小鳥遊 蒼①
ジロジロとこちらに突き刺さる、視線の山。
それもそうだろう。
なにせ、今日は新学期初日。
桜舞う校門前。
そこで、先生と生徒がぎゅっとしているのだから、見られないほうがおかしい。
「あ、あの」
「神谷くん。わたしもう、26なの」
抱擁を解き、小鳥遊さんは数歩前で突如、カミングアウトする。
黒髪のお団子ヘヤ。そして、先生らしい知的な服装に薄縁眼鏡。
に、にじゅうろく?
ま、全く26になんて見えない。
「なーに、その顔? おばさんじゃんとか思っちゃった?」
悪戯っぽく笑う、小鳥遊さん。
「でも、まっ。おばさんと言われても仕方ないか。26だもん。神谷くんとは10歳差。神谷くんのこと待ってたらもうこんな歳になっちゃった」
「そそそ。そんなことはありません。た、小鳥遊さんがおばさんだなんて。お、俺の中ではその。え、永遠のお姉さんです」
"「りんごが1つとみかんが2つ。さて、りんごとみかんはぜんぶで何個あるかな?」"
"「みっつ!!」"
"「すっごーい。かみやくんは、お利口さんだね」"
"「へへへ」
い、いかん。
色々思い出してきた。
放課後児童クラブ。
そこで小鳥遊さんと、一緒にお勉強した記憶。
それが蘇ってしまう。
一人っ子だった、俺。
もし自分にお姉さんがいたら、こんな感じなんだろうな。
と、妄想していたあの時。
「永遠のお姉さん……か。ふふふ」
俺の言葉。
それに、小鳥遊さんはとても嬉しそうに笑う。
倣い、俺の胸も高鳴ってしまう。
く、くそ。
こ、これから、新学期だというのに。
初っ端から、色々とヤバい。
なにがって?
そ、そりゃ。こんな可愛いお姉さんにーー
っと、そこに。
「というわけで、いこっか。神谷くん」
「へ?」
「へ? じゃないでしょ。わたし、小鳥遊 蒼は神谷 慎二くんのクラスの担当なんだから」
くいっと眼鏡をあげ、微笑む小鳥遊さん。
"「わたし、小鳥遊 蒼はかみやくんの先生です。ほら、つぎの問題いこっか」"
どきっ
あの頃の小鳥遊さんの面影。
それが目の前の小鳥遊さんと被り、俺の心は童心に帰ってしてしまう。
お、お姉さん。
ぎゅっと小鳥遊さんに握られる、俺の手のひら。
温かい。
あの頃と、同じだ。
「ほらほら。チャイム鳴っちゃうよ」
そして俺は、小鳥遊さんに引かれ、頬を紅潮させたまま、自分の教室へと向かっていったのであった。