黒見様の異世界無双(1)
プローグ
鳥の囀りが響く森の中で、木の間から差し込む光で少年は目を覚ました。
「あれ?ここは?」
少年はすぐに自分が異様な環境にいることに気付いた。
少年は森の中の小さな洞窟の前にいた。
第一章 前世と転生と黒見様と
第一幕
世がどう変わろうとも天才と呼ばれる存在はいるものである。この少年も天才と呼ばれる部類に入っていた。少年は幼いころは好奇心が旺盛で、気にとまったものは確かめなければ気が済まないような人間であった。そんなこともあり、知識を吸収し圧倒的な知性を手に入れた。社会も最初の頃は少年を気味悪がっていたが、そのうち少年を表彰したり、意見を求めたりするようになった。そんな矢先であった。少年は、心臓に重い病を持っていることが分かった。少年は人が良く、たくさんの人からの支援もあったが、それに対して罵詈雑言を浴びせる人も少なくなかった。少年が治療を受けて3か月ほどが経った頃、容体が急変し手術が行われた。奇跡的に一命をとりとめたものの、もう先は長くないことを誰もが悟っていた。手術から2週間後の事だった。少年が生死の境をさまよっていたころ、少年は走馬灯のようなものを見ていた。顔も見えない、誰かもわからない人が、自分を見て泣いているのである。そのような状態がしばらく続いた。
「僕もう死んじゃうのかな?もっともっと生きたいのに...」
少年はそう考えざるを得なくなっていた。
それからしばらくたったころ、少年の意識はそこで途切れた。
第二幕
少年が起きてすぐ、頭の中に響くような声がした。
「我は絶対神ディファローネ、其方の人生があまりに無情だった故この世界でもう一度活躍する場をやろう」
だが、実際は違うことを少年は知っていた。少年は、自分について相手が考えていることを知ることができた。この絶対神は、自分を殺してはいけないのに殺してしまったことの罪を償うために、一時的な業務停止を行っており、その間暇なのでこの少年に憑いているのだという事だった。同じような理由で何人かの神も憑いている事も分かっていた。
少年は、目覚めてからこの世界で生きていくためにすべきことを考えた。この世界は元居た世界と違うことは理解していた。つい先ほど見た洞窟の中には、ゲームで出てくるスライムのような生物がいたため、ここで少年はこの世界が俗にいう異世界であることを認識した、と同時に焦っていた。自分の今のHPは150、攻撃力も90、それに対し相手のHPは720、攻撃力も210、とても魔物に対応できる力ではないことを完全に理解し、そのうえで絶望していたからである。その後この少年は、気が狂ったように頬をつねっていたが、何も起こらないのは明白であった。
少年がこの世界にきて数日がたった。少年はその間に弱そうな魔物を倒したり、植物を採集したりして、必死にレベルを上げていた。このころにはHP1万2000、攻撃力9000、魔力量12万ほどにまで成長して、最初にいた洞窟を仮の拠点として生活していた。攻撃力は上がったものの、魔法などはいまだに使うことができなかった。そんなときであった。少年がいつも通り森を散策していると大きなうめき声が聞こえた。
「ん?何だろう?」
その方向へ行ってみると、火を噴く大きなトカゲのような生き物がいた。
「あれって、もしかしてドラゴン?」
少年はすぐに見つかり、必死に逃げていた。その時、ドラゴンが二つに裂けたのであった。裂けたドラゴンの中央に、自分と同じくらいの少年を見た。その少年はミドノと名乗った。
第三幕
ミドノは自分と別に少年が倒れているのを見て、すぐに駆け寄り、
「大丈夫か?頭から血が出ているが。キミの名前は?」
と尋ねた。少年は
「僕は黒見、黒見トキトです」
と言った。黒見はこれまでにあったことを細かく説明した。そして、ミドノを自分の仮拠点に案内している最中であった。数十から数百の魔族の群れが彼らを襲ったのである。空を飛んでいるものも、魔法を使うものもいた。ミドノは黒見をかばうようにしながら、
