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ヘンタイたちの言い訳

 夜中の散策を終えた水竜のお爺ちゃんが寮の塀に張り付けられた不審者たちの尋問を始めた映像をみぃちゃんのスライムが映し出した。

 “……シシリアって誰のことだ!ガンガイル王国の女子寮が見える場所にいたってことは、お前は少女たちをのぞき見しようとするヘンタイか!それとも、少女たちの誘拐を画策していたのか!”

 水竜のお爺ちゃんが聞き取りした内容をぼくのスライムの分身がメモに書き出し一人一人の不審者たちに張り付けていた。

 総勢十二人の不審者たちのほとんどが二色の髪色をしたアドニスの目撃情報を耳にした貴族が手を回したチンピラ崩れの自称冒険者だったが、中には金になりそうだから、と理由も知らずに見に来ていただけの輩もいた。

 司祭補の制服を着た不審者は、本人は貸衣装だと言い張ったので、自称ニセ司祭補、とぼくのスライムがメモに大きく書いて額に張り付けた。

「詳しくは明日の朝に追及すればいいだろうから、取り敢えず寝ようか……」

 不審者たちから取り立てて新情報が得られなかったことで魔獣たちが活躍した高揚感が消えると、睡魔が襲ってきたのでぼくはそのまま寝落ちした。


「仲良しだね。何か企んでいたんだったら誘ってくれても良かったのに!」

 日の出前に起きるのが日常だったのにちょっとだけ寝坊したぼくは繋いだベッドの真ん中のウィルのスライムのベッドの上で目が覚めた。

「もう日の出の時刻なの?」

 まだ薄暗い室内でボリスが、仲間外れにされた!と憤っている。

「スライムが部屋にいないことに気付いて探しに外に出ると、寮の塀に不審な男たちがスライムたちに磔にされていたから寮長の部屋に行く前にカイルに事情を聞きに来たんだよ」

 スライムたちのやらかすことはだいたいぼくのスライムが仕切っていると考えたボリスがぼくの部屋に来ると、ウィルと兄貴が泊まり込んでいたので、自分がいない間に何かあったと知ったらしい。

「女子寮の様子を窺っていた不審者が十五人もいたなんて驚きだけど、水竜のお爺ちゃんが張り切りすぎて全員の供述が張り出されているから何もすることがないよ」

 あのまま晒し者にしておけば公安が引き取ってくれそうだ、とボリスがぼやいた。

「ぼくが寝る前より人数が増えたみたいだね」

 ケインとウィルもぼくとほとんど同時に寝落ちしたらしく、三人増えた、と二人も笑った。

 “……アドニスの情報に早い者勝ちの懸賞金がかけられていたようで、二色の髪色の少年がガンガイル王国寮に本当にいるのか?いるなら部屋にいるか?など、細かな情報でも買い取りの値がついていたのに、誰も情報を持ってこないので、どんどん依頼に挑戦する冒険者が増えたらしい”

 ぼくたちが身支度をする間に精霊言語で水竜のお爺ちゃんが説明してくれた。

「アドニスの調査依頼を出していた貴族も複数いるようだったね」

 ぼくのスライムは触手で腕を組んで、第四皇子が怪しいね、と報告した。

「第二皇子に第三皇子と第五皇子が付いた、と言われているのに、第三皇子に隠し子がいた、とまことしやかに騒がれているからそのせいだよ」

 第二皇子と敵対していた勢力が何としても第三皇子を推し出したいらしく、ガンガイル王国寮に保護された第三皇子の隠し子の情報を我先にと血眼になって集めているらしい。

「アドニスが女の子だとわかっていたから女子寮を覗こうとしていたんじゃないの?」

 門番がチラッと確認しただけの情報ならアドニスは少年にしか見えないのに、女子寮ばかりに不審者が集まっていたことをケインが指摘すると水竜のお爺ちゃんが頷いた。

 “……日中に運び込まれた荷物が女子寮側の方が多かったから、皇子の隠し子は女子寮側だと推測していたようだ”

