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小さな来賓のお出迎え

 非公式でも書類上に記録を残した方がいい、とハルトおじさんが主張したので、ぼくたちは寮長室の奥の転移の部屋から辺境伯領の領城の庭の奥の転移の小屋に転移した。

 迎えに来ていた父さんとマルクさんと立ち話をしているとイザークが転移してきた。

 ぼくたちは騎士団の宿舎に移動して作戦の詳細を詰めた。


 朝を迎えると辺境伯領城での滞在を辞退したハンスの宿泊している宿屋に領城からリムジンバスで迎えに行き、実家に寄り三つ子たちを乗せて、そのまま南門に向かいイシマールさんの飛竜の嫁の飛竜便に搭乗したエリザベスと、イシマールさんの飛竜便で到着するハロハロの長男を迎えに行くことになっていた。

 外国からの招待客は領城の来客用の転移の間に転移することになっているので、不死鳥の貴公子と合流した三つ子たちも一緒に出迎える手筈になっている。

 デイジーから身元確認が取れなかった東方連合国のキール王子一行は城の裏庭の転移の小屋を到着先として指定してあり、転移の小屋の周辺に魔法陣を敷く特別厳戒態勢で迎え入れるのだ。

 小さな貴賓たちの日程は、午前中に顔合わせを兼ねたお茶会の後、観覧車で街を一望してから市内の見学、噴水広場で昼食をとり、祠巡りをして領城に帰り休憩、ささやかな夕食会の後、就寝、早朝礼拝を体験して朝食の後帰国、という予定になっていた。

 三つ子たちとハンスは祠巡りまで参加して、あとは不死鳥の貴公子が招待客をおもてなしをする段取りだ。

 王子ばかりで女子はエリザベス一人なので、状況によってはアリサが領城に残るかエリザベスが実家でお泊りすることになっているので、状況次第で母さんが大変なことになるのだ。

 騎士団宿舎では各師団から応援で領都の警備が増員されているので待機している騎士団員たちが大勢いて賑やかだった。

 第一師団に入団予定で見習い騎士のボリスの長兄オシム君の後輩、という触れ込みで騎士団の寄宿舎に宿泊したぼくたちは、認識疎外の魔法をかけていたのに既知の騎士たちに、ごきげんよう、と肩を叩かれた。

 既存の認識疎外の魔法では知人を誤魔化せないのか、とぼくたちが肩を落とすとマルクさんがケタケタと笑った。

「カイルたちが非公式にここにいた記憶が騎士たちに残る方が都合がいいので、魔法の精度をあげなくていいよ」

 辺境伯領騎士団が取り仕切り東方連合国王子を保護するが、ぼくたちの協力のもと解決した記録を非公式に残しておきたいらしい。

 祠巡りで魔力量を増やす流行の先駆けとして発展した辺境伯領では、早くも世代間の認識格差の問題が表面化してきており、思春期に祠巡りの流行が重なりその前の世代より格段に魔力量を増やした世代が成人を迎え現場に配置されると、古参の騎士たちの忠告を軽んじる傾向が出てきたらしい。

 古参の騎士たちもまた新人の力量を見誤り軽んじるから、なおさら新人が反発してしまう悪循環があるようだ。

「新人の能力が向上している原因を理解すれば、これからの新人指導に生かせるはずだからね」

 ぼくたちに影響を受けた世代だから、古参の騎士たちもぼくたちを知れば新米騎士たちに対して考え方が柔軟になる、とマルクさんは期待しているようだ。

「入団時に熟練の騎士並みの魔力量を持つ新米騎士も多く、自信過剰になっている世代なので、熟練騎士たちの実践対応力を学ぶいい機会になります」

 今回の作戦では後方でぼくたちを警備する役の新米騎士たちの勉強になる、とオシムが言うと自信過剰な新米騎士はいつの時代もいる、とマルクさんは笑った。

「熟練騎士の勘が鈍っていないか確認するのにもいい機会だ」

 オシムの肩を叩いたマルクさんはオシムに一足先に配置につくように促した。

 来年度から不死鳥の貴公子の護衛に入る予定のオシムは、不死鳥の貴公子の家庭教師の一人として城内に一足先に潜入する手筈だった。

 オシムを見送ったぼくたちも予定通りに新米騎士たちと合流し領城へ向かった。


 騎士通用門から領城の敷地内に入ったぼくたちは、騎士団の研究施設から逃げた実験魔獣を追って裏山を捜索する新米騎士と騎士見習い、という設定で転移の小屋付近に近づいた。

 東方連合国の王子をお出迎えするために次期領主セオドアが仰々しいほど護衛を従えていた。

 実験動物が逃走したと設定どおりの報告をしにマルクさんが部下を連れて合流する時刻に、東方連合国からキール王子が転移してくる予定だった。

 ぼくと兄貴とケインとウィルはぼくのスライムの分身たちを肩に乗せて転移の小屋を囲んでいる魔法陣の外側の四方向に散った。

 ぼくのスライムの分身を連れたイザークは裏山の木の陰に隠れている。

 ぼくは邪神の魔術具の存在を確認するために転移の小屋の入り口が見える位置についた。

 それぞれに新米騎士がぼくたちの背後につくと丁度時間が来たようで、マルクさんと参謀補佐ワイルドが第三師団を率いてセオドアの背後に立ち、何やら囁いた。

 転移先から魔力が流れてきたのか、転移小屋の周囲に敷かれていた魔法陣が光った。

「パターン緑!」

「魔法陣の使用の形跡なし!」

「空気の揺れもないので無詠唱魔法です!」

 使用される魔法の種類を色で反応するように設計されていた魔方陣が緑に光ると、解析役の騎士たちが魔法の種類を判別した。

 辺境伯領騎士団では、魔法陣なしで無詠唱魔法を使用するのは緑の一族の族長カカシの魔法しかいない、とされているが、騎士団の上層部では邪神の欠片の魔術具を使用すれば可能だと知っている。

