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国王陛下の宣誓

 礼拝所内の魔法陣に見惚れるマイクとキャシーを護衛たちがせかして教会を出ると、町中のいたるところに精霊たちが飛び回り大騒ぎになっていた。

 護衛たちが市民たちをかき分けてマイクとキャシーを通そうとするが飛び交う精霊たちを見上げている市民たちは道を開けてくれない。

 鞄からキュアが飛び出すとぼくたちから少し離れた場所まで飛び精霊言語で、こっちにおいで、と精霊たちを呼んだ。

 精霊たちを空中に浮かぶフラフープのように整列させたキュアが輪潜りを披露すると、市民たちから拍手喝采を浴びた。

 人の流れがキュアの方にむかったので、その隙にぼくたちがマイクとキャシーを守る壁となって、ちょっと先を急がせてね、と城に伝令に行くかのように声を上げた。

 ぼくたちが城にたどり着いたことを確認してからキュアは市民たちに小さな手を振って城まで飛んで帰ってきた。

 バルコニーで手を振るジョージの元までキュアが飛んでいくと、キュアと戯れていた精霊たちが列をなして王城へと集まった。

 お急ぎください、と使用人たちがマイクとキャシーに王様然としたマントを装着させると、予備騎士の制服が煌びやかな国王、妃殿下の衣装に早変わりした。

 おお、とぼくたちが拍手をすると、後ほど晩餐会でお会いしましょう!と言い残して両陛下は舞踏室のバルコニーへと向かった。

 両陛下の後を追うように、とマルコの背中を優しく押し出した。

 衣装が!と慌てたマルコに、そのままでかまわない、とぼくたちは声を揃えて言った。

「そのままで大丈夫だよ!マルコが予備騎士の制服を着ていた方がこの状況に王家がかかわっていることを明確に示せるよ」

 町中の大騒ぎを宥めるためにはロイヤルファミリーの威光にあやかるのが一番だ。

 舞踏室のバルコニーで手を振る王族たちを城下町の一般市民には見えないだろうけれど、集まった精霊たちの輝きがロイヤルファミリーらしき人影を照らしたら、キリシア公国の発展を約束するかのような演出になるだろう。

 撮影をぼくのスライムに頼んで、ぼくたちは晩餐会用に正装をすることになったのだが、魔法学校の制服にサッシュを付けるつもりだったのにみぃちゃんが用意した衣装は卒業記念パーティーの衣装だった。

 シロも頷いているということは卒業記念パーティーの出席者はこっちの衣装なのだろう。

 着替えを済ませて客室棟のエントランスに向かうと、案の定、兄貴とウィルとボリスも卒業記念パーティーの衣装だった。

「マリア姫のご家族は卒業記念パーティーでのマルコの様子を知りたいはずだから、こうした方がいいと考えたんだ」

 仕掛け人のウィルが言った。

 他の留学生たちはそれぞれが所属している魔法学校の制服にサッシュを付けてガンガイル王国親善大使の勲章を付けている。

 ケインとキャロルとミロは一つ多くつけているが三人とも、なんだかよくわからないけれどもらった、と首を傾げる受賞だった。

 これが噂の光る衣装か、とケインがぼくの上着の後ろに注目していると、キャロルが鞭の魔術具を手にする瞬間に背中のみぃちゃんの柄が光った。

 ぼくたちを晩餐会の会場へ案内に来た係員が鞭を振り上げたキャロルを見て、キャー、と悲鳴を上げた。

「大丈夫ですよ!真似だけだから、あてたりしませんよ」

 ミロが慌てて否定すると、失礼いたしました、と係員はかしこまってしまった。

 ぼくたちは卒業記念パーティーの衣装に仕掛けられたカラクリを説明すると、試してみたくなる気持ちは理解できます、と係員も笑顔になった。

 係員と親しくなったぼくたちは、今回の晩餐会はベンさんも腕を奮ったのでコース料理ではなく、中央に配置された料理を給仕係が取り分ける特殊なビュッフェ形式だと事前に知ることができた。