「少し下がって、何とかする」
といった。ミドノは、右手を天高く上げ、
「火炎魔法 ファイアーブロッサム」
といった。それと同時に空高く火の粉がまいたくさんの花弁となって降り注いだ。それでも、魔族は4分の1も減らなかった。と、ミドノの背後から2,3体の魔族が襲い掛かったのである。その時であった。
「火炎魔法 ファイアーブロッサム」
という、声がした。途端にまわりから魔族はいなくなり、一面が焼け野原となったのである。ミドノはとても驚いた顔をしていた。彼はその時に魔法を発動していなかったからである。また、ファイアーブロッサムでここまでの威力が出る訳がないからである。ミドノは黒見に向かって
「お前がやったのか、、黒見?」
と問うと、黒見は
「ええ、、まあ、、はい」
と言った。その瞬間ミドノの眸の色が変わるのが分かった。ミドノはこう続けた。
「キミは、魔法が最近使えるようになったと言っていたが、それでこの威力というのは人知を超えている。黒見、、お前は何者なんだ?」
といった。黒見は、
「しっかりとした雑魚クラス人間ですが?」
と続けた。ミドノは悟った。この人間も自分と同じようなものであると。
第二章 過去と想いと黒見様と
第一幕
ミドノは前世で緑野リンゼという名前で生活していた。人に忠実で、他人思いの人から頼られるような人であった。特に大きな才能があったわけでも、緑野にしかないものを持っていたわけでもない。ただ、ひと思いの一般人であった。神はこの世界を管理するため悪人を滅ぼさなければならない。そして、その悪人となるものを神は探していた。その時だった。このまま野放しにしていると一般人5000人程度を巻き込むテロが起きる事が分かった。そして、その主犯格となる人間も特定した。そして、その人間の排除に神が乗り出したのであった。そして、この人間は神が仕組んだ罠にはめられて、人質を取って立てこもった。この時の人質こそ緑野である。警察なども総力戦を行って犯人の身柄を確保したものの、緑野は少し前にこの世を去っていた。そしてその直前に黒見と同じような走馬灯を見た。
名前も知らない、顔も分からない人が自分に向かって語りかけているような気がした。
「我はこの世の管理者、其方はこの世において滅ぶべきであった人間によって、非業の最期を遂げたのだ。其方は生前、他人に献身的でこれに報いることが最善と判断した。其方にもう一度活躍の場を与えよう。」
と言われたのを最後に、緑野の意識は途切れた。
第二幕
その後緑野は何だかんだあってミドノに名を変えた。前世のこともあったのであろうが、自分の生前に対する執着を捨てようという思いの方が大きかったのだろう。ミドノは黒見と出会うまでに色々なことを経験してきた。その中でも、ミドノにとって最も厳しかったのは仲間の裏切りであろう。ミドノは生粋のお人好しで、他の人からも信用され、信頼されていた。それゆえに悪に利用されることも多く、その人に対して献身的にしていても、それを仇で返されることが多かった。最初のころはそういう事も在る程度で済ませていたが、それが何度も何度もあるうちに、ミドノは人に対して信頼や信用を抱かなくなった。それでも人助けは好きだったから困窮している人には手を差し伸べたし、できることはできるだけしようと思っていた。そして、黒見に会った。
第三幕
ミドノはその時直感した。黒見が善良な人間で、自分に対して悪意を持っていない事を。そしてミドノは決意した。この人が自分のように人を信じられなくならないようにと。ミドノはこう切り出した。
「キミは、人が困っていたとしてそれがどれだけ些細なことだとしても助けるでしょう?」
これに対して、黒見は
「まあ、それが人として当たり前のことだと思いますし、それに人助けはしていて気持ちが良いものですから。」
と返した。そして、ミドノはさらにつづけた。
