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聖鳥チッチと特殊な上級魔導士の少年

*マリアを書き忘れていたので加筆しました。

 ワイルド上級精霊が見せてくれた映像は、ワイルド上級精霊はシロくらいの大きさの中級精霊だったようで小鳥のオナガに時折、馬鹿にされていた。

 オナガは、口は出しても何もできないお調子者で、文字通り東奔西走する建国王に付き従っていたが、本当に何もしていなかった。

 いや、おとぼけもので、場を和ませる可愛いペットだったのに、建国王が異世界の記憶を思い出した時から付き従っていた忠臣だっただけで、神々からの褒賞を断った建国王の代わりに神々からの褒賞を賜り不死鳥になっていた。

 どうやら、話を盛っていたのは建国王の子孫だけではなかったらしい。

「……見事に何もしていないな」

 呆れたようなエドモンドの口調に、可愛いは正義です、とぼくと父さんは、とりあえず不死鳥の面目を保った。

 “……あたしはすべてを理解したわ!カイルが世界を救ったご褒美のおこぼれとしてあたしは不死鳥になったのよ!カイルこっちに飛び降りて!あたしが確実に受け止める!あたしがみんなを世界中に連れて行ってあげるわ!”

 不死鳥になったチッチはぼくたちを乗せた不死鳥の真下に回り込んだ。

 不死鳥に変身したチッチの魔力は温かい聖なる魔力に変化していたが、朝一番を知らせるいつものチッチの魔力を内包していた。

 顔を見合わせた父さんが頷くと即座に飛び降り、母さんを抱きしめた。

 ぼくと兄貴とケインとウィルは父さんに続いて飛び降りた。

 落ちる感覚が不思議だった。

 下にいるチッチの背中に落ちているのにスライムと合体して空を飛んでいる時のような浮いている感覚がしたのだ。

 チッチのフワフワの背中に着地すると、三つ子たちがぼくたちに一斉に話し出した。

 三人の話をまとめると、チッチが眩しく光ったので目を瞑ったら体が浮き、光が和らいだので目を開けると不死鳥の背中にいたらしい。

「チッチは神様からご褒美がたくさんもらえる日に、偶々、いい感じに、いいところで登場しちゃったから、不死鳥に変身してしまったんだよ」

 ざっくりとした兄貴の説明にぼくたちは笑った。

 “……その通りよ。でも、あたし、みんなのお役に立っていたわ!神々にエントーレ家の健康を管理する聖鳥として認められたから不死鳥になれたのよ。だから、まずは、厩舎や鶏舎の仲間たちの健康を願い、あたしの光をたっぷりと降り注いでいつまでも健康でいてもらわなくちゃ”

 チッチは厩舎と鶏舎の上で大きく羽ばたいて仲間たちに聖なる光を降り注いだ。

 精霊たちが戯れる厩舎や鶏舎から顔だけ出した老馬や雌鶏たちが、嬉しそうにチッチを見上げて頷いた。

 “……あのね。不死鳥の光は細胞を活性化させ老化を遅らせる働きがあるけれど、悪い細胞も活性化することがあるのよ。でもね、幸せを実感して笑っていられる状態のときは、悪い細胞を抑え込むことができるの。つまり、現状を嘆き、鬱々している状態の人には悪い効果が発揮されてしまうけれど、うちのみんなは幸せだと笑っているから、精霊が溢れるお祭りみたいな日じゃなくてもあたしの光は害をなさないわ”

 チッチの言葉に兄貴とシロが頷いた。

 “……誰だって、いやなことがあったり、気分が落ち込んだりすることがあるから、いつでも大丈夫、というわけじゃないけれど、時と場所を慎重に選び光量を加減したら、あたしは不死鳥として暮らしても家族に害をなさないわ”

 不死鳥の姿のまま、うちで暮らす気なのか!とぼくたちが驚くと、ウフフフフ、とチッチは笑った。

 “……鶏舎がいつも光り輝いていると家族が暮らしにくい、と神々に相談したら、普段は雌鶏のままでいてもよい、とお許しを得たのよ。つまり、あたしは雌鶏だから、そこのお爺ちゃんの不死鳥とは番にならなくてもいいそうよ”

 まあ、そうだな。

 不死鳥同士といえども、基本的に種が違う。

 それに、出会ったばかりの相手を、さあ、お婿さんですよ、と言われたって、チッチが受け入れられないだろう。

 “……美しい不死鳥のお嬢さん。私はあなたに一目惚れしました。私が雄鶏に変身したら、私と結婚を前提としてお付き合いしていただけませんか?”

