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作戦完遂!

 泣き過ぎた二色の髪色の少年の眼帯がずり落ちると、左右の瞳の色も金と水色の色違いで、二人といない特徴的な容姿だった。

「悪い奴はねいい人のふりをするのが上手いものよ。だけど、あたいはふりじゃなくて本当にいいスライムだから、あなたを助けてあげたのよ」

 初対面で少年に警戒されたぼくのスライムは明るく親しみやすさを前面に押し出そうとして優しく声掛けをした。

「飛竜じゃなくてスライムなの?」

 少年の問いかけに変身を解いたぼくのスライムはみゃぁちゃんの隣にポトンと落ちた。

「そうだよ。賢くて可愛い猫とスライムが君を助けてあげたんだ。君の家族が君を探している。家に帰ろうよ」

 みゃぁちゃんが再び右前足を差し出すと、私の家族?と首を傾げた二色の髪色の少年に二匹は頷いた。

「君は幼少期に仮死状態になった時にすり替えられた……」

 ハハハハハ、と二色の髪の少年は乾いた笑い声をあげた。

「ゾーイ爺さんと私を引き離そうとする人物は、君はすり替えられた皇子の子で王宮に住む権利がある、と言うはずだとゾーイ爺さんが言っていたんだ」

 ぼくのスライムとみゃぁちゃんは顔を見合わせると、お腹を叩いてゲラゲラと笑い出した。

「王宮なんて立派な建物だけどいいところじゃないよ。皇族に生まれてきたから毒を盛られ続ける人生だったんだけど、君を誘拐しておいて半身を焼く魔術具を渡した爺が、そんな本当のことを嘘みたいに言い聞かせていたのか!」

「そんなの誤解だよ!髪色と瞳の特徴だけが似ているだけだから勘違いするな、と言われているもん」

 ぼくのスライムとみゃぁちゃんはベッドをバシバシ叩きながら大笑いした。

「ああ、笑い過ぎて涙が出るわ。髪色や瞳の色だけでなく、面立ちも両親に似ているのよ。まあ、君の父親は不甲斐ない皇子だと思うけれど、君がすり替えられて生きているかもしれないと気付いてから人が変わったかのように自分で行動し始めたわ」

「個性的な父親だから、親元の戻るかどうかは会ってみてから決めればいいよ。孤児として暮らすことを選択したとしても、帝都に行けば待遇が全然違うよ」

 ぼくのスライムとみゃぁちゃんの説得を聞いてもなお、二色の髪の少年はゾーイが出て行った扉を見遣って眉を顰めた。

「真面目に働いていたのに教会の不正に加担したと疑惑をかけられた年老いた上級魔導士を慕っていることを否定しないよ。……どっかにいい面があるのが人間だもの」

 事前打ち合わせのマナさんの忠告通り、二色の髪色の少年がゾーイを慕う気持ちを否定することなく、話を進めるぼくのスライムの手腕を、気配を殺して少年の背後に立つぼくとイザークはただじっと見守っていた。

「君にとってどんな人物だったかはさておいて、あのゾーイ爺さんは帝国留学に向かっていた東方連合国の王子様を拉致して暗殺者に育て上げた過去があるから、育ての恩なんか忘れてこの先自分が幸せになる方を選んでいいと思うな」

 ぼくのスライムの話の続きを聞いた二色の髪色の少年は目を真ん丸に開いた。

「ほら、夜明け前にゾーイの部屋にいた青年がその本人だよ。悪い魔術具の影響で自分の人格を押し殺すことを覚えたら、命令されるがまま動く暗殺者に仕立てあげられたんだ。悪い魔術具を破壊されて自我を取り戻してから、深く後悔している青年なんだ」

「……君はえらいね。悪い魔術具の影響を外に出さないように体の中に留めていたから、体の半分が焼けていたんだよ。どんなに辛くても体の内側に閉じ込めて耐えていたなんて、よく頑張り続けたよ」