「自分もそういう立場の人の意見はわかるし、自分もそういう人なんだと思う。でも、この世界にいる人が全員そうだとは限らない。自分が助けた相手が、自分に恩を返してくれるとは限らない。相手が善良かどうかなんてことは接してみても簡単にわかるものじゃない。無差別に人を助けることは良いことだし、自分もそうしていたい。でも、そうしていると自分の精神がむしばまれるのが分かる。無差別に人を助けるには相当な覚悟が必要であることを分かった方がいいと思う。」
それを言いかけるや否や黒見は
「それでもあなたは僕を助けようとした。」
といった。ミドノが黒見を助けたことは無差別に人を助けようとしていることの裏返しであることを黒見は見透かしていた。ミドノはこの時、黒見には勝てないと思った。そして思った。黒見を守りたい──。
第四幕
その後、ミドノと黒見は黒見の仮拠点で何日かを過ごした。黒見の傷も良くなってきていて、そこまで大したものでなくなってもミドノは
「それでもキミは本調子ではありません。だから、まともに戦闘なんてできないと思いますよ。」
といって黒見のもとを離れなかった。月日がたち、黒見の傷も完全に治った被だった。ミドノが黒見に問いかけた。
「キミは今でも誰でも無差別に助けるつもりなのか?」
黒見は
「勿論」
と返した。ふと、ミドノが
「キミには一生勝てなさそうだ…」
とつぶやいた。そして、ミドノは、
「キミに付いて行くことにするよ。あてもないし、君といると暖かな気持ちになれるし。キミを守ることもできるから。」
といった。黒見は
「キミは僕より実力もあって、皆に認められているのだし、自分がいても足手まといになるだけでは?」
と言ったがミドノの決意は固いようだった。そして、
「今日から君は私の主人だから、様付けで呼ぶことにするよ」
「今日からよろしく。黒見様。」
とミドノは言った。転生して何ももっていなかった黒見に仲間が増え、黒見はこれから、仲間と協力して人を助けていこうと改めて決意した。
第三章 仲間と出発と黒見様と
第一幕
ミドノが仲間になってから数日が経過した。その間ミドノは黒見に、この世界のことについて教えていた。ミドノが言うには、
「自分たちはいま、大陸の最南端に位置するバルバドス帝国の魔窟の森という、深い森の中にいるんだ。で、このバルバドス帝国は、南部、北部、中部、東部、諸島部の5つに分かれていて、この魔窟の森は中部の西の方にある。」
ということだった。森の中で、やることが殆どなくなってしまった黒見はミドノに
「バルバドス帝国内、できれば近場におすすめの都市はない?」
と尋ねた。するとミドノは
「テールノンはどうでしょうか?人口も多いですし、温暖な気候です。とても過ごしやすいと思いますよ。また帝都ベルルーグとの行き来も簡単に行なえますし。」
と言った。黒見はミドノの言っているテールノンという都市がよほど気に入ったようだ。ミドノもその都市にいたことがあり、そこでとても充実した生活をしたらしい。黒見はテールノンに行くことを決意した。
第二幕
黒見が仮拠点としていた洞窟を離れて数日が経過した。結構な距離を歩いただろうか、海が見えてきた。ミドノが
「バルバドス帝国の帝都ベルルーグには様々な機関が集まっているらしく、テールノンにも帝都の機関の分署のようなものが多いらしい。特に貿易などが優れているテールノンには貿易系機関の帝都からの分署が多い。人口も多いので冒険者ギルドなどもあるから、充実した生活が遅れると思うよ。」
といった。黒見はテールノンで生活することをとても楽しみにしていた。更に数日ほど歩き、黒見一行はテールノンにたどり着いた。
第三幕
黒見は今、冒険者ギルドの中にいる。ミドノが
「職業はどうするか決まっていますか?冒険者になりたいなら早めに冒険者試験を受けたほうが良いと思います。」
といっていたからである。入口の近くに職員のような人がいた。その人に声をかけた。
「すみません、冒険者試験を受けたいのですが。」
職員はこちらに振り向き、
