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お土産の小箱

 国王陛下はスライムたちに、ドグール王国内のスライムを大事にする、と約束するとスライムたちは喜び触手で万歳をした。

「スライムは共感性の高い魔獣で、仲間を大事にします。一匹、賢いスライムが現れたらその子が他の子を教育するようになります」

 ぼくの助言に熱心に耳を傾けた国王陛下はスライムたちを見て頷いた。

「孫たちと()()()()()を楽しむために、私もスライムを育てられるように勉強しますよ」

 国王陛下の言葉は邪神の欠片の影響が出る前に処理されたことで、平穏な老後を送れそうだ、と含みを持たせるような言い方だった。

 言葉の端々にぼくへの感謝を混ぜようとする国王陛下にぼくは引きつった笑みになった。

 魔獣たちは、スライムを飼育する魔術具を借りようとするのではなく、普通のスライムを普通に育ててみるところから始めようとする国王陛下に好感を持ったようで、親し気に振る舞うようになった。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんやキュアや水竜のお爺ちゃんが国王陛下に近寄ると国王は大喜びで、撫でてもいいか?と尋ね、護衛たちをドン引きさせた。

 教会の中庭での会談は国王陛下が魔獣たちのモフモフを存分に堪能してお開きになった。


 離宮に戻り朝食を済ませると、ノア先生と助手とジェイ叔父さんは今後の予定についてアルベルト殿下と話し合うことになり、ぼくたちはヘルムート王子の魔獣の飼育方法についてのお勉強に魔獣たちと参加した。

 飼育しやすい魔獣を責任と愛情をもって飼うべきだと諭すと、ヘルムート王子も納得した。

 辺境伯領でのお泊り会で三つ子たちのスライムに憧れたけれど、エリザベス嬢の砂鼠もお利口な鼠だった、鼠もいいね、とヘルムート王子が熱弁すると、ウィルの砂鼠は嬉しそうに頷いた。

 そうこうしていると、スライムたちが、ハルトおじさんのスライムが国境を越えるようだ、と一斉にジャンプをして知らせた。


「大聖堂島に向かう流れに乗る方が加速しやすいのかもしれませんね」

「詳細なデータを見るのが楽しみだ」

 合流したジェイ叔父さんとノア先生が思いのほか早く入国した知らせに大喜びでスキップのような足取りをして着陸予定の離宮の中庭に急いだ。

 離宮の従業員たちも集まって空を見上げていると、昼の流れ星のようにハルトおじさんのスライムが離宮に向かって飛行し、後方から水竜のお爺ちゃんが付き添っているのが見えた。

 ハルトおじさんのスライムは速度を落としながら離宮の上空を一周すると、ゆっくりと中庭に着陸した。

 ぼくたちの拍手に迎えられたハルトおじさんのスライムはタイルの上で誇らしげに胸を張ると、飛行データを記録した魔術具をノア先生に触手で手渡した。

 大袈裟のお辞儀をしてノア先生が受け取ると、まるで何かの授与式のように見えた。

 ガンガイル王国までの飛行を魔法の絨毯で追跡しなかったのは、現在、絶対的な友好関係が確立しているガンガイル王国とドグール王国間での飛行検証に、帝国関係者を排した状態にするためだった。

 飛行魔法学講座の受講生たちの付き添いのない(初回だから王族の監視下の元)スライムの単独飛行で飛行記録を取ることができたら、二国間に限定して、校外実習の届け出なしに今後も検証を続けられるかもしれないという期待の元、実施されたのだ。

 “……往路では途中二回ほど亜空間に招待されたけれど、往路も復路も全力で最速を目指したよ”

 ワイルド上級精霊の亜空間に招待されても集中力を切らさなかった、とハルトおじさんのスライムが精霊言語で説明すると、スライムたちは、自分たちも最速記録を出したい、とざわついた。

「ああ、詳しい解析を見るのが楽しみだ。大聖堂島の発着場からの飛行ではなくても、大聖堂島の方角に向けて飛行する方が高速で飛行ができるようだな!」

 ノア先生が受け取った魔術具を高々と掲げて成功をアピールする、後方で水竜のお爺ちゃんに乗ったハルトおじさんが地上に降り立つと独特の癖のある笑顔でぼくを見た。

 ハルトおじさんはぼくに親指を立ててニヤリと笑うと、ノア先生とスライムの飛行の話をし始めた。

 大聖堂島から遠ざかるガンガイル王国に向かう往路は復路の倍以上の魔力を消費し、速度は復路の方が早かった。

 ガンガイル王国ではスライム単独の飛行検証を今後も受け入れるが、冬場の飛行はスライムたちには過酷ではないか、という話になっていた。

 “……山越えをしても風雪の厳しさを感じなかったけれど、視界が悪くなると方向を見失うんだ。復路は発着場に引き寄せられるから飛行ルートを見失わないけれど、往路の山越えは水竜のお爺ちゃんに方向を指示してもらったよ”

 雨にも風にも雪にも負けずに飛行できるけれど地上が見えなくなると方向を見失ってしまうようだ。

 ドグール王国からガンガイル王国に向けての飛行検証は春になるまで保留することになり、ハルトおじさんのスライムの分身が離宮に残る必要はなくなった。

 カテリーナ妃の妖精は邪神の欠片が消滅したのでスライムの用心棒を必要としていなかったし、妖精も恩返しとして他の邪神の欠片を探す決意をしたのでスライムに頼らず頑張るようだ。

