表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/809

訓練の時間

 魔力奉納で魔力を使い過ぎたぼくは、おとなしくしていることを約束させられてしまった。

 だったら、魔力を使わなければいいのだ。

 王都の魔法学校に進学するまでにやるべきことを考えることにした。


 魔法関係は学校に行くまで予習さえできないが、フリーハンドで正確な図形を描けるようにすることはできる。

 コンパスと三角定規は作ってもらおう。

 自分できちんと正確な線を描くことで、腕に感覚を覚えさせることができるかもしれない。

 体力を騎士の子どものレベルにまであげる。

 これは、明日以降に入場できる学習館の訓練場で頑張ろう。

 精霊言語の思念を受け取るレベルを自在に上げ下げできるようにすること。

 これは雲梯じゃんけんの時に気がついたんだ。

 勝負に出てきている相手は勝ち筋を強く試行錯誤するだろう。

 ぼくが思念を受け取るレベルを下げれば相手の手の内がわかる。

 だが、相手が考えていることのすべてを情報の塊としてぼくが受け取ってしまうと、相手のプライバシーうんぬんの前に、ぼくの心がもたないだろう。

 だから、勝負の最中のみなら、勝負の事ばかり考えているだろうから、余計な情報なしに必要な情報だけを聞き取ることができるかもしれない。

 失敗したら相手の心を読むことになるから、家族や知り合いには試したくない。

 市場の屋台で昼食が取れたら、試してみたいと思っていたのに残念だ。

 幼児は一人で外出できない。

 次に心を読んでも問題なさそうな他人に会えるのはいつだろう。

「兄ちゃん、何してるの?」

 動きを止めて考え事をしていたぼくに、ケインが聞いてきた。

 ぼくが考え事をするときは何か作ろうとしているときが多い。

 出来ないことを悔しがるより出来ることをしよう。

 そうだ!

 スライムで遊ぼう!!

「魔力を使ったらだめだって言われたから、魔獣カードは無理でしょう。だからスライムで遊ぼうよ」

 ご褒美魔力は猫用の魔石金平糖でいいだろう。

「スライムで何をするの?」

 ぼくは、ぼくとケインのスライムにピコピコハンマーとヘルメットに変形してもらい、叩いて被ってじゃんけんポンのルールを説明した。

 スライムたちはヘルメットとピコピコハンマーにわかれて担当するのを嫌がった。

 主人の頭を殴るのも、主人以外の人のヘルメットになるのも嫌がったのだ。

 結局、じゃんけんの勝負次第で変形して対応することになった。

 勝負はかなり白熱した。

 スライムたちは勝負の行方に合わせて素早く変形し、ぼくたちも負けないように必死に素早くスライムを掴むから、時々ピコピコハンマー同士で叩きあったり、二人ともヘルメットを被りあったりした。

 兄貴は観戦しながら笑っている。

 シロには黙って待機していてもらっている。

 シロならケインの出す手がわかるだろうが、まずは自分の実力を知らなければいけないからだ。

 ぼくたちが一勝負ごとに大笑いしていたら、お婆とマナさんが見に来た。

「これは自分の魔力を使わない楽しい遊びだね」

「相変わらず変わった訓練をしておる」

 マナさんの一言で、ぼくは気がついた。

 精霊言語の訓練になっているんだ。

 スライムが変形を間違える時は、ぼくたちの方が先に間違えた行動をしている。

 じゃんけんで負けたのにピコピコハンマーで叩こうと右手を出したり、勝ったのにヘルメット被ろうと両手を出したりしていたのだ。

 スライムたちは勝負の行方ではなくぼくたちの思念を受け取り変形をしていたのだろう。

 試しにぼくは魔力ボディースーツで思念を漏らさないようにしてから勝負してみた。

 ぼくのスライムはケインのスライムより変形スピードが遅くなった。

 “……ご主人様。精霊言語を使わなければ、あたいは素早く変形できないわ”

 “もう少し実験させてくれ”