「すみません、冒険者試験は1週間に1度しか行っていません。帝都の冒険者ギルドでなら毎日受けられると思うのですが、、、」
といった。黒見は、
「ありがとうございます。帝都のギルドの方に行ってみることとします」
といった。そしてミドノと合流し、あったことを話すとミドノは、
「帝都まではそこまでの距離はないし、そのほうが早いかな?、、、」
といった。黒見はミドノの言葉にすこし突っかかりを覚えたが、帝都に行ってみることにした。
第四章 過去と悩みと黒見様と
第一幕
帝都へ向かう道についた時、一人の冒険者らしき人に黒見一行は声をかけられた。
「君たちはこれから帝都に向かうのかい?」
ミドノが、
「そうですが?」
と返した時、相手の表情が少し変わったのがわかった。
「うわ!ミドノ様だ!本物だ!すげぇ!」
と訪ねた冒険者らしきに、黒見は
「なんでとはどういうことですか?」
と尋ねた。すると冒険者らしき人は
「ミドノ様はバルバドス帝国ギルド最重要冒険者で、滅多にお目にかかることができないのです。」
といった。黒見はこのときに初めて、ミドノがとてもすごい人であることを知った。
第二幕
ミドノと帝都に向かう旅も始まって2日がたった。ミドノが展開した結界の影響で、夜でも魔物に襲われることなく過ごすことができた。
「このあたりは夜になると冷えますし、もうテントを張ってしまっても良いかもしれませんね。」
とミドノが話した。偶然かもしれないが、ミドノの口数が少ない気がした。黒見は、ミドノが具合が悪いのかと思い
「具合が悪いなら見張りを変わりますよ?」
といったがミドノは、
「大丈夫です。」
と答えた。いつもより口数が少ないミドノは心に傷を負っているようだった。黒見は心配して、
「なにか悩んでいることでもあるのですか?」
と尋ねた。ミドノはなにか覚悟したように自分の昔のことについて話しだした。
第三幕
ミドノは深く息を吸って話し始めた。
「僕はもともとこの世界の人間ではなかったのです。俗に言う転生、といったところでしょうか、、僕は古代国家ヴァルハラの王子として生まれました。黒見様もご存知の通りヴァルハラは約700万年に滅んでいます。そして、私の夢は、、、ヴァルハラを復活させることなのです、、、」
初めてミドノが本心から笑った気がした。黒見は思った。ミドノの夢を叶えたいと。ミドノは尋ねた。
「ヴァルハラの復活には沢山の戦闘を行ったり面倒なことに巻き込まれることも多いと思います。それでも、、、」
ミドノがいいかけるや否や、黒見は
「ミドノがどんな事情を抱えていても、自分なりに助けようと思うよ。仲間だから。」
といった。ミドノの表情が緩むのがわかる。
「ありがとう。」
ミドノの目からは涙が垂れ落ちていた。
第五章 試験とチートと黒見様と
第一幕
黒見とミドノは約3日で帝都ベルルーグについた。帝都には様々な店や建物があった。とてもにぎわっているようだった。ミドノが
「とりあえず冒険者ギルドを探しますか?」
といった。黒見は
「その辺は抜かり無いよ。帝都の建物の位置は大体覚えたからね。」
といった。ミドノは驚愕している。無理もないだろう。帝都には50万から100万の建物がある。それをすべて覚えるのは人間業ではない。天才は異世界でも変わりないようであった。黒見は、帝都の冒険者ギルドについた。職員に話しかけると、
「冒険者試験を受ける方ですね。冒険者試験は、1日近くかかることもあります。今日は午後1時から始めますので、それまでは冒険者試験の準備を行ってください。」
と言われた。黒見は、一定の食料と、衣服を調達し、冒険者試験に臨んだ。
第二幕
黒見は、ミドノに、
「じゃあ、試験受けてるから、明日の2時位まで自由にしてて。」
といった。ミドノは
「健闘を祈ります。」
の一言であった。そう、ミドノが突っかかっていたのは帝都の冒険者試験の試験管が異次元の強さを誇るという噂を聞いたからである。黒見の冒険者試験が始まった。試験官が、
