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新学期の心配事

 滑空場でぼくたちも収穫の作業を手伝うと、人手と使用できる魔力量が格段に増えたことでノア先生やグレイ先生の予測より早く作業を終えた。

 帝都に戻るとマリアやアーロンやデイジーたちはそれぞれの生活に戻ることになるので、収穫祭と分散会を兼ねた焼肉パーティーをする事になった。

 ベンさんが旅の食糧として蓄えていた肉を大放出し、新調味料として塩湖の塩を用意すると広域魔法魔術具講座の受講生たちから歓声が上がった。

 ぼくたちは焼肉を堪能しながら、塩湖で遊んだ思い出話に花が咲いた。

 スライムたちが記念撮影した空と地上が鏡映しになりぼくたちが空の中で遊んでいるような映像をスライムの巨大スクリーンに映し出しスライドショーをすると、デイジーたち東方連合国チームだけでなく広域魔法魔術具講座の受講生たちも羨ましがった。

「戦争も終わり、移動制限が緩和されたら行ってみたいところはたくさんありますね」

 物心ついた時から戦時中で世論の無言の圧力で言動を制限されていることが当たり前だった、とノア先生が遠い目をして言うと、グレイ先生も頷いた。

「生まれ育った領地の所属する派閥を超えて旅をするのが困難でしたね。疚しいことがなくても旅先の領主に疑わしいと検挙されてしまえば、よほどのコネがない限り戻れないのが常でしたからね」

 グレイ先生の言葉に商会の代表者が頷いた。

「緑の一族を敵に回す領主はいないでしょう」

「裏取りをする前に処分を下す地域がなかったわけではないのですよ」

 商会の代表者の言葉を聞いたノア先生が、商品を収奪したとしても利益は一時的じゃないか、馬鹿だな、と呟くと犠牲者を思い出したのか商会の代表者は神妙な表情になった。

「緑の一族を拒否した地は荒廃を免れないと聞きます……」

「緑の一族に関わりなく、そういった地域は荒廃していくものです」

 グレイ先生の言葉に被せるように護りの魔法陣が不安定な土地があることを指摘すると、ケタケタ、とキャロルが笑った。

「土地の魔力を増やし、その土地で得た利益の納税を誤魔化さない緑の一族を拒む為政者などいません。緑の一族に介入されたくない為政者は二重の誤魔化しがあるのでしょうね」

 キャロルの言葉に、二重の誤魔化し?とマテルとアドニスが首を傾げた。

「そもそも為政者に緑の一族についての知識がない。つまりそれは、世界の魔力の流れについて知らない立場にいた新参者が、土地の護りの結界が不十分でもなんとかなっていると見せかけてしまう誤魔化しです。もう一つは、あえて知識のないものを為政者にして、その地域を荒廃させ、相対的に自分の領地経営が成功しているかのように見せる誤魔化しです。帝国の派閥と、ガンガイル王国の派閥の大きな違いはそこでしたね」

 国土を破綻させるような派閥争いではなかったとキャロルが説明すると、マテルらアドニスだけでなくアーロンとデイジーも頷いた。

「ムスタッチャ諸国でも知識の継承者として傍系王族は名誉地位しかない状態ですが、護りの結界の知識を受け継いでいます」

「派閥内に傍系王族を残しておくのは為政者として常識です。権力を与えすぎず、知識人として重用する、というか、そのための役職が東方連合国には存在しています」

 当番制の東の魔女がそういった役職なのか、と事情を知るぼくとウィルが頷いていると、グレイ先生が掌をパシンと叩いた。

「だから、東方連合国縁の人物に終戦処理が任命されているのですね!」

「領地を賜って結果を出せば、任期終了に伴って領地を没収されるようでは、あえて成果を出さないようにするでしょうに」

 魅力ある土地は帝国内の権力者に奪われるだろう、とウィルが予測すると、ノア先生が首を横に振った。

「いえ、南部の新領地の雇われ領主は成果に合わせて報酬を賜る方式なので、できの良い領主を挿げ替えてしまうと利益が出せなくなります。今までにない方式なので王宮でも話題になっていますよ。この方式が成功すれば第二皇子の功績になります」

 第三皇子が第二皇子を全面的に支援しているので、第六皇子が足を引っ張らない限り成功するだろう。

 帝国支配下の祖国の話にマテルが感情的にならないように、ウィルは牛タンにネギ塩を載せて巻いて食べると美味しいよ、とマテルに勧めていた。

「戦争で荒れた南部地域の方が北部より収穫高が上がるようになったら、北方地域の領主たちは目も当てられないではないでしょうね」

 ぼくたちのやり取りを聞いていた広域魔法魔術具講座の受講生の一人が、うちの領主様がヤバそうだ、と呟くと、グレイ先生が笑った。

「そういった流れからなのか、広域魔法魔術具講座の予算が増えて、受講生の受け入れ人数を増やすことに圧力がかかっている。そうはいっても、指導する私が大変なので終了生たちの聴講を禁止しようかと考えたのだが、それも反対されている」

 試験に合格しても手伝いに来ていた受講生たちが、もうここに来れなくなるのか!と顔色を変えた。

 実験も面白いし、美味しい物にもありつけるので、滑空場の農場の手伝いは人気がある。

「どうやら、多毛作を繰り返しても豊作が続く滑空場の農場に注目が集まっているのだが、カイル君やウィル君が講座を修了してしまうのも惜しまれているようで、二年の受講期間は短縮しないように、と学校長に念を押されているんです」

