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閑話#2&#3

 カイルとケインの誕生日のお祝いをまとめてするという名目で騎士団の有志達が庭を拡張して訓練施設みたいなのを造っていった。うちの敷地は広いからまだまだ使っていない空地はある。豊富な湧き水で水道を作って来客用に馬水槽を作ってあったのだが、このままだと厩舎まで拡張されて騎士団の遠征後に居つく人が出そうだ。

 来客たちの目的はカイルの様子を探ることだったはずなのに、だれもかれも子どもたちと一緒になって夢中で遊びだす。大の大人が本気を出すのだ。

「奥さん、お構いなく。子どもたちと遊ぶのですから無礼講で」

 夫の上司はそう言ってくださったけど、とっっっても偉い人なのだ。上級貴族でここの辺境伯の甥御さん。顔を上げて話しかけるだけでも不敬に当たる方だというのに…。


 それなのに………、


 そんな方が今、私の目の前で、我が家の居間に這いつくばり、木札に描かれた道をつなげて玩具の荷台を走らせている。まるで近所から遊びに来た子どもかのように、無邪気に。

 テーブルの上で真っすぐや曲がった道が描いてある木札を並べて、そこに荷台を走らせるゲームを夫たちと子どもたちとでしていたようだ。始まったころはテーブルで遊んでいた加減もあって、荷台がテーブルから落ちた時に最後に木札を置いた人が負け、というルールだったみたいだが、勝負の行方がわりと早めにわかってしまうので、テーブルをよけて床で遊び始めたのだ。障害物を置いたり、傾斜を付けたりしはじめると、全員子どもみたいに床に這いつくばっている。


 夫は少ない魔力で大規模に影響を及ぼす魔道具を作ることで名を上げた。10年前の王都を巻きこんだ魔獣暴走の復興の際一日で仮設住宅100棟を一人で作った(一人でできるわけない。少量の魔力で素人でも簡単に仮設住宅を建てられるように設計しただけで、人夫はたくさんいた)功績で辺境伯に気に入られ、破格の待遇で専属魔法技師になった。同僚たちが貴族ばかりでやりにくいだろうと、魔獣暴走復興の立役者として王家から爵位を賜り、一代限りで領地もないが準男爵エントーレという家名を戴いた。本来だったら貴族街の方に居住すべきところを一代貴族だからと断ったら一般市民の居住区の外れに広大な敷地を賜った。報奨金で立派なお屋敷でも建てるところだが、もともとあった二軒長屋を改装して住むことにした。二世帯住宅として住みやすいかと思ったのだが、夫も私も姑も工房を持ちたがったので片方の家は風呂場と工房になった。庭に井戸を掘ったらこんこんと水が湧き出してとまらず、使う予定のなかった馬水槽まで整備して水を引いたら、騎士団の人たちが休憩していくようになった。辺境伯のお城より居心地もよく、くつろげるのか、自分たちでどんどん整備してくれる。

 かつて私は王都のパン屋さんのお嫁さんになるのが夢だった。王国の端っこの鉱山が主力産業の強力な魔獣が沢山生息する辺境伯領でおそらくこれから産業をひっくり返すような騒ぎをおこすだろう魔術具の開発の瞬間に立ち会っているなんて、少女の私が知ればどんな顔をするだろう。

 今、子どもとの遊びではあるかもしれないが、おそらく夫と上司の頭の中には鉱山の坑道が描かれているに違いない。魔力を含む鉱物を沢山取り過ぎると魔獣暴走が起こる。開発にお金をかけて一か所から沢山採掘することはできない。広い範囲から少しずつ100年単位で採掘量を調整するのだ。

