表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
754/809

大聖堂島周辺の強制力

 森で昼食を済ませたぼくたちが下山すると、ノア先生たちは撤収の支度をしていた。

 三方向へ分かれた復路の検証は大聖堂島からすることになったので、ジャミーラ領での検証はいったん終了してしまうのだ。

「後日、森の掘削のための場所を検討してからあらためて実習に来ることになりました。もう一つのルートの検証には教会が全面協力してくれることになり、予測航路の領地に教皇猊下が通達をしてくれることになりましたよ」

 ノア先生は次の実習の受け入れ先が円滑に決まったことをほくほくの笑顔で告げた。

「森の掘削に向けての細かい調整は、休日ごとに私が転移魔法を使用してククール領に来ることに決まりました」

 転移の魔力を小さいオスカー殿下が負担する、という条件で小さいオスカー殿下がククール領の歴史と森の地形を調べながら掘削の魔術具を使用する場所を検討することになったようだ。

 ぼくたちが何をしていたのかは、パンダが大事そうにパンダのぬいぐるみを抱いていたので、ぼくの魔力の籠もったぬいぐるみでパンダの情緒を安定させたことが居合わせなかった二人に伝わった。

 あっという間に帰り支度を済ませ、魔法の絨毯にアリスの馬車を載せると、ジャミーラ領の領主が、何から何まで世話になってしまった、とぼくたちに頭を下げた。

「知らなかったとはいえ、長きにわたって魔力を借用していたことが判明したのにもかかわらず、こうして実習を続けていただき、新素材の採取に成功したうえ、即座に検証していただき、本当にありがとうございます」

 何度も頭を下げる領主に、これから気を引き締めて対処しますよ、と次期領主のラグルさんにせっつかれた領主はハルトおじさんに視線を向けた。

 領主がハルトおじさんに向けるまなざしは、パンダがぼくを見る時のような支援を期待する熱量がある気がする。

 ジャミーラ領は対人依存っぽい気質があるのだろうか?

 いや、女子寮監ワイルドが平然としているということは、内向き思考だった領の価値観を一新しようとしている時に、カリスマ気質のあるハルトおじさんから助言を受けたことによる一時的な依存傾向がでただけなのだろう。 

 挨拶を済ませたぼくたちが魔法の絨毯に乗ると、見送る人々の中で一番目立ったのは涙目でパンダのぬいぐるみを振るパンダだった。

 厚かましいのに憎めないパンダに、また来るよ!と精霊言語で声を掛けた。

 近いうちにまた来ることが決まっているので笑顔で見送られたぼくたちはジャミーラ領から大聖堂島へと飛行を開始した。


 ……せっかく、ジャミーラ領から大聖堂島に向けて飛行するのだから、ちゃっかり違う検証もしている。

 昨日同様、ぼくとケインのスライムの分身がジャミーラ領で採取した素材を使用したタイルで飛行しているのだが、各々が変形して加速することで、何スライム分の魔力を消費するかの検証をしているのだ。

 このデータをもとに小さいオスカー殿下がジャミーラ領に行くときに条件を変えて何度も再検証しよう、ということになりスライムたちは手加減なしで本気で加速していた。

 魔獣たちはどちらのスライムの分身が勝つかでくず魔石を賭け、ハルトおじさんのスライムはククール領に戻るタイルで挑戦しているので、賭けの対象外だが、負けても条件が違うと言い訳のできる勝負に挑んでいた。

 魔獣たちは独自に盛り上がっていたが、飛行魔法学講座の面々は速度が上がると水平飛行時の高度も前回の検証時より上がっていたことに興奮していた。

 “……鳥獣が飛行しない高度まで上がって、衝突事故を避けているのかもしれないな”

 水竜のお爺ちゃんは自分が飛行する時も速度を上げる時は高く飛んでいた、よく考えずに本能でそうしていた、と感想を述べた。

 “……わたしは自分で遠くまで飛ぶ機会があまりないから気にしていなかった”

 アリスの馬車で移動することが多いキュアは世界中を旅しているのに自分で飛行した経験が少なかった。

 キュアも本気で飛んでみたいかな?

