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ゲームチェンジャーは……?!

「礼拝所内の男の良くも悪くも感情が高ぶると黒い霧が出現するのかな?」

 兄貴からあらましを聞いた父さんは黒い霧が発生する条件を考えた。

「うーん。過去五回のうち、四回は激高して発生したでしょう?五回目はレアチーズケーキが美味しすぎて男が興奮したのは確かだけれど、黒い霧が発生したのはカイルが漏らした一言に反応したんじゃないかな?魔本で確認してもいいかな?」

 兄貴が魔本に声をかけると、収納ポーチから飛び出してきた魔本は、元研究員の男の日記のページを開いた。

「ほら、ここだよ。旧領主一族を新領主一族は魔力量だけあるけれど金勘定のできないアホとして扱っている、と書いてある。男は領主一族の男性にカイルのような丁寧な声掛けなどされたことがなかったんじゃないかな?」

「領主一族の男性に扮したカイルが丁寧に扱うと、男は小馬鹿にされたような被害妄想に陥ったのか!」

 父さんが頭を抱えると、引き籠り経験が長かったジェイ叔父さんは、自分の殻に閉じこもっていると全てが悪口に聞こえてしまうのだよ、と自嘲気味に呟いた。

「そうねぇ、それもそうかもしれないけれど、邪神の欠片は理由なんて何でもいいから男を激高させているのではないかしら?」

 母さんの疑問にぼくたちは頷いた。

 ココアにマシュマロがなくても十分美味しいし、揚げパンのカレーパンが脂っこいから激怒するなんてあまりにも理不尽すぎる。

「なんだか、話を聞く分だと、カイルのスライムは十分気を付けていたのに瞬殺されたなんて、邪神の欠片も時が戻ったことでカイルのスライムの行動パターンを学習してしまったのかもしれないねぇ」

 お婆の指摘にぼくたちは頷いた。

「四回目で本体をがっちりと拘束したことでカイルのスライムの魔力を吸収し、五回目で黒い霧を実体化した蔦のような形状に変形したのではないかと思われるな」

 ワイルド上級精霊の言葉にぼくたちは頭を抱えた。

 なんてこった!

 五回目で蔦のお化けみたいなのを出してきたのに、ぼくのスライムはさらにガッツリ拘束され、外側を拭い捨てるように分裂したから、次に挑むときはもっと狂暴になっている可能性があるのか!

「邪神の欠片は何としてもカイルのスライムを取り込もうとしている。次に時を戻した時は差し入れの内容にかかわらず、即日、男は激高するだろう」

 ワイルド上級精霊の推測にぼくたちは頷いた。

「浄化の魔法で黒い霧を消滅できなくても、黒い霧や蔦に何らかの効果を発揮すればいいのだけどねぇ」

 お婆の意見にキュアが、はい、と挙手をした。

「わたしが透過性の高い鎧兜を身にまとって現場に行くのはどうかな?」

「ずるい!ぼくも帝都魔術具暴発事件の時の魔術具を持って行きたい!」

「カイルのスライムの足手まといになるから、それは止めた方がいいんじゃないかしら?」

 キュアとウィルの提案は母さんによって即座に却下された。

「そう言われても、私は現地に行きたいですね」

 声の魔法でぼくとぼくのスライムにブーストをかけられるイザークに来てほしいのはやまやまだったが、人が増えたら防御の問題が増えることには変わりない。

「私の跳ね返しの魔法は使用できる時間が短いけれど、黒い蔦の一撃を避けられれば、後は上級精霊様の亜空間に避難させてもらえないでしょうか?」

「それは可能だ」

 母さんの提案にワイルド上級精霊が即答した。

 それならみんなで行けるじゃないか、とウィルの表情が明るく輝いた。

「廊下が狭いから戦闘の邪魔になるな。立ち位置に注意しなければいけない」

 父さんの言葉に、無理か、とウィルの表情が曇った時、ワイルド上級精霊も眉を顰めた。

「月白が干渉してきた!一旦この亜空間を閉鎖するが、カイルのスライムは預か……」

 ワイルド上級精霊は話の途中で姿を消したが、次の瞬間、月白さんを後ろから羽交い絞めにして腕を喉に食い込ませるプロレス技のスリーパーホールドを決めた状態で亜空間に戻ってきた。

「カイルのスライムが精神汚染に晒されている状態で時を戻したら、たとえ本体が亜空間に閉じ込められていたとしても、世界中に散らばっているカイルのスライムの分身に影響がないとは言い切れないだろう!」

 精霊が本当に呼吸をするのかどうかはわからないが、月白さんは首を絞めるワイルド上級精霊の腕を叩いて、降参の合図をした。

 ワイルド上級精霊が腕を緩めると、参ったな、と言いたげな月白さんは両膝を白い床につけ首をかしげてワイルド上級精霊を見上げた。

「失敗したら、また時を戻せばいいだけなのに、そこまで怒らなくてもいいじゃないか!」

 叱られた犬のような表情でワイルド上級精霊を見上げる月白さんに、シロが状況を説明した。

「時戻しをするたびに邪神の欠片が学習をしているようなのです。安易に時を戻せば敵を強敵にするだけです!」

「それにね、カイルのスライムはだいぶ心が折れているから、そう何度も時を戻したら、あまりに可哀想すぎるよ!」

 みぃちゃんが月白さんに食って掛かると、そうか、と月白さんは項垂れた。

「私もあの生意気なカイルのスライムのことが結構好きなんだ。この状況を見かねて何とかしようと時を戻そうとしたのだけど……」

「相談なしに勝手に行動するな!」

 ワイルド上級精霊が月白さんの言葉に被せると、亜空間に入れてくれなかったじゃないか、と月白さんが恨めしそうな表情でワイルド上級精霊を見上げた。

「それで、時を戻して何をしたかったんだ?」

 ワイルド上級精霊の質問に、たいして痛くないだろう首を擦りながら月白さんが答えた。

「カイルやカイルのスライムばかり酷い目に遭っているけれど、本当に対処しなければいけないのは教皇を筆頭とした教会だし、ここまで地上に邪神の欠片を浮かび上がらせた、いや、邪神の欠片を誰でも扱えるように前世で研究した皇帝が何とかすべきじゃないか!」