 気がせいたのか不死鳥は、背中にまだ人がいるのにもかかわらず黄金色の尻尾の長い雄鶏に変身してしまった!

 落下するキャロお嬢様たちを背中で受け止めたチッチは、いやです!と即答した。

「背中に人間を招待しておきながら安全確保をする前に変身するような軽率なオナガドリにうちの可愛い娘はやれん!」

 “……そうだそうだ!鳥類の面汚し!”

 “……求婚の前に求愛行動もしないなんて、アホだろ!”

 父さんの言葉に頷いた怪鳥チーンの夫婦もオナガドリに激怒した。

「何百年と孤独に暮らした不死鳥がチッチを生涯の伴侶として逃すまい、と焦る気持ちは理解できるが、儂らを落とすことはないだろう」

 エドモンドがぼやくと、すみませんでした、とオナガドリから不死鳥に姿を戻した不死鳥が落とした人たちに謝罪した。

 “……申し訳ない。落ちることはないと約束しながら、つい、美しいお嬢さんに夢中になってしまいました。今後は責任もって世界中を案内いたします”

 “……サッサと行きましょう。夜明け前に世界一周旅行を終わらせるわよ。みなさんついてこられるかしら”

 平謝りをする不死鳥にチッチは取り合わず、怪鳥チーンや竜族たちに声をかけた。

 “……ああ、行こう。次はムスタッチャ諸国諸島でアーロンたちを拾おう!”

 チッチに連れなくされても不死鳥はめげずに案内役として先陣を切るかのように急上昇した。

 仕方ないわね、と言いながら先を急ぐチッチは不死鳥の後に続いた。


 飛ぶ魔獣の聖なる百鬼夜行のような一行は辺境伯領都を離れ、飛竜の里ので黄金の光を大盤振る舞いし、ガンガイル王国王都でハロハロとハロハロの息子とイザークを拾い、ラウンドール公爵領都に立ち寄ってエリザベスを拾い、メイ伯母さんのいる港町でも、お魚がたくさん獲れますように、とチッチは羽を広げて光を送り海の生物を活性化させた。

 ぼくの願望を叶えつつ、一行はムスタッチャ諸国諸島を目指した。

 “……ある程度次世代を担う子どもたちを乗せておけば、後々面倒なことにならないでしょうからね”

 チッチは辺境伯領城でお茶会に参加したメンバーや各教会に派遣されたガンガイル王国寮生たちの全員を乗せるつもりらしい。


 ムスタッチャ諸国諸島は小さい島々がびっしりと密集する複雑な地形だったが、不死鳥の案内がなくてもお目当ての場所が燦然と輝いており一目瞭然だった。

 “……アーロン、大きいオスカー殿下、イーサン、レナード!ガンガイル王国の関係者たち全員出ていらっしゃい!不死鳥に乗る機会なんて滅多にないから大盤振る舞いしちゃうわ”

 光る教会がある島の上空でチッチが呼びかけると、教会の裏庭にいた人々が飛び上がって喜んだ。

 “……あなたはガンガイル王国関係者たちを乗せて、あたしはアーロンと大きいオスカー殿下とイーサンとレナードを乗せるわ。あたしのように上手に乗せるのよ”

 高度を下げたチッチは尻尾の羽を長くのばし四人を呼び寄せた。

 四人が尻尾に乗ると、チッチは尻尾の羽を傾けて滑り台のように四人を背中まで滑らせると、噴水から溢れ出る精霊たちの間を抜け上昇した。

「これはまた、番の不死鳥を目にできるだけでもありがたいのに、こんなに丁寧に背中に乗せてもらえるなんて感無量です!」

 興奮するにイーサンに、番じゃない、とぼくたちは即答した。

 事の経緯を説明するエドモンドは、何度も説明しているせいですっかり語り慣れていた。

 不死鳥もチッチを真似して寮生たちを上手に背中に乗せると、南方諸国目指して聖なる百鬼夜行の一行は飛翔した。


 “……ウミヲユタカニシテクレテアリガトウ!”