 ケインのスライムはケインの思念を受け取っている。

 ぼくはケインの駄々洩れの思念を聞かずに、じゃんけんの出す手だけを読み取れればいいのだ。

 熱い勝負になればケインはきっと強めの思念を出す。

 相手の思念を受け取っても、ぼくの思念が駄々洩れにしてはいけない。

 ぼくとマナさん以外にも精霊言語の取得者がいるのかもしれないのだ。

 ぼくは魔力ボディースーツにヘッドセットを標準装備するイメージに変更して、ぼくのスライムには思念を送れるようにした。

 ヘッドセットはうまく機能して、勝負はまた白熱し始めた。

「「たたいてかぶってじゃんけんポン!“ぐー!”」」

 キター。

 ちょっぴり後出しに見えるかもしれないタイミングで、ぱーを出せた。

 スライムも同調して変形するから素早くケインの頭を叩くことができた。

「兄ちゃんずるいよ!今のじゃんけん。出すのおそかったもん」

「ごめんね。ちょっと必ず勝つ方法を試してみちゃった」

「後出しじゃんけんじゃ勝つのは当たり前じゃな」

 じゃんけん対決では相手の思念がわかるときには、後出しになるから使えない技だった。



 ぼくの体調に変化はなかったので、翌日には学習館に行けた。

 近くには火の神の祠がある。帰りに体調不良を起こしていなかったら、魔力奉納をしてもよいことになった。

 学習館ではさっそく図形の練習をしている子どもたちがいた。

 六才児は真剣そのものだ。

 ぼくは近くに居た指導員に出席カードをつくって、どの課題に取り組んでいるか記録を取ることを勧めた。

 オシム君の話によるとある程度文武両道のほうがよさそうだから、カリキュラムが偏り過ぎないようにした方がいい。

 ぼくはケインと少し遊んだ後で、訓練場に行った。

 門に仮市民カードをかざすと、自動で開いた。

 中ではストレッチをするグループや剣術のグループ、投擲の練習場やポニーの乗馬場まであった。

 思っていたより広かった。

 今日は見学だけにしよう。

 新入りなので、各グループの指導員に挨拶して回ろうとしたら、ボリスがやって来た。

「ここで会うと五才になった実感が湧くね」

「そうだね。案内してやるよ」

 ボリスに連れられてご挨拶をして回った。

 マークやビンスは剣術に混ざっていた。

 ご挨拶のたびに少しずつ体験させてもらった。

 一番楽しかったのが乗馬体験で、一番驚いたのが剣術だった。

 父さんとお風呂に入りながらチャンバラごっこがしたいと相談した時に、五才になったら作ってやる、と話していた、当たっても怪我をしない衝撃の少ない剣が物凄い出来だったのだ。

 正しい姿勢で剣を握ると薄く光を放ち、型通りに素振りができると効果音が出るのだ。

 子ども心を刺激する仕様だ。

 この剣は人気があって使用に時間制限があった。

 見学者は出しゃばらずに他の子の練習を見ていた。

 剣の光量には個人差があった。

 魔力の多い子が使うと輝きが増している。

 子どもの体から自然と滲み出ている魔力を使用しているので、使用後は専用の魔術具に入れて魔力を抜いている。

「あの魔術具で抜いた魔力はどうしているのですか?」

 ぼくは指導員の一人に聞いてみた。

「この訓練場の維持に使っているよ」

「それは効率的ですね」

「使用時間を制限しているのは、子どもが夢中になり過ぎて魔力枯渇を起こさないようにするためなんだ。君の番も回ってくるからやってみたらいいよ」

「剣を持ったこともないのですが。できますか?」

「文官の子どもはみんなそんなもんだよ。こっちの剣でまずは型の指導をしよう」

 ぼくは木刀で剣の握り方や構え方など一から教わった。

 丁寧に教えてくれるので何とかそれらしく素振りをすることができるようになった。

「カイルの番がきたよ」

 魔力ボディースーツをライダー系から、宴会芸で使うような量販店の全身タイツにイメージを変更した。

 少し魔力が漏れ出ているのを確認してから剣を握って構えた。

 某宇宙戦争映画で黒い兜っぽいお父さんと対決する騎士の剣のように、刀身が青白く光った。

 他の子どもたちと変わらない光量に制御できたことにホッとした。

 教えられたように一振りしたら、ブオンと大きめの効果音が出た。

 打ち合ったらキィンとか効果音がつくのかな?

 そんなことを考えながら、教えられたとおりに素振りを繰り返した。

 ブオン、ブオン、ブオン……………カキィン!

