表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/809

やらかした…?

 ぼくは本格的な冬の到来を前に収穫の秋を楽しむのだ。

 いつも大人ばかり楽しんでいるので、遊び部屋の子どもたちと楽しみたいのだが、キャロお嬢様がネックだ。

 居ない日に面白そうなことをすれば、後が怖い。

 今日はお嬢様がいない日なので、競技台の上でボリスのスライムに遠慮なくケインのスライムが連続技を決めている。

 ボリスのスライムはまだ飼いはじめたばかりなので、小さいうえに魔力も少ない。

 だが、根性だけはあって、こちらが手加減をすると、触覚を床にたたきつけて悔しがり、火炎砲をあびると喜ぶM気質がある。

 今日もあっという間に敗れたが、ボリスの指から魔力をもらってフルフルしている。

 頑張り屋さんだから成長が楽しみだ。

 ここに来る子どもたちもスライムを飼う子が数人いる。

 上級貴族の間で人気らしい。

 お婆の新薬は、スライムの栄養剤として一般販売されるようになった。おもに騎士団員のスライムに人気があるらしい。

 あんなにまずそうなのに、よく売れている。

 騎士の子どもからスライム人気が広がっているのだが、トイレの改装が終わった順番に、スライムを飼い始めているような気がする。

 トイレの販売は抽選になったはずなのに、施工の段階になると身分の順番に入れ替わってしまっている。

 世知辛いよね。

 遊び部屋だって、いくら無礼講だとは言っても、各々が付添人を連れてきているのだ。

 粗相があっては、あっという間に噂になってしまう。

 ボリスの肥溜め事件のことは、みんな知っている。

 悪い噂程広がるのがはやい。

 ボリスの妹が遊び部屋に来れないのは、ひどい癇癪もちだということで、外聞を気にして連れてこれないとのことだった。

 ボリスの妹はおとなしくて誘拐事件の時も目撃証言をしてくれたので、しっかりしてそうなイメージだったが、泣いて我を通そうとするタイプらしい。

 男の子三人が立て続けに生まれて、やっと授かった女の子。親戚にも女の子は少なく、どこへ行っても、誰もが甘やかしてしまったらしい。

「思い通りにならないと、すぐ泣くんだ。ものすごく大きな声で。しかも、もうすぐ来客があって、みんなが忙しくしている時とかは、もう妹の我儘を聞いた方が良くなっちゃうんだ」

 それは、わかる。

 どうしようもないときは仕方ないけど、いつもやられると嫌だな。

「せんたくきの音を消すまじゅつぐがあるじゃない」

 ケイン、目の付け所がいいね。

「父さんに頼んでベビーサークルを作ってもらおうよ。普段は畳んでしまっておけるようにして、泣きだしたら柵で囲って、音だけ聞こえなくしたらいいよ」

 どんなに泣いても音がなければ、様子を見ているのも苦にならないだろう。えずいて窒息しないように、見ているだけでいい。

「中の音が大きくなるようにしてもらったら、自分の声にびっくりして泣き止むかも」

 ケインのアイデアを採用した魔術具を、昼食時にお婆に説明したら、マナさんにすごくうけた。

 効き目があるなら、村の子どもに試してみたい子がいるようだった。

 躾は大変だよね。

 うちの赤ちゃんには消音機能ではなく、ベビーモニターを父さんに頼もう。

 泣き声だって可愛いに違いない。

 生まれていないのに、兄バカになる自信がある。

 他の子の付添人も興味があるようなので、子育ての苦労話の座談会が始まっている。

 午後は、まったりとご婦人方が過ごし、子どもたちはさらにマニアックな遊びにシフトしていくのであった。

 みんな少なからず魔力を持っている。最近ではボリスも部分的に身体強化ができるようになり、曲芸師みたいに高速で縄跳びを跳んでいる。

 計算能力を向上させるより、縄跳びの練習に特化した結果、こうなってしまった。

 検算君も負けじと縄跳びの技術を上げてくるから、この二人は見ていて面白い。

 負けない勝負をするために、ボールではなくカードを投げて書かれた文字の組み合わせで言葉を作る遊びまで出現した。


 こうしてみんな仲良くなっていったので、お楽しみ会をやりたいのだ。


 だが、ハロウィンパーティーは精霊たちが本気にして、いたずらをしそうだから危険だ。

 シャレにならない事態に発展しそうだ。

 ささやかな楽しみでいいのだ。

 ここに来る子どもたちは、貴族の子どもで焼き芋なんかも食べたことがないだろう。

 綿あめとか、みたらし団子……。

 米粉があっても醤油がない。

 麹は現在、神頼み状態だ。

 酒の神様と料理の神様の二つの魔方陣の上にお米をおいて、毎晩祈っている。

 冬が来る前にお味噌を仕込みたい。

 神様お願いします!