 月白さんの言葉にぼくたちは、それはそうだ、と頷いた。

「そうは言っても、光影の魔法を使えるのがカイルとカイルのスライムしかいないのに、どうするつもりなのだ?」

 ワイルド上級精霊の突っ込みにぼくたちは頷くと、月白さんは真っ白い地面に胡坐をかいて話し込む姿勢になった。

 月白さんの分の椅子をワイルド上級精霊が用意していないからこうなっているので、それに気付いた母さんが席を立とうとすると、ワイルド上級精霊が母さんに掌を向けて制した。

「いつものことだから気にしていないよ。でも、気遣ってくれるのは嬉しいね」

 月白さんが軽口をたたくと、早く続きを言え、と促すようにワイルド上級精霊が月白さんを睨み、月白さんはフフっと笑った。

「教皇を含め教会関係者たちや皇帝に邪神の欠片を消滅させることはできないが、邪神の欠片の活動を弱めることはできるはずだ」

 月白さんは浄化の魔法で邪神の欠片を抑え込もうとしたお婆と同じような発想で、護りの結界に十分な魔力が供給され、神々への祈りがきちんと天界に届けば邪神の活動を抑え込めるのではないか、と説明した。

「現状、すでに定時礼拝の改変や市民たちの祠巡りで護りの結界に魔力はすでに集まっているだろう?それでも、かつてのように魔力豊かな状態になるまで、人間たちが何世代かにわたる時間が必要だが、待っていられない」

 月白さんの言葉にぼくたちは頷いた。

「そこでだ、ガンガイル王国ガンガイル領で洗礼式の時期を早めて教会関係者に公開する流れになっているだろう?それをもう少し早めて、洗礼式の神々の祝福によって元研究員の男から魔力を引き出して暴れまわる邪神の欠片の力を弱めようと、考えたわけだよ」

「発想は悪くないが、問題点だらけだ」

 得意気に自説を披露した月白さんにワイルド上級精霊が速攻で突っ込んだ。

「一番の問題点は、どこまで時を戻すかですね。帝都では競技会、ガンガイル王国では魔獣カード大会があったので、神々はこれらの勝負をお喜びになっていましたから、時を戻すことで結果に差が出ると、天上界で一揉め起こりそうです」

 シロの懸念にワイルド上級精霊が頷き、そうだったか、と月白さんが額を叩いた。

 おや、もしかして、神々も競技会の勝敗を賭けて……、いや、推しのチームがあったのだろう。

「魔獣カード大会は関係者が誰も参加していないから時を戻す影響はないだろう?競技会だって、ケインが同じ行動をすれば何も問題な……デイジーか!」

 精霊使いを誤魔化せないか、と月白さんがぼやくと、ジェイ叔父さんはそういう話ではないでしょう、と説明した。

「デイジー姫に状況を説明したら協力してくださるので同じ行動をしてくださるでしょうけれど、最後の決まり手は不意打ちだったからデイジー姫は競技台から落下したのです。長生きされている方ですが、落ちるとわかっている場面で踏ん張らずに自然に落下する小芝居が上手くできるかは別問題です」

「あれだけ試合を楽しまれた神々が猿芝居のようになった決勝戦をもう一度ご覧になると興覚めになってしまい、早めに執り行う洗礼式の祝福が減りそうです」

 シロの言葉に、ああ、と月白さんは項垂れた。

「……申し上げにくいのですが、うちの子たちは洗礼式が早まることは楽しみにしているのですが、競技会の試合の生中継を見るのも楽しみにしていました。競技会の開催中に洗礼式を前倒しにすると、あの子たちは少しばかり気もそぞろになってしまうかもしれません」

 母さんの申し出に、ぼくのスライムの分身が実家で上映会をしていたことを思い出した。

 四回目と五回目のやり直しを思い出せないのは、三つ子たちや実家に集まった家族の友人たちにまで影響が出る悲惨な状態になったからなのだろうか?

 ワイルド上級精霊と兄貴とシロは小さく頷いた。

「それはマズいな。歩き始めたばかりでいきなり妖精を捕まえた三つ子たちの洗礼式は神々も楽しみにされているから、ご加護の大盤振る舞いがあるかと期待して前倒しにするのに、神々のご不興を買うようなことはできないな」

 月白さんの言葉に、えええええ!と父さんと母さんとお婆とウィルとイザークが腰を抜かすほど驚いた。

 世界中を旅して精霊使いや妖精に慕われる王妃を見たぼくとケインは、歩き始めの三つ子の赤ちゃんたちが揃いも揃って妖精を捕まえるなんて滅多にない椿事だから神々の注目を浴びているのではないか?とうすうす気づいていた。

「なるほど、一理あるな。というか、その案はいい」

 ワイルド上級精霊の言葉に、三つ子たちの洗礼式で何が起こるのか、と人間と魔獣たちは腰を引いて二人の上級精霊を見た。

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