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裸の逃走劇

「……ここはどこ?ぼくは……だれ?」

 騎士に手を引かれたキールがキョロキョロとあたりを見回してそう呟くと、騎士に手を引かれていない方の掌を広げ水竜のお爺ちゃんのフィギュアを見つけて嬉しそうに微笑んだ。

「ぼくは……たぶん、キールです。ゆめのなかで、そうよばれました」

 手を引いている騎士を見上げて自己紹介を始めたキールをセオドアが優しい目で見た。

「全裸の逃走者は教会のお尋ね者の可能性が高く、詠唱魔法を使用する上級魔導士と推測される!用心せよ、と伝達せよ!」

 マルクさんが叫ぶと、第二報を知らせる魔術具の鳩が飛び立った。

「東方連合国デイジー姫の調査報告書の似顔絵によく似ているあなたは、行方不明になっている東方連合国の東北地方の小さな島国のキール王子殿下でお間違いないでしょう」

 参謀補佐ワイルドが前回と違う声掛けをすると、ゆめであなたにあいました、とキールは参謀補佐ワイルドに笑顔を見せた。

「ようこそ、ガンガイル王国へ。悪い人たちは私たちが捕まえました。ご両親、お父様とお母様を思い出すまで、このお城で私たちと暮らしましょう。私はこのお城の主の息子で、セオドアと言います。うちの子はキール王子と同い年ですよ」

 キールに歩み寄りわかりやすく自己紹介をしたセオドアに、キールは笑顔を向けた。

「ゆめでおあいしました。よろしくおねがいします」

 記憶喪失の状態ながら、次期領主の夢を見た、と発言したキールに騎士たちは一目置くような視線を向けた。

 キールの偽従者の二人が騎士たちに引きずられるように連行されるのを見たキールは、あのひとたちはしらないひと、ときっぱりと言った。

 転移の小屋周辺は現場検証をする騎士や逃した一人を追うために作戦を立て直すマルクさんたちが慌ただしくしていた。

 役目を終えたぼくと兄貴とケインとウィルとイザークは、キールを連れて城に入るセオドアの後に続いた。


 領城内では諸外国の小さな貴賓たちが到着しており、滞在する部屋に案内しているのか使用人たちが慌ただしく行き来していた。

 そんな最中に、次期領主セオドアがキール王子を連れてくる先ぶれが入り、慌てて整列している気配がした。

 廊下でお辞儀する使用人たちのアーチのような列をくぐり抜けて滞在する部屋に案内されたキールは目を白黒させた。

「ぼくはなにもおぼえていませんが、こんなにおおきなおうちに、こんなにたくさんのひとがいるなんて、しんじられません」

 キールの率直な感想にお世話係の使用人たちが微笑んだ。

「キール王子殿下のお国とは国の大きさが違いますが、人々の営み、暮らしていくために働く人々がすることは、大差ないのですよ」

 キールに部屋の中に入るように促したセオドアはバルコニーから城下町を見せた。

「はだかのおじさんがにげていますよ!」

 ごく自然に視力強化をして城下町の噴水広場を見下ろしたキールをセオドアの護衛と使用人たちは驚いたように片眉を上げて見た。

 キールの連れていた従者が誘拐犯で、一人が全裸で逃亡したことを使用人たちはすでに知らされていたらしく、自分たちも目を凝らして城下町を見下ろしたが、何もわからないようで首を傾げた。

「カイルたちには見えるかい?」

 部屋の入り口にいたぼくたちにも城下町を見るようにセオドアが促すと、まほうつかいのおにいさん!と振り返ったキールの目が輝いた。

「ぼくたちはお茶会の警護を担当する見習い騎士ですが、魔法学校の生徒です。まあ、全員、魔法使いのお兄さんですね」

 ぼくたちは部屋に入る順にキールに自己紹介をしながら、バルコニーに向かった。

「ああ、ローブを奪う際に、風魔法で礼拝者を叩きのめしましたね」

「警戒中の騎士も風魔法で足払いを食らいました」

「呪文の魔法は初見殺しですね」

 噴水広場にいた市民を人の盾として警戒中だった騎士たちの前に突き出し口元を隠して呪文を唱えて、騎士たちの足元に突風を起こして、手前の騎士を倒して後続を棋倒しにしたアリオは、教会の裏門に向かって逃走していた。

 ウィルとケインと兄貴が実況をすると、使用人たちも必死に目を凝らして城下町を見下ろした。

「予測通りの行動ですね」

 ぼくの言葉にセオドアが頷いた。

「教皇猊下が間に合っていればいいですね」

 セオドアの呟きにそんな予定を聞いていなかった護衛騎士がギョッとした表情になった。

「教会内部までスライムが入れれば状況もわかるのですが……。ああ、裏門にアリオが到着しました。吹き飛ばされた門番をぼくのスライムの分身が庇いました」

 スライムたちは想定済みのアリオの逃走ルートに分身たちを先回りさせていたので、精霊言語で報告を受けるぼくとケインは、教会の建物の陰に行ったアリオの詳細を知ることができた。

