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行列のできるラーメン屋


 とある港町を訪ねた時の話だ。


 僕は用事を済ませ、宿泊するカプセルホテル周辺で食事のできるところを探していた。


 それなりに遅い時間だったので多くの店は閉まっており、コンビニで何かを買って食べるという気分でもなかった。そんな時に一件の店を見つけた。


 店の名前は伏せておこう。赤い看板が目印のラーメン屋だった。遅い時間だということもあって、並ぶこともなくすぐに入ることができた。


 カウンター席の向こうには白い服を来たおじさんが居て、奇妙だったのはひとつのどんぶりがだしっぱなしになっているということでした。どんぶりというか、よくお店の外に並んでいるサンプル。


 ひとつの食品サンプルが奥の席に置かれていました。店の中、カウンター席にです。それはとても奇妙なことだと思ったのだ。


 僕が食品サンプルを眺めていると、店のおじさんが「座らないの?」と訊いてきたので、僕は妙に思いながらも座る。


「注文は?」


 またおじさんに訊かれ、僕はカウンター席にあるメニュー表を見た。とりあえず餃子とラーメンを注文する。


 ほどなくして注文した料理が出てきた。少し妙な店だと思っていて不安はあったのだが、ここの料理はとても味が良かった。またここに食べに来たい。リピーターになりたいと思える味だった。


 そんな時、それは現れた。ふらりとおともなく店にやってきたその人物は不思議なことに半透明だった。その人物は食品サンプルが置かれていた席に座ると、少しして、すうっと姿を消した。

 

 すると、また新たな人物が店に入ってきた。その人物はさっきの人と同じように半透明で、同じように食品サンプルの前に座る。そしてまた、すうっと姿を消した。


 また、新たに半透明の人物が入ってくる。そのような流れを唖然として眺めていた僕に、店のおじさんは「麺が伸びちゃうよ」と言ってきた。「あまりお客さんを見ないで上げて」とも。


 僕は半透明の人物たちを見るのをやめて、目の前の料理に集中した。少しして食事を終え、勘定を済ませて店を出た。


 店を出て、僕は驚くべきものを見た。道の先の角まで行列ができている。僕が入っていたお店へと半透明の人物たちが行列を作っている。彼らからは生気を感じない。僕は彼らを幽霊だと思った。


 このラーメン屋は幽霊の行列ができるラーメン屋なのだ。恐らく彼らは死んだ後も、何度もこの店に並んでいる。そう思えるくらいこの店の料理は美味かった。


 そう思うと同時に僕は考えてしまった。


 この店の料理は何度でも通いたくなるほど美味かった。僕も、死んでもこの店に並ぶようになってしまうんだろうか。


 僕が死んだ後もこの場所に、この店はあるんだろうか?

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