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一触即発!?

 ハルトおじさんの企みとはジャミーラ領の大岩の埋没地点をあえて軍関係者に魔力枯渇の土を採取させ、そこからさらに魔力枯渇状態の白砂を採取させよう!という作戦だろうと予想のついたぼくたちは苦笑した。

 魔力のまったくない白砂にどのくらい魔力を注いだら土になるかを是非とも検証してほしいものだ。

 ハルトおじさんの企みは任せておいて大丈夫だろう、という安心感がぼくたちの間に広がった。

 特段、気にかける様子もなく残り少ないボルシチの鍋を抱えて食べていたデイジーが、冒険者たちに情報を流して帝国中の地から白砂を取り出して帝国軍に高値で売りつける事案がこの後、発生することになるのだった。

 そんな顛末が待ち受けているなんて微塵も予見しなかったぼくたちは、明日の飛行検証に向けて、いざという時に誰が競技会用の魔術具を使用するか、という具体的な方法に話題が移った。


 翌朝、大聖堂島から飛行検証をしたのはキャロお嬢様とボリスとミーアのスライムたちだった。

 北の検問所から教会都市上空を通過するとすぐ最初の魔法攻撃が来た。

 だが、これは予想とは違い、教会都市へ向かう巡礼者の護衛の冒険者が街道に出没した野犬の群れに攻撃魔法を連打した数発がスライムたちの方まで飛んできただけだったので、水竜のお爺ちゃんが野犬に跳ね返して群れを追い払った。

「巡礼者を狙った強盗団に犬を使う連中がいるという情報が出回っていたが、縄張はもっと東だったはずだ」

 ハルトおじさんの言葉にデイジーが頷いた。

「作為的なものでしょうね」

 教皇が通達を出した範囲は広かったが実際にスライムたちが飛行したルートは飛行予測の扇形の範囲のど真ん中だったこともあり妨害者たちも予測しやすかったのだろう。

 教会都市近郊だったから大聖堂島から飛行する魔術具を攻撃することに賛同する領などなく、強そうな護衛がいる巡礼者に盗賊をけしかけたのだろう。

 “……つまんない攻撃だったな”

 “……秀クラスの冒険者だったけれど野犬を追い払う程度の魔法だからね”

 嘆く水竜のお爺ちゃんに、仕方ない、と魔術具を投擲する姿勢になっただけのぼくのスライムは精霊言語で返答した。

 しょぼい結果だったが、魔法の絨毯で追跡するぼくたちには本格的な魔法攻撃を受ける前に手順を確認する予行練習になった。

 基本的には水竜のお爺ちゃんが対応し、水竜のお爺ちゃんの周辺を水竜に変身して飛行するぼくとケインとハルトおじさんのスライムたちが状況に応じて魔術具を放つことになっていた。

「水竜のお爺ちゃんとスライムたちに任せておけば大丈夫そうですね」

 計器の確認に集中できる、とジェイ叔父さんが呟くと、不安そうな表情だったノア先生の眉間の皺が緩んだ。

「実際のところどんな魔法攻撃が来ても水竜のお爺ちゃんがいるだけで大船に乗ったかのように安心してかまわないので、気楽にしていてください」

 ハルトおじさんの言葉にノア先生の頬が上がった。

「通常の飛行速度で検証するより加速して早く終わらせる方がいいのかと悩みましたが、北方ルートの飛行許可が何度も下りなかった場合を考えると通常の検証をしたかったのですよ」

 自領のど真ん中で自警軍の演習をするとは思えないので、領界を飛行する前後に上空から自警軍の動きを警戒するようにキュアを配置していた。

 最強の布陣を自負していても、実際に攻撃を受けるようなことがあれば隣接する領の間で揉めることになってしまい、次回以降の飛行許可が下りないのではないか、とノア先生は危惧していた。

 案の定、教会都市を離れた領界付近に差し掛かると、魔法の絨毯に設置していた回転灯が点滅した。

 ぼくたちより上空から地上の様子を探っているキュアが不審な魔力を察知すると光るように設定した回転灯だ。

「警戒せよ!北東の森林内に複数の、十二人の魔力反応があります。……小川の反対側です。魔術具の装備もありますね」

 未来予測のできるデイジーはさも視力強化で発見したかのように言った。

 ぼくとケインは警告灯が点滅した時にシロから精霊言語で新米自警軍人に魔術具の実装訓練の準備をする練習風景の映像を見せてもらっていた。

 “……あれは駄目だ!魔術具の向きが真逆だ”

 “……いやぁね。たぶん照準を合わせるのに間にあわなくて通過してから発射するかも”

 “……あっ!ちょっと何なの!向こうはこっちに気付いていないわ!”

 水竜のお爺ちゃんがみんなに聞こえる精霊言語で魔法攻撃が当たりっこないことを指摘すると、スライムたちは仲間内にだけ聞こえる精霊言語で、新米に見せかけたベテランではなく本物の新米の訓練だからへっぽこすぎて上空に意識が向いていないことを指摘した。

