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お祭り騒ぎ!

 第三夫人との連絡はシロが定期的に第三夫人の離宮を訪れ、第三夫人の身代わり人形を置いてオーレンハイム卿夫人と出かけているので難なくできるのだが、公式には第三夫人から手紙の返事をもらえない状況に陥っていた。

 兄貴とシロは斜め下を見てぼくたちと視線を合わせないようにしている。

 決定的な未来はなく複数の可能性が存在している状況で助言のしようがないのだろう。

「ノーラさんの新しい脚本をキャロお嬢様はもう読んだの?」

 ケインが尋ねると、ウフフフフ、と女子たちが笑った。

「悲劇的要素はそれほどでなく、冒険と恋愛がメインの青春アドベンチャーでしたわ」

 膝を叩いて照れ笑いするキャロお嬢様を、ミーアが生暖かい目で見ていた。

 どうやらキャロお嬢様をモデルにした箇所がかなりあるようだ。

「オーレンハイム卿夫人は第三夫人にお手紙で新しい舞台の脚本について説明しているだろうから、面会の折に一部キャロお嬢様が実演してみせる、とキャロお嬢様からの手紙で匂わせたらどうだろう?」

 実際に会わなければ見られない特別な寸劇をすべきだ、とケインが提案するとキャロお嬢様は硬直し、ミーアは手を叩いて喜んだ。

 連絡手段があることで呑気になっている第三夫人は放っておいたら現状を変えようと夫人自身は行動しないだろうから、このくらい大胆な発想で誘い出す方がいいだろう。

 ケインの意見にシロが静かに頷いた。

 そうか!

 それなら、天岩戸作戦ということで第三夫人の離宮の外で大騒ぎをすればいい!

 パチンとぼくが掌に拳を叩きつけると、何か思いついたの?とウィルが食いついた。

「キャロお嬢様とクレメント氏が舞台の一幕を完璧に覚えて演じられることを帝都の上空でほんの少しだけ映像を映し出したら、第三夫人の離宮からも見えるし、続きが気になって仕方なくなるでしょう?」

 ぼくの提案に、上空に映像?と在校生たちは頭に疑問符が浮かんだ表情になり、ああ、と共に旅をした新入生たちはサントスの魔術具を仕掛けた場所を偽造して土地が荒廃したように見せかけた映像を思い出した。

「アドニスの詠唱魔法は空間に映像を浮かび上がらせることができて、広域魔法魔術具を使用することで指定した範囲に大きな映像を浮かび上がらせることが可能になるんだ」

 在校生に説明しながら、アドニスに談話室のテーブルの上にケーキビュッフェの映像を流してもらうと、うわああああ、と驚いた寮生たちはゴクンと生唾を飲み込んだ。

 甘い香りを再現したぼくのスライムに、やりすぎだ、と視線を向けると、よくやった!とケインは親指を立ててぼくのスライムを褒めた。

「帝都の上空に演技している自分が大きく浮かび上がるなんて恥ずかしくて耐えられません!」

 キャロお嬢様が赤面して言うと、その気になっていたのかクレメント氏が残念そうに俯いた。

「いえ、キャロお嬢様!これは第三夫人に揺さぶりをかける大きなチャンスです。主人公はあくまでアドニスさんがモデルなのです。男装で派手な舞台メイクをしてしまえばキャロお嬢さまとはわかりません!役者として役になりきってしまえばいいのです」

 キャロお嬢様を飾り立てることが好きなミーアが、男装の麗人!と嬉しそうに口ずさんだ。

 “……皇帝陛下が密かに帝都を離れている夕方礼拝の後に上映すれば、帝都の薄暗がりの中に大きく浮かび上がる映像を皇帝陛下は自身の目で確認できないから、その事実だけで、ガンガイル王国を蔑ろにするな、と重圧をかけることができるだろう”

 頑なに面会を認めない皇帝にプレッシャーをかけることになる、と水竜のお爺ちゃんは主張した。

「中央教会の大司祭に話を通しておこう。神学生との共同研究ということにすれば帝都の上空に大きな映像を浮かび上がらせることに対して王宮の許可が必要なくなり、承認の申請をするだけでいいだろう」

 教会を巻き込むことで皇帝に詳細を知られずに準備ができる、と寮長は乗り気になった。

 ぼくたちは早速、帝都の地図を広げると、第三夫人の離宮から見るのに丁度よい映像の高さと大きさをビンスたちが計算し始めた。

 脚本の草稿をすでに読んでいる女子たちは衣装の作りやすさとインパクトの大きさを比較してどの場面を演じたらいいか話し始めた。

 オーレンハイム卿夫人に手紙を書いたり、衣装を手配するための商会に連絡を入れたり、と突如として寮内の全員が大騒ぎに巻き込まれた。


「ほんの数日、寮を留守にしていただけで、とんでもないことになっているじゃないか!」

 ジェイ叔父とお婆が辺境伯領城の転移魔法で寮に戻ってきた時には、中央教会の大司祭にも教会上空の使用許可を取り、ぼくたちは広域魔法魔術具の制作を始めていた。

「オーレンハイム卿夫人はすっかり乗り気になってしまって舞台の小道具の仕掛けをジーンに依頼したので辺境伯領の自宅もてんてこ舞いよ」

 本番の脚本を仕上げる段階で演出に凝りだしたオーレンハイム卿夫人は魔力量の少ない役者でも使用できる小道具の魔術具の制作をジェイ叔父さんではなく小物が得意な母さんに発注したらしい。