 女子寮を覗くつもりではなかったのに張り込んでいた冒険者たちが結果として女子寮側に多くいると、その後集まってきた冒険者たちまで女子寮側に行ってしまい、スライムたちにヘンタイ認定されてボコボコにされたのか。

「早朝礼拝に行くついでに拘束された冒険者たちの間抜け面でも見に行こうか」

 ウィルの言葉に頷いて外に出ると、多くの寮生たちが既に塀の前な集まって冒険者たちの間抜け面を観察していた。


「二色の髪色の少年の情報なんて目立つんだから、一晩待てば普通に目撃されそうなのに、なんで夜通し寮で張り込むなんて無駄なことをしたんだろうね」

 クリスは相手が知らない情報を出さずに磔にされている冒険者たちを煽った。

「第三皇子殿下に取り入ろうとしたところで、殿下は王都にいませんし、夫人も取り次がないはずですよね」

 男装のキャロルがゴミでも見るかのような侮蔑の籠もった眼差しで磔にされている冒険者たちを見た。

「第三皇子殿下が不在だなんてなんでわかるんだ!」

 司祭補の変装をしていた男が、テキトーなことを言うな!といい捨てると、マテルが首を横に振った。

「皇子殿下の何人かは現在帝都を離れていらっしゃいますね。魔力探査をすればそのぐらいわかります。能力の低い冒険者はそんなこともわからないから、屑みたいな依頼しか引き受けないのですか?」

「魔法学校生が冒険者登録をするようになったから、正規の冒険者たちの仕事が少なくなったというのは本当なのですね」

 ミロの言葉に、噂は本当だったのか!と新入生たちが騒めいた。

 貴族の子弟たちが受けない依頼を受けた、ということは事実だったので冒険者たちは気まずそうに顔を逸らした。

「早朝から何の騒ぎかと思えば、罪状が書かれているじゃないか!」

 昨晩、飲み過ぎたのか目をはらした寮長が様子を見に来ると『女子寮を覗こうとしたヘンタイ』と書かれた札を首から下げている冒険者たちを見て爆笑した。

「ヘンタイたちは公安に引き渡すとしても、司祭補の制服を着用している奴は身分詐称だから教会に引き渡さないといけないな」

 アドニスの調査依頼を受けた冒険者たちは寮に侵入したわけではないので、治外法権のあるガンガイル寮とはいえ寮長に裁く権限がない。

 ヘンタイ行為をした、と冒険者たちを晒すことで留飲を下げるつもりなのか、誰も公安を呼ぼうとしていない。

「教会関係者の身分を詐称すると極刑もあり得るって本当ですか?」

 何も知らない無邪気な少年を装ったウィルが寮長に尋ねると、寮長は嬉しそうに頷いた。

「市民登録をする司祭や司祭補の身分に詐称すると帝国の法律では極刑もあり得る。教会ではなく憲兵に差し出した方がいいのか!」

 寮長の発言にぼくたちが頷くと、私は教会関係者だ!と司祭補の服を着た自称冒険者は自白した。

 昨晩、事情聴取をした水竜のお爺ちゃんが、儂を謀ったのか!軽く威圧を放つと男が粗相をしたので咄嗟に清掃魔法をかけた。

 “……カイルは優しいね”

「汚いし臭いのが嫌だからね」

 ぼくが即答すると司祭補の服を着た男がまじまじとぼくを見た。

「お前がカイルなのか!」

「何か知っていそうだから、こいつだけ連行しよう!」

 寮長がそう言うと、司祭補の服を着た男を拘束していたスライムとぼくのスライムの分身が交代して男を包み込んだ。

 光影の剣が出現する前兆もなかったのでぼくもぼくのスライムも司祭服を着た男を雑魚冒険者だと思い込んでいた。

 ぼくのスライムに包み込まれた男が暴れると、ぼくのスライムが電流を流して大人しくさせたのを見た磔にされている冒険者たちがゴクンと喉を鳴らした。

「暴れなければ手荒く扱われませんよ」

 キャロルの言葉にそれぞれの主人の肩の上にいるスライムたちが頷いた。

「寮内に連れ込むのも癪だから物置に放り込んでおこうか」

 寮長の言葉に嬉々として頷いたぼくのスライムは男を包んだ分身を厩舎の横の物置に飛ばした。

 “……あいつの追加の尋問を儂と寮長が引き受けるから、早朝礼拝に行ってきたらいい”

