小鳥遊 蒼②
その日の昼休み。
神谷は一人、屋上の欄干にもたれ、空を見つめながら、小鳥遊 蒼の姿を思い出していた。
美人だったな、小鳥遊さん。
あんな人とほんとに結婚できたらーー
"「神谷くん。ご飯にする? お風呂にする? それともわたしにする?」"
頬を紅潮させ、一人妄想する神谷。
聞けば、小鳥遊さんは某一流大学卒の超高学歴な人らしい。
あらゆる模試で全国一位を叩き出し、いわば天才の部類。
そんな才色兼備な小鳥遊さん。
そのようなお方と、この俺が釣り合うはずなどない。
っと、そこに。
「あーっ、神谷くん。こんなところにいた」
突然、響く声。
「!?」
思わず視線を前に向ける、神谷。
「神谷くんっ。お昼いっしょに食べよ」
花のような笑顔。
それを浮かべ、小鳥遊さんは屋上の扉付近で手を振っている。
そして小走りで神谷に近づき、神谷と同じように欄干に背を預ける小鳥遊さん。
「空。青いね、神谷くん」
「あ、青いですね」
「どう? 神谷くん。わたしのこと、少しは思い出してくれた?」
「は、はい」
緊張して顔さえも見れない、神谷。
「それで、その。結婚の話なんだけど」
「そ、そのお話なんですが」
「やっぱり結婚するには、わたしと神谷くんとの距離をもっと詰めないといけないと思うの。ってなわけでーーちょっとこっち向いて、神谷くん」
「……っ」
促され、神谷は小鳥遊のほうへと顔を向けた。
瞬間。
ちゅっ
神谷の頬。
そこに、小鳥遊は軽く口付けをする。
そして、続けて声を発した。
「これから。距離、縮めていこうね。へへへ。今のキスで、10年間の時間の距離。ちょっとは縮めることができたかな?」
頬を赤め、あの時のように笑う小鳥遊。
その顔。
それに神谷もまた、子どもの頃のように、その顔を真っ赤に染めることしかできないのであった。
〜〜〜
同時刻。
"「ぼくおおきくなったら、お姉さんと結婚する」"
"「えーっ。いいの!? こんなわたしで」"
"「うん!!」"
あの頃の記憶。
それを思い出し、高級車の運転席でハンドルを握り、運転しながら胸をときめかせる一人の女性。
黒のサングラスに、金色の髪。
そして、その身を包むはカジュアルな服装。
窓から差し込む日の光。
それにその身を染め、その女性は呟く。
「わたしの婚約者はあの子だけ。ふふふ」
己の胸中で。
あの頃のときめきを思い出しながら、立木 麻也は楽しそうに呟いたのであった。
〜〜〜