドブランは難しい顔をしたが、


「じーちゃん」


 ぽんぽんと肩を叩くアルニカに、「むぅぅ……」と唸り、


「仕様のない……」


 溜め息を一つ落とすと、アルニカをゆっくりと降ろす。


「……お主ら、なにか事でも起こそうものなら、即刻縛りあげるからな。承知しておくように」


 フィリベルトとネリを睨みつけるベンディゲイドブランに、


「ええ、分かりました」


 フィリベルトは爽やかな笑みを返した。




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