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抜き打ち試験!

「私の罪に神々が罰を下すなんて……。私に『世界の理に則った世界』の実現のために行ったことで神罰が下るなんておかしいだろう!」

 “……だから、その『世界の理に則った世界』という考え方がおかしいんだ。人間が人間の規則で生活することを神々は干渉なさらないが、さすがに世界中を一変させたあれの残骸を利用するなんて、神々のお目こぼしの限界が来たらどうなるかぐらいの想像はつくだろうが!”

「いつか誰かに突然神罰が下るのか!?」

「いつか、誰かではなく、その時は人類が滅亡する世界の終焉が来るかもしれないんじゃよ!」

 文字と言葉を失った時代がもう一度起こったらどうなると思っているのじゃ!とマナさんが男を叱り飛ばした。

 マナさんの怒りを見ていたアドニスは自分の胸に手を置いて考え込むように首を傾げた。

「日々のお勤めを上っ面だけこなしている聖職者だからそんな言葉に騙されたのでしょうね」

 アドニスの呟きに月白さんとワイルド上級精霊が頷いた。

 子どもに何がわかるのか!と言いたげな険しい視線をアドニスに向けた男はあんぐりと顎を引いて驚いた。

 第三皇子夫人が不躾な男の視線から遮るように座る位置を変えると、アドニスは第三皇子夫人を制して立ち上がった。

「お母様、お父様、私は『世界の理に則った世界』がまやかしの言葉だと知っています」

 すたすたと歩きだしたアドニスはぼくのスライムが包み込んだ男の前で立ち止まった。

「あなたが勘で逃れた実験の中でも一番ひどいものを施された私が、どんな状況だったか知っているから私の顔をまともに見れないのですよね」

 アドニスから斜め下に目をそらした男に、二人といない容姿の私を見間違えるはずがないですよね、とアドニスは男に詰め寄った。

「あの傷が癒えるわけないから、お前は別人だ!」

 なおも現実から目をそらそうとする男にぼくはしびれを切らして問い詰めた。

「どうしてアドニスの傷が癒えないと言い切れるんだい?ぼくたちが新薬を作っていないと言い切れないでしょう?」

 光影の剣の存在を隠して男に尋ねると、新薬!?と男は声を裏返してぼくを凝視した。

「あのね、ガンガイル王国は歴史が古いから、あれの対策を昔からしているのに、新しい技術が生まれないと決めてかかっているのはなぜだい?」

 ぼくが鎌をかけると、ぼくの茶番に合わせたみんなが、そうそう、と頷いた。

「お前たちは分業制だから、自分たちの技術力がどこまで発展しているのかも知らないだろうから、邪神の欠片の研究を全く別方向から研究している国があるなんて全く考えていないんだろうね」

 ぼくがさらに煽ると、男は首を横に振った。

「違う!我々はより多くの邪心の欠片を集めるために分業しているのであって、作業全体の流れを知らないわけではない!邪神の欠片を実際に魔術具に組み込む作業が特殊なだけであってそれ以外の作業なら私でもできる!」

 “……おう、そういうことならじっくり話を聞いてやろう!マナさん!儂とこいつを特別な尋問室に転移させてくれ!”

 男から搾り取れるだけ情報を搾り取ってやる、と張り切る水竜のお爺ちゃんとぼくのスライムの分身に包まれたままの男をマナさんは素早く転移させた。

「緑の一族の族長は転移魔法を自在に使いこなすのだな」

 談話室の真ん中から突然消えた男がいた場所を見ながら第三皇子が呟くと、マナさんは首を傾げた。

「自在に転移させられるわけではなく、ある条件下においてだけできる、と言っておこう。魔法は万能ではないんじゃ」

 詳しく詮索するな、とマナさんが第三皇子を一睨みすると、わかっています、と第三皇子は口を噤んだ。

「邪神の欠片の魔術具を持って逃亡中のアリオは拘束できなかったが、あの男を尋問することでアリオの存在まで辿り着かなくても、他の逃亡者たちの行動範囲を絞れそうだな」

 教皇の言葉にマナさんは頷いた。

「しばらくの間はサントスとあの男からの供述をもとに、乗っ取りの魔術具を使用予定だった土地に牧草地に仕掛けた魔術具を使ってまた罠を張っておこう。浮いてきた邪神の欠片に魔術具を被せる役目の男はまだ見つかっていないから、次は引っ掛かるかもしれないだろう」

 ぼくたちが即席で作った白砂の死地を再現する魔術具を当面の間貸してほしい、と教皇に頼まれると、ぼくたち二つ返事で了承した。

 とんだ騒動を挟んだが、アドニスと第三皇子夫妻との面会はアドニスが第三皇子夫妻の養女という形をとることで、第三皇子の母方の実家や第三皇子夫人の実家から干渉されない立場を確立し、アドニスの将来をアドニスの希望に沿うようにしよう、ということで話はまとまった。


 せっかくみんなで緑の一族の村に来たのだから、ということでぼくたちの初級魔導士試験もここですることになった。

「中級魔導師レベルの祝詞をみんな使いこなせるからと、初級魔導士の試験を飛ばしてしまうのも後々問題になりそうなので、さっさと試験を済ませてしまおう」

 ぼくたちが纏めている神々の相関図が既に上級魔導士試験のレベルにまで到達しそうな内容になっていたので、初級、中級魔導士試験をサッサと済ませてほしい、と教皇は切り出した。

