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小鳥遊 蒼⑤

職員室の前。

そこから離れ、数分後。

神谷と小鳥遊は、夕日に染まった手洗い場の前にいた。

互いに手を握り、息を切らす二人。

頬は紅潮し、二人とも肩で息をしていた。


「はぁはぁ。こ、ここまでくれば」


呟く、神谷。

呼応し、神谷は手を離す。

小鳥遊の手のひらから。その手をゆっくりと。


「か、神谷くん」


「俺。我慢できなくて」


静かに、神谷の言葉の続きを待つ小鳥遊。

その瞳は、少し潤んでいる。


「大切な人。子どもの頃から大好きだった小鳥遊さん。憧れだった、小鳥遊さん。だから、我慢できなかったんです。小鳥遊さんが傷つけられていると思ったら……俺、我慢できなくて」


神谷の思いに、小鳥遊は一筋の涙をこぼす。

そんな弱々しい小鳥遊の姿。

その小鳥遊を抱きしめようする、神谷。


「神谷くん」


「小鳥遊さん」


いい雰囲気になる、二人。


っと、そこに。


軽快な着信音が響く。

それに、二人は目を丸くしてしまう。


「か、神谷くん。鳴ってるよ」


「は、はい」


ポケットからスマホを取り出し、神谷は相手の名前を確認。


瞬間。


「ちょっ、ちょっとごめんなさい」


慌て、小鳥遊から距離を置く神谷。

倣い。小鳥遊は小鳥のように首をかしげてしまう。


背を丸めーー


「た、立木さん」


と相手の名を呟き、神谷は赤の通話ボタンをタップ。


途端。


「はーい、神谷きゅん。いつまで経っても電話してくれないからぁ。お姉さんからかけちゃったぞ」


「立木さん。そ、その節はお世話になりました」


「立木さん? ふふふ。麻也まやって呼んでもいいよ。だって神谷くんはぁ……お姉さんの婚約者。なんだよ? ねぇ、神谷くーん。ビデオ通話しようよ」


「そ、それはちょっと」


「いいじゃん、しよーよ。神谷きゅんの可愛い顔。見たいなぁ」


「後からっ、後からしましょう。今はほんとに」


「はい。ピぃーす」


画面が切り替わり、立木の姿が画面にうつる。

自撮り姿勢の立木。

しかし、その服装はなぜか肌面積の多い格好。

いわゆる、水着姿だった。


「!?」


赤面する、神谷。


「どう? びっくりしたぁ? これ、次の夏イベ用ポスターの水着なんだ」


嬉しそうな、立木。


「ふふふ。真っ先に神谷きゅんに見て欲しかったんだ。どうかな? 神谷きゅん」


「……っ」


顔を赤くしたまま、神谷は固まってしまう。


そして、そこに。


「立木さま。ご入浴の用意が整いました」


割り込む、声。

それに倣う、立木。


「サンキュー。ってなわけで、神谷きゅん。後から電話よろ」


画面の向こう。

そこで、「ちゅっ」と投げキッスをし、立木は通話を切ってしまったのであった。


赤面し、固まったままの神谷。

そんな神谷に、小鳥遊は声をかける。


「だ、大丈夫? 神谷くん」


「は、はい。なんとか」


振り返った、神谷。

そのぎこちない笑顔。


それに小鳥遊は、「だ、大丈夫じゃなさそうだね」と心配そうな声を発し、くすりと笑みをこぼしたのであった。

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