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いざ、卒業記念パーティーへ!

 ぼくたちがサッシュに新たにもらった勲章を取り付けていると支度を終えたアーロンが、なんだかみんなとっても立派そうだ、と怯んだ。

「アーロン君にはムスタッチャ諸島諸国との交易のきっかけを作ってくれた友好大使としてガンガイル王国国王陛下から勲章が授与された。謹んで受け取ってほしい」

 オスカー寮長からサッシュと勲章が授与されたアーロンが狼狽えた。

 みんなに大盤振る舞いされているからもらっちゃいなよ、と寮生たちに声を掛けられて掲示板に受勲者一覧が張り出されているのを見たアーロンは安堵した後、オスカー寮長に謝意を伝えた。

「田舎もんだと馬鹿にされんようにジャラジャラと偉そうに見えるものをぶら下げて乗り込もう!」

 オスカー寮長に肩を叩かれたアーロンは、そういうことですか、と苦笑した。

 ボリスとロブとアーロンのパートナーの女子寮生たちが談話室にやって来ると、可憐なドレスに注目が集まった。

 つややかな光沢を放つベージュホワイトのドレスには、ぼくたちと同じように同色の糸と魔石のスパンコールで刺繍が施されており膨らんだスカートに入っているスリットから動くたびに真っ白で繊細なレースがちらりと見える、可愛らしい衣装だった。

