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アリオ拘束

「時を戻すなら子どもたちが回復した直後にするとして、私らは、イザークとマテルを入れ替えて転移してもらうと、水竜のお爺ちゃんも私らについてくるカイルのスライムが光影の短針銃を使用する時に同時作用するようにイザークの声の魔法をかけてもらえば、元々は一匹のスライムへの魔法効果向上なのだから両方に効果があるんじゃないかい?」

 マナさんの提案に、それはそうだ、とぼくたちは納得した。

 光影の短針銃は邪神の欠片を消滅させることが本題で、祝福の魔術具を封入することはおまけにすぎないから、そっちが失敗しても問題ない。

 今回の邪神の欠片は物凄く極小だから、まず失敗することはないだろう。

「子どもたちはこの亜空間での記憶がある状態で時を戻しても、再びすぐに亜空間に招待してしまえば、ちょっとした混乱だけで済むだろう。猫たちで子どもたちの気を紛らわせるよう遊ばせていてくれるかい?」

 ワイルド上級精霊から子守を頼まれたみぃちゃんとみゃぁちゃんは、任せてください!と快諾した。

 二匹はさっそく隣の部屋に行き、入れ替わりでケインとウィルとイザークがこっちの部屋に合流した。

 マナさんたちが呼ばれている状況に、何かあった、と察した三人は事情を聴いて憤慨した。

「私がマテル君と入れ替わることは了解しましたわ。カイル君のスライムの光影の魔法の効果を同時に補強すれば一度にすべての邪神の欠片を消滅させられると思います。終わったら、逃走中のアリオの捜索に参加しますわ」

 イザークは即座に成すべきことを理解したが、マテルは首を傾げた。

「アリオが持参しているすべての邪神の欠片を手放しているのなら、丘陵地帯でアリオの行方を探るのは私には難しいですわ」

 テントの場所に転移しても自分にできることがない、と嘆くマテルにワイルド上級精霊とマナさんは首を横に振った。

「我々にアリオの行動が見えないということは、奴はまだ邪神の欠片にまつわる何かを保持しているだろう」

「あたいたちに任せておいて。とにかくたくさん分裂してスズメバチに変身して、くまなく探してやるわよ」

 ケインのスライムの言葉にスライムたちが頷いた。

「広範囲に目を光らせることは大切だけど、アリオの逃走先の見当がつかないわけじゃない。邪神の欠片の封印が連動して解けるのを避けて迂回するなら行動パターンが絞られる。さらに、転移を企むとしたら……この先に廃教会の跡地があり、緑の一族のキャンプがある。奴は常に自分の魔力を温存しているから、女ばかりのキャンプを突破できると踏むだろうね」

 マナさんの推測にぼくたちは頷いた。

「うむ。時を戻したら我々はすぐ、緑の一族のキャンプに合流しよう。スライムたちは広範囲を捜索し、アリオを発見したら緑の一族のキャンプ地に誘導してくれ」

 “……儂も邪神の欠片を消滅させたら合流したいな”

「私が転移魔法で拾ってあげよう」

 マナさんたちは町の現場が片付いたら水竜のお爺ちゃんと共に緑の一族のキャンプ地に合流することになった。

 今度こそアリオを拘束するぞ、と意気込んで、練習をすると、少しだけ時を戻したテントに転移した。


 うわぁ!なにこれ!きたない!くさい!と回復薬を噴霧したばかりの薄暗いテントの中の空気を嗅いだ子どもたちは自分たちの不衛生な状態に鼻をつまんだ。

 有無を言わさず清掃魔法をかけると、子どもたちはホッとして大きく息を吸った。

「木彫りの犬を貸してくれるかしら?」

 さっきぼくに渡したはずじゃないか、と首を傾げた子どもたちがポケットに手を入れると、木彫りの犬が中にあることに困惑しつつも、素直にぼくに差し出した。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんが、ここからは任せておけ!と頷くと、間髪を入れずにワイルド上級精霊は子どもたちは亜空間に転移させた。