 もし僅かな魔力で自走する荷台があったならどれだけ人件費が削減できることか。

「坂道のところだけ動力を上げられたらもっと傾斜がきつくても登れるかも」

「速度が上がるとここは曲がれないぞ」

「安全装置がないと作業員がひかれちゃう」

 カイルの頭の中も鉱山になっている。

「こっちの道には人形が三つ、こっちの道には人形が一つ。ケインは曲がる道の木札を二種類持ってるけど、どっちにつなぐ?」

 木彫りの人形三つは同じ髪の色、もう片方の一つだけ違う色。一人だけ家族じゃないように見えてしまう。

「行き止まりの木札を作りなさい。危ないことは起きないようにするのよ!」

「果実水を持ってきたから皆さん休憩ですよ」

 姑がうまく話をそらしてくれた。

 カイルは気遣いのできるいい子だから、疎外感があっても見せないようにしているだけで本当はとても淋しいのだろう。

 いろいろ考えすぎたせいか胸やけがする。今朝も朝食の支度の時に吐き気がした。心当たりはある。

 来年の春には家族が増えることになりそうだわ。


 *

 #3 

 *


 このところ嫁の体調が思わしくない。まあ、懐妊の兆しといったところなのだがはっきりするまで言いにくいことだ。気の利くカイルが食事の支度も手伝ってくれる。

 今日は朝から何やら張り切って鳥の骨を丁寧に洗ってスープにしている。薬に使う薬草もいくつか臭みを消すとか言って入れていた。


 ああ、昔を思い出す。

 死んだ爺さんは王都のパン屋だった。毎日食べるパンで人を幸せに、健康にしたいと言って、薬師一家だった家に生薬について学びに来ていた。美味しくなければ作る意味がないって、よく私と二人で試作していた。


 カイルは、灰を水につけて上澄みをすくいだした。石鹸でも作るのかと思ったら、小麦粉に混ぜるっていうんだ。食べられるものになるのか心配になる。

 そういえば、あの時も口が曲がるほどまずいものを作って、よく怒られていたっけ。

 なに、私が捏ねるのかい?元パン屋のお嫁さんだよ。任せときな。

 あらまあ、小麦粉の色が変わったじゃない。カイルはうまくいったって喜んでいる。何を作っているのか全く見当もつかないけど、本当に変わってる子だね。

 平たく伸ばして細く切るのね。みんなが食卓に座ってからこれを茹でて器に盛り付ける。スープの鍋に直接入れてはいけない。指示が細かいんだね。伸びたら美味しくないから。なるほどね。

 豚肉を紐で縛って煮たものも作ったが、カイルは”しょうゆ”とやらが欲しいと呟いていた。

 あの時、錬金術の勉強をあきらめていなければ私が作ってやれるかもしれなかったのに。魔力不足を言い訳に最低限の勉強しかしなかった。そもそも、”しょうゆ”がなにかもわからないけど。

 出来上がった料理は塩ラーメンという名前だった。これだけ長く生きてきて”らーめん”などという料理名は何処の地方料理でも聞いたことがない。やや白濁したようでも透明度のある熱々のスープ、湯気に混じる鳥の脂と熱したごま油の香りが食欲をそそる。まず、そのスープから飲む。


 これは……!


 幸せを感じる味。鳥を煮れば旨味が出るとは私も理解していたが、この旨味は脂のおかげだろうか、純粋な甘みのようにも感じる。単純な塩味というのがスープを飲む、手、口を止めさせてくれない。そして、臭み消しの薬草がその旨味をさらに際立たせていて良い。それだけじゃない。塩と最低限の薬草で煮たこの豚との相性が抜群…、そう、この煮豚もほろほろと口でスープの旨味とこの肉自体の持つ脂やらの旨味をにじませながらほどけて旨い。

 ただ問題は…この”麺”。灰汁が混ざっていると知っていると気が引ける気もする。それに加えてフォークで”麺”をすくうのはなかなか難しい。おそるおそるゆっくりとすすってみる。

 

 なんてこと……! 

 

 その”麺”を口に入れた瞬間にまず感じるスープの旨味、そして噛んだ瞬間に歯を跳ね返してくるような弾力と小麦の甘味がわかる。今まで食べた小麦料理の中で一番美味しいのではと思ってしまった、というより確信してしまった。ああ、爺さんや…これじゃあ、パン屋の嫁失格だ。元だけどね。

 気付けばスープ皿は空になっていた。それでも夢中で食べていたのだろう。見れば、みんなもスープ一滴残さず食べきっていた。満足の一杯だってカイルは言っていた。手間がかかるけどまた作ろう。その時には、”しょうゆ”も作ってみようかしら、私も学びなおしね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全体的に読みにくい。誰の主観なのかとてもわかりにくい。
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