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竜と遊んだこどもたち

 とどのつまり、洗礼式の踊りでこどもたちが魔力枯渇を起こす原因は、神々の配役を決める司祭の差配が悪かった、ということが確定してしまった。

 精霊たちから正解を示してもらい、これ以上検証する理由がなくなったぼくたちは、せっかく飛竜の里まで来たのだからとのんびり温泉を楽しむことにした。

 村長宅に預けられている帝国の孤児たちも誘おう、ということになり、村長に挨拶に行くと、イシマールさんの飛竜の到着を見ていた里の人たちが昼食を用意して待っていてくれた。

 村長夫妻に挨拶しながらも美味しいカレーの匂いに鼻を引くつかせたぼくたちに、皆さんのために用意した、と言われて赤面しつつ感謝の言葉を述べた。

 みんなで大鍋のカレーを食べながら、第五皇子夫人が子どもたちを引き取る屋敷に遊技場を用意しようとしている話をすると、村長夫妻がホッとした表情を浮かべた。

「こういっては差しさわりがあるのかもしれないが、この子たちを引き取るのが第三皇子殿下ではなく第五皇子殿下だったことに、私たち夫婦はあっちよりはいいだろう、としか考えていませんでした。ですが、生活に必要な最低限のこと以外の子どもたちの遊びのことまで考えてくださっていることに、少し安堵しました」

 村長の言葉に夫人は深く頷いた。

「以前、里で保護した子どもたちは、里の人たちが養子にしたり、緑の一族で養子にしてもらったりして幸せに暮らしているのに、この子たちは戸籍が帝国だ、というだけで私たちは一時保護にしかかかわれないので、行く末を案じていたのです。魔力の多い子どもたちを今後どうするつもりで引き取るのか、と案じていましたが、ちゃんとした人格者のようでございますのでホッとしました」

 村長夫人は村長よりあけすけな言い方で心情を吐露した。

「訳あってご自身の子どもたちを亡くされたご夫婦ですが、子どもたちを受け入れるためにできうる限りの配慮をしても不安に思うところを帝都の孤児院長に質問して、学ぶ姿勢のある方たちでしたよ」

 育児に行き詰っても相談できる人がいることを話すと、村長夫妻ばかりでなく里の人たちまで、ああよかった、と安堵した。

 里の人たちに大事にされている子どもたちの中に、準備が整えばここを出なければいけないことに不安気な表情を浮かべ噛みしめるように顎を引いて俯く子が数人いた。

 ちびっこ飛竜たちが、大丈夫かい?と子どもたちを覗き込むと、子どもたちは無言だったが目に涙を滲ませているようで、よしよし、と慰めるように頭を撫でた。

「帝都に引き取られると、この里の飛竜たちとはお別れになってしまうけれど、キュアと水竜のお爺ちゃんは普段は帝都で暮らしているよ」

「優しくしてくれた人たちと過ごした日々はみんなの胸の奥でずっと大切な思い出として残るから、他の人が奪うことのできない大切な宝物だよ」

 ぼくと兄貴が子どもたちに声を掛けると、顔を上げた子どもたちが微笑んだ。

「大事な思い出をたくさん作ろうね」

「昼食が終わったらみんなで温泉に行こうよ」

「第五皇子殿下が立派なお屋敷を用意してくれているけれど、飛竜が入れるおおきな露天風呂はこの里にしかないよ」

 騎士課程履修者たちが声を掛けると子どもたちの笑顔が輝いた。

 もりもりカレーライスをおかわりした子どもたちは、温泉に行く道すがら里の子どもたちも誘って大人数で温泉に向かった。

 遊びが目的だったから水着で露天風呂の魔獣の湯に集合すると、回復薬の噴霧器の出番がなかったイシマールさんが噴霧器に温泉のお湯を入れて子どもたちの斜め上に向けて噴射した。

