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災い転じて…

 収穫間近のお米と別れて、子ども部屋のベッドに入れられてしまった。

 稲刈りまでできそうな成長速度だったのに、光る苔の子ども用回復薬の治験者第一号になってしまったのでは、今日の収穫は諦めなけれはいけないだろう。

 急激に魔力を回復させるのは体に負担がかかりそうだ、ということで、回復薬は数回に分けて摂取することになった。

 昼食後にまたアレを飲まなくてはいけないのだ。

 “……原液よりは、はるかにましだよ”

 ぼくのスライムは原液摂取の第一号だ。あの時の悶絶の仕方は半端なかった。

 “あれでは美味しくなったとは言えないよ”

 “……あたしの時は不意打ちだったの。ちょっとした好奇心でジュエルの指先を舐めたら、死ぬかと思うほどの苦しみを味わったわ”

 “今となっては笑い話だよね”

 ぼくはみぃちゃんとスライムに挟まれて横になっている間に、体の中の魔力がどんどん回復していくのを感じていた。

 疲れもとれていくので、回復薬は万能薬だ。

 精霊たちが申し訳なさそうに、ぼくの周りをうろうろとしている気配がする。

 みぃちゃんとスライムが威圧を出しているので近寄れないようだ。

 “今日の魔力枯渇での昏倒は完全に事故なのだから、そこまで威圧をしなくてもいいよ”

 マナさんでさえ予見ができなかったのだ。

 精霊たちには悪意もなかったし、ぼくだって魔力が引っ張られていたことに、気がついていなかったのだ。

 ぼく自身で自己管理をできなかったことが一番の問題点だ。

 “……ご主人様は自分に厳しすぎるのよ。あいつらが調子に乗ったせいなのよ”

 “……あいつらを甘やかしたら、つけあがるわよ”

 うちの魔獣たちは精霊たちに辛辣だ。

 原野から家についてきた精霊たちの中に、性格の悪いやつがいたようなのだ。

 “精霊たちの全部が全部いたずら好きの悪い子じゃないだろう。性格のいい子もまとめて嫌ってしまっては可哀相だよ”

 “……加減ができないならやっちゃダメっていうのが、うちのルールだよ”

 みぃちゃんはいつもそう言われているからね。

 そうは言っても、命の恩人でもある。

 洞窟でお世話をしてくれた精霊はいい子だと思う。

 困っているぼくたちを、水場に案内してくれたり、トイレにしていい場所を探してきてくれたりもした。

 なにより、子どもだけで遭難して途方に暮れていた、ぼくたちの気持ちを明るくしてくれた。

 生きて帰って来られたのは、精霊たちのお蔭なんだ。

 意固地になっているうちの魔獣たちには、こういう正論は反感を買いそうなので、思考に壁を張るイメージを持って考え事をした。

 回復薬を飲んだばかりで魔力が湧いてきているから、今なら魔力枯渇も起こさないだろう。

 考えることは、脳でしている。

 でも喜怒哀楽は体中で感じる。

 それは脳からの指令で体が反応しているだけなのだが、脊椎反射のように脳を通さないことだってある。

 念のために、ヒーローものの変身後のような、体に張り付くボディースーツをイメージした。

 全身タイツだと顔の部分がむき出しになるから、ライダーとか、ウルトラなやつを想像した。

 “みぃちゃんとスライムには新しいご褒美を考えよう。何がいいかな?”

 両サイドの二匹は無反応だ。

 しめしめ、上手くいった。

 このボディースーツがどのくらい魔力を消費するものなのか、わからないのですぐに解いた。

 魔力を使った手ごたえはなかった。

 だけど、回復薬を飲んでいるのに、魔力枯渇をもう一度起こしたら、怒られるどころではないだろう。

 何事にも用心が必要なのだ。

 ほかにすることもないのでぼうっとしていた。

 二段ベッドの上の段で寝ていると天井が近い。

 その天井付近でぼくを中心にしたドーナッツ型の色とりどりの光の輪ができた。

 ああ、精霊たちは綺麗だね。

 みぃちゃんもスライムも見とれている。

 ぼくは精霊たちに星形に移動するように思念を送った。

 精霊たちは円を残しながら一部が五芒星を(かたど)った。

 精霊言語はイメージも送ることができるようで、六芒星や、二種類の七芒星をイメージするだけで精霊たちは再現することができた。

 上級精霊が完璧な言語だと言うだけのことはある。

 複雑な図形でも動物柄でも、なんでも再現できたのだ。

 “ありがとう。ぼくの気持ちに答えてくれて”

