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可愛い再犯防止策

 軍関係者たちは自警軍からの伝令文を受取るとそそくさと帝都に引き返した。

 領主から飛行魔法学講座の実習生たちは昼食の招待を受けていたが、ノア先生と小さいオスカー殿下に押し付けてぼくたちは辞退した。

 パンダとダグ老師とドーラさんと一緒に城下町に出たぼくたちは、パンダの一喝が功を奏し市民たちが熱心に祠巡りをする様子を見て安堵した。

 ノア先生に貸していた身体強化の魔術具をダグ老師に貸し出すと、体が軽くなったことに、若返ったようだ、とダグ老師は喜んだ。

 この面々で祠巡りをするとパンダ見たさに人々がついてきてしまうので、中央広場でお弁当を食べるのを諦めてぼくたちは城の森に入った。


 落ち着いて昼食を食べられる場所として結局、大岩の前に戻ってきてしまったぼくたちはコッペパンに好みの具を挟んでホットドックを堪能した。

 “……世界中を見てきたけれど、やっぱりここが一番落ち着くなぁ”

 ソーセージにホワイトソースをたっぷりかけたホットドッグを大口を開けてかぶりつきながらパンダが大げさに言うと、世界の半分も見ていないくせに、と魔獣たちが笑った。

「上空から地上を見るという貴重な経験をさせていただきました。私たちは足元しか見ていなかったことを自覚しました。搾取されたくないがばかリに内に籠っていましたが、手にした切り札をどう活かしていくか、ガンカイル王国の鉱山の採掘方法から多くの助言をいただきました」

 ダグ老師はハルトおじさんと魔法の絨毯の上で一日を過ごしたことでいろいろと伝授されたようで笑顔で感謝の言葉を述べた。

「ああ、天使の取り分ですね。生産されていないものから上前ははねられないし、総産出量が少なければ上前は微々たるものす。各所から袖の下を要求されたら担当者を変えてのらりくらり遣り過ごし、時間をかけて天使の取り分を蓄えていく作戦ですね」

 キャロお嬢様が新素材の扱いについて具体的な発言をすると、ジャミーラ領の三人は目が点になった。

「ガンガイル王国ガンカイル領の急激な発展は、ああ、ご覧になっていないからわからないでしょうけれど、彼の地は現在、長年の天使の取り分を利用して、それはまあ別世界のように発展を遂げています」

 熱弁を振るうウィルに、ダグ老師もドーラさんも小さいオスカー殿下からの話を聞き流していたような絵空事とは考えていない真摯な眼差しを向けた。

「天使の取り分をどう扱うかによって今後のジャミーラ領の活路が変わっていくのですね」

「ハイエナやハゲワシがたむろしている世界で国力を示せば、ないものは奪えばいい、という倫理観の他国に蹂躙されてしまうのです。ガンガイル王国では長い間、世界の冷蔵庫と揶揄されても、国力を示すことなく鉄鉱石の輸出量を厳密に管理していました。上手く立ち回ってくださいね」

 キャロお嬢さまはイーサンの介入で今回は軍関係者を退けられたが、次々と介入者が現れることを警告した。

 ジャミーラ領の三人は、まだ子どもなのに、と言いたげな視線をキャロお嬢様やウィルに向けた。

「留学生たちは国を代表して帝国まで留学に来るので、事前学習のレベルが高いのですよ。留学生たちは学ぶ姿も貪欲ですが、帰国後の国益を考えて専攻を選ぶ傾向があります」

 助手の言葉に、興味があることを学ぶだけです、とぼくたちはきっぱりと否定した。

「私たちは、留学生活を楽しんでおいで、と送り出されています。そうですね、国益といえば、各地の留学生たちと親しくなることを期待されていましたわ」

 みんないい人たちなのですぐ仲良くなれた、とキャロお嬢様はマリアやデイジーを見て言った。

「そうですね。ジャミーラ領からもっと帝都の魔法学校への進学率をあげなくてはいけませんね」

「第八夫人の離宮に勤める職員たちの福利厚生を手厚くすると、帝都側での受け入れ態勢が整いますよ」

 エビチリのホットドッグにかぶりつきながら従者目線でミーアが指摘した。

「ああ、そうですね。領を出た者を見捨てない姿勢を見せることで、外に行こう、と考える人物が出て来そうです」

 ドーラさんの言葉にダグ老師も頷いた。

「オスカー殿下がジャミーラに幸運を運んできてくださった今なら、予算を増やせるだろう」

「帝都の魔法学校では成人後の学び直しの受け入れを始めています。独身男性は領外に出てみるのもいいと思いますよ」

 仮面をつけていもイケメンのジェイおじさんだから女性の注目を集めているだけで、ジャミーラの田舎から独身男性が帝都で嫁探しをしても難しいだろう、と魔獣たちは首を傾げたが、いいですね、とドーラさんは乗り気になった。