 邪神の欠片がある気配がしない、とぼくとぼくの肩の上にいるスライムが首を横に振ると、マルクさんは頷いた。

 掌に熱はなく、光影の剣の出現する気配はまだしなかった。

「パターン青!確認!」

「配置変更、作戦、狐!」

 緑に輝く魔方陣の光から青色を感知した騎士が叫ぶと指揮権がマルクさんに移り、第一師団所属の騎士団員たちが一歩下がり、第三師団所属の騎士たちが魔法陣の内側に侵入した。

 マルクさんと参謀補佐ワイルドはセオドアを下がらせた。

 緑に輝く魔方陣の中の青みがかった箇所に向かい盾を構えた騎士たちが、手榴弾のような魔術具を放り投げた。

 魔法陣の輝きが小さくなると魔法陣の色も区別がつかなくなり、地面に石ころのように転がっている魔術具のそばで盾を構えた騎士が転移の小屋を丸く取り囲んだ。

 光が完全に収束すると小屋の入り口に一人の騎士が歩み出て、扉に手をかけた。

 マルクさんが左手をあげて指を狐の形にすると、転移の小屋の入り口の両側の影に二人ずつ計四人の騎士が身をかがめて警戒姿勢をとり、扉の上で水竜のお爺ちゃんが待機した。

 マルクさんが掌を開いて降ろすと、扉に手をかけていた騎士がドアノブを回した。

「ガンガイル王国ガンガイル領領城へようこそ!」

 朗らかな声で言った騎士が扉を開けると、入り口の陰で構えていた騎士たちが一斉に風魔法を放ち、水竜のお爺ちゃんが上から滝のように水を流した。

 入り口の両側からエアーカーテンのように強力な風が吹くと、扉を開けた騎士は後方に吹き飛ばされるように下がり、盾を構えた騎士たちが下がった騎士の前に割り込んだ。

 水竜のお爺ちゃんが放った水は風に遮られるかのように外に出ることはなく、転移の小屋の中に流れ込んだ。

 地面に転がっていた魔術具が一斉に爆発し青い光が転移の小屋を取り囲んだ。

 掌が熱くなると感じた瞬間、ぼくは光影のロケットランチャーを出現させ肩に担いだ。

「逃がさないぞ!」

「光と闇の神の御力を賜った魔法は標的を外さない!」

 ぼくとイザークの怒号が裏庭に響くと、ぼくは転移小屋に向かって光影の弾丸を発射し、兄貴とケインとウィルの肩の上にいたぼくのスライムの分身たちが一斉に光影の短針銃を撃った。

 轟音と共に片面が光で片面が真っ黒闇の弾丸が回転しながら入り口から突入し、ぼくのスライムの分身が撃ち込んだ光影の針が小屋に吸い込まれるように刺さると壁を傷つけることなく通過した。

 やりすぎだろ!とぼくを警護する新米騎士がぼくの横で茫然と立っていた。

「やったか!」

「逃がしたか!」

 マルクさんと参謀補佐ワイルドは同時に呟いた。

「転移小屋の中に少年と二人の従者がいます。光影の弾丸の治癒魔法によって健康状態は良好です」

 参謀補佐ワイルドの言葉にマルクさんは頷いた。

「水竜のお爺ちゃん!小屋の中の水を消してくれ!水が消え次第、突入!」

 マルクさんの指揮に水竜のお爺ちゃんが水を消失させると、盾を構えていた騎士たちが転移の小屋の中に突入した。

 逃したか!と言う参謀補佐ワイルドの言葉が聞こえた時には、掌の熱も光影のロケットランチャーも消えており、邪神の欠片の魔術具を消滅させたのか、間に合わずに転移させてしまったのかわからなかった。

 転移の小屋から騎士たちによって連れ出されたのは五、六歳の少年と、くたびれた顔をした従者っぽい衣装を着た二人のおじさんだった。

 小屋から出てきた騎士の手には脱ぎ捨てられたかのような従者らしき一着の衣装があった。

「どうやら一人取り逃がしたようです!」

 騎士の報告を聞いたマルクさんは首を傾げた。

「転移魔法を使用すると光る魔法陣が反応しなかったぞ!」

「いえ、パターン緑で微弱ながら反応がありました。魔法陣に魔力が満たされる前に消滅しました」

 魔法陣を判定していた騎士が報告をすると、参謀補佐ワイルドが眉を顰めた。

「まだ、遠くに逃げていない!全裸の男を捜索せよ」

 靴と下着まで騎士たちが手にしているということは逃走した男はおそらく全裸だろう。

 分隊長に伝令を!と第一師団長が叫ぶと、魔術具の鳩が一斉に飛び立った。

「……ここはどこ?ぼくは……だれ?」

 騎士に手を引かれた少年の呟きを聞いたセオドアは、長男と同い年だろう少年を気の毒そうに見た。

 “……ご主人様。亜空間に待機しているデイジーに聞かなくても私にも見えました”

「あなたは東方連合国の東北地方の小さな島国の王子様でキールと言う名前ですよ」

 参謀補佐ワイルドが優しく声を掛けると、兄貴が頷くのが見えた。

 デイジーに確認しなくても邪神の欠片の魔術具と少年が離れたことで、太陽柱の映像にキールの過去が出現したらしい。

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