 “……!”“…”“……”“…”“……”“………!”“…”“………”“…!”“…”

 一斉に話しかけてくるから、ぼくはボディースーツを着込むイメージでシャットアウトしたが、みぃちゃんとスライムがぼくの服の中に隠れた。

 “それではうるさくて、話し合いにならないから代表者を決めようよ”

 精霊たちはまとまって何やら相談しているようだったが、ただうるさいだけだろうと思って、聞かずに様子だけ眺めていた。

 なかなか代表者が決まらないようで、揉めている気配がする。

 みぃちゃんとスライムがあきれたようにぼくの服から出てきた。

 スライムはチョコボールのように土魔法でコーティングすることで、騒音を聞かずに済むことに気がついたようだ。

 みぃちゃんは威圧で対抗していた。

 部屋の中の精霊たちの密集度が高まっている。

 まずいぞ、精霊たちの騒ぎを聞きつけて、町中から精霊たちが集まり始めている。

 マナさんも気がついて慌ててぼくの部屋に飛び込んできた。

「どうしてこんなことになったんじゃ!」

 ぼくが事の経緯をマナさんに説明していると、集まった精霊たちが一つにまとまっていくのを感じた。

 精霊たちの光が一か所に集まって、直視できないほどの輝きとなってしまった。

 ぼくたちは目を伏せて光が収まるのを待った。

「……なんという事じゃ……」

 マナさんの声に目を開けると、光は収まっており、何も起こらなかったかのように静かになっていた。

 いつもの子ども部屋と変わらず、精霊たちも見えなくなっていた。

 だが、マナさんは震えていた。

 ぼくにも気配でわかることがある。

 精霊たちは一つのまとまった精霊になったのだ。

「中級精霊が誕生する瞬間を初めて見た」

 マナさんの言葉に、ぼくも武者震いが止まらなくなった。

 これはぼくがやらかしたのだろうか?

 ぼくはただ、精霊たちに代表者を決めろと言ったに過ぎない。

 代表者が決まらないからと言って、一つにまとまって、上位に進化するなんて誰も思わないよ。

「カイル。お前は一体何がしたいんじゃ?」

「精霊たちとまともな話し合い……」

 “……カイルよ。迷惑かけてすまなかった。若い精霊は常識がないから、ひとまとまりになって躾をしてやることにした”

 “それは、とても有り難いです”

 精霊の常識は人間の常識とだいぶん乖離していそうだ。

 “「ずいぶんと本音を隠すのが上手くなったな」”

 マナさんの精霊とマナさんが同時にツッコんだ。

「なにか皮肉なことを考えている顔をしているのに、心の声はもれてきていない。魔力枯渇を起こしたばかりなのに、………魔力を使って練習しおったな!」

 そんなに魔力を使った気はしなかった。

 スライムにあげるご褒美の魔力より少ないと思う。

 全く魔力を使用していないかのように、体に負担がないのだ。

「おそらく、なんですけど、体から魔力を放たなければ、魔力って減りませんよね」

 “「!!」”

「そもそも魔力は体から滲み出ているものでしょう。それを壁に漆喰を塗るように固めてしまっただけなので、魔力を外側に向けて使っているわけではないようです。体に負担は全くありません」