 知っていても会場内に入ると中央にオープンキッチンがあり、天婦羅をその場で揚げたり、持ち込んだ海産物で寿司を握るブースまであったりしたのでぼくたちは驚いた。

 ベンさんと料理長がだいぶ暴走したようだ。

 案内された席には猫たちやキュアの席まで用意されており、テーブルの上にはスライム用の小さな椅子まであった。

 ぼくたちはキリシア公国の高位貴族たちに続々と挨拶され、その全員に城に大勢の精霊たちを引き連れてきたことを感謝された。

 バルコニーから侵入した精霊たちは会場内を浮遊し料理をおいしそうに照らしていた。

 晩餐会の開始時刻が当初より遅れたこともあって、急いで席に戻るようにと強めのアナウンスが入り、会場内がまだ落ち着かない中、王族が入場してきた。

 エイダ殿下を先頭に卒業記念パーティーの衣装のマリアを、おめかししたジョージがエスコートし、その後ろに魔術具のマントで誤魔化していない立派な衣装を着た両陛下が入場した。

 ジョージが参加していることに、おおお、と貴族たちから声が漏れたが、ぼくたちは洗礼式前の幼児がいるということでこの場は無礼講なのだろう、と理解した。

 着席した国王陛下は拡声魔法で挨拶をした。

「ガンガイル王国留学生御一行の皆様をお迎えしてこのような宴を開けることを神々に感謝いたします。昨年、我が国周辺まで迫ってきた飛蝗の群れの被害を防ぐ魔術具を開発し、我が国を救ってくれた英雄たちと、そのご学友たちに大きな拍手で謝意を伝えよう」

 国王陛下の呼びかけに会場内から大きな拍手が沸き起こった。

 精霊たちがぼくたちの頭の上に集まって天使の輪を(かたど)った。

 ジョージの時にぼくたちが喜んだので、精霊たちもすっかりこの形を気に入ってしまったようだ。

 魔獣たちの上に輪ができると可愛らしい。

 スライムたちは嬉しそうに震えている。

 ざわつく場内を片手で制した国王陛下は挨拶を続けた。

「我が娘マリアが男装してマルコと名のり、カテリーナに援助を求めに向かった際、ガンガイル王国の留学生一行の皆様に大変お世話になった。また、魔法学校でマリアが大活躍できたのも、ガンガイル王国留学生の皆さまのご協力があってのことでした。一人の親として皆さんにお礼が言いたい。ありがとうございます」

 陛下の一人の親として、ぼくたちに頭を下げたことに場内はどよめいた。

 ぼくたちは陛下に、どういたしまして、と伝えるために拍手をすると、マリアの上にも、よくやったね、と言うかのように精霊たちが集まって天使の輪を作った。

 ジョージが満面の笑みで誇らしげに姉を見ると、会場内に動揺したかのような呻き声が漏れた。

「静粛に!王太子を決めるのは時期尚早だ。ジョージは幼く、マリアは帝国で数々の実績を上げたが、まだ、この国がマリアの学びについていっていない。本日、会場内にこうして精霊たちが現れたのは、先ほどマリアの助言を受けて、ガンガイル王国留学生の皆様と我々が教会や七大神の祠で魔力奉納を行なったからである」

 国王陛下の発言に、そうだよ、と言うかのように精霊たちが一斉に点滅した。

「祠巡りの重要性はマリアの手紙で知らされていたから、我が国でも一般市民の祠巡りを推奨していたが、我々だけでは精霊たちは姿を現さなかった。教会での定時礼拝では礼拝方法が違っていたことが確認できたが、七大神の魔力奉納では作法に違いはなかった。ガンガイル王国留学生の皆様の『祠巡りと市民の魔力量』という論文が発表されている。我が国でも研究し、その成果をガンガイル王国と共有することで、我が国の更なる発展と世界平和に貢献していくと、国民とガンガイル王国留学生の皆様に誓おう!」

 国王陛下の宣誓に賛成するように精霊たちが陛下の周りに集まって輝くと、有無を言わさぬ圧倒的なカリスマ性を体現したかのような陛下の姿に、会場内の全員が大きな拍手をした。

