西園寺 茜①
その夜。
神谷はベッドに寝転び、スマホを見つめていた。
小鳥遊さんはあの後、「ちょっとだけ元気になっちゃった」と、笑ってくれた。
そしてその後、いっしょに掃除をし、「先生も掃除してくれるんですか?」と浮葉を戸惑わせてしまった。
浮葉には悪いことをしたかな?
明日、謝っておこう。
確か……浮葉の好きな物は、苺チョコレートだったっけ?
よし、今度コンビニで買っていこう。
そんなことを神谷は内心で呟く。
それにしても。
"「はい、ぴぃーす」"
立木さんのあの水着姿が頭から離れない、神谷。
正直、精神的にきつい。
勿論、いい意味で。
あぁ、くそ。
こ、ここは、気分転換でもしないと。
頭にチラつく、立木の水着姿。
それを振り払うように、神谷はスマホの画面をスクロースしていく。
画面は、ニュース記事。
その中で、神谷は複数の記事に目がとまる。
【人気絶頂の西園寺 茜。事務所から独立。今後はソロ活動に専念か?】
【チラつく男の影? 独立はその影響?】
【もうわたしも27。独り立ちだよ独り立ち。本人談】
西園寺 茜。
神谷も知ってる、某グループのセンターを張っていた看板アイドル。
しかし近頃は、西園寺 茜はなにかと世間を騒がしている。
「へぇ。もう27歳なんだな」
何気なく呟く、神谷。
しかしそこでーー
"「わたしね、今から10年後。すっごいアイドルになるんだ。ねぇ、僕くん。もしわたしがアイドルになったら、応援してくれる?」"
"「うん!!」"
"「それでもし。結婚相手に困ったら……結婚。してほしいな」"
"「うんっ、する!!」"
"「ふふふ。約束だよ?」"
"「やくそく」"
人の行き交う、ストリート。
そこで一人で歌をうたっていた、お姉さん。
誰にも見向きもされず。相手にもされていなかった。
朧げな記憶。
それが神谷の頭に浮かぶ。
お姉さんの前で三角座りをして、拍手をして。
二人で笑顔で指切りをしてーー。
ははは。
まさかな。
笑い飛ばし、神谷は違う記事をタップする。
ありえない。
西園寺 茜があの時のお姉さんだなんて……絶対。ありえない、よな?
〜〜〜
あのファーストフード店で見た光景。
大量のハンバーガー。
それを前にあたふたしていた、あの人。
「まさか、ね。いや、でも」
とあるマンションの一室。
そこで、西園寺 茜は一人思い出していた。
「ビビッときたんだよね。うん、よし。明日、もう一回あの店にいってみよう」
そう内心で呟き、茜は小さく自分に言い聞かせるかのように頷くのであった。
〜〜〜