 ぼくのスライムの説明に、二色の髪色の少年が知らないディミトリーのことより邪神の欠片の魔術具の悪影響を小さな体で耐え続けたことをみゃぁちゃんが褒めると、少年は身をかがめて慟哭した。

「君は本当によくやったよ。もうあの魔術具の呪縛から解放されたんだから、あたしと一緒に新天地に行こうよ」

 みゃぁちゃんが二色の髪色の少年の涙を拭うと、少年はみゃぁちゃんの手をとり頷いた。

「一緒に行く……」

 二色の髪色の少年の言葉が終わる前にみゃぁちゃんと少年はワイルド上級精霊の亜空間に転移していた。

「ひとまず少年の保護は成功したね」

 緊張感が解けたイザークが肩をなでおろすと、ぼくのスライムも安堵からベッドの上で零れたジュースのように体を広げた。

「ああ、まだ前半戦しか終わっていないよ。みぃちゃんに誘導されたゾーイがマナさんの罠にかかっているかどうか見に行こう!」

 ゾーイを拘束すべくぼくたちは教会の裏口に急いだ。


 教会の裏口に置かれた大きなバスケットの中のおくるみに包まれて遺棄された赤ん坊のふりをしているキュアが、あうぅあうぅ、とぐずりだす寸前のような声を上げていた。

「この子は魔力が多すぎて村では養育できないと遺棄された赤子だから、教会で保護するのが相応しい!」

「この子は私の大切な家族です。この子がこんなところにいるのは、ちょっとした家族間の行き違いがあってのことで、遺棄されたわけではありません!」

 キュアが収まっているバスケットのそばでゾーイとマナさんが激しく言い争うことで、マナさんはぼくたちが二色の髪色の少年を保護するまでの時間を稼いでいた。

 ぼくのスライムがみぃちゃんに作戦の第一段階が成功した合図を精霊言語で送ると、ニャー、とみぃちゃんが一声鳴いた。

「うちの子はお前の手には負えないよ。幼児期だけで人間の一生より長いんじゃ」

 若い母親のふりから年寄り臭い話し方になったマナさんの言葉が合図になり、水竜のお爺ちゃんが言い争う二人の真ん中を割ってバスケットの上まで飛んできた。

 わーい!遠縁のお爺ちゃんだ!と無邪気な幼児の声を出しながらキュアがおくるみから飛び出した。

 小さい手と手をとり合ってグルグルと回りながら飛行するキュアと水竜のお爺ちゃんにゾーイの視線が釘付けになっていると、ゾーイの背後にディミトリーが立っていた。

「このままお前の頸動脈を掻き切れば、邪神の欠片の魔術具を所持してなくてもお前を殺せる」

 左腕でゾーイの両手を後ろ手に拘束したディミトリーが、右手で握ったペーパーナイフをゾーイの喉元に押し付けて言った。

「敵の力量も見定めずにこんなものを私の喉元に押し当てて、わたしを殺せると考えたのか!そんな浅はかな考えだからお前は皇帝に屈したんだ!」

「お前が今、何か抵抗ができるなら、やってみろ!」

 ディミトリーは左手を離してゾーイの頭頂部の髪の毛を掴んだが、後ろ手に組まれたゾーイの手首にはぼくのスライム分身が手錠に変身して拘束していたので、ゾーイは体を捻ることしかできなかった。

「どんな抵抗ができるんだ?この状況で転移しても私ごと転移するしかあるまい?」

 ディミトリーの挑発に顔を歪めたゾーイは無言になった。

 邪神の欠片の魔術具の転移魔法が精霊魔法の上位互換であったとしても、ディミトリーや二色の髪色の少年の成長にかかる年数が通常と同じ状態だったので、ゾーイは亜空間を形成することができないか、ただ転移魔法の経由地としか認識していないかだろう、と亜空間への逃走はないものだと踏んでいた。

 亜空間への転移の際、ウィルがぼくの服を掴むともれなく一緒に転移してしまうことから、ディミトリーがゾーイを掴んでいたら一緒に転移することになるだろうと確信しているディミトリーの発言にゾーイは鼻で笑った。