 キャーキャー言いながら霧に向かって手を伸ばす子どもたちは、水飛沫に虹がかかると、きれいだね、と笑顔で小さな虹を見上げた。

 水竜のお爺ちゃんが負けじと、いくつもある岩風呂から岩風呂へアーチ状の小さな水柱をあげて水芸のようなことをして子どもたちを喜ばせた。

 深い浴槽ではスライムたちが浮き輪になって子どもたちをぷかぷかと浮かばせてあげると、子どもたちが喜ぶのはもちろんだけど、見ているぼくたちも可愛らしい姿に癒された。

「後は、第三夫人と本当に面会できるかどうかが、一番の問題だよね」

 のんびり寛ぎながらも脳裏によぎった現実をボリスが口にすると、兄貴は子どもたちに視線を向けつつ遠い目をした。

 “……ご主人様。現段階でもまだ複数の可能性があり、実現するかは皇帝の気分次第です”

 うーん。もう一押し何かした方がいいのかな?

「水竜のお爺ちゃんの魔獣カードも存在するの?」

 里の子どもが水竜のお爺ちゃんに尋ねると、知らんぞ、というような表情をしてぼくたちを見た。

「ごめんね、ぼくも知らないよ。ハルトおじさん、ラインハルト殿下の方が詳しいと思うから聞いておくね」

「あったとしても入手困難だろうな」

 ぼくが詫びると、騎士課程候補生たちがレアカードの入手困難さを熱く語りだした。

「強い魔獣カードも欲しいけれど、水竜のお爺ちゃんの人形があれば、王都の魔法学校に行くために里を出たお兄ちゃんが帰ってきた時に、水竜に会った、って自慢できるのになぁ」

 水竜のお爺ちゃんが飛竜の里に来た記念になる像があってもいいような気がしたぼくは、魔獣の湯の隅っこに小さな水竜のお爺ちゃんの石像を作り口から温泉水を出す工夫を凝らした。

 子どもたちも水竜のお爺ちゃんも喜んでくれたが、強力な嫉妬の視線を感じて見上げるとイシマールさんの飛竜が嫁の飛竜を連れて温泉の上をぐるぐる飛行していた。

「ああ!大人の飛竜たちが来たから場所を空けなきゃ!」

 里の子どもたちは、魔獣風呂は魔獣たちが優先だと理解しているので、孤児たちを誘導して内風呂に戻った。

 大きな飛竜が着陸する風圧で露天風呂から水飛沫が上がると子どもたちが拍手した。

 成体の飛竜の入浴シーンは迫力があり騎士課程履修生たちも大喜びした。

「大きくなって張り合わなくていいからね」

 ウィルが水竜のお爺ちゃんに釘を刺すと、少しくらいいいじゃないか、と水竜のお爺ちゃんが懇願する表情を見せた。

 水竜のお爺ちゃんは子どもたちのヒーローになりたいようだ。

「里の人たちは水竜のお爺ちゃんが魔獣風呂を堪能して喜んで大型化したと考えるから、驚きはしても里の外で口外することもないだろうから、いいんじゃないかな」

 兄貴の言葉に水竜のお爺ちゃんは激しく頷いた。

「うちの子は嫁に水竜のお爺ちゃんを紹介するつもりで連れてきたようですよ」

 イシマールさんの言葉に、それならいいか、とウィルも納得すると、水竜のお爺ちゃんは即座に露天風呂に飛び出していき、二体の飛竜に巻き付くように巨大化した。

 おおおおお、と子どもたちも騎士課程履修生たちもイシマールさんも声をあげて三体の飛竜たちを見上げた。

 竜たちは精霊言語で挨拶を済ませると、水竜のお爺ちゃんは二体の飛竜と体の大きさを揃えて仲よさそうに湯船に浸かった。

 面白い絵面になったのでその姿も小さめの石像にすると、竜たちに感激された。


 飛竜の里で寛ぎリフレッシュしたぼくたちはイシマールさんの飛竜と嫁の飛竜に取り付けられた乗車籠に分乗して乗り込むと、子どもたちや里の人たちに見送られながら辺境伯領城にもどった。