「これより冒険者試験を始めます。最初になんの属性があるか、どの程度魔力があるかについて試験を行います。とりあえず、推奨に手を触れてください。」
といった。黒見が言われたとおり水晶に近づくと水晶が粉々になった。試験官や、他の参加者は、何も言えずただ唖然としていた。試験官が
「今、何を?決して、不正行為とかをうたがっているわけじゃないんですけど、この水晶に触れずに破壊するなんて、、、過去に破壊された事例はありはするんですけど、触れずに破壊された事例は無いですね。だから少し信じられなくて。あ!魔力数はいくつですか?」
と黒見に尋ねた。黒見は
「329万1728ですが?」
といった。試験官は
「そうか、、、、、」
といった。黒見は察した。自分がチート級であると。
第三幕
黒見が水晶を破壊していた頃、ミドノは食べ歩きをしていた。今は、ベルルーグの人におすすめされた店のベルルーグ郷土料理「スピラフィシュの穀菜煮込み」を食べている。この料理はルース川で主にとることのできるスピラフィッシュという白身魚を、穀物と野菜で煮込んだシチューのようなものだ。ミドノは店にはいると同時に
「スピラフィシュの穀菜煮込み20皿ください。」
といった。ミドノは大食いであった。
{〜4分後〜}ミドノは
「スピラフィシュの穀菜煮込み20皿おかわりで」
といった。このようなやり取りが夜まで続いた。そして、宿を取るかと思いきや、居酒屋に突撃し、ベルルーグの地酒を飲みまくり、在庫がなくなったところで、3件目に突撃。三件目の店は、スイーツなどを販売する店で、ケーキを7ホールほど食べて、宿探しを始めた。宿はすぐに見つかり、こうしてミドノの一日は終わった。
第四幕
黒見様の冒険者試験は第一試験が終わり、実戦形式の第二試験へ移った。第二試験は試験官と1対1の模擬戦をして、勝利するというものだった。もちろん試験官は手を抜いて行うようにしているが、黒見と当たった試験官の目は燃えたぎっていた。試験官は
「お前相手だと殺されかねないから、、本気で行かせてもらうからな!」
といった。そして模擬戦開始の合図と共に試験官は突っ込んできた。が、黒見にデコピンをされて、気絶してしまった。
「手加減はしたのですが、、ワンパンですか、、」
と黒見がつぶやく。会場全体に震撼が走った。倒れた試験官を見て他の試験官は慌てて手当をする。幸いなことにその試験官の命に別状はなかった。模擬戦が終わり、探索能力の試験になった。探索能力の試験では、くじを引いてそこに書かれた素材を3つ持ってくるというものだった。そこまで難しいものはないようになっているそうだ。黒見が引いたくじにはウロコザルの鱗、バースバードの毛皮、フレイムドラゴンの爪、と書かれていた。ウロコザルは鱗のある大型のサル、バースバードは炎攻撃をする大型の鳥、フレイムドラゴンは大型のドラゴンで名前の通り炎を噴く。とのことだった。どの魔物も魔窟の森にいるらしい。という事で黒見は最近覚えたテイム能力を使って足の速そうな魔物をテイムし、移動することにした。
「やっぱり魔物を使って移動すると体力も使わないし、早く移動できるから便利で良いな。」
と言っているうちに魔窟の森についた。魔窟の森での素材集めは順調に進み、残す素材はフレイムドラゴンの爪だけになった。だが、フレイムドラゴンには炎魔法が使えないため、魔法の種類が少ない黒見様とは相性が悪い。筈だったのだが、黒見の魔法の前では無力だった。
「ウォータースピア! ウィンドカッター!」
詠唱とともにドラゴンは塵と化した。
全ての素材を集め、試験官に提示したところで冒険者試験が終わった。
「思っていたより早くミドノと合流できそうだ。」
と一安心したような黒見。結果が出るのは数日後とのことだったのでしばらく帝都を探索しようと思っていた。
第五幕