「マナさんたちはもう、邪神の欠片を浄化させて緑の一族のキャンプ地に転移したようです!」

 マテルが町や馬車の方角から邪神の欠片の気配が消滅したことを確認している間に、ぼくは三個の木彫りの犬の邪神の欠片を消滅させた。

「アリオ発見!緑の一族のキャンプ地が視認できる距離まで接近中……」

 スライムたちと共感していたケインの言葉が終わる前に、ぼくたちは緑の一族のキャンプ地に転移していた。


 戦争により焼き尽くされ、瓦礫が散らばる廃墟の町の教会跡地にテントを張るキャンプの代表者がワイルド上級精霊に頭を下げた。

「お話はカカシから伺っています。私たちは足手まといにならないように下がっています」

 キャンプの代表者は平静を装うために井戸端で洗濯をして遣り過ごす、と言ってキャンプにいる緑の一族をかつて中央公園だったと思われる広場に掘られた井戸の周辺に集めた。

「あっちの方角に何かあるような気がするのですが、ハッキリと邪神の欠片だ、と言い切れない、何かもやもやする感覚です」

 マテルの証言はスライムたちが発見したアリオの方角で、曖昧な口ぶりだったがアリオがまだ邪神の欠片にまつわる何かを所持していることは間違いないようだった。

「完璧に邪神の欠片を封印している魔術具があるとしたなら、奴がまだ邪神の欠片を携帯している可能性があるんじゃな」

「カイルとカイルのスライムとイザークはいつでも対応できるように教会跡地で待機、ウィルとケインは作戦通り、ジョシュアは二人を護衛して、不測の事態に備えて魔獣たちは目立たないように瓦礫に隠れろ」

 ワイルド上級精霊の指揮に従い、ぼくたちは教会跡地の魔法陣から転移を目論むアリオを取り囲む配置につくと、瓦礫を片付けるふりをしてアリオを待ち構えた。


 アリオはスライムたちの分身が変身したスズメバチに追われる態で廃墟の町に辿り着いた。

 スライムたちがアリオの映像を脳内に送ってくるので、精霊言語が理解できる面々は瓦礫を片付けながらアリオの行動を注視した。

 対応したマナさんに、街道脇で用便を足していたら蜂に追われて迷子になった、とアリオは言い訳をして町の中に入った。

「なにぶん、女ばかりのキャンプなので、ここで長居されても困ります」

「いや、一休みして水をいただけたらいいのです。廃墟となった町ですが、自分は教会で下働きをした経験があるので教会跡地から水が湧く場所を知っています」

 アリオは中央広場の噴水跡地の井戸で洗濯をする緑の一族の女性たちを横目に見ながら、必要以上に女性たちに近づかない、とへこへこしながら教会跡地へ侵入しようと試みた。

 仕方ないね、と言いたげな表情に片頬を引きつらせたマナさんは、ついておいで、とアリオに声をかけ、作戦通りに行動した。


「この辺りに魔力を流すと水が湧き出てくるはずなのです」

 アリオは教会跡地の礼拝室のあった場所に屈みこんで地面に手を付けると、周辺に山積してあった瓦礫が消え去った。

 魔法陣に魔力が流れないことに焦って立ち上がったアリオをマナさんが一本背負いで投げ飛ばすと、スライムたちが一斉にアリオにとびかかって拘束した。

「やたらと簡単に拘束できましたわね」

 ウィルの言葉にケインが頷いた。

「気を抜かないで、所持品検査!ああ、スライムたちが身ぐるみを剝いでくれていますね」

 アリオにまとわりついたスライムたちが、下着一枚だけを残してアリオを裸にひん剥いた。

 スライム代表としてケインのスライムが球体になってアリオを閉じ込めると、他のスライムたちとマテルがアリオの持ち物を検品し始めた。

 “……儂らの出番がなかったじゃないか”

 水竜のお爺ちゃんとキュアが物陰から姿を現すと、ケインのスライムに包まれたままのアリオは、お前だったのか!と水竜のお爺ちゃんを指さして叫んだ。

 “……だから、今回は儂は何にも活躍しておらんぞ。魔法陣が何にもないところに魔力を流しても何も起こらないし、そもそも魔法を行使するために必要な存在が極端に少なくなっている中で魔力を流しても何も起こらない。そこのところにお前が全く気付かないでいてくれたお陰で儂の出番がなかった”

