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作戦遂行中!

 夢で会えたら特訓しましょう!作戦は数日にわたり続けられた。

 スライムに頼らなくても身代わり人形を限定した範囲内で同じ動作を繰り返す練習を通じて、省魔力で本人がいるかのように見せる技術をユゴーさんは指導してくれた。

 スライムたちの限界を考慮し、スライムたちが本体から切り離された状態で魔力枯渇を起こした時に身代わり人形から魔力を引き出す訓練もした。

 どうやら、ぼくのスライムは地中深くにいる分身が世界の理と魔術具を結ぶために待機している状態なので神々の庇護が篤いのか、分身を多く世界中に散らばせているのに魔力枯渇を起こさないのだ。

 だが、他のスライムは一定の時間になると本体と合流できなかった分身は魔力枯渇で活動を停止してしまうので、スパイスライムたちは定期的にシロの助けを得て本体に合流している状態だった。

 万が一シロが手一杯で回収予定時間に間に合わなかった時に、スライムの分身が死滅しないように訓練しているのだ。

 辺境伯領主夫人のスライムは人形を操る訓練と並行して発声魔法を習得すると、辺境伯領主夫人の声帯模写の訓練に取り掛かっていた。

 第三夫人への実の姉からの贈り物はそれなりの質の物を大量に送りたい、ということで時間を稼ぎ、辺境伯領主夫人のスライムの技術向上と第三夫人に贈る人形の質の向上を図ることができた。

 オーレンハイム卿による幼児期のキャロお嬢様をモデルにした人形は芸術品としても価値が高くなり、豪華な着せ替えのドレスを何着も用意したので、うちの姫を粗末に扱うな、というガンガイル王国王家の威信をかけた仕上がりになった。

 そんな数日が過ぎると、宮廷から第一夫人の死亡および葬儀終了の公式発表と、第一夫人の事故死と切り離す形で、第一夫人の実家が暗殺未遂事件にかかわっており御家お取潰しで領地没収、第一皇子の禁固刑の処分が立て続けに発表された。

 学年末で授業がほとんどない魔法学校ではその話でもちきりになり、第一夫人派の魔法学校生たちは就職先がどうなるのかと大騒ぎしていた。

 第一皇子の実家の領地は皇帝直轄領となり当面のところ大きな人事異動がないことが発表されると、生徒たちは落ち着いた。

 ぼくたちは上級、中級、初級魔法学校の魔獣カード倶楽部の合同の打ち上げとして、焼肉パーティーをする準備を着々と始めた。

 上級魔法学校の雰囲気を中級、初級の魔法学校生たちにも味わってもらおう、ということで上級魔法学校の中庭を貸し切り、部外者に参加チケットを売り出すことで、孤児院の生徒もいる部員たちの参加費用を抑えることにした。

 部員たちは低額で参加できる魔獣カード講習会を開いたり、優秀な生徒は家庭教師をしたりして参加費用を捻出し、学年に合わせて自分たちにできる範囲内でお手伝い当番表まで作ったのに、第三皇子が介入すると手伝いを希望する大人が急増した。

 第一皇子が失脚すると第二皇子派が台頭するのは必然なのだが、当の第二皇子は自身の新事業の準備のために奔走して取りつく島がないので、派生派閥の第三皇子に多くの貴族が群がっていた。

 第三皇子は飄々としたところがあるが裏表のない人物で、派閥解体で急にすり寄ってきた人物には自分とかかわっても恩恵がなにもないことを明言し、それでも魔獣カード倶楽部の打ち上げに強引に関わろうとする人物には、魔法学校生に害をなさない、と誓約書を書かせて、存分に働かせてくれ、とぼくたちに丸投げした。

「煙と匂いにつられてきた人たちに販売する焼き鳥でも焼いてもらおうよ」

 ウィルは面倒な帝国貴族たちに屋台の一部を任せることでぼくたちと接触したいだけの人を遠慮なくこき使おうと、提案した。

 屋台を出すなら魔獣カードのくじ引きや対戦場を作ろうということになり、魔獣カード倶楽部の合同打ち上げはどんどん規模が大きくなってしまった。

 結局、生徒会にも話が飛び火して、他の俱楽部も活動報告のブースを作ることになってしまった。

 まあ、神々はお祭り騒ぎが好きだから、魔法学校で学校祭のような催しがあれば喜ばれるだろう。

 こうしてぼくたちが慌ただしくしていると、第三夫人への贈り物を届ける日が魔獣カード倶楽部の打ち上げの日と重なることが決定した。


 予定日までに辺境伯領主夫人のスライムは辺境伯領主夫人の声真似を習得した。

 数多い贈り物の中のオーレンハイム卿夫人の本は王族しか開けられない鍵を付けたブックバンドに厳重に管理されて寮長夫人とオーレンハイム卿夫人が離宮に届けることになっていた。

 ちなみに女性しか見れないオーレンハイム卿夫人の本は表紙が二重になっており、第三夫人の手紙のリクエストにあった戯曲集の二巻目のように偽装してあった。

 王族しか開けられない鍵の装飾の一部に辺境伯領主夫人のスライムが変身しており離宮内に潜入する予定だ。

 ぼくたちは魔法学校で入学時に分けられたクラスに集められ、成績表を手渡されるだけの終業式に出席していた。

 みんなそれぞれ選択教科が違っていたから入学式の当日しか顔を合わせなかったクラスメイトがほとんどだったが、小さいオスカー殿下の取り巻きたちは退学しており、クラスの雰囲気はだいぶ和やかだった。