「ダグ老師。我が領の魔法学校には魔獣使役に関する講座がありません。……いえいえ、パンダ殿と使役契約がしたい、というわけではありません。私もいい魔獣と出会って使役契約をしてみたい……」

 ドーラさんが、魔獣使役、という言葉を口にするとパンダが睨みを効かせた。

 ドーラさんはホットドッグを食べるスライムたちやウィルの砂鼠を見て、こういうのでいいんだ、という表情をした。

「……お前は小さいころから、魔昆虫や兎や栗鼠なんかの小動物が好きだったな」

 ダグ老師はドーラさんを守り人の跡取りとしてではなく、おじさんになった息子に幼少期の面影を見出して優しい目をした。

「私たちはパンダ殿がいる杜の恵みに甘えすぎていたのかもしれませんね。よそ者を追い払ってくれるオオスズメバチと言葉を交わせるようになれば、私はもっと森について知ることができるだろうに、守られていることに慣れ過ぎていました」

 ダグ老師は、ホットドックにチリソースの追加をジェイ叔父さんにおねだりする一部の辛党のスライムたちを見ながら、魔獣とコミュニケーションが取れることを羨ましそうにしみじみと言った。

「初級魔獣使役師の資格なら一日で合格できるでしょうから、年齢を理由に諦めることではありませんわ」

 デイジーがダグ老師に声を掛けた。

「こんな爺さんが今さら魔法学校に行ったって……」

「うちの講座の最年長の受講生はオーレンハイム卿です!」

 魔法の絨毯でカレーライスを食べた時にオーレンハイム卿に会っているダグ老師は、そうだった、とピシャリと額を叩いた。

「時期を見てドーラがまず行きなさい。いや、カッコつけているのではなく出題傾向を教えてほしいんだ」

 ドーラさんが帝都に行くことを頑なに止めていたダグ老師の言葉にドーラさんが目を見開いて驚くと、軟化した自分の態度を恥ずかしがるように赤面したダグ老師が言い訳を口にした。

 ええ、そうですね、とドーラさんが笑いながら答えると、試験なんか久しぶり過ぎて、とダグ老師は照れ笑いをした。

「森でいい使役魔獣を見つけてください。大岩で掘削した時の穴を調べたスライムたちの報告に、近い地層を探す手伝いをしてくれる地栗鼠のような魔獣がいいかもしれません」

 ケインは地層の研究に魔獣の手助けがあると助かる、と口にすると森の奥で、ジジジジジ、とオオスズメバチが立候補するかのように羽音を立てた。

「近いうちに初級魔獣使役師になるから待っててくれ!」

 ドーラさんの声掛けにオオスズメバチは納得したように羽音を止めた。

 “……使役契約なんて形式ばったことを、と思ったが、森を守る魔昆虫と人間が協力するんだな”

 パンダの呟きに、水竜のお爺ちゃんが頷いた。

 “……猛虎の森がそうだったな。これといった傑出した人物が現れるまで猛虎は使役契約なんぞ結ばなかったが、猛虎の森を守る一族とは協力し合っていた”

 傑出した人物、という精霊言語にパンダはぼくを凝視しすると、みぃちゃんがぼくの膝の上に飛び乗りキュアが頭の上に座り、両肩にぼくとみぃちゃんのスライムが飛び乗った。

 “……儂はカイル(の魔力)が好きだけど、この森を捨てて帝都にはついて行けない”

 別れの時間が迫っていることを嘆くかのように悲痛な表情で俯くパンダに、一瞬気の毒に思えてしまうが、今までのパンダの行動からぼくの魔力目当てなのがあからさま過ぎて、誰もパンダに同情しなかった。