「後日、教会の司祭を招いて検討会を開く予定だ。今日はガンガイル王国の皆さんを歓迎する宴のはずなのに、ガンガイル王国帝国留学生先発隊筆頭護衛及び総料理長であるベンジャミン様に珍しい食材の調理法について教えを乞うと、ベンジャミン様がうちの料理長と共に調理をしてくださった。ありがとうございます」

 国王陛下直々に感謝を述べられたベンさんはコック帽を脱いで丁寧にお辞儀をした。

「宴の開始時間の変更にも柔軟に応えてくれたことにも感謝します……」

 まだ謝意を述べ続けようとした国王陛下の脇腹を妃殿下が突くと国王陛下は笑った。

「ああ、そうだね。どれだけ謝意を述べても伝えきれない気がしてしまうから、私が長々と話していたのでは宴が始まらないな。美味しい料理の前で本日は無礼講だ、と述べるつもりだったんだよ」

 国王陛下が砕けた口調になると会場内から笑いが起こった。

「皆様!ガンガイル王国との友好を記念して乾杯をいたしましょう」

 エイダ殿下の言葉に全員がグラスを手にした。

「この出会いを神々に感謝して、乾杯!」

 会場内でグラスをぶつける音が響くと、料理を載せたワゴンを押した従者ワイルドがぼくたちの席にそれぞれの好みの料理を給仕した。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんとミロの猫の前に鮪のカクテルが、キュアの前にはヨーグルトソースの牛ステーキが、ぼくの前にはマグロの握りが置かれた。

 久しぶりの生寿司に、いいね、とぼくは小さく頷いた。

 会場内は珍しい料理にさっきまでそこはかとなく漂っていた王太子候補を推す派閥色がすっかり失せてしまい、全員が美味しい料理に舌鼓を打った。

 ぼくたちの衣装の背中が光ることはなく、帝国での卒業記念パーティーがどれだけ異様だったのか改めて実感した。

 政敵と同じパーティーに出席したからといって嫌がらせをしようとするなんて帝国の習慣がおかしすぎる。

「キリシア公国の伝統的なソースらしいけれど、これ、美味しいよ」

 考え込んでいたぼくにウィルはヨーグルトソースのステーキの皿をぼくに差し出した。

「マリア姫とこれほど親しくさせていただいていたのに、キリシア公国の伝統料理を食べたことがなかったね」

 ぼくの発言にウィルとクリスとボリスが頷くと、キャロルとミロが首を傾げた。

「あのねぇ。通常のお姫様なら留学生一行の自炊についていけないでしょうに、昨年マルコがどれほど努力をしたのかと思うと尊敬しますね」

 学習館のお買い物ごっこや餅つき大会などで辺境伯領出身者たちは調理を経験したことがあるけれど、普通の貴族は芋の皮むきにでも苦労するだろう。

「まあ、マルコのお話のようね。私もお聞きしたいですわ」

 エイダ殿下がぼくたちのテーブルにやって来ると、みぃちゃんがぼくの膝に飛び移って席を開けた。

「旅の間にマルコの料理の腕は上がったのですがキリシア公国の郷土料理を作ってくれたことがなかったのですよ」

「ガンガイル王国の料理がこんなに美味しいのですから、こちらを覚えるのに夢中だったようですよ」

 エイダ殿下は、フフ、と笑うとぼくたちの席にやってきたマリアが、郷土料理の作り方を誰も知らなかった、とエンリコさんとアンナさんも無知だったことを暴露した。

「せっかくだから、お婆様に私特製の鉄板アイスクリームを作ってみたいのですが、スライムをお借りしてエプロン代わりにしてもいいでしょうか?」

 マルコはドレスを汚さず鉄板アイスのパフォーマンスをするためにスライムの助けを借りようとした。

 アイスクリームは人気のデザートになるだろうと踏んで、ぼくとウィルとマリアの三人でたくさん作ることにした。

 鉄板アイスを初めて目にするキャロルが手元の見えないジョージを抱っこして最前列で見学した。

 ぼくたちの鉄板さばきに大いに盛り上がり、〆のデザートで子どもたちが晩餐会から退席するいいきっかけになった。

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