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ただ魔力を搾り取られるだけでは癪なので……。

 マナさんの魔法陣を広域魔法魔術具に組み込むことで一か所に投げ込めば範囲指定できるようにして明日に決行することにした。

「ぼくも現場を見てみたいから、早朝礼拝には身代わり人形を置いていこうかな」

「反対だろう?身代わり人形に作業させてカイルが亜空間から見守った方がいいんじゃない?」

「亜空間にいる間は時間が止まっているのだから作業できないじゃないか」

 ぼくと兄貴が言い合っていると、できるよ、とワイルド上級精霊が軽く言った。

 できるの!?と魔獣たちも興味津々に上級精霊を見ると、妖精型のシロとマナさんの精霊たちは首を横に振った。

 かなり高度な技術のようだ。

「亜空間から現場にいる身代わり人形に作業させることは可能だ。ただ、ククール領にも身代わり人形を置かなければ辻褄が合わないことになる」

 朝っぱらから出かける言い訳を用意するか、二体の人形を操作するしかないのか。

「ケインとウィルにはカイルが身代わり人形と入れ変わったらすぐにバレてしまうよ。二人を作戦に誘った方がいいよね」

 ぼくが人形にすり替わってあの二人にバレずに……すむわけないな。

 無理だね、無理だな、とみぃちゃんとぼくのスライムは話していると、ワイルド上級精霊はケインとウィルを亜空間に招待していた。

「「何が無理なんだい?」」

 突然招待されたにもかかわらず呑気な声を上げた二人はマナさんがいることに驚いた。

「じつは夕方礼拝で魔力枯渇を起こして死にかけたらしいんだ……」

 ぼくが事情をざっくりと説明するとケインとウィルは顎を引いて驚き瞳に涙をにじませた。

「結界を繋げて魔力奉納をしたらこんなことになるなんて上級精霊でさえ予測できなかったことだから、これはあくまで事故なんだよ」

 言い訳がましく説明すると、ケインは語気を強めて言った。

「事故なら事故で以後同じことが起こらないための対策を考えないといけないよ!」

 眉間を親指で押さえたケインは、まるでぼくがヘルメットを着用して、よし!と指さし確認していたのになぜか黒焦げになっている猫のように、危なっかしく見えるのかもしれない。

「結界を繋いで広範囲に魔力を流す時は魔術具で試験してみるべきだけど、邪神の欠片がそこら辺にたくさん埋まっているとも考えにくいよね」

 こんな重要インシデントにそうそう遭遇する機会はない、とウィルは検証する場がないと指摘した。

 ぼくの一挙手一投足に過剰反応するウィルが涙を流しはしても、さらっと受け流したことにケインが訝し気に眉を寄せた。

 死霊系魔獣が襲ってくる村とか、いろいろあったからね、とぼくのスライムが補足説明をした。

「死線をくぐり抜けた場数が多いにしても、心臓が止まるなんて尋常じゃないことが起こったんだよ!」

 ケインが語気を荒くしてぼくに詰め寄ると、ぼくの髪の毛の間から飛び出した一体の精霊が、タスケテクレタイノチノオンジン、とぼくとケインの間に割って入った。

 ぼくとケインは喧嘩をしているのではなく、ぼくを心配するあまりに、ケインが魔力枯渇を二度と起こさないよう考えることの重要性を訴えているだけだよ。

「君の記憶を見せてちょうだい」

 ぼくを心配する精霊を蛍を捕まえるように両掌で囲ったケインは、一精霊として呑気に漂っていると突然、邪神の欠片に強力な吸引力で吸い寄せられる最中にぼくの魔力を感じてタスケテと全力で叫んだら吸引力が弱まり、光る苔の洞窟に避難したところで、ワイルド上級精霊によって泉にぶち込まれたぼくのシャツの中に潜り込んで亜空間についてきた経緯を精霊から聞きだした。

「なんだかケインが精霊に話を聞いているように見えるけれど、この子が死地をかいくぐって生きのこった精霊なのかい?」

 ウィルの問いかけに精霊は激しく点滅して、セイカイ!と答えた。

 乗っ取りの魔法陣を乗っ取ろうとする作戦をマナさんが二人に説明すると、精霊たちが嫌う邪神の欠片を拾う作業は人体にも影響がありそうなので身代わり人形がすることが適当だ、とケインとウィルも納得した。

「明日の早朝礼拝時に本物のカイルは亜空間で身の安全を確保した状態で身代わり人形が死地に赴き、ククール領の教会でカイルが身代わり人形にすり替わっていることをバレないようにぼくたちが配慮したらいいんだね」

 作戦を理解したウィルの言葉にケインも賛同した。

「乗っ取りの魔法陣で直接邪神の欠片に触れないのか……。ちょっと試してみたいことがあるのですが……」

 ケインの提案は不意打ちの魔力枯渇への対策についてだった。

 ふわふわと漂っていた精霊がケインの提案に乗り気になり、激しく点滅してやる気を示した。

 作戦決行までの準備を済ませると、夕方礼拝でぼくが魔力枯渇を起こす寸前の礼拝所に戻った。


「なんてことだ!」

 礼拝所が光り精霊たちの出現に教会関係者が驚いている最中に、ぼくとケインとウィルは胸ポケットに仕込んだ魔術具から微細な魔力を引き出す特殊な手袋をはめて魔力奉納をした。

 タスケテタスケテ……と断末魔のように叫ぶ精霊たちを一体だけ助かった精霊が光る苔の洞窟に誘導しているはずだ。

 魔力を小さく分解して拡散する、というイメージがハッキリ伝わっていなかったウィルの魔力は重なる魔法陣の先まで流すことができなかったが、ケインの魔力はぼくの魔力の流れに乗ってどんどん小さくなりながら問題の魔力が滞るところまでたどり着いた。