 授業計画に変更なく受け入れ人数だけ増やせと言われても、とグレイ先生がブツブツと愚痴を言った。

「今年も成績順で受講生を受け入れるのですよね?」

 ケインは広域魔法魔術具講座を希望しているのでグレイ先生に尋ねると、二人の先生は同時に頷いた。

 よし!と新入生一行が満面の笑みを見せた。

「留学試験は手加減なしの本気で受験しました。キャロル様に負ける気がしません!」

 ミロが宣言すると他の新入生たちも頷いた。

「ガンガイル王国では高位の貴族に在校生は忖度しないのですか?」

「ここ数年、そんな遠慮はしませんね。いえ、王太子殿下のご子息が魔法学校のご入学を控えているからそういった方もいるかもしれませんね」

 小さいオスカー殿下の疑問にウィルが答えると、結果が伴っている、と二人の先生は頷いた。

「幼少期の成績なんて成人後の力量を保証するものでもありません。ですが、ここで手加減していては状況を制御できなくなってしまいます!我が姫が希望する講座に不埒な者が入り込まないようにガンガイル王国留学生一行で固めてしまうためには姫に劣らぬ成績でなくてはなりません!」

 左手で力こぶを作って力説するミロに、新入生一同が、おう!と呼応した。

 うちの講座に来ないかい?とグレイ先生とノア先生が同時にキャロルに勧誘を掛けた。

「広域魔法魔術具講座は面白そうですが、飛行魔法学は魔法学校の制服で参加するのは躊躇われますね」

「魔獣学では専用の制服を用意していますよ」

「植物学も実習服があります」

 広域魔法魔術具講座の受講生たちがお勧めの講座を口にすると、裏切り者!とノア先生が叫んで笑いを取った。

「私が皆さんと同じ講座を受講するのは無理そうですね……。牛タン美味しいです。もう一枚下さい」

 アドニスは、仕方がない、と食に逃避しようとすると、広域魔法魔術具講座の受講生たちが首を傾げた。

「体が弱くて魔法学校に通えなかった、ということでしたが、ガンガイル王国の最上質の回復薬で全快してから、このメンバーと旅をしていたのですよね」

 グレイ先生がぼくたちを見てそう言うと、アドニスは頷いた。

「入学試験を受けてみないとはっきりしませんが、そんなに気を張らずに受験するといいですよ」

 ノア先生も柔和な笑顔でアドニスに声を掛けた。

「私も皆さんと旅をして実感していますが帝都の魔法学校はレベルが格段に違いますよね。下級クラスに編入されても落ち込むことはありませんよ。頑張りましょう!」

 上級魔法学校に編入するつもりのマテルは自分も編入試験に合格できれば御の字だ、というような口ぶりでアドニスを励ました。

「……帝都の魔法学校のレベルは、一部の生徒に限って物凄くレベルが高いだけだよ……」

 広域魔法魔術具講座の受講生の言葉に二人の先生が頷いた。

 マテルとアドニスは落ちこぼれないように頑張ります!と控えめな発言をしたが、広域魔法魔術具講座の受講生たちや二人の先生は、収穫の手伝いや焼肉の準備に魔法を多用していた二人が落ちこぼれるはずがない、と生暖かい目で見ていた。

「今年もガンガイル王国の留学生たちは優秀そうだから競技会が楽しみですね」

 グレイ先生の言葉にノア先生も頷いてぼくとウィルを見たが、へへっとぼくは誤魔化すように笑った。

 魔猿の村でも話題になったが、キャロルたちが張り切っているから、ぼくは身を引こうかと考えていた。

「今年は神学の勉強に力を入れたいので、競技会は新入生たちに任せようかと考えています」

 ぼくの発言に全員がギョッとしてぼくを見た。

「せっかく初級魔導士試験に合格したのに、競技会では祝詞の使用は禁止されているではありませんか」

 詠唱魔法を極めてみたい、とぼくが言うと、それもそうか、と旅を共にした面々は、邪神の欠片が浮いてきたらその始末を優先するのだろうと納得したが、広域魔法魔術具講座の受講生たちと二人の先生は、初級魔導士試験に合格!とそっちの内容に驚愕していた。

「ぼくたち全員、初級魔導士試験に合格しましたよ」

 たいしたことではないという口ぶりでウィルが言うと、二人の先生は天を仰いで口をパクパクさせ、何か言いたい言葉があるのに飲み込んでいるように見えた。

「……第二皇子殿下の肝いりの案件で、貴族の子弟が聖職者にならなくても神学を学べる学校を新設すると大騒ぎになっていましたが、もう受講したということですか?」

 何度か空気を飲み込んだ後、ノア先生が尋ねると、ちょっと違う、とぼくたちは首を傾げた。

「新しい神学校がもう設立されたわけではなく、神学の新たな学科の新設に当たってカリキュラムや試験内容の変更を検討しておられた教皇猊下に直接試験をしていただきました」

 教皇猊下から直接試験を受けた!と二人の先生は事態を飲み込むのに精いっぱいな状態だったが、祝詞を使えるの!と広域魔法魔術具講座の受講生たちは馴染みのない魔導士の魔法に興味津々になった。

「そっか!もう、祝詞が使えるのだから、今日収穫した麦の藁も発酵させたら飼料になるかな?」

 刈り取った麦藁ロールは厩舎の敷き藁に使用されるが飼料にはしない。

 美味しく発酵できたなら寝床の敷き藁も牛たちは食べ放題になるのかな?というぼくの思い付きに賛同した留学生一行は、発酵の神の祝詞の出番だ!とがぜん張り切り出した。

 七輪の前から離れないデイジーを放置して、牧藁ロールを一人一つずつ祝詞を使用して発酵させていると、二人の先生が首を傾げていた。

「初級魔導士の祝詞って、あんなに短いものなのか!?」

 違う、とベンさんと従者ワイルドが首を横に振ると、あいつらはどうなっているんだ!と広域魔法魔術具講座の受講生たちと二人の先生が天を仰いだ。

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