 辺境伯領主に結果を報告して三つ子たちに別れを告げて帰寮すると、寮生たちが結果を待ちわびているから、と寮長にせかされて談話室へと直行した。


 談話室ではキャロお嬢様とクレメント氏が芝居の細部を何度も練習していたが、ぼくたちが部屋に入ると即座に止めて話を聞き入る体勢になった。

「結論から言うと、洗礼式の踊りは眷属神役も含めたすべての踊り手の総魔力量によってそれぞれの神の役に相当する量の魔力を奉納することになるようで、一つの神の役を何人で踊ろうがその神の役にふさわしい魔力を奉納するだけでした。つまり、闇の神役を魔力量に差がある二人で踊っても、片方が片方の魔力を補完することになるので、魔力枯渇は起きません!」

 検証の責任者としてボリスが発表すると、寮生たちが拍手した。

「ということは、洗礼式の踊りを集団詠唱魔法に応用しても、神々の役をバランスよく配置したら、魔力が少ない人でも参加できる、ということですね」

 キャロお嬢様の言葉に検証に参加した騎士課程履修生たちが頷いた。

「イシマールさんが万が一に備えて救護要員として控えていてくれたので、その時、聞いた話ですと、集団で訓練する仲間は息があっていると魔力が高い人に合わせるかのように個人個人の能力が上がるそうです。集団詠唱魔法に魔力が低い人が参加して個人の魔力量をあげていくことを、寮全体の今年の研究課題にしてもいいかもしれません」

 去年は祠巡りの検証をしたので、今年は集団詠唱魔法を検証しよう、と提案すると、それはいい、と寮長とハルトおじさんが喜んだ。

「入学式の新入生の挨拶で立体映像を出現させる集団詠唱魔法をお披露目すると、神学を学ぶことを希望する魔法学校生たちが中央教会に押し掛けることになるだろうから、この検証に参加することを希望する寮生たちは寮監に申告して、先方に迷惑をかけないように計画的に行動するように」

 はい、と寮生たちが元気よく返事をすると、リストを作ろう、と寮監たちがさっそく希望者たちを募り始めた。

「次の課題は、第三夫人との面会が成功するかですね」

「ああ。そうなんだよね……演目の注文があったきり、連絡がないので心配になる」

 寮長に声を掛けると、寮長もドタキャンされるのではないかと危惧していることを吐露した。

 皇帝は水竜のお爺ちゃんの映像を見たがっているんだったよな……。

「あの、ハルトおじさん。水竜のお爺ちゃんの魔獣カードの発売って、もうしているのですか?」

「いや、ちょっと、強さの設定で揉めているんだ。エドモンド伯父上は不死鳥のカードより水竜のカードを強く設定したくないから、ごねているんだ。こっちとしては、本人、いや、本竜が目の前にいるのに最強のカードにしないなんて選択肢はない」

 飲み仲間の水竜のお爺ちゃんを最強カードにしたいハルトおじさんが水竜のお爺ちゃん見ながら言うと、水竜のお爺ちゃんは満面の笑みになった。

「発売元がガンガイル王国なのだから、第三夫人とキャロお嬢様との面会を記念して水竜のお爺ちゃんの魔獣カードを帝都で限定販売する、と発表したら、さらに面会を待ち望む民意が高まり、皇帝陛下も引くに引けなくなると思うのですが。どうでしょう?」

 ぼくの提案にハルトおじさんがニヤリと笑った。

「面会の記念カードで、帝都限定品だから、特別に水竜のお爺ちゃんのカードを最強にしても問題ないわけか。いいな、その案いただいた!」

 ハルトおじさんはさっそく商会の代表者を寮に呼びつけるための手紙を書き始めた。

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