 南方海域に差し掛かるとクラーケンが大きな触手を上げてぼくたちに手を振った。

 あれがクラーケンか!とクラーケンの大きさにみんなは驚いていたが、ぼくとウィルとボリスはクラーケンのそばに小さな烏賊がたくさんいたことに気付き、産卵を控えたクラーケンが魔力を求めていた事に気付いた。

 食物連鎖の関係上、ぼくたちが子どもたちを美味しく食べてしまっても恨まないでほしい、と思いつつもクラーケンに向かって手を振った。


 南方諸国はクラーケンの棲み処の南洋を挟んだ中央大陸に一部続く大陸で、海峡付近の地域が南方戦線の激戦地だった。

 町ごと爆破された跡もまだ残っていたが、大部分に緑の植物が生えていることが確認できた。

「帝国全土が安定するまで大岩の発着場所は伏せておく方針なのですか?」

 シモンたち諜報部隊の報告を受けているエドモンドは知っていることを隠し、しれっとノア先生に尋ねた。

「ええ、帝国内の新たな火種になりかねませんから、教皇猊下の庇護下の研究ということで、皇帝陛下にも秘密にしています。やっと戦争が終結したのに内戦が勃発したら堪りません」

「長らく土地の魔力が不足していることが恒常化していた帝国では、回復してきた今の状況を好機とみなし、不穏当な動きをする者がいるので、今しばらくお待ちください」

 ノア先生の説明に、申し訳なさそうにイーサンが補足説明をした。

「大聖堂島周囲に浮く小岩を繋ぐエスカレーターを設計して設置するまでの期間をスライムたちで担当したら、大聖堂島に物資を運搬することが即日可能になるはずです」

 父さんの言葉に、エドモンドは頷いた。

「ジュエルは当面のところ大聖堂島の事を最優先させてくれ」

 はい、と父さんが答えると、協力いたします、ジェイ叔父さんも頷いた。

「南方諸国の教会は小さいオスカーに任せてしまったが、教会内の敷地限定とはいえ、帝国皇子が南方諸国に立ち入ったことに、どういった反応があったかが心配です」

 イーサンが腹違いの弟を気遣うと、兄貴とシロは穏やかに微笑んでいた。

 “……心配ないわ。イーサン。緑の一族の族長が参列していたから、次世代に禍根を残すな、と一喝してくれたわ”

 不死鳥に変身した時にすべてを理解した聖鳥チッチの言葉にイーサンが安堵すると、地上を見下ろしていた子どもたちが光る教会を視力強化で目視しすると歓声を上げた。

 “ハルトおじさん!カカシ!マテル!小さいオスカー殿下!マリア姫!ガンガイル王国の関係者たち!みんな出ていらっしゃい!”

 聖鳥チッチの呼びかけに地上の人々からの上がった大きな歓声は、聴力強化をしなくてもはっきりと聞こえた。

 南方諸国の教会は直接戦地になることはなかったが、荒れた土地に魔力を引っ張られて厳しい状態だったところに、全ての生き物を蘇らせる不死鳥たちと聖獣たちが大勢やってきたから、その喜びはひとしおだったに違いない。

 急降下した聖鳥チッチがハルトおじさんとマナさんとマテルと小さいオスカー殿下とマリアを素早く背中に乗せると、不死鳥がガンガイル王国寮の関係者たちを背中に乗せた。

「そうか、チッチは聖鳥になったんだね」

 食肉になる寸前のチッチがうちに来た経緯を知るハルトおじさんは、上昇したチッチの背中を優しく撫でながらしみじみと言った。

 雌鶏が不死鳥になるのか、と小さいオスカー殿下が呟くと、あっちはオナガだったらしいぞ、とエドモンドがボソッと言った。

「魔獣の生態は神々のご加護次第でいかようにも変化するのではないか、と辺境伯領の騎士団の研究所では考えている……」

 みぃちゃんとみゃぁちゃんの母猫の亡骸の研究結果の一部をエドモンドが得意気に披露すると、ガンガイル領は凄いですね、とイーサンと小さいオスカー殿下が尊敬の眼差しをエドモンドに向けた。

「教会関係者たちは小さいオスカー殿下が、洗礼式の踊りで南方地域に魔力を提供したことで、帝国皇帝が国土の魔力回復に全力をかけていることを理解してくれました」

 マナさんは、南方諸国出身の教会関係者たちの意識が変わったのは、小さいオスカー殿下が配役に拘らず寮生たちと協力して真剣に踊りながら魔力奉納をして教会の大広間の魔法陣を光らせたことで、小さいオスカー殿下へのわだかまりが消えた、と説明した。

