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雪より白く、色褪せない恋模様。【5】

 クリスマスの誘いを七海さんに断られてしまった日から、なんとなく話し掛けづらくなっていた。

 挨拶をされれば返すし、バイト先で仕事の話になればしっかり対応はしてるけど、それ以外の話を七海さんがしようとすると遮って無意識に避けてしまう。

 ここ数日それが続いている。


「最低だな、俺……」


 七海さんは悪くない。

 悪いのはあそこで変にテンション上げてつい誘ってしまった俺なのだ。


「……はよ」

「あっ、高槻さん。おはよ」


 七海さんの挨拶の後それ以上の会話が起こらないように机に顔を突っ伏すと、しばらくして高槻さんがやってきた。

 ここ最近はすっかり敬語も抜けてきて、高槻さんとも普通に喋ることが出来ている。

 今まで友達とか居たことないのにこうしてクラスメイトと話せるようになったのは全て七海さんのおかげだ。

 多分、高校に入学して初めて学校が楽しいと思えたかもしれない。

 そんな感傷に浸っていると、未だ俺の机の前にいた浅葱さんに名前を呼ばれた。


「ねぇ、浅葱」

「っ……何?」


 驚いて一瞬言葉を詰まらせるがなんとか返答する。

 と、周りーーおそらく自分のグループの方だろうーーを見てから顔を近づけてきた。


「今日ってバイト休みでしょ?」

「えっ、……うん」

「なら、ちょっと買い物に付き合いな」

「買い物?」

「じゃ、また放課後。逃げたら許さないから」


 言って高槻さんはそそくさと席へ向かってしまう。

 ……あれ、俺行くって答えたっけ?

 もしかしなくても決定事項なの?

 どうしてグループ内の誰かを誘わないのかとか多少の疑問は残ってしまったけれど、なんとなく鬼気迫る感じで断れる雰囲気でもなかったので、俺は心のメモ帳に今日の予定を渋々書き込んでおくのだった。