「パンダ殿に杜を出て行かれてしまっては、我々だけで城の杜の聖地を守る自信はありません」

 ダグ老師に切実な思いの籠もった視線をパンダに向けられると、自尊心をくすぐられたパンダは顔を上げた。

 ダグ老師とジャミール領領民の魔力で満足しなさい、とぼくのスライムが精霊言語でパンダに言うと、パンダは涙を浮かべてぼくを見た。

 この調子ではぼくたちが帝都に帰ってしまったら、無意識のうちにぼくの魔力を護りの結界の中から探し出してしまうだろう。

 仕方がないな。

「パンダの抜け毛でぬいぐるみを作ってあげるよ。多少はぼくの魔力が残るだろうから、それで我慢してよ」

 ぼくの提案にパンダが晴れやかな笑みを見せると、スライムたちが、パンダを甘やかすな!と精霊言語で抗議した。

「パンダがパンダのぬいぐるみを抱いて毎晩眠りにつく、なんて可愛らしいですわね」

 キャロお嬢様の呟きに、反対していたスライムたちも、それは可愛いかも、と態度を変えた。

 ぼくのスライムがパンダを包み込むと、抜け毛を回収して清掃魔法をかけた。

 仕事が早い!とみんなで拍手をした。

 白と黒の毛に色分けをしてフェルトにするところまでをぼくのスライムが担当すると、ぼくの魔力とほぼ同質のぼくのスライムの魔力がフェルトに圧縮されたことをパンダは喜んだ。

 圧縮してしまうと小さくなったフェルト見たキャロお嬢様は、もっと大きい方が可愛いのに、と呟くと、パンダは自分の毛を猛然とむしりだした。

「ちょっと待った!考えがあるから、自傷行為みたいなことはやめてよ!」

 ストレスのたまった状況下で自暴自棄になったかのような行動を止めたパンダに、ストレスの耐性が低すぎる、みぃちゃんが精霊言語でぼやいた。

「魔力をもらうことばかり考えないで、護りの結界を通じて自分の魔力が広がってぼくの魔力と混ざり合う、と考えてみてよ」

 フワフワと舞う自分の抜け毛に鼻をくすぐられたパンダがくしゃみをすると、混ざりあう?とキョトンとした表情でぼくを見た。

「ぼくの魔力と混ざりあったパンダの魔力は、それを必要とする土地で活用され、どこかで何かの命になるんだよ。素敵なことじゃないか!」

 新しい命、とパンダが精霊言語で呟くと、ぼくは頷いた。

「護りの結界は世界の端までずっと続いているんだよ。パンダはこの森に棲みながら世界中のどこかで、新しい命が誕生することに貢献することになる。だから、ある程度、魔力が外に流れて行くことを認めて、そのことを楽しむようにしたらいい」

 魔力を奪うのではなく、与える側になろう、と促すとパンダはコクンと頷いた。

 パンダが自分でむしり取った毛もぼくのスライムが回収してフェルトに加工した。

 フェルトの内部に伸びる素材を追加で使用し、パンダのぬいぐるみ制作すると目と鼻の部分にこの森で拾った昆虫の魔石を加工してはめ込んだ。

 親指くらいの大きさのぬいぐるみを受取ったパンダは大事そうに掌の上に載せると嬉しそうに笑った。

「大きく膨らむことをイメージして魔力を流してごら……」

 ぼくの言葉が終わる前にパンダがぬいぐるみに勢いよく魔力を流したので、大きなフワフワドームのようにパンダのぬいぐるみが巨大化した。

 イメージの加減くらいすればいいのに、と魔獣たちに突っ込まれると、パンダがイメージを修正してぬいぐるみは両腕で抱えられる大きさになった。

 パンダがパンダのぬいぐるみを抱く姿に、可愛い!と声が上がった。

 “……ありがとう、カイル。カイルの魔力を感じるから、もう、護りの結界からカイルの魔力を探さないよ。儂もカイルのように自分の魔力を広く遠くに流れていくことを意識して、カイルがどこにいても儂の魔力と混ざりあうように努力する!”

 それって、結局、ぼくの魔力を探すということと大差ないのではないか?

 パンダの魔力ストーカーのような発言にぼくたちは苦笑した。

 まあ、ぼくの魔力を盗用するのではなく、自分の魔力が遠くに広がり使用されていくことをパンダが認めたのだから、これでいいのだろう。

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設定も登場人物一人一人の個性も好きです!毎日の更新楽しみにしてます!一気に最初から2周読みましたが更新待てないので3周目読み返します。(≧▽≦)
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