 優秀なクラス担当で誇らしかった、と世話になった記憶のない担当教員がぼくたちを見て嬉しそうに微笑んだ。

 成績順に名前を呼ばれると、返事をして担当教員から成績表を受取る流れになっており、ぼくの名前が一番に呼ばれると拍手が沸き起こった。

 続いて名前が呼ばれたのはウィルで、兄貴、ロブ、ケニー、マリア、と留学生たちの名が続く中、小さいオスカー殿下の名前が呼ばれると教室内の拍手が大きくなった。

 王族だから拍手が大きくなったのではなく、入学式では成績上位者の中に名前さえ入っていなかったのに基礎魔法学で上級魔法学校相当まで飛び級したことで成績上位者になれたことをクラスメイトたちが心から祝福して大きな拍手になったのだ。

 小さいオスカー殿下は教員から手渡された成績表を覗き込んで何度も小さく頷いた。

「努力したことが評価されるのはこんなに嬉しいことなんだな」

 窓際で互いの成績についてワイワイ話していたぼくたちと合流した小さいオスカー殿下は、友達になってくれてありがとう、とぼくたちに言った。

「みんなで頑張ったから成績が向上したんですよ。先生もそう言っていましたよ」

 ウィルは自分たちだけのお陰じゃない、と小さいオスカー殿下に言った。

 小さいオスカー殿下の勉強会には主にデイジーがよく参加していた気がする。

 今頃、各学年の成績上位者の名簿が魔法学校の各校舎の生徒玄関脇に張り出されているのできっと初級魔法学校ではデイジーがぶっちぎりの一位になっているだろう。

 この後、上級魔法学校の中庭に移動して魔獣カード俱楽部の合同打ち上げが始まるので、ぼくたちは他の生徒たちが名前を呼ばれるたびに拍手しながらそれを楽しみにしていた。

 “……ご主人様。辺境伯領主夫人のスライムは無事第三夫人の離宮に潜入しました”

 シロの報告で、夢で会えたら特訓しましょう!作戦は、書を捨てて地方都市にでよう!作戦に移行したことを知った。


 上級魔法学校の中庭では第三皇子が商会の人たちの指示に従って焼肉パーティーの準備をしていた。

 第三皇子は調理の魔術具にはまったらしく前日には食肉解体工房まで見学した熱の入りようで、市中に魔術具が溢れる未来像をジェイ叔父さんに熱く語っていた。

 第三皇子やガンガイル王国への伝手を求めて集まってきた貴族たちは屋台のおっちゃんと同じ調理師の服を着て焼き鳥を焼いたり、綿あめ機に夢中になったりしており、足手まといになる人物はいなかった。

 初級魔法学校の魔獣カード倶楽部の部員たちは上級魔法学校の敷地内に足を踏み入れたことですでに興奮しており、そんな幼い可愛らしい反応に上級魔法学校の部員たちは喜んで校舎の説明をし始めた。

 一般入場のチケットの購入者は滑空場でポロリと打ち上げの話を漏らしてしまったため、上級魔法学校の教員たちや飛行魔法学や広域魔法魔術具講座の生徒たちに買い占められていた。

 小さいオスカー殿下はちゃっかり一般入場チケットを意中の皇女殿下の側近に贈って皇女殿下と共に彼女も参加していた。

 ぼくたちにとっては気心の知れたメンバーばかりだったので、楽しい雰囲気が損なわれることはなかった。

 上級魔法学校の魔獣カード倶楽部の部長の挨拶から始まった焼肉パーティーは、デイジー主催の懇親会に参加していた初級魔法学校の魔獣カード俱楽部の部員たちが焼肉初体験の人たちに食べ方を教えていた。

 食べ馴染みのあるラム肉の焼き場に行列ができたが、ぼくたちが牛タンの焼き場に真っすぐに向かいサッと炙った牛タンにネギ塩を載せている様子を見たグレイ先生は、ラム肉の焼き場の列からサッと離れて列の短い牛タンの焼き場に移動した。

 何でも美味しいに違いない、と察した飛行魔法学や広域魔法魔術具講座の生徒たちは列の短いホルモンの焼き場にも分散した。

 個人の好みは様々だったが、どれもこれも美味しい、とおおむね大好評で、しょうゆベースの甘辛の焼き肉タレは大絶賛された。

 小さい部員たちはすぐにお腹が満たされてしまい、別腹の綿あめを食べると魔獣カードの競技会が置かれたブースに移動し始めた。

 美味しい匂いにつられて集まった学校関係者たちはつい焼き鳥を購入してしまい、立ち食いしながら初級魔法学校の魔獣カード俱楽部の部員たちの勝負に見入って、魔獣カードくじを何度も引いていた。

「学期内に大きな事件がいくつもあったのに、こうして終業式の後、笑いあえる場があるなんて、去年の私に言っても信じられないだろうな」

 大盛りの焼き鳥を手にした第三皇子はそう呟きながらぼくたちの席にやってきた。

 目を輝かせるデイジーに焼き鳥をたくさん取り分けたお婆は、書を捨てて地方都市にでよう!作戦が遂行されている最中なので微妙な表情で微笑んだ。

 オーレンハイム卿がお婆に大丈夫だ、というように頷いていたが、ジェイ叔父さんと話し込み始めた第三皇子はそんな様子を気にも留めていなかった。

 寮長夫人とオーレンハイム卿夫人が笑顔で焼肉パーティーの会場に足を運んだことで、書を捨てて地方都市にでよう!作戦の第一段階が成功したことを関係者たちは理解した。

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「学期内に大きな事件がいくつもあったのに、こうして終業式の後、笑いあえる場があるなんて、去年の私に言っても信じられないだろうな」 これは第三皇子のセリフですよね? 第三皇子もとっくに成人済みで学園に…
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