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子どもたちの威圧

「たかだか威圧ごときに怯えるようではいけませんわ。受けた分だけの威圧を放てばいいだけなのですから、遠慮なくやってください」

 落ち着いた表情のままだったのに本当は怒り心頭に発する状態だったらしいアンナさんの強い発破の言葉に、それができたら、とマリアが俯いた。

「受けた威圧を全て受け流したのでどのくらいだったかを覚えていないのです」

「でしたら、マリア姫が五人の聴取官にお一人で対峙したならば、と考えた時の恐怖感をそのまま威圧で出したらよろしいのではないですか?元々お一人ずつ五人の調査官で聴取する体制だったのですよね」

 涼し気な笑顔でウィルが提案するとマリアは笑顔になった。

 キュアが拘束した公安幹部は無表情を保っていたが、マリアが戸惑っていた間の長引く緊張感に加えて、威圧の加減がマリアの恐怖心次第という事態になり、とうとう我慢できずに目を瞑った。

 キュアが不敵な笑みを浮かべた。

「わかりました。それならできます!行きますよ!」

 マリアの肩の上でとぐろを巻いていた火竜が公安幹部めがけて一直線に飛んで行き顔面で寸止めして威圧を放った。

 キュアが強制的に拘束した幹部の目を開けたので、公安幹部は威圧の威力からか恐怖心からか口から泡を吹いたが、キュアに支えられていたため倒れなかった。

「あっ!理不尽な聴取の内容を言わなければいけなかったのに、忘れていました」

 マリアの言葉に反応したキュアは立ったまま気絶していた幹部に少しだけ癒しをかけて目を覚まさせた。

「私が闇魔法に通じているから貴族街を黒焦げにして、証拠隠滅のためエンリコが原状回復の魔法を使用したと、とんでもない言いがかりを付けましたね!瘴気を浄化するために必死に火炎魔法を使用したからあちこち黒焦げになってしまったけれど、原状回復魔法は時間が経過すると成功率が下がるから即座にエンリコが使用しただけです!」

 証拠隠滅ではなく損害賠償を回避しただけだとマリアは主張した。

 マリアが放った火竜はキュアが押さえている公安幹部の顔面で細尾の舌をぺろぺろ出して、話を聞け、とばかりに睨みつけた。

「この火竜が闇魔法に見えるのなら、証言した憲兵たちは魔法学校に再入学した方がいいでしょうね」

 オスカー寮長の言葉に公安幹部たちは無言で頷いた。

「次はぼくででいいでしょうか?」

 アーロンが名乗りを上げると、キュアはマリアが威圧を放った隣の幹部の頭上に移り有無を言わさず拘束した。

 受けた威圧に回数だけキッチリと威圧を連打しながらアーロンが言った。

 非常事態にできることをしただけなのに、とマリアとデイジーが共感を示した。


「次は私が行きましょう」

 仮面のジェイ叔父さんが名乗りを上げるとジェイ叔父さんと同世代に見える公安幹部の一人が肩を竦めた。

 キュアは狙いを逃さずにその幹部の頭上に飛び幹部を拘束した。

「私の場合は聴取官たちの上司の私怨が入っていたのか、座席に固定され手枷と足枷をされました」

 ジェイ叔父さんが仮面に手を添えてなぜ仮面を着用することになったのかを幹部に思い出させるように仮面の位置を整えて存在感をだした。

「ああ、なんてことだ。罪のないガンガイル王国国民を事情聴取と称して拘束して威圧をかけたのですね!」

 オスカー寮長の激高に公安長官や他の幹部たちも頭を抱えてキュアに拘束された幹部を睨みつけた。

「ジェイさんは個人的にこの方に恨まれるようなことを過去に何かしましたか?」

 アンナさんの問いにジェイ叔父さんは、心当たりがない、と即答した。

「ここは深掘りしてもろくな事案じゃないかもしれませんね。どうせ、妻の初恋の相手がジェイ叔父さんだったとかそんなところでしょう」

 ぼくの言葉にキュアが押さえている幹部の顔が一気に赤面した。

 図星だったのか、と誰もがこの幹部の私怨でジェイ叔父さんを拘束したのだろうと考えた。

 オスカー寮長はポケットから縄状の魔術具を取り出すとキュアに拘束されている幹部に投げつけた。

 縄状の魔術具は幹部に当たると二つに別れ、片方は後ろ手に両手を拘束し、もう片方は両足首を拘束した。

「ジェイ君はこの状態で椅子に固定され五人の聴取官から威圧を受けたのですよ。貴方はジェイ君一人から威圧を受けるだけだ。甘んじて受けなさい。なお、このことでガンガイル王国国民が害されたことを帳消しにはしません」