 “……しゃらくさい”

 この期に及んで余裕のある態度を取ったゾーイに嫌悪感を抱いた水竜のお爺ちゃんはゾーイに向けて氷柱(ツララ)を何本も寸止めで撃ちこんだ。

 “……てめえは教皇に引き渡す約束だから死なせないよ。だがな、てめえのせいで苦しみながら死んでいった子どもたちの苦痛と恐怖を、てめえは知らなければならないんだ”

 威圧で強制的にゾーイの目を開けさせたまま二本の氷柱を眼球にあたる寸前で止めた水竜のお爺ちゃんは予定していたよりも過激な手段でゾーイの視線を釘付けにした。

 木陰に潜んでいるぼくとイザークは予定通りの行動に出た。

 光影の短針銃の針を魔力追跡型にイメージして出現させると、邪神の欠片を消滅させるまで光影の針は消えず追い続ける、とイザークが小声で言った。

 サイレンサーの装備をイメージして発砲したので銃声もなくゾーイの収納ポーチに光影の針が突き刺さると、ぼくのスライムの分身とディミトリーはゾーイから離れた。

 黒い闇に包まれたゾーイはみんなには発光しているように見えるらしく眩しそうに目を背けると、闇に包まれたままのゾーイは四つん這いになったのか小さく丸まり地面を這いつくばると、身体強化を駆使してゴキブリのように逃走をし始めた。

 本体と合流したぼくのスライムは闇の面を内側にした球体状の光影の盾に変身し、闇に包まれたままのゾーイを閉じ込めた。

「馬鹿か?お前は!死にたいのか?」

 外側の光を弱めたぼくのスライムの光影の盾に近づいたマナさんが、中に閉じ込められたゾーイに向かってきつい口調で言った。

「この盾に閉じ込められると白砂に還ることになるが、こっちとしてもお前に死なれると困るんじゃ。逃走しないと誓えるか?」

 マナさんが問いかける間、奴が誓いの言葉に反しようと思考すると自傷行為をすることになる、とイザークが呟いた。

「適切な裁きを受けるまで逃亡しないことを誓う」

 光影の盾の中からゾーイが誓いの言葉を述べると、ぼくのスライムから輝きが消えカプセルトイのように球体になったスライムに閉じ込められているゾーイが見えた。

 “……最後の最後まで悪あがきをする奴だな”

 ぼくのスライムに包まれたままのゾーイをしっぽで突きながら精霊言語でこぼした水竜のお爺ちゃんにぼくたちは木陰から頷いた。

「入念に打合せしておいてよかったじゃろう。こいつから供述が取れれば他の逃亡犯も逃げ切れんじゃろう……」

 作戦成功の実感が湧く前に大聖堂島の噴水前にぼくたちは転移していた。


 噴水前のベンチに腰掛けたぼくと兄貴のうっすらとした影を眺めていると、駄目だったか、と言う教皇の声が聞こえて振り返った。

 教皇の後ろに立つ月白さんが愉快そうに頷くと、噴水からぼくのスライムに包まれたゾーイを担いだディミトリーが水を滴らせながら上がってきて、教皇の目の前にゾーイを降ろすと、再び噴水の中に戻っていった。

 ベンチの背もたれに縋り付いて泣いていたフランクは唖然とした表情でディミトリーが消えた噴水とぼくのスライムに包まれているゾーイを交互に見た。

「彼が追跡して拘束したのか!」

 “……儂とスライムも頑張った。まあ、説明することでもない”

 小さい手でフランクの背中を叩きながら、気にするな、と水竜のお爺ちゃんは誤魔化した。

 さっきまでぼくの膝の上で泣いていたスライムが、いつの間にかゾーイを捕まえてきたことの説明を省かれてしまったフランクは怪訝な表情になったが、ぼくのスライムがゾーイの拘束を解くと、いきなり自分の頭を地面に打ち付け始めたゾーイの奇行に大騒ぎになったので、すっかり注意がそっちに逸れてしまった。

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