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お泊り会!

「お風呂ってこんなに楽しい場所だったのですね」

 猿の楽園で採取した湯の花を使用した美肌の湯を満喫したマリアとデイジーは満面の笑みで食堂に集合した。

「風呂の文化も国によって違うのだろうけれど、こんな大きなお風呂にみんなで入るのは初めてです。大きな浴槽にゆったりと浸かることは疲れた体をこんなにも癒してくれるものなのですね」

 ジャグジーと湯の花の湯を交互に堪能した小さいオスカー殿下は、サウナこそ短時間しか入らなかったが寮の大浴場を満喫してご満悦に言った。

 お泊り会に付き添うことになった二人の護衛も交代で入浴を済ませたので、うんうん、と頷いた。

 オスカー殿下は鳩の魔術具で離宮と連絡する際に、今日を逃してはもう一生ガンガイル王国寮に宿泊できる機会はない、と長文の手紙をしたためて母妃殿下から許可を得たのだ。

 何でも楽しんでしまおうとする文化が凄い、とアーロンは呟いた。

 今度遊びに来た時には日帰り入浴しようよ、と呑気にデイジーがアーロンとマリアを誘った。

 小さいオスカー殿下も、ぜひ、と言いかけたところで二人の護衛に睨まれて口を噤んだ。

 勝手な行動が増えたら警備費用もかさむのだろう。

 帰寮した寮生たちから帝都の様々な場所での情報が飛び交う食堂では、頑張った寮生たちへのご褒美として寮長からプリンが振舞われたことで、みんなの口はさらに饒舌になった。

「教皇猊下がアリスに乗って飛んできた時、精霊たちが球体に集まっていたから、何らかの魔力攻撃がやってきたのかと焦ったのだけど、視力強化をかけてみたら天馬に変身したアリスに豪華な司祭服の人が乗っていたから、瘴気を何とかしてくれる人が教会から派遣されたんだと安堵したんだよね」

 寮生たちの日中の外出制限はスライム使役者と同行していたら自由行動が許されていたので、帝都の各地点に散らばっていた。

 貴族街にいた寮生たちはぼくのスライムに一本釣りされる六人の皇子たちを目撃しており、不謹慎にも楽しそうに見えたらしい。

 スライムの情報伝達で皇子たちが七大神の祠で魔力奉納をするらしいことを感じ取った寮生たちは、自分たちも魔力奉納をするために祠に向かい、皇子たちを遠巻きに見ることができたようだ。

 ぼくのスライムも護衛と称して分身が付き添っていたので詳細を知っていたが、寮生たちからの報告も、第一、第二皇子が横柄で、それ以外の皇子たちは寮生たちに直々に挨拶をしていたようだ。

「宮廷内では上の二人のどちらかが皇太子になるだろう、ということが暗黙の了解だったので三男以降はどうにかして領地と爵位を賜ろうと躍起になっているから、兄上たちは結果がわかりやすい軍に所属しているのでしょうね。私は母の実家は軍にコネがないのでわたしが軍属学校に入学しても自力で何とかするしかなく、兄上の派閥の学生がいるので何らかの事故があるかもしれないからと、母上に反対されたのです」

 あっけらかんと小さいオスカー殿下が打ち明けた話は、競技会の差し入れに毒を盛られていただけに信憑性があった。

 各現場で目撃した寮生の話と六人の皇子に密着していたぼくのスライムの報告から判断すると、現場を混乱させていた六人の皇子たちはそれぞれの思惑で緊急事態に対処していたようだった。

 帝都のあちこちで新米上級魔導士が魔術具を暴発させて瘴気を発生させたので公安が各現場に均等に憲兵を派遣したのに、第一皇子が所属する部隊の軍が介入し貴族街の現場を優先させるように公安上層部から緊急指示が出たらしい。

 公安が人員を貴族街にとられるのなら市民を避難させるようにと憲兵たちに指示を出している間に、兄貴やお婆やジェイ叔父さんの活躍があって暴発した魔術具を新米上級魔導師ごと一時的に封じることができた。

 寮生たちは自分たちの側にいた市民たちしか避難誘導をできなかったが、憲兵が市民たちを市街に避難誘導してくれたお蔭で、兄貴たちが封じた後も瘴気が湧きやすくなってしまった市街地で人的被害がほとんど出なかったのだ。

 皇子たちの動向には宮廷内の派閥と軍閥が絡み、第一皇子の真似ばかりする第二皇子が自ら指揮した分隊を派遣すると、第一皇子自身も現場に出る愚行に走り、漁夫の利を狙った第四、第六皇子がしれっと分隊を派遣して紛れ込んでいたため、船頭多くして船山に上る、と言った事態になってしまったのだ。

 結果としてデイジーとマリアが大活躍することになった。

「小さいオスカー殿下は将来軍に入るつもりはないのですか?」

 お刺身定食に舌鼓を打つマリアの問いに、小さいオスカー殿下は即答した。

「ないですね。カイル君たちを見ていると魔術具の開発の方が私でも国民に貢献できると考えるようになったので、宮廷に仕官しないで母の出身領地で役に立つ魔術具を開発して、母を支えてくれている人たちに貢献したいと考えるようになりました。王族の務めとして年の半分を帝都で魔力奉納するような生活ができたら、と考えています。……ええ!最後にこの麺をスープに入れるのですか!それは美味しそうですね」