 べつにいいや、とキュアが答えると、赤ちゃんだからな、と水竜のお爺ちゃんが笑った。

 スライムたちが加速を競う競争をしていたこともあって教会都市上空付近まで差し掛かるのに前回の半分以下の時間しかかからなかった。

 着陸までの距離を考えて速度をそろそろ落とすべきだったが、チキンレースでもするかのように三体のスライムは速度を落とさなかった。

 だが、三体のスライムの乗ったタイルが同時に強制的に急降下すると速度も落ち、スライムたちは体を変形させることができなくなったのかタイルに落とされたゼリーのようにだらしなく体を広げてタイルにへばりついていた。

 スライムたちを追っていた魔法の絨毯を旋回させることで速度を落とそうとぼくは、魔法の絨毯の操縦にかかりきりになった。

「大聖堂島に安全に着陸するための強制力が働いたのだろうか?」

「鳥獣と衝突しないような見えざる力が働いているのでしょうか?」

 ぼくが魔法の絨毯の態勢を整えた時には、ノア先生とジェイ叔父さんは、神々の見えざる力か、と頭を抱えながら計測器とにらめっこしていた。

「大聖堂島が近い、もしくは、正規のルートを飛行しているから、強制的に下降する力が働いたのでしょうか?飛行魔法学講座の教室でスライムたちが遊んでいた時は相手の飛行を妨害することが可能でしたよね」

「いや、鳥と衝突しなかったことを鑑みると、正規の飛行ルートなら大聖堂島に向かう流れは妨害されない?いや、滑空場から飛行したスライムたちも、ジャミーラ領から飛行したスライムたちも、鳥と衝突しなかったのだから、飛行ルートが関係するとは思えないか」

 ケインの指摘にウィルが突っ込んだ。

 魔法の絨毯の操縦にかかりきりになるぼくを補助していたぼくのスライムが二人の話を聞いて体をビクッと体を揺らした。

 “……滑空場から飛行したスライムたちの護衛を担当していたから、渡り鳥の群れに遭遇した時に反射的にちょっぴり威圧を出しちゃったかもしれない”

 ぼくのスライムが触手を二本伸ばして土下座をすると、ぼくのスライムの精霊言語が聞こえなかったノア先生たちにもぼくのスライムがやらかしたことが伝わった。

「ああ、そうか。滑空場出発チームの護衛を担当していたから反射的に威圧したんだね。うん、仕方ないよ。仲間にぶつかりそうになる鳥の群れを黙って見ているなんてできないよね」

 ノア先生は滑空場側からの飛行検証にぼくのスライムが介入した問題があったことで、ぼくのスライムを責めなかった。

「これから数回検証して、検証の精度を高めればいいのです」

 助手の言葉に、ありがとうございます、とぼくのスライムが触手を胸の前で手を握りしめるように組んで、ない目を潤ませてノア先生と助手を見つめた。

 可愛らしいで許されようとする姿勢がパンダと変わらないことにノア先生と助手が笑った。

 教会都市の上空で前回の飛行と同じくらいにまで高度を下げた検証中のスライムたちは魔法が効かないのか勝負を諦めたようで、触手を万歳のようにあげて、教会都市から視力強化でスライムたちを見つけた治安警察隊員たちに触手を振っていた。