 オスカー寮長の宣言に公安長官も力なく頷いた。

「私は闇魔法に特化した魔術具を制作したこともないし、今回魔術具を暴発させた新米上級魔導士に知り合いは一人もいないと断言できる!なぜなら私は寮の研究所に十年も引き籠りながらも魔術具の発表は続けており闇魔法に関するものは一つもなく、新米上級魔導士に至っては彼らと接触するには年齢が合わない!」

 ごもっともなジェイ叔父さんの主張は全員が納得するしかないものだった。

 ジェイ叔父さんの威圧は拘束された幹部に何度も執拗に繰りだされ、受けた分だけ威圧を放つという条件なので、ジェイ叔父さんへの事情聴取が尋常なものではなかったことを明らかにした。

 白目をむいた幹部にキュアが少しだけ癒しをかけると、辺境の地の平民風情が、と懲りずに減らず口を叩いた幹部にオスカー寮長が威圧をかけた。

「話にならない!こやつの処分を公安が厳格にできないようでは寮生たちへのこれ以上の事情聴取には応じられない!」

 オスカー寮長の断固とした口調に公安長官は項垂れ、威圧の順番待ちをしていたのにまだ喰らっていない幹部の一部がこれでこの場が終わるかもしれないとホッとしたような息を吐いた。

「居並ぶ幹部たちと不当な事情聴取をされた人との人数が一致しているから、ここで終わらせるのはもってのほかですわ」

 デイジーが難を逃れたように安堵した幹部たちを見逃さず指摘すると、ぎくりと幹部たちの肩が動いた。

「それでは次はぼくが行きます」

 口角を真っすぐ横に動かした冷笑の貴公子の異名にふさわしい笑みを浮かべたウィルが一歩前に出ると、威圧をまだ受けていない幹部たちが、負けるか、とばかりに姿勢を正した。

 そうこなくては面白くない、と言いたげにウィルはくっきりと両口角をあげた。

 幹部たちには生意気な留学生としか見えていないようだが、ウィルは旧王族の由緒正しき血筋と、その個性的な性格を好む精霊たちに愛された世界中でも類を見ない奇特な少年だ。

 案の定、急に貴公子然とした笑顔を見せたウィルに面白がった精霊たちが居並ぶ幹部たちの上に出現すると、誰にしようかな、と言うかのように一列に並び順番に点滅しだした。

「この状態をぼくが精霊たちを召喚したと思うのなら、あなたたちはどうかしている」

 ウィルの言葉に賛同するように幹部たちの上に並んだ精霊たちがパッパッと光った。

 選別ルーレットがやり直しになった状態にデイジーは姫らしくしていることを忘れて舌打ちをした。

「この茶番な状況に精霊たちが悪ノリしているにすぎません。ただ、精霊たちがいつもふざけているわけではないことは、帝都の緊急事態にぼくたちを迎えに来た多くの精霊たちの行動が示しています」

 公安と軍が頼りないからか、それとも、事態を最短で鎮められる教皇を迎えに来たのかをウィルは明言しなかったが、公安が精霊たちに信頼されなかったことは明白だった。

 精霊たちが点滅を止めて選びだした幹部をキュアが拘束すると、ウィルは威圧を数回にわたって放ち徐々に度合いを強めていった。

「精霊使いの文献をよく読み解いた方がいいですよ。精霊使いはそこら辺の精霊と契約するわけではないのですよ。ぼくを精霊使いだと称して拘束するつもりでしたのでしょうが、無理があり過ぎます。まあ、誰も精霊使いがいない状態で怪しさだけで精霊使いだと決めつけて拘束してしまえばそれで済むとでも思っていたのでしたら、頭がおめでたすぎですね」