ちょうど黒見様が魔窟の森に旅立っていたころ、ミドノは一人で森に分け入っていた。ベルルーグ郊外にある森の中に小さな廃村がある。その廃村が、古代国家ヴァルハラの王族の生き残りの中でミドノを除いて最後まで生きていた人がいた場所である。その人がミドノの父親である。ミドノの父親とその子供には不死の呪いと呼ばれる呪いがかけられている。この呪いは最強との呼び声の高い魔王バーサーカーによってかけられたもので、死ぬことのできない呪いである。バーサーカーはミドノとその父親に
「この呪いをとかなければお前たちは死ぬことができず、一生仲間を救えなかったことを悔み続けることとなる。解けるのは私だけだ。つまり、お前たちは一生絶望と後悔を背負って生きていくこととなるのだ。」
そして、魔王バーサーカーに言われた通り、ミドノとその父親は後悔していたが絶望はしていなかった。生きてさえいれば、きっとヴァルハラは復活させることができる。そう言い聞かせていた。だが、世はそう甘くはない。ミドノたちが住んでいた村が魔物の襲撃を受けたのである。ミドノの父親は、この時にミドノを逃がし、こういった。
「ミドノ、お前は立派になって君主を持つかもしれない。その君主がいい人か、悪い人かは分からないが、お前がいい人だと思うのなら、その人を大切にしなさい。」
ミドノは思っていた。黒見がいい人かどうかは知らないが、自分の目には良い人に見える。親の遺言でというのは少し違う気もするが、
「僕は今黒見様という、とてもひと思いで、優しい人の仲間として頑張っているよ。見てて、、、」
ミドノは、廃村のはずれにあるお墓の前で手を合わせてそういった。
第六章 精霊と家と黒見様と
第一幕
黒見の冒険者試験は思っていたよりも早く終わり、黒見はミドノに合流するため街を歩いていた。ミドノは帝都に戻っていて、昨日食べてよほど気に入ったのかスピラフィシュの穀菜煮込みをまた食べていた。お察しの通りだが今回も相当な量を食べている。そこに黒見が出くわした。黒見は、一度驚きその後引いたが、勇気をもって話しかけることにした。
「ミドノだよね?何してるの?」
ミドノは
「黒見様お早うございます。黒見様の試験が終わるまでもう少し時間があったと思いましたが思いのほか早く終わりましたね。では、テールノンに戻りますか。」
と答えたが、黒見は一時的にパニックになっていた。黒見はミドノより食べる量が多いと思っていたが、ミドノがこれだけ食べているのを見て、
「人を見た目で判断してはいけないとはこのことか、、、」
と溜息交じりにつぶやいた。黒見は、新たに獲得したテイムを使って魔物をテイムし、馬車のようなものを引かせて、そこに乗ってテールノンに帰った。
第二幕
テールノンに帰って真っ先に、黒見は冒険者ギルドに向かった。冒険者としてのクエストをできるだけ早く確認するためである。すると、黒見の目にこのような依頼が留まった。
「テールノン東外れの森にいる生物の調査」
戦闘もなさそうだし、そこまで簡単そうなものでもない。この依頼を受けてみようと思い、ミドノに相談した。
「ミドノ、この依頼を受けてみようと思うんだけど、どうだろう?」
ミドノは、
「いいんじゃないですか?今の黒見様のレベルを考えるともう少し難しくても良い気がしますが、最初の依頼ですしこのくらいがいいでしょう。」
と答えた。黒見はこのクエストを受けた。
翌朝、黒見様一行はクエストを行うためにテールノン東外れの森にいった。 森の中は鬱蒼としていて、気味悪い感じがした。しかし、森の中には魔物がほとんどいない。いても1,2匹の集まりで、明らかに異常だという事は明白であった。森の中を進んでいくと、何か魔物がいることが分かる。のぞくと、精霊族が2,3人ほどいることが分かった。精霊族が、何か話しているのが聞こえる。
「この森での魔物の管理は順調?」
「ええ順調よ。今のところ問題はないし、調査に来た冒険者も、とらえている。皆、精霊の住処だという事は知らないでしょうね。」
「精霊族はただでさえ数が減っている。ここもばれたら、、、」
と、精霊族と黒見の目が合った。