 ぼくの肩に乗ったスライムを凝視したセオドアに向かって、そうだよ、とぼくのスライムが頷いた。

「裏口から上級魔導士が押し入るなんて想定していなかった教会職員たちが吹き飛ばされていますね。可哀想に」

 ケインの言葉に、なぜわかる?とセオドアも護衛騎士たちも首を傾げるので、ぼくのスライムがタブレットに変身して現地の映像を流した。

「ああ、神学を学ぶ誓約をしたのでスライムたちも関係者以外立ち入り禁止区域に入れたようですね」

 タブレットを覗き込みながらウィルが言うと、教会の誓約か、とセオドアが呟いた。

「礼拝室前の廊下まで立ち入れるでしょうか?」

「ああ、行けそうです」

 ウィルの疑問に、アリオの先回りができたぼくのスライムが白壁の礼拝室前の廊下の映像を映し出すと待ち構える教皇猊下と月白さんの姿があった。

「間に合ったのだな!」

 胸をなでおろしたセオドアが言うと、タブレッドからドスンと大きな音がしてアリオを取り押さえようとして吹き飛ばされた教会関係者をケインのスライムの分身が白壁にあたる前に受け止めると、廊下の角を勢いよく曲がったアリオが教皇と遭遇した。

『創造神に排除された邪神を崇める不届き者め!』

 教皇は威圧を放ってアリオを吹き飛ばした。

『……クっ!すべては創造神がお造りになった世界のものを有効活用するだけだ!』

 四つん這いになったアリオが憎々し気に教皇を見上げてそう言った時、ぼくの掌が熱くなった。

「不味い!どこかに邪神の欠片の魔力がある!」

 タブレットに変身したぼくのスライムを握るぼくの掌とぼくのスライムも熱を帯びていた。

 タブレッドの映像の中では、ぼくのスライムの分身が闇の面を外側にしたウニのような形状に変身し、棘がアリオに触れるとアリオを包み込むようにひっくり返り光の球体になった。

 光影の鉄の処女に変身したぼくのスライムの分身に魔力を送り込むためタブレッド型に変身したぼくのスライムに魔力を流し込もうとしたが、掌とぼくのスライムの熱がスッと消えた。

 間に合わなかった!

「……失敗しました」

 ぼくが力なく呟くと、スクリーンの中の映像では強烈な輝きが消えたぼくのスライムの分身が半透明の黄緑色のバランスボールのようになっており、中に一枚のローブが落ちていた。

『逃してしまったか!』

 教皇が肩を落として落胆すると、ぼくのスライムの分身はキュアの形に変身して教皇にローブを手渡した。

 落胆のあまり無言になってしまったぼくの肩をセオドアが優しく叩いた。

「敵の能力の全てを把握していたわけではない中、よくあそこまで追い詰めた。奴は邪神の欠片の魔術具を使用したらどこにでも転移するし、邪神の欠片の魔術具を失えば古い教会を利用して転移してしまう。それがわかっただけでも、今後の対策に活かせる」

 落ち込むぼくにセオドアは優しく声を掛けていると、イザークの歯ぎしりがバルコニーに響いた。

「君たちはよくやった。イザーク君が咄嗟に言葉を出なかったことに責任を感じる必要はない。キール王子殿下がこうしてここにいられるのは、君たちのお陰なんだ。顔を上げて肩の力を抜きなさい」

 セオドアはイザークの両肩をポンポンと叩いた。

「はだかのおじさんは、また、はだかでにげたけど、とおくにいっていないよ」

 嘆くぼくたちにキールが声を掛けると、ぼくたちはキールを凝視した。

「よくおもいだせないけれど……あのおじさんはゆびわがないと、とおくにいけないんです」

 キールは何とか思い出そうと首を傾げながら、ぽつりぽつりと話し出した。

「ぼくは、いつも、ぐあいがわるくてねていました……。おじさんのところには、しらないおじさんがよくきていました。ねていたので、こえしかききませんでした」

 キールの話をまとめると、アリオは魔術具の貸し出しを行い、秘密組織内で魔術具を融通していたらしく、転移の魔法を可能にしていた指輪を時折、貸し出すこともあったらしい。

 教皇による一斉摘発があった時にも転移の魔法の魔術具をアリオは貸し出していたようで、具合の悪いキールを負ぶって教会の廊下の壁に手をついて転移をしたらしい。

 遠くに行けないからと、何度も転移していたことを朧げに思い出したキールに、辛かった時のことをよく思い出したね、とぼくたちは褒め称えた。

 キールのことをぼくたちに任せてセオドアはマルクさんに相談しに行った。

「からだじゅうがいたくて、つらかったけれど、くろいけむりがでてきたときに、いたくなくなりました」

 キールがぼくを見上げて、微笑んだ。

「まほうつかいのおにいさんが、ぼくのいたみを、まほうでけしてくれたんですね。ありがとうございます」

 頭を下げたキールに、どういたしまして、とぼくも笑顔で言った。

「今までよく頑張りました。これからはずっと健康でいられるように、体に気を付けましょうね」

 息を吸うかのように身体強化で視力を強化したキールに正しい魔力の使い方を学んでもらおうと、ぼくは声を掛けた。

「はい!」

 元気よく返事をしたキールに、お世話係の女性が、うんうん、と何度も頷いた。

「老師様に教えを請わなくてはなりませんね」

 お世話係の女性の言葉にぼくたちも頷いた。

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