 こうして、ドグール王国での検証を終えたぼくたちは大聖堂島に戻った。


 帰りの飛行はハルトおじさんのスライムが出した速度記録を抜こうと、ぼくとケインのスライムたちが張り切り、負けじとハルトおじさんのスライムが頑張ったので、日の高いうちに大聖堂島に到着した。

 地上からの妨害工作もなく、温暖な気候の地域では、天候さえよければスライムだけで飛行検証することは可能ではないか?という結論になった。


「それで、スライムたちの勝負は誰が勝ったの?」

 噴水広場に到着した時には三体のスライムたちが同時に着陸したので、勝負の行方がわからなかったお婆が尋ねた。

「教会都市の上空まで来ると飛行速度が強制的に着陸に安全な速度まで落ちてしまうから、先に速度を落とした順位で判別することにしたんだよ」

 着陸後のデータを確認してから順位を決める、とハルトおじさんが説明すると、スライムたちはデータを解析しているジェイ叔父さんを取り囲んだ。

「カイル、ケイン、ラインハルト殿下のスライムの順番に教会都市に到着したようですね。カイルとケインのスライムは僅差でした」

 スライムたちは触手を拳のように振り上げたり、地面に触手をついてガックリと項垂れたりして、賭けの勝敗を体で表現した。

 スライムたちがアルベルト殿下からもらった魔石をジャラジャラと交換していると、留守番していたお婆たちのスライムたちは賭けに勝ったのか魔石を手に入れていた。

「そうそう。ガンガイル王国でお土産を預かっているんだった」

 ハルトおじさんは収納ポーチから指輪の箱くらいの大きさの小箱を取り出した。

「収納ポーチから取り出した小箱も、収納の魔術具ですよね」

 収納の魔術具から収納の魔術具が出た、とノア先生が突っ込むとハルトおじさんが笑った。

「ああ、この収納の魔術具もお土産なんだ」

 ハルトおじさんはそういうと、小箱を開いて中から魔獣フィギュアを幾つも取り出した。

「みんなで好きなものを分け合ってくれ。で、こっちの小箱はジュエルからカイルへのお土産だよ」

 ハルトおじさんがぼくの掌にポンと置いた小箱に、ぼくは驚きのあまり息をのんだ。

 小箱は辺境伯領で邪神の欠片を閉じ込めていた魔術具の小型版だったのだ。

 ほんのりと掌が熱くなったということは、この中に邪神の欠片の粒が仕込まれた魔術具が入っているということではないか!

 この中にみんなのお土産を入れていたのか!とハルトおじさんを二度見すると、ケインに同じような小箱をあげていた。

 騙された!あっちの小箱が邪神の欠片を封印する魔術具のレプリカで、お土産はあっちに入れていたのか!

 茶目っ気たっぷりの笑顔でぼくを見るハルトおじさんに、騙されたよ!と抗議の視線を送ると、ハルトおじさんは大聖堂に視線を向けた。

 どうやら小箱を持って教皇に報告に行け、ということのようだ。

 “……ご主人様。昨日、私たちがワイルド上級精霊の亜空間に招待された後、辺境伯領側でも緊急招集があったようですね。邪神の欠片を封印する魔術具をワイルド上級精霊の亜空間で大至急制作したようです”

 シロの報告に女子寮監ワイルドは涼しい表情のまま頷いた。

 “……ジュエルは邪神の欠片を封印する魔術具の複製品をすでに完成させていたので、それを小型化するだけでよかった。中身は水竜が精霊たちから聞き出した情報をもとに妖精を連れて現地に赴き、妖精の反応から邪神の欠片の魔術具の埋没場所を特定して掘削の魔術具に閉じ込めて小箱に封印した”

 なんてことだ!

 ぼくとぼくのスライムが世界中を転移しなくても邪神の欠片の粒が小さいうえ、脆弱ながらも魔術具で封じられている状態だから、掘削の魔術具で回収できてしまうのか!

 “……ご主人様。アリオの魔術具のカプセルがすでに崩壊している場所では、ご主人様が向かう必要がありますが、カプセルに封じられている状態でしたら、死霊系魔獣の訓練をしたことのある騎士団員たちでも邪神の欠片を回収できるかもしれないと、ハルトおじさんは考えています”

 “……ガンガイル王国内にばらまかれた邪神の欠片の回収は、ガンガイル王国の騎士団に任せておいて大丈夫だろう”

 ガンガイル王国が頼りになることに安堵すると女子寮監ワイルドが微笑んだ。

 お土産の魔獣フィギュアを選んでいるキャロお嬢様たちに優しい眼差しを向けてるハルトおじさんに目を向けて小さく頷くと、ハルトおじさんも頷いた。

 ハルトおじさんが頼りになり過ぎてカッコいい。

 ぼくはイシマールさんの飛竜をモデルにしたフィギュアを選ぶと、それだと思った、と言いたげにみんながぼくを見た。

 ぼくが飛竜を選ぶと思ってみんなは遠慮していたらしい。

「ありがとうございます。ハルトおじさん!」

 万感の思いを込めてハルトおじさんに礼を言った。

 ぼくの思いを理解してくれたハルトおじさんが感慨深そうな表情で頷くと、飛竜のフィギュアがそんなに好きなのか、という眼差しを飛行魔法学の面々がぼくに向けた。

 飛竜のフィギュアは、遠く離れた家族が邪神の欠片の浄化を手伝ってくれた思い出の品として、今後、見るたびにぼくの気持ちを温かくしてくれるようになるのだが、今は、男の子は大型魔獣が好きなのね、という女子の視線を恥ずかしく思う気持ちの方が大きかった。

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