 ちょっと厳しめの尋問を企んでいるのか水竜のお爺ちゃんはぼくたちにいつもの日課を熟すように促した。


 祠巡りのローブに認識疎外の魔法陣が施してあったので、アドニスはとりわけ目立つことなく祠巡りと早朝礼拝を済ませることができた。

 早朝から中央広場でお弁当を販売していることにアドニスやマテルは驚いたけれど、みんなぼくたちの知り合いだとわかると苦笑に代わった。

「帝都が豊かになったのはガンガイル王国の留学生たちが増えてから、というのを、目の当たりにしただけだったのですね」

 小声でアドニスがそう言うと、中央広場で合流したアーロンとマリアとデイジーが笑った。

「寮の前に面白いものが磔になっている、と小耳に挟んだので見に行ってもいいですか?」

 デイジーが含み笑いをしながらそう言うとキャロルは頷いた。

「ヘンタイたちの面を拝んでやってください!」

 ぼくたちがワイワイ言いながら寮に戻ると、ご近所さんから通報があったのか憲兵たちが磔にあっている冒険者たちから事情を聴いていた。

「あの寮では化け物の魔獣を飼っているんです!」

「向かいの建物より大きな怪獣に襲われて、気が付けば磔にされていました!」

 冒険者たちは口々に夜道を歩いていただけなのに化け物に襲われた、と憲兵たちに訴えていた。

「あのなぁ。外国の寮の敷地内は我々の管轄外で、どんな魔獣を飼育していたとしても我々には調査する権限もないんだよ」

 苦笑する憲兵に、敷地から化け物が出てきて路上で襲われたんだ!と冒険者たちは訴えた。

「化け物を飼育しているのかい?」

 顔なじみの憲兵がクリスに問いかけるとクリスは首を傾げた。

「多くの寮生が使役魔獣を所持していますが、こんな子たちですよ」

 ポケットから自分のスライムをクリスが取り出すと、そうだよな、見たことあるよ、と憲兵たちは顔を見合わせて口々に言った。

「大きくなったら大型魔獣になる飛竜もいますが、昨晩は一緒のベッドに寝ていましたよ」

 ぼくの鞄からキュアがひょこっと顔を出すと、憲兵たちの口が、可愛い、と動いた。

「ガンガイル王国寮の大型魔獣といえば……聖馬のポニーですよね」

 大きいけれど小柄だ、と憲兵たちが笑うと、磔にされた冒険者たちが文字通り地団太を踏んた。

「凶暴な大型魔獣がいたんだ!」

 見かねたウィルがポケットから砂鼠を出すと、みぃちゃんとみゃぁちゃんもポーチから飛び出した。

 道路の真ん中で、チュー、と砂鼠が鳴くと、ミャー、ニャー、とみぃちゃんとみゃぁちゃんも鳴いた。

 可愛いね、と寮生たちが屈んで三匹を見守るとぼくのスライムが強烈に発光して寮の塀に三匹の大きな影を作った。

 ギァーギャーと男たちの汚い悲鳴が上がると、合点がいった憲兵たちが腹を抱えて大爆笑した。

「鼠と猫たちの影を怪獣だと勘違いしたのか!」

 寮生たちは三匹が普通の鼠と猫たちじゃないことを知っていたので、冒険者たちが本気で怯えた理由を推測できたが、憲兵たちと一緒になって笑ってその場をやり過ごした。

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