 いやいや、お楽しみ会の内容だ。


 夕食後に家族に相談してみると、メイ伯母さんのお別れ会、という名目なら、お楽しみ会を開いてよいということになった。

 うちにやって来る偉い人対策は、もうあきらめた方がいい。

 キャロお嬢様は必ず参加するだろう。

 大人たちは冬の社交シーズンに王都へ行ってしまうので今の時期に保護者の顔合わせの場を作っておくことも必要だし、子どもが多ければ領主様はお出ましにならないだろう、という父さんの目論見もあった。

 キャロお嬢様の引率をハルトおじさんがしてくれたら、いつも来る人だから、そこそこなんとかなるだろう。

 女性陣は消音ベビーサークルの結果を、伝聞ではなく直接聞きたいようだ。

 ボリスの妹はモニターだったのか。

 お貴族様に芋を出すのか、とメイ伯母さんがまともなことを言った。

 商業ギルドから、南方のサツマイモを手に入れられたので、石焼にすることを説明した。

 遠赤外線のところは省略したけど、とにかく美味しくなると力説したら、明日のおやつは焼き芋に決まった。

 綿あめは魔術具の作成待ちになったが、原理が簡単なので子どもの魔力で動かせるやつを作ってくれることになった。

 当日はお店屋さんごっこができそうだ。

 七輪は焼き鳥のみにしたら、準備も楽だと、お婆が言うので焼き鳥用の焼き台の説明をしたらやる気になってしまった。

 結構新しい道具が増えそうだ。

 メイ伯母さんは買い取る気満々なのだが、帰りの荷物は凄いことになりそうだ。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんが、何かすることはないか、とすり寄ってきた。

 働かないとご褒美がもらえないと焦っている。

 普通の猫のふりをしていてほしい。

 みぃちゃんが『いいえ』のカードを咥えてきた。

 スライムに負けたくないのだろう。

 スライムたちは焼き鳥の串打ちまで覚えてしまった。下ごしらえなら何でもできるのだ。

「子どもたちが危ないことをしそうになったら、止めてくれればいいのよ」

 さすが、母さん。いい配置だ。

「ホットケーキも食べたいな」

 ケインはホットケーキが好物だ。

 甘いものはたくさん種類があってもいい。

「カイルなんか企んでいるね」

 いや、焼いて積んでおくなら、クレープいいかなと思ったんだが、顔に出ていたようだ。

「生地を薄く焼いて、クリームや果物を巻いて食べたら美味しいだろうな……、なんてね?」

「「「「ハイッ!それ、採用!!!!」」」」

 女性陣の回答がはやかった。

 甘味は女子どもの大好物だ。

 遊び部屋はしばらくお休みにしてお料理に力を入れよう!


 ぼくは就寝前に台所に行くと、お米を祀ってある祭壇に祈る。

 どうにもならないことは、神頼みに限る。

 神様、ぼくに麹をください。

 祈りを明確にイメージする。

 ぼくの少ない魔力は祭壇の魔方陣に届くはず……。

 祈りは教会に集まるはずだ。

 礼拝堂の七大神の像が見届けてくれて、天地創造の神様まで届く……。

 なんてね。

 そんなことあったら、カッコイイね。

 跪いて祈っていたぼくは、巨大な魔力の流れを感じて、尻餅をついた。

 教会から街の七大神の祠へと魔力が一気に流れ込んで、町中に広がり、更にずっと遠くまで流れていく気配を感じた。

 ぼくの周りに何か喜ぶ気配……、いや、精霊たちが歓喜しているのがわかった。

 ぼくは全身に鳥肌が立った。

 この魔力の流れが、はるか遠く、国境の結界さえ越えていくのが、感覚だけで分かった。

 魔力の流れに沿って、精霊たちの歓喜が波のように広がっていく。

 世界中に歓喜の波が広がっていくのだ。


 なにか、ぼくは、やらかしてしまった、かもしれない……。

 いや、ただ、神様に祈っただけだ。寝る前にお祈りするなんて、誰でもやっていることだ。

 この感じはぼくのせいじゃない、はずだ。

 ……わからないことは、わからない。

 ぼくはそのまま子供部屋に戻ることにした。

おまけ ~美味しいは罪の味~

 冬支度がサッサと終わってしまって、手持無沙汰になってしまう。

 働き過ぎだと、新しい魔術具の開発も止められてしまった。

 赤ちゃんのオムツをせっせと縫って、オムツ洗い専用の魔術具だけは試作させてもらおう。

 カイルがおむつ交換の手間を省くと言って、スライムパンツでも作ったらおぞましい。

 カイルの発想はとびぬけて有用なものが多いが、時々デリカシーがない。

 子どもの口から、女性用のトイレでの洗浄魔術具の発想が出てくると、有難いけど、正直ひく。

 便利でも、言い出せない、女性が、女性のための魔術具を開発する集団があってもいいはずだ。

 下級貴族の奥様達と相談してみよう。

 産後はしばらく動けないから、できないことは人に頼ることも必要だ。

 ユナさんの送別会で人材を探そう。


 ああ、またささやかな悩みが再発する。

 食べ過ぎなのだ。明らかに。

 赤ちゃんの分も二人分食べる、なんてことしたら、出産で苦しむのは私だ。

 妊婦は太ればいい、というわけではない。

 健康な赤ちゃんを産むために、適切な栄養を適切な量だけ、摂取すればいいのだ。

 わかっているけど、美味しいのだ。

 時折、七輪で焼肉ならば、量を気をつけて食べればいい。

 それなのに、ラインハルト殿下が高級お肉のいろいろな部位を持参して、夫の休みの日に度々やってくるのだ。

 こっちは凄く体重を気にして、焼き専門に徹しているのに、奥さんもどうぞ、と差し出すのだ。

 気を使ってくれているのは、わかるわ。

 とても美味しいのも知っている。

 食べる前から、よだれがでるのよ。

 これは、罪の味。

 罰が難産だとわかっているから、絶対に食べ過ぎないわ。

 

 ユナさんの送別会は、甘いもの天国になりそうね。

 私、自分をちゃんと律せるかしら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
自分は醤油なしの生活はキツイので、カイルも早く醤油が作れるようになるといいですね おまけの"ユナさんの送別会で人材を探そう。"の部分はユナではなくメイかと思われます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