 “……マモナク ゼンイン ヒナン カンリョウ……”

 誘導する精霊の精霊言語を確認する頃には、ぼくとケインの魔力電池の魔術具がすっからかんになるほど魔力を引き出されていた。

 これは不可抗力だ!と体感したケインが呟いた。

 どうせやり直すのなら、ただ魔力を搾り取られるだけでは癪なので、最後に搾り取られる魔力に魔法陣を描いてみた。

 効くかどうかわからないけれど、翌朝の作戦の目印くらいになればいい。

 魔力奉納を終えて立ち上がると、教区外まで魔力を流せなかったウィルは悔しそうに首を傾げたが、礼拝所の魔法陣と精霊たちの出現に興奮している教会関係者たちや二人の皇子たちの誰もそんな些細なことは気にしていなかった。

 光る苔の洞窟と上級精霊の亜空間を経由して辿り着いた精霊がぼくの髪の毛の中に潜り込んだ。

 “……オオクノナカマヲタスケタ”

 やり直せてよかったね。

 ぼくたちは精霊たちの出現をいつものことだからと気にする素振りを見せずに、夕食の支度を仕上げるために中庭に出た。


 興奮冷めやらぬ教会関係者たちや二人の皇子を交えた夕食会では亜空間経由でやってきたぼくたちが助けた精霊たちが張り切って照明の魔術具の代わりに光った。

 いつもより明るい食卓に、この地の精霊たちは元気がいいですね、とキャロルが言うと、ククール領の精霊たちも負けじと光を強くした。

「皇子殿下が二人も参拝していただいたからでしょうか?」

 司祭は誤解していたが、そうでしょうね、とぼくたちはあえて肯定した。

 何かあったのでは、とベンさんは気付いたかのように一瞬頬を硬直させたが、クレメント氏がそっと肩を叩くと苦笑した。

 魔力量の多い皇族がもっと教会に足を運んだ方がいいことは間違いないので、このまま自分たちの威光のお陰だと誤解させておけばいい。

 非番になった第五皇子の護衛たちは焼き餃子とビールでご機嫌になって、ククール領の発展と帝国の繁栄に万歳、と言い出すと、教会関係者たちが、創造神の作られた素晴らしき世界に乾杯です、と言い直させていた。

 交代でやってきた第五皇子の護衛たちに、後ほど交代で食べてください、とミロが肉まんを差し入れすると、かたじけない、と笑みを漏らして受取った。

 ククール領主のスパイだろうに差し入れをもらっていいのだろうか?

 肉まんで懐柔できるなら安いものだな。

 子どものぼくたちは早々に馬車の寝室に引き上げることにして、キャロルたち女子のテントを設営すべくキャロルのスライムがぼくのスライムから教わり、変身した。

 天蓋付きのプルンプルンのウォーターベッドまで作ってしまうと皇族のために譲った馬車の部屋より豪華になってしまった。

 見物にきた教会関係者と二人の皇子と護衛たちは、新しい魔法ではなくスライムが膨れ上がっただけだと理解するのに時間がかかった。

 警備上、皇子殿下たちを魔獣の中でお休みになっていただくのは問題があるでしょう、とベンさんが言うと、二人の皇子の護衛たちは納得した。

 豪華に見えてもスライムに包まれて眠るのだから、余程の信頼関係がないとできないだろう。

 寝室のお披露目が終わり、ぼくたちが各自の部屋に下がると中庭の精霊たちもぽつりぽつりと消え出したので、夕食会はお開きになった。


 夜明け前に作戦決行のため、ぼくはみぃちゃんのスライムが操作する身代わり人形と入れ替わった。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんは留守番しつつキュアの身代わり人形を操作することになっている。

 浄化の魔法が使えるキュアは万が一現場の身代わり人形が邪神の欠片に汚染された時の保険として亜空間に待機するのだ。

 現場まで案内してくれる精霊は武者震いをするかのようにパチパチと激しく点滅すると、同郷の精霊たちに、早朝礼拝で派手目に光って関係者たちの耳目を身代わり人形から逸らすように、と指示を出した。

 臆病だった精霊が短期間で逞しくなっている。

 ケインとウィルと兄貴とぼくが、支度ができた、と頷くと、ぼくとシロとぼくのスライムとキュアと実体のない兄貴はワイルド上級精霊の亜空間に招待されていた。

「おはよう」

 マナさんとマナさんの精霊はすでに亜空間にいた。

「カイル。夕方礼拝で何をしたんだい?」

 マナさんは小首をかしげならぼくに尋ねた。

「ただで魔力を奪われるのが癪だったので、封印の魔法陣を吸い取られる魔力で象ってみました!」

「「それだけか!」」

 マナさんと上級精霊は声を揃えて言った。

 もしかして、効果を発揮したのか!

 上級精霊がモニターを出して映し出した土地には砂漠の中に小さな黒い石がコロンと一つ転がっていた。

「もしかしてあんなに事前に準備したのに、あの石を拾って埋め戻すだけでいいのでしょうか?」

 ワイルド上級精霊とマナさんは顔を見合わせて首を傾げた。

「邪神の欠片を魔術具に利用する過程で何が行なわれているのか、太陽柱の映像に一切ないからわからない、としか言いようがないのです。あの欠片もまだ邪気を発しているから私たちは拾えません」

 シロの説明に上級精霊も頷いた。

 まだ、用心するに越したことはないらしい。

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