 参列者たちの心が一つになると、教会全体に光が広がって儀式が成功したらしい。

「洗礼式の踊りの予行演習が終わるとスライムたちが噴水広場で踊りだすから、小さいオスカー殿下が飛ぶタイルを取り出したらこうなってしまうなんて、私もまったく想像していなかったです」

 説明を終えて、ふぅ、と一息ついたマナさんに、ぼくたちは笑いながら頷いた。

 マナさんはぼくの目を見ると真顔になった。

「カイル。東方連合国の教会にディミトリーが参列していた」

 マナさんの言葉に、ぼくの両親殺害の実行犯の名前が出たことで、ぼくの家族の頬が硬直した。

「このまま、ディミトリーはわだかまりなく祖国に帰れたらいいですね。少年時代に誘拐されて邪神の欠片によって意識と切り離した状態にあったディミトリーの犯罪行為を、被害者の家族だからと言って責めることはできません。キール王子のように家族の元に戻ることを、ぼくは希望します」

 ぼくの言葉にエドモンドは頷いた。

「ガンガイル領騎士団では山小屋襲撃事件の主犯は帝国皇帝として水面下で解決金の交渉をしています。お金を積まれても亡くなった人たちは帰ってきませんが、それでも加害者が遺族の生活を保障すべきです」

 ぼくは金銭的に困っていなかったが、あの時殺害された被害者たちの家族に遺族年金を支給しているエドモンドは、お金で解決することを選択したようだ。

「カイルが実行犯ディミトリーに責任を追及しないと宣言した時から、騎士団は実行犯は心神喪失状態にあり無罪として処理しています。東方連合国にもそのように報告しているので、帰国することに問題はありません」

 加害者だけど被害者で、少年時代を丸ッと失ってしまったディミトリーは祖国に帰って今後の事を前向きに考えたほうがいい。

 実行犯が被害者だった状況に涙を溢したチッチは、精霊言語で叫んだ。

 “……邪神の欠片の被害者たち!みんな前向きになーれ!失ってしまった家族や、失った若さに悲観的になるな!これから世界中に魔力が溢れる素敵な未来が待っているのよ!みんなが暗い気持ちになると不死鳥の効果がなくなるのよー!”

 兄貴とシロとマナさんが顔を見合わせて、そうなったか、と呟いた。

 キラキラと煌めくチッチの涙に精霊たちが集まると、少しずつ涙を採取して消えてしまった。

「邪神の欠片によって荒らされた土地に不死鳥の涙が拡散された。各地の新たな息吹の成長を助けるだろう」

 マナさんの言葉にシロと兄貴が頷いた。

 世界中にご神木のような植物がたくさん育てば、世界中の魔力が整うのが早まるかな?

 チッチの首元まで移動したぼくは、魔法の杖を取り出して宙に漂うチッチの涙を杖の先につけた。

「世界を創造した創造神に仕えし、七大神に誕生したばかりの不死鳥の涙を献上いたします。邪神の欠片による悲しい出来事が起こらないように……」

「カイルは特種な上級魔導師だから祝詞になっている!」

 ぼくの言葉に被せるように兄貴が叫んだ。

「カイル君の魔法は、地中に埋まる邪神の欠片の浮上を抑え、世界中に魔力が満ちるのを加速させる!」

 ぼくの意図を悟ったイザークの言葉にぼくは頷いた。

「煌めく不死鳥の涙の欠片は聖なる力となり、聖なる植物の成長を加速させ、この世界に安寧をもたらす一助となる!」

 チッチの涙が粒子のように細かくなり、キラキラと輝きながらチッチの周りに拡散すると、スッと消え去った。

 “……やったな!カイル!今回与えられた神々のご加護をこの世界の安寧をもたらすことに使い果たした。もう、迂闊なことを考えても急に実現したりはしない”

 ワイルド上級精霊の言葉にぼくは腰砕けになるほど安堵した。

 チッチが不死鳥になったとことで使い果たしたと思っていた神々のご褒美がまだ残っていて、ぼくが迂闊なことを考えたらそれが実現してしまう可能性があったのか!

 “……まだまだ幼い中級精霊の私が上級精霊に昇級してしまったらどうしようと、緊張していましたが、何とかなって良かったです”

 安堵したシロがぼくの横でぐったりと身を伏せた。

 そうか、建国王の功績でオナガが不死鳥になった時、精霊神になった上級精霊を慕って働いていた中級精霊が上級精霊に昇級してワイルド上級精霊が誕生したのだった。

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