「これほど美しい装いをした君をエスコートできる幸せに浸っています!」

 ロブはキザなセリフを言ってエスコートの手を差し出したが、ボリスとアーロンは、可愛い、凄く素敵だ、と言って、よろしくお願いします、と頭を下げただけだった。

 うん。

 ぼくも背伸びをしない表現を使おう。

 女の子たちのサッシュは向こうが透けて見えるほど薄いオーガンジーだったのでドレスのデザインを隠さず、より魅力的に見せるものだった。

 それぞれ取ってつけたような名目の勲章を付けると、みんな立派な選ばれし者たちに見えた。

 マリアとデイジーが支度を終えて談話室に来ると女子生徒たちからため息が漏れた。

 二人のドレスはボリスたちのエスコートする女子寮生たちのドレスとデザインが似ていたが、お姫様仕様になっていた。

 ビーズとスパンコールが煌めくドレスはスリットに大きなリボンで縛ったドレープができていて、使用されている生地の量が多く、とても豪奢な仕上がりになっていた。

 デイジーの方が大きなリボンでレースの見える範囲が多く、マリアのドレスより幼いお姫様らしいデザインだった。

「凄く綺麗でとても似合っているよ」

 少ない語彙で最大限の賛辞を送ってマリアにエスコートの手を差し出すと、マリアは嬉しそうに微笑んだ。

 女性寮監がマリアとデイジーにサッシュと勲章を付けていると、お婆も支度を終えてやってきた。

 部屋中の男性の視線を釘付けにする破壊力のある美しさに、ぼくもまじまじと見入ってしまった。

 豊かなお胸を綺麗に見せるマーメードラインのドレスにもスリットが入っていて、隙間から見えるのはレースだとわかっているのに歩くたびに視線がそこに注視してしまう。

「ジュンナさん素敵です!」

 マリアもお婆に見とれていた。

 仮面のジェイ叔父さんは魅力度がアップしたお婆にも平然として、素敵なドレスだね、と誉め言葉を口にした。

 女性が苦手でも母親ならどんなに着飾っていても平気なようだ。

 寮に立ち寄ったオーレンハイム卿夫妻もぼくたちの装いに大感激してくれた。

 サッシュに勲章を身につけたお婆を、まるで女神でも見るかのようにうっとりと見つめるオーレンハイム卿を、オーレンハイム卿夫人が本当に楽しそうに見ていた。

 夫婦の愛の形とは千差万別でいいのだろう。

 男子の着付けの補助にクレメント氏、女子の着付けの補助に女性寮監が付き添って、アリスの馬車に乗り込むぼくたちを、寮生たちとみぃちゃんとキュアが見送ってくれた。


 王宮へ向かう道は渋滞を避けるために通行ルートと時間を指定されているようで馬車の渋滞に巻き込まれることがなかった。

「千人規模のパーティーなのに割とスムーズに馬車が走りますね」

 ジェイ叔父さんの疑問にオスカー寮長は裏事情を暴露した。

「今回、我々は特別招待なので入り口が別なのだ。居住地に合わせて通行ルートが指定されているけれど、我々の馬車は北口からの入場になるから遠回りをしているんだ」

 先に寮を出たオーレンハイム卿夫妻とは全く別ルート走っていると思ったら、王宮職員の居住地のそばの宮殿北口は裏口で、いわゆる使用人の通用門を指定されていたらしい。

「侮られていると考えるべきか、渋滞にあわないよう優遇されていると考えるか、捉え方次第ですね」

 ウィルの感想にオスカー寮長がケタケタと笑った。

「正式な招待状がぎりぎり昨日届いたということを鑑みると、我々の招待を妨害しようとした勢力が宮廷内にあったのだろう」

 オスカー寮長の発言の答え合わせのように、アリスの馬車に何かがあたる気配がするのに防御の魔法陣が作動して全て跳ね返していた。

 マリアは車窓を見ないようにしているが、防御の魔法陣は攻撃をそのまま跳ね返して相手が死ぬことがないように手心が加えられているから問題ない。

「今さらぼくたちのパーティー出席を妨害したって、皇帝陛下の後ろ盾がなくなるわけでもないのに、なんでこんな無駄なことを仕掛けてくるのでしょうか?」

 ボリスの素朴な疑問にアーロンが即答した。

「明日には自領に帰る地方出身者たちを一時でも誤魔化すことができるからじゃないかな」

 すでに瓦解してしまった派閥の威信を少しでも保っておきたい皇子たちの誰かの悪あがきかと思えば合点がいく。

「私たちが会場に到着しなくても土壌改良の魔術具は皇帝陛下が買い上げてしまったから、采配は何も変わらないでしょうに」

 太陽柱の映像から結果がわかりきっているデイジーにはこの妨害工作が無駄な悪あがきに見えるようだ。

「なんとしても今すぐ名誉回復に奔走しなければいけない人物が、無鉄砲に仕掛けている可能性もあるのではないでしょうか?」

 兄貴が卒業式で精霊たちが寄り付かず赤っ恥をかいた第一皇子の存在を匂わせると、卒業式に居合わせた全員が、あり得る、と頷いた。

 妨害工作が続いても足止めされることのなかったアリスの馬車が宮殿北口に到着すると、係員の指示はまたしても駐車場で待機せよ、とのことだった。

 何の打ち合わせもなく待たされるのは卒業式と同じ流れだったので、ぼくたちは座席の背面に付属しているテーブルを倒して魔獣カードで遊び始めた。

 卒業式の事情を知らない面々が慌てたけれど、どうせ招待客の入場が終わるまで呼ばれないだろう、というオスカー寮長の予想を聞き、そうですか、と諦め顔になった。

 “……ご主人様。成り行きに任せることが最善策でしょう”

 シロの精霊言語の発言に兄貴も頷いた。

 流れに身を任せることが最善策ということは卒業記念パーティーでもそれなりに何かあるのだろう。


 大変お待たせいたしました、と係員が馬車にやってきたとき、車内ではアーロンとマリアが魔獣カードの基礎デッキだけでガチンコの勝負をしていたので紅蓮魔法の火竜がとぐろを巻いていた。

