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たのしい工作の時間

「風呂で泳ぐとのぼせるよ」

 帰宅したジュエルに昨日同様、例の高速洗髪洗浄をケインと並んでされて、浴槽に放り込まれるとケインはすぐさま泳ぎだした。この小さい生き物は寝てる時と食べてる時以外ずっと動いている。

「今日はケインと遊んでいないときはずっと婆の手伝いをしてくれたんだってな」

「手伝いというか、薬草の乾燥庫とか、保存庫とか、魔術具が沢山あって楽しかったから」

 ジュエルは泳ぐケインをつまみ上げるとざぶんとお湯を溢れさせながら浴槽につかる。

「魔術具も気になるけど、薬草の始末の仕方や細かい区分も興味深かったよ」

「…ン?そういえば文字はまだよめないのか?婆が図鑑を何冊か持ってるぞ」

「読めないけど絵でわかるのもあるから見てみたいな」

「ぼくもみたい」

「本を丁寧に扱えないなら見せられないな」

「ぼくはていねいだもん」

「じゃあ婆に頼んでごらん」

 自分でなんとかしろということか。本は貴重品だろうに果たしてこんな子どもに触らせてくれるのだろうか。

「おばばはいいっていうよ」

「そうだといいな」

 ジュエルはのぼせかかっているケインを浴槽から上げると小声で、「昼寝時がチャンスかな」と呟いた。

 ぼくは兄らしく浴槽の縁につかまって腕立ての要領で体を上げると足から自力で出ることができた。

 脱衣所に向かったケインは、きっとぼくの所作を見ていたのだろう、対抗意識からか濡れた体のまま寝間着を着ようとしてジュエルに二度手間をかけている。仕方がないので自分の身支度をさっさと済ませて、代わりの寝間着を用意して頭を入れる場所を広げてさり気なく誘導してみた。

 素直なケインはそのまま頭を入れるので、服の端を気づかれないように引っ張って誘導すると頭と両手が正しい出口から出た。

「上手に着替えたな」

 ジュエルに褒められて満面の笑みでズボンと格闘し始めた。

「それにしても、周りに子どもがいないようなへんぴな環境にいたわりに子どもあしらいがうまいな」

「ケインの生態が面白いから観察してるだけで、本当は手を貸さない方がいいのかもしれない」

「確かになんでもかんでも手を貸すのはよくないけどこれくらいはいいだろう」

 ジュエルも子育てはよくわかってないようだ。そういえば出張が多い仕事だった。家事育児の経験が豊富なら家庭用魔術具の制作順を間違えるはずがない。洗濯機は三種の神器だ。

 魔術具の操作はぼくにはできないから、何かいいものないかな。

「暇ができたらでいいんだけど、玩具も作ってほしいな」

「暇がなくても作るぞ。何が欲しいんだ?お前はもう少し子どもらしく遊ぶことも大事だ」

「ケインとも遊びたいから大きさを変えて幾つかほしいんだ」

 ケインがズボンに足を入れる穴と格闘している間に詳細を説明すると、ジュエルは簡単だから夕飯前に出来ると宣言して実行してしまった。



 夕飯前に遊び始めようとして女性陣に怒られるのは予定調和で、ぼくも夕飯寝落ちをすることもなく、食洗器を稼働させて、家族全員で居間のテーブルに向って真剣なまなざしで独楽を注視している。

「体からじんわり滲み出ている極小の魔力で独楽を回し続けるのね」

 ジュエルに頼んだのはドングリに楊枝を刺す程度の独楽だったのに、材質や大きさを変えて10個ほど作ってくれた。回すのは手動で同じ動作が続く魔法陣を独楽に描いてもらったのだ。

 紐を巻いて回すタイプはぼくもケインも無理だった。見本だといってジュエルが回してくれたのを家族全員が見つめる。独楽は安定した回転姿勢をとどめると全くぶれることなく回り続ける。

「成功だろ?」

「とうさんすごぉい!」

「上手に回せばこのぐらい回り続けるものかしら?」

「魔法陣を描いてないのも用意しておくべきだったわね」

 ジュエルの独楽回し名人疑惑が出てくる。

「大小いろいろ回してみましょう」

「魔法陣を削り取ってみる?」

「重心がずれるだろ」

「調節ぐらいとれるわよ。私を誰だと思ってるの?」

 大人たちが喧々諤々している間にドングリタイプを回してみる。三才児の手ではなかなか巧くいかないが、数回チャレンジしただけでコツをつかんだ。

 ぼくが回したドングリ独楽は軽快に回転したがすぐに倒れた。

 ケインは成功しなくても諦めずに独楽をつまんでは投げている。

「楊枝を長くして手のひら全体ですり合わせて回せばケインでもできるかな?」

 身振りもつけて独楽の回し方を説明してみる。

「おう、作ってくるよ」

 会話の流れが剣呑になっていたジュエルがさっさと撤退していく。

 ジーンとジェニエもドングリ独楽を回してみると倒れることなく回り続ける。

「ジュエルの魔力で描いた魔法陣だから血縁者と配偶者以外は効力を発揮しないのね」

「大人の方が魔力が多いからとかじゃないの?」

「まあそれもないとは言い切れないけれど、生活魔法の延長の初級魔法陣しか使用許可のない平民では誤作動防止を魔法陣に組み込むことが義務付けられているの。自分と家族ぐらい魔力が似ていないと作用しない鍵みたいなもので、魔鼠みたいなちっちゃな魔獣で誤作動しないようにするためよ。誰でも使えるようにするのには、魔術具にする必要があるの」

「ジュエルならすぐに作れるよ」

「それじゃあ大きな独楽になっちゃうよ」

「私は魔法細工師よ。縮小化なら任せてよ」

 ジーンが張り切ってくれるのは有り難いが、どうせ大きくなるのなら別なものも作ってほしい。魔法とか魔術具とか面白過ぎるもん。

「雑巾と細くて長い紐と薄くて軽い板、このくらいの、ほしいな」

 ぼくは掌を横にならべてほしい板の大きさを説明する。

「ぽんぽん話が変わるけど……なんだか面白そうね。何を作る気?」

「薪を薄くしてあげるからちょっと待ってて」

 ケインが独楽を投げ続けている間にジェニエが麻紐とハンカチ、ジーンが薄い板を用意してくれた。

 おしぼりのようにハンカチを丸め、板を飛行機の翼に見立てて麻ひもで結び、紐の端の片方を犬のリードのように長くした。

「これは何だい?」

 質問に答える前に実演した方がわかりやすいので出来上がったそれを頭の上でぶんぶん回して見せた。

「まあ、鳥の玩具ね」

「なんだ、独楽回しは終わったのか?」

 楊枝の長い独楽を作り直してきたジュエルが話に参加してきた。

「魔法陣だとカイルが回し続けられないから、魔術具で作ろうかと話していたらカイルが鳥の玩具を作ってくれたの。回し続ける練習なら鳥の玩具も面白そうね」

「安定したら紐が外れるようにしようか」

「オナガドリみたいにきれいなしっぽにしちゃう?」

「しっぽ持って振り回すの嫌だな」

「お楽しみ中申し訳ないけど、そろそろ子どもは寝る時間だよ」

 ものづくりに夢中になるのはジュエルとジーンでジェニエは冷静に家事をこなしていくタイプのようだ。

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