 三対のスライムたちは大聖堂島の噴水広場で待ち受けるお婆たちの元に着陸する時には前回の飛行と全く同じような体勢で着陸した。

 ハルトおじさんのために魔法の絨毯を噴水広場の上で停滞飛行させると、下りていいよ、とハルトおじさんが軽く言った。

「今日で聖水を六日間飲んだことになるからもう上陸しても問題ないんだ」

 ハルトおじさんは実習が終わってから大聖堂島に立ち寄って帰国するつもりだったようで事前準備が済んでいた。

 魔法の絨毯をゆっくりと下降させると、みぃちゃんのスライムがスロープに変身し、ぼくたちはアリスの馬車に乗り込んでで噴水広場に降り立った。


「こんなに早く到着するなんてオーレンハイム卿の予想が正解でしたね」

 ぼくとケインのスライムたちの分身の勝負はドローになってしまったが、大聖堂島ではお婆とオーレンハイム卿夫妻がぼくたちの到着予想時刻で賭けていたらしい。

 噴水広場の露店でお茶とお菓子を賭けただけのものだったが、オーレンハイム卿はお婆からカップを受取ると幸せそうに笑った。

 お茶とお菓子で寛ぎながらお互いの情報をざっくりと交換すると、大聖堂島が近くなるとタイルに強制力が働く、という仮定にお婆もオーレンハイム卿夫妻も驚いた。

 明日は三か所目の復路の飛行検証をすることになってるので、大聖堂島に残るお婆とオーレンハイム卿夫妻がいくつか検証することになった。

 緑の一族の鼻歌を解析したレポートを読み込んでいたオーレンハイム卿夫人は、鼻歌のいくつかに夫人が少女時代入れ込んでいた戯曲作家の作品に当てはまる物があったことを突き止めていた。

「さすが緑の一族、といったところですね。言葉を失う前の時代の民間祭事の風習を伝えるものでしたわ」

 解読できるところが聖典に出現する言葉が多かったことで、オーレンハイム卿夫人がわかったことも神事にまつわることに偏ってしまったかもしれないが、出典がわかれば魔本で読むことのできるぼくには朗報だった。

 今日のところは骨休めをしよう!ということになり大聖堂島の祠巡りを済ませたら、最近大浴場ができたばかりの南東の教会都市でオーレンハイム卿夫妻がとっていてくれた宿に行くことになった。

 ぼくたちが軍関係者たちに足止めを食らっていたら、ガンガイル王国出身の神学生たちを招待するつもりだったらしい。

 ぼくたちの日程が遅れた方が神学生たちにはよかったのでは?とぼくたちの脳裏に浮かんだが、オーレンハイム卿夫妻は神学生たちに宿泊券をプレゼントして、各々の都合のいい日時に利用してもらうことにしたらしい。

 仲介役のジュードさんはガンガイル王国出身者ではないのに宿泊券をもらったらしく、ほくほくの笑顔で説明してくれた。


 夕方礼拝の前に南東の教会都市に移動すると可動橋にハルトおじさんが大喜びした。

 宿の露天風呂は湖に面したインフィニティプールのように設計されており、湯船につかりながら湯船が湖まで続くかのような目の錯覚を楽しんだ。

「あの湖の底に水竜のお爺ちゃんの嫁が沈んでいるのか……。早く目覚めたらいいな」

 ハルトおじさんがしみじみと語ると、子ども用のぬるい湯船につかっていた水竜のお爺ちゃんは、ああ、と頷いた。

 “……竜族は絶対的に個体数が少ないから、嫁に出会えた時は嬉しかったな……。でも、あいつが目覚めた時に驚かせるようにと魔法陣を勉強をする今も楽しい日々だよ。あいつは、儂が湖の底でめそめそしていた時より、きっと今の儂の方を喜んでくれるだろう”

 水竜のお爺ちゃんの呟きに既婚者のハルトおじさんとオーレンハイム卿とノア先生が頷いた。

 そんな相手に出会いたい、と助手が嘆くと、結婚しなくても充実した人生を送れるよ、とジェイ叔父さんが慰めた。

 湯船にぷかぷかと浮かぶスライムたちは、モテる男性は結婚を避けてモテない男性が伴侶を求めるんだね、と失礼なツッコミを精霊言語でしていた。

 年収が上がればきっとモテるよ、とキュアも精霊言語でからかったが、数年後、年収をあげた助手がモテモテになると、助手が長年憧れていた女性が助手を意識しだして嫉妬し一悶着あって結婚できるのだが、それはまた別の話だった。

 助手の憧れの人が憧れではなく共に生きる伴侶になるなんて誰にも想像できなかったが、それまでの日々が激動すぎる日々になるなんてまったく想像できなかった……。

 いや、魔獣たちの馬鹿話に兄貴もシロも笑わなかったことで、この先が一筋縄ではいかないことを予想すべきだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