「姫様!火竜をしまってください!」

 女性寮監がピシャリと言うと、白熱した勝負に思わず出現しただけのマリアの火竜が引っ込んだ。

 恐怖のあまり仰け反っていた係員が安堵の表情を浮かべているのも気にすることなく女性寮監は年齢順に降車するのでオスカー寮長夫人の衣装を整えていた。

 クレメント氏はジェイ叔父さんのサッシュを整えながら首を小さく横に振った。

 馬車の扉が開いたくらいではクレメント氏でも皇帝の魔力を感じ取ることができないようだ。

 クレメント氏の肩の上でビー玉サイズのぼくのスライムの分身が、大丈夫だ、任せておけ、とばかりに小さな触手で氏の肩を叩いた。

 ぼくたちは裏口から宮殿内に案内され、ぼくは建物に一歩足を踏み入れた瞬間から、独特の魔力がいきわたっていることがわかった。

 姿を消しているシロがぼくのスライムの分身をクレメント氏の待つ馬車に転移させた。

 クレメント氏の元で待つぼくのスライムの分身に送り込まれた分身が合体すると、宮殿内の空気をクレメント氏の鼻の前で放った様子をぼくのスライムが映像付きの精霊言語で伝えた。

 クレメント氏は何かを懐かしむように目を細めると、間違いない!皇帝は彼だ!!と呟いた。

 やっぱりそうだったか。

 ある程度予想していたのにぼくの心拍数は上がってしまった。

 ぼくの両親の仇である帝国皇帝は、慣習だった即位後の模擬戦争をいまだに続く本物の戦争にした皇帝で、おそらく前世の記憶を保持したまま高位貴族として何度もこの世界で転生していることがクレメント氏の発言で裏付けされた。

 ぼくは緊張した面持ちになってしまったようで、大丈夫?とマリアに心配されてしまった。

 ああ、皇帝との謁見までに気持ちを落ち着かせなくてはならない。

 緊張するよね、と小声でマリアに話しかけると、私もです、とマリアも同意した。

 エスコートするマリアの手を少しだけぎゅっと握って、顔を上げて行こう、と囁いた。

 使用人通路を抜けてフカフカな絨毯が敷かれた廊下に出ると、左右に二つのパーティー会場のために開かれた大きな扉があり、晩餐会の会場とダンス会場なのがわかった。

 ぼくたちは広い廊下で一時待機するように係員に指示された。

 招待者名を確認され、呼び出される順に晩餐会会場に入るらしい。

 晩餐会会場には既に大勢の招待客が着席しているようで、廊下にも人々のざわめきが聞こえてきた。

 オスカー寮長夫妻が長々しい肩書で呼ばれると、夫妻はぼくたちに、落ち着いて堂々と、と目で合図をして誘導する係員の後に続いて会場内に入っていった。

 続いて呼ばれたのはウィルとデイジーだった。

 ウィルとデイジーの紹介もとても長く魔法学校での飛び級まで紹介されていた。

 次を案内する係員がぼくとマリアに声を掛けた。

 皇女殿下であるマリアが身分的だということだろう。

『ガンガイル王国エントーレ男爵長男にして、ガンガイル王国真の賢人褒賞、国民栄誉賞授受賞者にして、ガンガイル王国親善大使、ガンガイル王立上級魔法学校卒業相当履修者にして、帝国魔法学校入学試験最高得点記録保持者、カイル・エントーレ氏とキリシア公国皇女殿下……』

 ぼくとマリアも長い説明付きで紹介された。

 カイル・エントーレと紹介されたけれど、エントーレは父さんの男爵位の称号なので一代限りのはずだからぼくは継承しないはずなのに……。

 あれ?本国で父さんも実は出世しているのかもしれないな。

 などと考えながらマリアをエスコートして会場入りすると、左右びっしりに並べられた長テーブルに着席している人たちから値踏みをするような強烈な視線を受けた。

 ぼくたちは係員の誘導に従って正面の上座に向かってしっかりと顔を上げて歩いた。

 正面横一列に並べられた上座のテーブルには皇族たちもすでに着席していた。

 真ん中の一番大きな、いわゆる王様の椅子に着席している壮年の男性が皇帝なのだろう。

 ぼくとマリアは先を行くオスカー寮長夫妻やウィルとデイジーの真似をしてゆっくりと皇帝の方に歩いていった。

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