第三幕
黒見の顔が硬直した。ミドノもこのことに気付いて、
「終わったかな?」
とつぶやく。精霊族は魔物の中でもトップレベルに強い種類で、魔法戦闘に特化しているのだ。黒見は、
「手加減はできそうにないけど、殺したくはないな。」
とつぶやく。と、黒見は茂みから出て、精霊族に話しかけた。
「あなたは精霊族の生き残り?名前はなんていうの?」
精霊族は相当警戒しているようだったが、ミドノを見ると少し安心したようだった。ミドノが、
「紹介するよ、精霊族の長、僕が勝手にレーナとルーナって呼んでる。」
といった。ミドノはどうやら魔物からの信頼が厚いらしい。お人よしは魔物にも優しいらしい。黒見が
「精霊族の数が年々減っているのは聞いていましたが、そこまでのものなのですか?」
と尋ねると、精霊族の長は
「10年前は120前後ほどいた精霊族は、現在では20匹ほどしかいません。」
といった。ミドノはこう提案した。
「今、この黒見様って人に仕えているんだけど、黒見様テイムできるから、テイムされれば?少なくとも滅びることは無いよ。」
精霊族の長は、少し迷ったように
「黒見、といったかしら?あなたは良いの?」
と尋ねる。黒見は
「問題ないよ。助けられる人がいたら助けたいし。」
と答える。精霊族の長はミドノに小声でなにか伝えている。
精霊族の長は精霊族を全員呼び、黒見に
「よろしく、、、お願いいたします。」
といった。黒見が、テイムを始めると、ミドノは何かを始めだした。テイムは大量の魔力を使うためそのカバーをしようとしていた。だが、黒見様の魔力量はすさまじく、20前後の精霊族をテイムしても何とも無いようだった。
精霊族のテイムが終わり、森から出るころには黒見の周りが精霊族であふれるようになっていた。ミドノが、
「テイムした魔物なら、自分でその分子を制御することで精霊たちを自分の領界にいれることができて、そこから出すこともできるそうですよ。」
といった。黒見は、ミドノに
「領界ってなんだ?」
と尋ねた。ミドノは、
「領界とは、簡単に言ってしまえば魂の場所です。人によって違いますが、そこに核と呼ばれる人間のコアのようなものがあることもありますし、まあ、色々です。」
と答えた。黒見は領界の中にいる精霊に
「君たちの得意な戦闘は?」
と聞いた。精霊たちは、
「呪い、えっと、自分の魔力を相手に流して相手の体内から魔法を発生させるみたいなものとか、回復魔法が得意です。まあ、大体できます。」
ふーんと言いながら、黒見は、ミドノに助言されたように精霊の分子を操作して自分の領界にいれた。
「これなら他の人に見られることもないし、安心かな?」
というようなことを呟く黒見の隣で、ミドノは
「さっきの分子を操るとかは僕しかできないはずじゃ、、ヴァルハラの秘技だよ?ヴァルハラと関係のない黒見様が出来る訳が、、」
とパニックになっていた。
第四幕
ミドノと黒見は、帝都に帰った後、冒険者ギルドで調査の結果を報告した。精霊族の事は伏せていた。黒見とミドノは、今後どうするか考えていた。黒見が
「ミドノは家とか持っているの?」
と尋ねると、ミドノは
「ありません。正直冒険者って基本的に国内を全体的に移り住んでいくものなので家を持つことが少ないんですよね。」
と答えた。だが、黒見の一言で、ミドノは長年の夢であったマイホームをもつこととなる。
「僕、一度行ったところなら何処でも瞬間移動できるよ。ワープって能力が使えるようになったから。」
ミドノは食い気味に
「じゃあ家持ちましょう。マイホームです。」
といった。ミドノの熱に黒見は押されてしまった。
おまけ
黒見がふと、
「ミドノって何を目標に旅をしているとかあるの?」
と尋ねた。ミドノは
「まあ、色々ありますけど、一番は、、、」
黒見が
「何?」
と聞くとミドノは
「沢山料理を食べるためですが?」
と怒ったように言った。(この会話に特に意味はない)
次巻へ続く