「もしかして、軍関係者の強要を断れなかったから、形だけ自警軍を派遣したので新人だらけなのか?」

 スライムたちの小言が聞こえるハルトおじさんの突っ込みに、そういう可能性もあったのか、と回転灯の点滅に気を張っていたノア先生は腰砕けの姿勢になった。

「水竜のお爺ちゃんやスライムたちが小さいから発見できないのは理解できるけれど、魔法の絨毯まで見えないのでしょうか?」

「上空を警戒していないからでしょうね。あの分隊は本当に魔術具を使用した軍事訓練をしているから、手順を説明する段階では空を見上げませんよ」

 視力強化で状況を確認したアーロンの疑問にデイジーが素っ気なく言った。

「まあ、教皇猊下は飛行時間まで通達しなかったから領城の警護でもない限り四六時中上空を監視していないんだろう」

 そもそも予想飛行範囲が大きすぎて自領の上空を通過すると本気で考えていなかった領なのだろう。

「はぁ、無事、通過してしまいましたね」

 領界を抜けると回転灯の警告が止まり、気の抜けた声で助手が言った。

「このまま飛行を続けると帰国しそうな気がします」

 北を目指して飛行を続けるスライムたちの航路を地図に描き込んでいたキャロお嬢様の呟きに、ハルトおじさんが首を横に振った。

「古文書の解析は全部済んではいないが、ガンガイル王国に大岩の発着場があったなら王家に伝承くらい残っているはずだ」

 王位継承権のある王族のハルトおじさんの言葉には説得力があった。

「もしかしたらですけれど……スライムたちはカテリーナ叔母様の領の方向に飛行していませんか?」

 キャロお嬢様の描き込んだ飛行ルートの延長線上にある山脈はカテリーナ妃の国の端っこだった。

 地図を覗き込んだノア先生は首を傾げた。

「北の羊の王国ともいわれる、ドグール王国にまで飛行するかな?」

 羊百頭を宮殿に連れ込んでカテリーナ妃の宮廷入りを阻止したアルベルト殿下の逸話が浸透してしまったのか羊の国と呼ばれているようだ。

「この山脈のここまでドグール王国なのですけれど、……帝国の地図だと国境線の認識が違うのでしょうか?」

 マリアの突っ込みに、面目ない、とノア先生は謝罪した。

「山脈全体が帝国だと考えていた。正確な地図は宮廷図書館で確認しなけらば私にはわからない」

 ノア先生の言葉に、ああああああ!とハルトおじさんが叫んだ。

「脳内に最悪な事態が浮かんだんだが……」

 口にするのも躊躇われるのか頭を抱えたハルトおじさんが言葉を濁した。

「わかります。ありえます。国境の認識がズレている隣接する領が国境の山脈に向かって魔法攻撃を放つと、カテリーナ叔母様の火竜が国境の森に登場する映像が目に浮かびますね」

 ありえる!とぼくたちも顔を見合わせた。

「ごめんなさい。不謹慎かもしれないけれど、火竜対策に開発した魔術具をカテリーナ妃の火竜に使用できるかもしれない、と考えたらワクワクしてきました」

 深刻な場面で一人だけ口元が緩んでいたジェイ叔父さんが告白すると、ハルトおじさんが噴き出した。

「アハハハハ!それは楽しみだよ!全くもって、なんて運命のめぐり合わせだ!」

 ハルトおじさんの笑い声にノア先生と助手は、帝国軍の一部が新たな戦争を起こそうとしていたことに気付いて青くなった後、問題解決の手段を持って飛行するスライムたちに目を向けると、安堵で本当に腰砕けになってへたり込んだ。

 せっかく戦争が終結したばかりなのに、新たな紛争の火種になりそうだった所を解決する魔術具を携帯して飛行検証をしているなんて、偶々にしては準備が良すぎる。

「そうだとしたら、飛行予想範囲が広いのにもかかわらず、本気で自警軍が装備をしていると考えられるのはここですかね」

 ウィルが国境の山脈の麓の先端を指さすと兄貴とシロとデイジーが頷いた。

 スライムたちはウィルが指さした方向に向かって飛行を続けていることにノア先生が溜息をついた。


 ぼくたちの予想通りにその後、スライムたちが飛行するルートの地上ではいくつかの領の自警軍が演習をしていたが、スライムたちを攻撃してくることは稀で、攻撃したとも言えない明後日の方向に数発攻撃魔法を放って、どうとでも言い訳のつくような行動に出る領があっただけだった。

 回転灯が点滅してもノア先生は緊張感を失っていたが、いつもより強く光ると、まだ早いだろう!とノア先生が泣きそうな声をあげた。

 “……遠方の国境の森に一個部隊程度の人数が潜んでいる!”

 キュアの指摘に兄貴とシロとデイジーが頷いた。

 キュアが降下して魔法の絨毯に戻ってくると、何事だ!とノア先生と助手が慌てた。

 シロから映像を受け取って知っていたけれど、キュアを抱き、さも今コミュニケーションを取ったかのように頷いた。

「国境の森に今から紛争でもけしかけるような規模の軍人が集まっているようです。キュアはみぃちゃんのスライムを連れて偵察に行きたいようです」

 ぼくの言葉にハルトおじさんが頷くとジェイ叔父さんは、こいつも連れて行ってくれ!と収納ポーチを自分のスライムに預けた。

「最速で飛ぶみたいだから、みんなキュアの背中に乗って!」

 スライムたちが体を小さくしてキュアの背中に飛び乗ると、魔法の絨毯を飛び立ったキュアは途中から爆音を放って高速飛行に切り替えた。

「衝撃波が出ない程度に加減したようですね」

 キュアが手加減をした、とジェイ叔父さんが言うと、ノア先生と助手は目を丸くした。

 “……儂もあのくらいの速度は出せるよ”

「水竜のお爺ちゃんの今日のお仕事は?」

 “タイルに乗ったスライムたちの護衛!”

 いいお返事でした、とハルトおじさんが笑うと、ノア先生は眉を顰めた。

「すでに一触即発の事態だったらどうするのですか!」

「スライムたちが飛行する前に演習を始めるとは思えないよ。あくまで連中の目的はドグール王国領空にスライムたちを飛行させないことだからね」

 ドグール王国に利権を取られたくない隣接領地が本気を出している、とハルトおじさんは考えているようだった。

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