 すき焼き定食の〆の饂飩(うどん)を食堂のおばちゃんからサービスしてもらって喜んでいる小さいオスカー殿下は、ハルトおじさんのような立場になることを希望しているようだ。

「フフ。大きいオスカー寮長のように王家から少し距離を置きつつも王族としての責任を果たされるのですね」

 跡継ぎから外れているマリアは、そういう生き方を選択することもできるのですね、と感心した。

「〆の饂飩には卵を追加すると美味しいよ。奢ってあげるよ」

 ウィルが生卵の食券を買うために席を立つと、デイジーもついていった。

「やっぱりぼくもすき焼きが食べたい」

 煮魚定食を食べていたアーロンは、一杯魔力を使った分たくさん食べてもいい、ウィルの後を追った。

 ぼくたちがのんびり風呂に浸かって美味しい夕食をたくさん食べている間に、ぼくのスライムの報告によると、六人の皇子たちは事情聴取でそれぞれ自分に都合の良い弁明をしているようだが、ワイルド上級精霊を従者として従えた大きいオスカー寮長が事細かく論破しているようだ。

 上級精霊様カッコいい!という個人的感想が時折入る精霊言語で実況生中継してくれている。

 帝都の脆弱性を露呈した魔術具暴発事件は、それぞれが望む着地点に到達させようと水面下で動きがあったが、ぼくたち子どもは寮の食堂で慰労会のように盛り上がっていた。

 デイジーだけでなくいつも以上にたくさん食べるぼくたちのために働いてくれる食堂のおばちゃんたちに感謝した。


 食後にマリアとデイジーはネイルアートをしてもらうためにお婆の部屋に引き上げた。

 オスカー殿下とアーロンは自分にあてがわれた客室に戻らずにウィルと一緒にぼくたちの部屋に押し掛けてきた。

 ウィルは有無を言わさず兄貴とジェイ叔父さんのベッドをぼくのベッドに寄せてつなげると、みんなで雑魚寝しようとした。

 さすがにそれでも狭いので壁の端まで簡易のベッドを土魔法で作ってしまったので、ぼくたちの部屋は全面ベッドに占められてしまった。

 護衛たちが扉を全開にしていたから、調子に乗った寮生たちが予備の寝具を持ち込んだので、そこそこ快適な部屋になった。

「殿下、ここはパジャマパーティーの現場ですから寝る支度を完璧にしてから参加するのが礼儀です」

 ぼくも知らないルールを勝手に作ったウィルがそう言うと、小さいオスカー殿下とアーロンは一旦客室に戻って貸し出されたパジャマに着替えて再登場した。

 寮長不在の男子寮は、ほどほどにしておきなさい、と寮監に念を押された慰労会の二次会会場になっていた。

 ぼくたちの部屋のある階ではフロアー一帯の寮生たちが扉を開け放って各部屋を開放していた。

 魔獣カードの部屋や、自慢の魔術具を展示する部屋まであって、さながら寮祭のようだった。

 さすがに枕投げまではしなかったけれど、命の危険にさらされた緊張感から解放された寮生たちのお喋りは尽きなかった。

 帝都の怪談なんてことを始める寮生もいたが、今日の出来事が後に神話のようになるのかあるいは怪談になってしまうのかと言える一大事だった。

 そんな騒がしいベッドの中央で緊張感から解放された小さいオスカー殿下がみぃちゃんをお腹に抱えて眠りに落ちていた。

 寮生たちはそれを合図にするように各々自室に帰ったが、眠り込んだ小さいオスカー殿下をどうしようかと狼狽える二人の護衛に、寮監が声を掛けた。

「部屋の入り口ギリギリまでベッドを制作したのはあなた方が交代で休むための寮生たちの配慮ですよ。カイル君の魔獣たちがいるこの部屋はこの寮内で一番安全な部屋です。まだ少年の小さいオスカー殿下が成人した皇子殿下たちより活躍した一日でしたから、こんな特別なご褒美があってもいいじゃないですか」

 寮監の言葉に二人の護衛たちは言葉を詰まらせた。

 小さいオスカー殿下の暮らす離宮では六人の皇子たちの派閥の手の者たちが従業員として紛れ込んで、あの手この手で殿下を貶めるための画策をしていた。

 競技会参加の騒動で人員が一新されてから赴任した二人の護衛も聞いていたようで、厳しい環境で育った殿下に、親しい友人と一夜を共に過ごす和やかな時間に水を差すより、朝まで自分たちが殿下を守り切ればいいのだと考えたようで、寮監の提案に、ありがとうございます、と言った。

 あんたたちが横になっていてもわたしがいるから大丈夫だ、とキュアが伝わらない精霊言語で話しかけると、頼もしいですね、と二人の護衛はキュアに言った。

 ウィルがアーロンを押し倒して横たわると、さすがに疲れが出たのかアーロンも抵抗することなく眠りに落ちた。

 ぼくも横になるとジェイ叔父さんは照明の魔術具を豆電球くらいの明度に下げ、帰寮した寮長に呼ばれたのか部屋を出たところで、ぼくの意識はなくなっていた。

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