× × ×




「じゃ、行くよ」

「う、うん」


 放課後になり忘れたふりして逃走する間もなく、俺の席までやってきた高槻さんに腕を引っ張られて教室を後にする。

 教室を出る際、七海さんと目が合った気がするけれどすぐに逸らされてしまう。

 なので俺も気付かなかったことにして高槻さんに歩かされるがままに歩みを進め、靴を履き学校を出ると再び腕がホールドされた。


「あの、別に逃げないから離して欲しいんだけど」

「駄目。アンタ逃げ癖あるし」


 や、それどこ情報だよ。というツッコミを出来るほど、流石にまだ砕けた関わりを持ててないので、高槻さんが歩くペースに合わせて歩いていく。

 そしてやってきたのはこの辺に住んでいる人御用達のショッピングモールだった。

 食品、電化製品、家具や雑貨、服屋などのテナントも入っているので、色々まとめて購入したい場合は大変ありがたい施設である。


「それで、どこ行くの?」

「……アンタは大人しく付いてくればいいから」

「あっ、はい」


 どことなくこれ以上話しかけられる雰囲気じゃなかったので言われた通りに黙ることにした。

 まず高槻さんは服屋に入り少ししてからすぐに移動。

 次に本屋は寄りここも数分で退散。

 三番目にやってきたのは雑貨屋だった。

 そこで顔をこちらに向けず、小物を物色しながらようやく喋りかけてきた。


「ねぇ、アンタ。ひかりと何かあったでしょ」

「っ……、なにかって?」

「は? それが分からないから聞いてるんでしょ?」


 ふとこちらに顔を向け睨め付けられる。

 怖い怖い怖い怖い。

 この威圧を感じるのは久しぶりだ。


「ってか、気付かれないとでも思った? 普段教室でよく話してる癖に最近は挨拶くらいじゃん。後アンタもこっち側に来なくなってるし」

「はぁ……」

「何か困ってたらひかりから相談してくれると思って待ってたけど何も言って来ないから……」

「それで原因の一端(いったん)を担ってるはずの俺に接触してきた、と?」

「そう。ひかりが何か悩んでてその原因がアンタってことは分かってる。けど、原因を知らないのにアンタを責める事はできない」


 なるほど、つまり原因を知ってから俺を糾弾するつもりだった、と。

 や、違うな。多分高槻さんはそうじゃない。

 高槻さんはただ最近元気が無い七海さんのことを心配してるだけなのだろう。

 以前七海さんが言っていた。

 高槻さんは面倒見が良い、と。

 確かにこれは少し間違えれば余計なお世話と言われてしまう行為だが、俺からすれば友達を思うためならと率先して行動できる高槻さんに尊敬の念を抱いてしまう。

 だからだろうか、俺は七海さんと気まずくなってしまったあの日のことをぽつりぽつりと高槻さんに語っていた。


「──と言うことです」

「ふーん」


 返事はそっけないが途中で口を挟むことなく高槻さんは最後まで聞いてくれる。

 途中俺の七海さんへの好意も告白してしまったが、今更気にすることはない。

 もう終わった話なのだから。

 高槻さんは最後まで聞き届けると持っていた香水を棚に戻し、俺の肩を掴んでまっすぐこちらを見つめてきた。


「それはアンタが悪いね」

「まあ、そうだよね」


 知ってる。逃げ出した俺が悪いことなんて。

 それを言うと、しかし高槻さんはそうじゃ無いと首を横に振る。


「確かに逃げたのは良く無い。けど、原因はその前……アタシ達とのパーティがあるからって理由で断られたなら別にデートを断られたわけじゃ無いじゃん」

「や、それは俺も思ったけど……」

「それにアンタもそのパーティに誘われたんじゃないの?」

「えっ……」


 言われて記憶を呼び起こす。

 が、無理だった。

 確かあの時、クリスマスパーティの話を聞いた瞬間、断られたって事実が先行してその後も何か喋り続けていたはずの七海さんの言葉を聞き入れられて無かった、気がする。


「……どうしよう、高槻さん」

「ん、謝ればいいんじゃない?」

「それが出来れば苦労しないんですけど」

「でも仲違いして誤解があったなら解決策はそれしかなくない?」


 ごもっとも。

 考えれば考えるほどあの時七海さんが俺を誘ってくれてた可能性は高い。

 いや、むしろ以前までの関係ならいざ知らず、俺自身でも仲が良いと言える七海さんがグループでやるパーティに誘ってくれないなんてあり得ない。

 不思議とそれだけは確信が持てた。


「アンタ、イブの日暇?」

「……暇だけど」

「夜とか遅くなっても平気?」

「親もその日はデートするとかで25日の夕方くらいまで帰って来ないし」

「へぇ、アンタんちの両親って仲が良いんだね」


 いやほんとそれなんだよな。

 流石に路上でキスとかしたりはしないけど、俺が近くにいても平気でイチャつくのは流石にやめてほしい。

 見ているこっちが恥ずかしくなってくるから。


「ま、いいや。で、来るの? 来ないの?」

「えっ……?」

「えっ、じゃなくて、パーティ参加するでしょ?」

「…………」


 参加、したい気持ちはある。

 以前の俺ならそんなことは考えなかっただろう。

 会って話したい、このまま気まずい学校生活を送っていくのは嫌すぎる。

 けど、それでも、最後の最後でブレーキが掛かってしまう。

 俺が何も答えず口を噤んでいると、高槻さんは棚にあったボディ石鹸のセットを手に取った。


「まだ時間あるしゆっくり考えれば良いんじゃない? 別に、途中参加もOKだし」


 それだけ言うとレジに向かい、会計を済ませ、俺のことを気にせずさっさと店を出て行ってしまう。

 俺はなんとかその後を追いかけ、高槻さんに声を掛ける。


「ありがと、高槻さん」

「ん、別に」


 言ってそっぽ向く高槻さんに俺は改めて心の中でお礼を伝えた。

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