 ウィルの事情聴取ではウィルを精霊使いだとして拘束して公安か軍に取り込もうと画策していたようだ。

「ガンガイル王国のラウンドール公爵家の後継者候補を精霊使いの疑惑を煽って拘束するなんてことになれば、支援打ち切りどころか戦争になりかねませんね」

 そういえばラウンドール公爵家では長男の後継者指名が取り消されている状態なので、今のところウィルも後継者候補だった。

「殿下がそんな処遇を受けられていたとは……」

 ロブは芝居がかった口調で悔しそうに言った。

 ロブはラウンドール公爵領の出身だったはずだから、次期領主候補の窮地に自身も拘束されていた家臣候補の小芝居が成り立つのか。

 次はお前の番だ、というかのように精霊たちがロブの周りを一周した後一人の幹部の頭上に移動した。

「ぼくを精霊使いだと糾弾した根拠が、精霊たちがそばにいること、だったなら、ロブも精霊使いか?となりますよね」

「うちの寮生たちのほとんどが何らかの形で精霊たちと戯れたことがあるだろうから、全員が精霊使いということなのか?」

 ウィルとオスカー寮長とのやり取りに精霊たちが笑うかのように激しく点滅した。

「精霊のご指名を受けたので、次はぼくが行きますね」

 ロブもこともなげに威圧を放ちただのモブキャラではない実力を示した。

「中央広場で回復薬の大盤振る舞いができたのは緊急事態用に予算がついていたからです。なぜ予算がついていたかといえば、帝国には危険な地域がたくさんあるからです」

 ロブは帝都と限定せずに帝国と範囲を広げることで、留学の旅路から緊急事態用に備えていたかのように時系列を誤魔化した。

 ガンガイル王国より帝国は護りの魔力が不安定と言外に指摘されると、公安幹部たちにはぐうの音も出なかった。

 精霊たちはざまあ見やがれと言いたげにロブの周りをクルクル回った後、ボリスのそばに行った。

「えー、精霊たちにご指名を受けたので次はぼくが行きます」

 ボリスが一歩前に出ると精霊たちは残り二人の幹部の部上で、どちらにしようかな、というかのように交互に点滅した。

「この際だから、ぼくとジョシュアと同時にしようかい?ぼくはキュアが威圧を無効化したからそれほど強い威圧を受けていないんです」

 ぼくと兄貴が一歩前に出ると精霊たちは、大正解!言わんがばかリに光量を増やして点滅した。

「ぼくもロブと同様に大量の回復薬を使用できたのは魔術具暴発を企てたから事前準備をしていたのだろう、といったたぐいの誘導尋問を受けました。だったら、自分たちが大聖堂に聖地巡礼に行っている最中に帝都で魔術具を暴発させるなんてことはしませんよ」

「そうだよね。五つの可動橋のうちまだ三つしか見ていないし、観光スポットもろくに見れていないし、お土産は蝋燭しか買っていないのですよ。せめて噴水の水でも汲んでくる時間があればよかったと残念に思っていますよ」

 ボリスの告発に続けたぼくの言葉のほとんどが愚痴だった。

 ボリスはきつめの威圧を数回放ったが、ぼくは一回だけだったので、公安幹部だけでなくオスカー寮長や事情聴取された側の全員も、それだけ?と驚いた表情になった。

「キュアがいるのに威圧するだけ無駄だったので、即座に止めてもらいました。話の分かる調査官がいたので、こちらの事情と公安側のもう引くに引けないほど追い込まれている事情を照らし合わせ、午後から予想されていた軍の事情聴取の前に申し送りをしてくれることになりました」

「ああ、そこまで話がついているのでしたら、今日の私は公安の対処だけで済みそうなのか」

 ぼくが事情聴取で個人的に交渉したことで今日の問題が半減した、とオスカー寮長は喜んだ。

「君はで、で、で、殿下に何をしたんだ!」

 公安長官がぼくに詰め寄ろうと一歩前に踏み出したが見えない壁のようなものに阻まれてそれ以上先に進むことができなかった。

「飛竜を何とかしろ!」

 公安長官が喚いたが、ぼくはキュアを呼び戻さなかった。

「威圧の体験会が済んだのでキュアはもう何もしていません。長官が動けないのはぼくたちが何かしたからではありません」

 ぼくが淡々と説明すると、公安長官は頭に血が上ったのか、真っ赤な顔で叫んだ。

「この、邪神を信仰する精霊使いが!」

 あああ、この期に及んでこんな発言をしてしまうなんて、ガンガイル王国が長年帝国で舐められていたせいなのだろうが、言っていいことと悪いことの区別がつかない者が公安の長についているようでは、外交紛争どころか戦争も辞さない事態になってしまうよ。

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アーロンが四回も名乗りをあげています
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