 ぼくのスライムは早速試している。

 土魔法のチョコボールみたいな時とは違い、スライムの魔力を固定するだけなのでスライムの見た目は変わらない。

 ぼくが思念を受け取る感度を上げてみても、スライムとみぃちゃんの思考は、わからなかった。

 みぃちゃんも試していたのか。

 ぼくの魔獣たちは向上心と適応力が高い。

「これは、すごいな…。わしの方法よりはるかに魔力の使用感がない。ただ、長時間の使用は控えた方がいい。普段は漏れ出ている魔力を閉じ込める形になるから、体内で魔力が圧縮される怖れがある」

 ぼくたち全員が魔力ボディースーツを解いた。

 圧縮ってそれだけ力が溜まるのだから、体が小さいのに無理をしたら爆発してしまいそうだ。

 “……十分に育てば圧縮した方が長時間安定して魔力が使えるようになる。毎日少しずつ鍛えていけば器も十分に鍛えることができる”

 “……それは間違いではないが、急ぎ過ぎだ。何のために洗礼が七才なのか、わかっていての発言なのか!”

 中級精霊とマナさんの精霊が揉めている。

 七才までは体に負担が大きいから、やめた方がいいのだろう。

 中級精霊になっても、精霊は自分に都合のいいことしか言わないのは変わらないようだ。

「カイルと和解したいのなら、信頼を損なうような言動をするのは、どうかと思うよ」

 マナさんもあきれている。

 体が浮くような感覚が来た。

 どうやら呼ばれたようだ。


 もうすっかりおなじみになった亜空間だが、みぃちゃんとスライムやマナさんもいた。

 まあここまでは、同じ部屋に居たことだし、合体する精霊を見た仲間同士だ。

 招待されたのも理解ができる。

 だが、何故、ここに兄貴も居るのだ?

 “なんで、兄貴もここに居るの?”

 “……カイルが心配だったから、かけらをカイルに残していたんだ”

 “かけらって、兄貴は分裂できるの⁉”

 “……前もできたから、できるかなと思ったら、できた”

「カイルは誰と話しておるのじゃ?」

 マナさんは兄貴を認識できていないようだ。

「独り言だよ。それより、ぼくには各種の精霊が集合しているように見えるよ」

 信じられない事態は、もう一つ起こっていたので、話をそっちに振ってみた。

「この、物凄く小さな精霊の素みたいな、精霊の赤ちゃん?それに普通の精霊、生まれたばかりの中級精霊が上級精霊の亜空間に居るんですよ。もしかして、精霊の全種類がここに集まっているのですか?」

「……神様以外、全種類おる」

 いったい、なんでこうなったんだろう。

おまけ ~とある精霊の独り言~

 精霊は性格が悪いと言われると傷つくの。

 口の悪い精霊もいれば、ギャンブル好きの精霊もいる。可愛いものが好きな精霊だっている。

 なのに、目立つのは性格の悪いやつらばかり……。

 いたずらをするために街に出てきたわけじゃないの。

 あの子がとっても気になるからなの。

 それは、一緒に街に出てきた子も、元々ここに居た子も、みんな同じ気持ちなの。

 だって、次に何をしでかすのか、予想もつかないし、何よりそばに居たら楽しいの。

 ずっとそばに居たい……。

 それができる方法がある。

 でもまだあの子は小さい。

 悠久の時間を過ごしている私たちには一瞬のはず……。

 でも、待つのが辛いことに、時間の長さは関係ない。

 仲間たちが粗相をすると、上級精霊様に怒られるというのに、みんな冷静さを失っている。

 城の精霊たちに負けていられないですって!

 私も負けたくないわ!!

 うちのカイルが一番なのよ!!!


 ………やり過ぎでした。

 ごめんなさい。

 猫が威嚇してくるわ。

 スライムに至っては上級精霊様の祝福がある。

 恐ろしい魔獣たちだわ。


 ああ、カイルが語りかけてきた。

 なんて美しい図形でしょう。

 私たちに任せて!

 ほら、綺麗でしょう!!


 意見がまとまらないのはいつもの事でしょう。

 あれ?

 どうなるの⁉

 まとまらないならまとめてしまえって……………。


 ……私は中級精霊の良心…。

 カイルに嫌われないようにするはずだったのに…。

 どうして上級精霊様の亜空間に居るのでしょうか?

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