 無心で振り続けていたら指導員の剣に阻まれた。

「時間だよ。いい振りだった」

「木刀より軽かったので振りやすかったです」

「毎日これで型を直しながら稽古すればいい」

「はい。ありがとうございます」

 ぼくが光る剣を魔術具にしまうと、見える範囲の毛がすべて真っ白なお爺さんに声をかけられた。

「君は何故魔力を抑えて剣を振ったんだい?」

 何故バレたのだろう?

「今日はこの後、火の神様の祠に魔力を奉納する予定なのですが、父が魔力枯渇を心配していたので控えめにしました」

 他の指導員たちがぼくの答えに驚いたように二度見した。

「魔力を抑える理由はわかったが、どうやって五才になったばかりなのに、魔力を抑えることができたんだい」

 白いお爺さんは穏やかな口調で聞いてきた。

「魔力は使わないと体から滲み出ていると聞きました。だからシーツを被るように想像して魔力を抑えてみました」

「「「おおおおお」」」

 他の指導者は感心していたが、お爺さんはそうかそうかと納得していた。

「君はジュエルの子どもだね。あの話は聞いている。ああ、ボリス君も来なさい。明日から私がまとめて面倒をみよう」

 ボリスが感動に身を震わせている。

 よくわからないけどすごい人に指導してもらえるのかな。

「「ありがとうございます!!」」

 ぼくはボリスに倣って元気よく返事をした。

「老師様に直接指導をしていただけるなんて!」

 ボリスは感極まって同じことをブツブツ言い続けている。

 周囲の人たちは凄いことだとしか言わないから、このお爺さんは誰ですか?と聞ける状態ではない。

 あとで父さんかイシマールさんに聞こう。


 訓練場を後にするとケインにどうだった、と聞かれたが、偉い人に剣術を指導してもらえるようになった、としか言えなかった。

 あの魔術具の剣の話をしたら羨ましがるだろうけど、五才までは触れない。

 訓練場の話を小さい子に言わないのはアレのせいだろう。

 まだブツブツ言っているボリスと雲梯じゃんけんで勝負をしたら全勝できた。

 ボリスは自分の勝ち筋をはっきり思念するタイプだったので、心を覗くことなく思念を受け取ることができた。

「カイルはじゃんけん強すぎだよ」

 実験はほどほどにしておこう。


 しばらくして、仕事を抜け出してきた父さんと火の神の祠で魔力奉納をしたら、父さんとぼくは62ポイントも魔力を取られた。

 神様たちは、ぼくたちが弱らない程度に魔力を要求してくるのだろうか?

おまけ ~遊びという名の猛特訓~

 最近ご主人様がシロにばかり意見を聞くの。

 正直面白くないわ。

 でもねそんな時はご主人様があたいのことを、友だちって言ってくれたことを思い出してにんまりするの。

 あたいはご主人様のためにはたらくスライムよ。

 でも友だちとして遊ぶ時もあるのよ。

 

 いやぁー。

 遊びでもご主人様を叩くハンマーになるなんて、絶対いや!

 ケインのスライムがご主人様の頭を守るなんていやに決まっているでしょ!!


 かくして、あたいはご主人様の攻防を円滑にするため、瞬時にご主人様の思念を受け取れるよう、かつてないほどに集中することになったわ。

 ケインのスライムもなかなかやるわね。

 気を抜けばご主人様の足手まといになってしまうからと、頑張っていたのに、ご主人様ったら、思考をガードするバッタみたいな殻を纏ってしまったのよ!

 ご主人様に猛抗議をすると、頭に何かつけてくれたの。

 そうしたらすぐに聞こえるようになったわ。

 シロはバッタの耳は胸にあるのに、とかなんとか言っていたけれど、ご主人様の耳は頭にあるんだから問題ないわ。


 素晴らしいわ!

 ご主人様は新技を開発していたのね!!

 ご主人様は、ご自分の思念を漏らさずに、相手の思念の必要なところだけを探れるようになったわ。

 勝負は後出しじゃんけんでご主人様は負けてしまったけれど、練習次第で相手と同時に出せるようにきっとなるわ。

 猛特訓すればいいのよ。


 ボリス……。

 勝負の勝ち筋を大声で垂れ流している状態では、反射神経の特訓にならないじゃない。

 脳筋って、こういう子のことだったのね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あれ?魔力を数値化する話あったっけ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