 水竜のお爺ちゃんの説明に、何のことだ?とアリオは周囲を見回した。

 ケインの幻影魔法で教会跡地の場所をずらした映像をアリオに見せておき、魔法陣がない場所に誘導したが、念のためにウィルがアリオの周囲から精霊素を退避させる魔法を使用すると、イザークが追い打ちをかけるように強化したので魔法が行使できなくなり、マナさんがアリオを背負い投げしたのだ。

 水竜のお爺ちゃん同様にまったく出番がなかったぼくたちとイザークは本物の教会跡地で待ち構えていただけだった。

「持ち場を離れていいでしょうか?」

 ワイルド上級精霊に尋ねると、ケインのスライムに拘束されているアリオを見遣ったワイルド上級精霊が頷いた。

 ぼくたちが現場に合流するとマテルはアリオの収納ポーチを指さした。

「これが、どうにも怪しいのですが、開けても大丈夫でしょうか?」

 マテルの言葉にアリオはケインのスライムの内側を叩いて、このあばずれが!とマテルを罵倒した。

 ぼくとぼくのスライムはアリオの収納ポーチを挟んで向かい合い、両手と触手をかざしたが、何の反応もなかった。

「大騒ぎする割に何も反応がないですわね。開けちゃいましょう」

 収納ポーチにはアリオの魔力で開くカギがかかっていたが、ちょっと避けて、と精霊素に声をかけるとアリオの魔法効果がなくなり、あっさり開いた。

 この馬鹿力め!とアリオが喚いたが、力任せにポーチを引きちぎったわけではない。

 ポーチをさかさまにして中身をぶちまけると、製作途中のカプセルの魔術具と小さな魔石がジャラジャラと音を立てて落ちた。

 ぼくとぼくのスライムが未完成のカプセルと魔石を指先でより分けるとカプセルの一つにほぼ魔法陣が完成したものがあり、使用しようとして不良品だと気付き止めたような気配がした。

「残りのアレをどこにやった?」

 冷ややかな声でワイルド上級精霊がアリオに問い詰めると、ケインのスライムの中で悪態をついていたアリオは背筋を伸ばして大人しくなった。

「魔術具に加工されていないものを持ち運ぶのは危険なので、私は持っていない!」

「出来上がったものと素材を運んでいるということは、お前の他に魔術具を制作する者がいるということか!」

 ワイルド上級精霊がアリオの方に一歩前に進み出ると、ケインのスライムの中でアリオは腰を抜かしたようにへたり込んだ。

「ああああ、あいつらの居場所は知らない!私は完成した魔術具が置かれている場所から回収し、次の材料を置いておくだけだ。どこに行けばいいかは、転移した先に物があるだけだからわからない!」

 アリオは共犯者の存在を暴露したが、教会関係者の主要な指名手配犯はすでに確保されている。

「素材も転移した先から強奪しているのか?」

 ケインのスライムにまた一歩近づいたワイルド上級精霊からできるだけ離れようとするかのようにアリオは球体の反対側の内壁にへばりついた。

 ぼくは地面に散らばった小さな魔石の粒を搔き集めると、脳裏に浮かんだ疑問をアリオにぶつけた。

「この小さな魔石は北国の山小屋で、山積する死体を横目に盗んだものだったりするのかな?」

 ぼくの質問にアリオは困惑したように眉を顰めた。

 辺境伯領山小屋襲撃事件の犯人は皇帝に囚われたディミトリーだった。

 皇帝はくず魔石を欲していなかったのにもかかわらず盗まれた大量の魔石。

 単独犯だったのに現場に残された複数の靴跡。

 邪神の欠片に導かれるように無作為に転移した現場で、素材としてくず魔石を盗んだとしたなら辻褄が合う。

 ああ、奴にとっては数ある現場の一つで、思い出すことさえないのかもしれない。

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