 帝都と辺境伯領都を行き来するお婆に母さんは微調整を頼んだようで、お婆も大忙しだった。

 キャロお嬢様と第三夫人の面会日がいつになるのか決まっていないが、予告編が公開されれば本公演に注目が集まるのは間違いないのでオーレンハイム卿夫人は入念に準備をしているらしい。

 キャロお嬢様とクレメント氏は予告編映像の練習に加えて、第三夫人との面会時の演技指導を受けるため祠巡り以外の時間は芝居の練習に費やしていた。

「私は小道具に頼らず自分で魔法の演出をしますから魔法学校の予習にもなるのです!」

 一石二鳥だとキャロお嬢様が主張すると、お嬢様の希望する専攻学科の資料はすでに集めてあります、と優秀な助手らしくミーアが言った。

「王宮の敷地内で魔法を使用する許可を取るための資料作りに寮の職員たちが追われているから、くれぐれも興に乗って予定以上の魔法を使用しないでね」

 ケインは面会時に魔法を使用しても問題ないように、演者二人の半径三メートルに魔法の効力の範囲を指定した魔術具を制作し、王宮内に持ち込めるように申請書類を作っていた。

「ええ、皆さんの準備を台無しにするようなことは致しません」

 意気込むキャロお嬢様にアドニスが緊張した面持ちで頷いた。

「上映会当日は教皇猊下もお忍びで見に来られるそうですから、上手に再現できるように頑張ります」

 アドニスの詠唱魔法を広域魔法魔術具で増幅させて上映するので、予告編映像の仕上がりはアドニスがイメージを固める作業の出来が一番の肝になる。

「教会上空で上映するとなると、映像の全体を見渡せる場所は中央広場より城壁の物見櫓なんだよね。中央広場に集まりがちになる市民たちを市街地の端に誘導するにはどうしたらいいんだろう?」

 当日の問題点を指摘すると、食堂で進捗状況を話し合っていたみんなも頭を抱えた。

「寮生たちは露天風呂から見ればちょうどいい位置だから外出の心配はないが、夜間の瘴気発生が少なくなったとはいえ、大勢の市民を城壁際に集めるのはいかがなものか」

 公安に相談すべきか、と寮長が思案していると、商会の代表者が口を開いた。

「教会前の中央広場を避けて、光と闇の神の祠以外の五つの神の祠で軽めの夜食を出す夜の露店を出しましょうか。露天は通常は中央広場の朝市に出店していますが、一日くらい五つの神の祠で夜の露店を出店しても、光と闇の神を蔑ろにすることにはならないでしょう?」

 ある程度見えやすい開けた場所に分散して人を集めておけば騒ぎにならないだろう、と商会の代表者が提案すると、名案だ!と寮長が賛同した。

 人の流れをあらかじめ作っておくことはいい案だと思ったが、聖典を読み込んだぼくたちは、七大神の中でどの神々よりも優先すべき光と闇の神の祠前に夜の露店が一つもないのはいかがなものか、と首を傾げた。

「早朝から日中にかけて中央広場に出店し、夕方礼拝の時刻に合わせて聖典の記載順に五つの神の祠に露店を分散したらどうだろう」

 名案だ!とケインの提案に全員が笑顔になった。

 従者ワイルドと兄貴とシロも頷いた、ということは、七大神に礼を尽くすこの案が正解なのだろう。

「屋台の準備に我々も忙しくなりますが、間に合わせます」

 話が徐々に大きくなっているな、とこの時にも感じたが、中央教会の大司祭と寮長が話を詰めると、お祭り騒ぎは本当に宵宮のようになることになった。


「オムライス祭りの前夜祭に上映会をするのですか!」

 朝食の食堂で寮長が唐突に切り出した。

「中央教会の鶏舎の鶏たちが卵を毎日たくさん産み始めたようで、今年のオムライス祭りをどうしよう、という話になったのだよ」

「去年食材を方々から集めた関係で、今年もうちの商会にオムライス祭りの食材が集まってきています」

 昨年オムライス祭りに食材を提供した業者は業績がうなぎ登りによくなったことで、あやかりたいと食材を寄贈する業者が増えたらしい。

「オムライス祭りの準備は慣れているので問題ないですけれど、宵宮までするということは今年のオムライス祭りは一般市民用にもっと多く作らなくてはならないのでしょうね」

 規模が大きくなるとウィルが指摘すると、寮生たちのスライムたちが、今年は自分たちも頑張る!というかのようにテーブルの上で触手を振りあげた。

「人手、いや、スライムたちの手がたくさんあると助かるのだが、今年は寄宿舎生たちが張り切っていて、詠唱魔法で巨大フライパンを操作してみたいらしい。早めにフライパンを借りれないかと打診があった」

 魔法で物理的に揺らしても美味しいオムライスになるわけではないので指導をしてほしい、と寮長はぼくの魔獣たちに頼んだ。

 任せておけ!とぼくの魔獣たちは鼻息を荒くして頷いた。

 上映会の準備は事前に魔術具に仕込んでおくので、当日が近くなれば手が空くぼくたちもオムライス祭りを手伝うことにした。


 当日が近くなると寮内がさらに騒々しくなることはぼくもケインも予想できたが、それでも、巨大フライパンを転移させるときにハルトおじさんばかりか母さんまで転移してくるなんて予測できなかった。

 兄貴とシロが首を傾げているということは、母さんの襲来を予測できない干渉か何かがあったのだろうか?

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