 聖典の全部をまだ暗記していないぼくたちは焦ったが、教皇の視線がスライムたちを見ていた。

 スライムたちがお題の神の章をタブレット型に変身して表示すれば誰でも暗唱、いや音読できるだろう。

 それってカンニングじゃないか!と言いたいところを、声に出さずともみんなの顔に書いてあったが、教皇はケタケタと笑った。

「初級魔導士試験では出題範囲は聖典の全部となっているが、実際はよく使う祝詞に集中している。司祭クラスを希望したら滅多に使用しない神の章を出題されることがあるが、中級神学校への進学を前提とした初級魔導士試験ならほぼ同じような内容の試験を繰り返すことになる」

 口頭試験の後になればなるほど優位ということになり、現行の試験内容を検討し直す意味でも使役魔獣同伴の新試験を実施する意義があるらしい。

「スライムを使役していないマリアやアーロンやデイジーやマテルには不利な内容だが、試験の順番を最後にすることで出題されやすい神の章を確認できるだろう」

 教皇の提案にスライムを使役していない面々も賛成した。

 試験を受けて合格したら初級魔導士に成れるし、落ちたとしても再チャレンジができないわけではないから帝都に帰って勉強し直せばいい、とみんな前向きな意見だった。

 緑の一族の村の中央広場で緑の一族の女性たちに見守られながら、教皇が三つの神の章を指定すると諳んじながら魔法を発動させる試験が実施されることが急遽決まった。

 スライムたちが団子状態になって集まって打ち合わせをしているのを、教皇は面白そうに見ていたが、精霊言語がわかるぼくと兄貴とケインは、スライムたちが聖典の中で暗記している章を確認しあっているのがわかるので、それでいいのか!?と顔を見合わせていた。

 月白さんに視線で大丈夫か!と問いかけると微笑みながら頷いた。

 “……ご主人様。何が何でも初級魔導士試験に合格してもらわなくては辻褄が合わないのは教会側なのですよ”

 なるほど、ぼくたちが大聖堂島を去る前に初級魔導士の資格を得ていれば、中級魔導士の勉強中に独自の祝詞を開発して魔法を発動させる、中級魔法を行使することが不自然じゃなくなるのか。

 誰から指名しようか、と教皇が思案していると、キャロお嬢様が挙手をした。

「カイルやケインの後では見劣りしそうなので、一番手として頑張ります!」

 キャロお嬢様の言葉に、不合格になることなど微塵も考えていないようにキャロお嬢様のスライムが力強く頷いた。

「それは頼もしい。では、キャロライン。光の神と闇の神と火の神の章を諳んじろ!」

「はい!」

 キャロお嬢様は人だかりの真ん中に進み出ると光の神の章を諳んじ始めた。

 神々の相関図を作る時に何度も読み込んだ章だったので、出だしからスムーズにキャロお嬢さまが暗唱を始めると、あっているよ、言うかのようにキャロお嬢さまを慕う精霊たちがお嬢様の周りで輝きだした。

 ぼくたちの試験を見守っていた緑の一族の女性たちは月白さんの結界で祝詞が聞こえないようだったが、神々しいキャロお嬢様の姿に、ほう、とため息が漏れた。

 だんだんキャロお嬢様の暗唱の声がゆっくりとなっていくと、キュアの形に変身したキャロお嬢様のスライムのお腹に細かな文字が現れた。

 正々堂々としたカンニングが行なわてれているが、受験者とほぼ同質な力を持つ使役魔獣が受験者を補完していることは問題ないとみなされ、試験は中断されることなく続行した。

 火の神の章をキャロお嬢さまが諳んじていると、キャロお嬢様の肩の高さに五つの拳サイズの火の玉が出現した。

 見学していた緑の一族の女性たちの五人にキャロお嬢さまが次々と指をさすと、五つの火の玉は指をさされた五人の女性たちのところへまっすぐに飛んでいき、女性たちを炎で包み込んだ。

 キャー、と五つの方角から悲鳴が上がったが、熱くないわ!と炎に包まれた女性たちから即座に声が上がった。

 キャロお嬢様のカンニングによる暗唱が終わると女性たちを包んでいた炎が消えた。

「指に怪我をしていたのですが、治りました!」

「私は頭痛が消えました!」

「足をくじいていたのが治りました」

「肩こりが消えました」

「膝の痛みが消えました!」

 炎に包まれた女性たちからキャロお嬢様の炎の魔法が治癒魔法だったことの報告の声が上がると、拍手が沸き上がった。

「キャロライン、合格!」

 教皇の言葉にキャロお嬢様は飛び上がって喜んだ。

「治癒魔法は苦手で回復薬に頼りきりだったのですが、祝詞はじっくりとイメージを整えて神々にお祈りする時間があったので上手くいきました!」

 キャロお嬢様の言葉に、うんうん、と教皇が頷いた。

 浄化の炎で治癒魔法を実現したキャロお嬢様の手腕に精霊たちが喜んで広場中のあちこちで点滅を始めた。

 スライムを使ったカンニングが認められたことで、自信を持った留学生たちは次の試験を希望して我先にと挙手をした。

「カイル君とケインの前に、できればウィリアムさんの前に試験を終わらせたいです」

 ミーアの呟きにみんなが力強く頷いた。

「そんな変わった魔法をするつもりはないんだけどな」

 ぼくの呟きに、またまた、と言いたげにケインとウィルが顔を見合わせた。

 そんな風にまわりがハードルを上げていくから、何かしなければいけないのか、と余計なことを考えてしまうんだよね。

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