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みんなで焼肉パーティー

 キャロお嬢様の馬車に相乗りでじいじはやってきた。護衛はいつもの人数と一緒だが、遠巻きにたくさん配備されている。

 カカシとじいじとマルクさんが天幕の密談の参加者で、その他は普通の焼肉パーティーだ。天幕に一応七輪とお肉は用意してあるのに、マルクさんが羨ましそうにこっちを見ている。

 天幕の中の密談は胃の痛くなるような話じゃないといいね。

 入ったと思ったらすぐ出てきた。実際は相当長丁場だったのだろう。マルクさんの目の下が黒い。じいじとカカシからは疲労の色は伺えない。

 お婆はあちこちに護衛騎士がいるので変装しているが、小声で話して誤魔化している。

 カカシは一度部屋に戻り、マナとして戻ってきた。長老はお疲れのようでお休みですと、言い訳していた。

 七輪を置いた丸テーブルをランダムに配置して上座ができないように工夫した。

 ホルモン系、焼き鳥用に串打ちされた肉、お土産の高級肉…ってこれサーロインとかじゃないか…?あんまり詳しくはないけど、このサシと赤身のバランスは絶対に美味しいやつだってことはわかる。お土産のレベルが高い。

 ぼくたち子どもはお皿を持って食べたいお肉があるテーブルをまわり必ず野菜か果物が添えられる。子ども用の天幕があり、小さなテーブルとイスがあるので食べやすい。

 キャロお嬢様もぼくたちと同じようにして楽しんでいる。

 焼肉のたれも作ったが、まだ満足のいく出来ではない。そうなると塩に凝りだして、シーズニングソルトを三種類用意した。ぼくのお気に入りはニンニクを効かせたガツン系だ。

 高級サーロインにちょっぴり塩をつけて一口で頬張る。

 じゅわっと脂があふれ出てシーズニングと口の中で混ざり、喉を通り過ぎていく。

 ああ、これは美味しい。

 キャロお嬢様は果物で甘みを付けたタレをお気に召したようで。どのお肉にもつけている。塩ホルにタレはいらないよ。

 ボリスはお肉に野菜を巻いている。なんだか意外だった。野菜なんて眼中になくお肉ばかり食べるイメージだった。先入観は良くないな。

 ケインはつくねにハマっている。つくねはタレが一番だよね。

 子ども用の天幕にみぃちゃんとみゃぁちゃんがいる。キャロお嬢様の付添人からお肉を取り分けてもらって、嬉しそうにミャオミャオ鳴きながら食べている。

 ちょっと待った!

「お塩はかけておりませんよ」

 付添人はぼくの心の声を読んで言う。

 違う違うそうじゃないんだ!!

 その肉が問題なんだ。それは、サーロインではないか。そんな高級肉の味を覚えてしまっては、ぼくが作った猫『まっしぐら煮込み』の価値が下がってしまうではないか。

 ああ、スライムたちまでサーロインをもらっている。

 キャロお嬢様のスライムは飼育し始めなのかまだ小さい。その、真珠のように美しく輝くスライムがもらっているから、猫たちだって自分たちも、もらえると思ってこっちに来たんだろう。

 誰だってあの可愛いポーズをされたら、あげないという選択肢はなくなってしまう。

 まあ、今日は猫たちもお掃除していたし、ご褒美くらいいいかな。

 うちのはたらくスライムたちに最高級のお肉があたるのは当然のことだ。ご褒美が豪華になっていくのは……まあ、仕方がない。活躍しすぎだもんね。

 焼き場を担当する人はキャロお嬢様の付添人が五人もいたので、うちの家族も交代で好みのテーブルを回れた。

 恐れ多くもじいじは、自らキャロお嬢様の牛タンを焼いたり、おにぎりに衝撃を受けたりと、楽しそうに過ごしていた。

 本当に近所のおじいさんと焼肉しているように、うちになじんでしまっている。

 おそろしい。

 父さんと母さんがネギ塩に牛タンを巻いて食べている。満面の笑みになった父さんは、ビールを流し込むように飲んでいる。大人っていいな。

 それ絶対美味しい組み合わせだよ。

 マルクさんは午後からは休暇扱いだったはずなのに、心労が多かったせいだろうか、ビールを飲んでいない。

 立場的に、直属の部下ではないが騎士団員たちに囲まれた状態で、焼肉をビールで掻っ込む姿は見せられないのかな。大人って大変だな。

 イシマールさんはお婆のとなりに座って、塩ホルモンをビールにあてている。それも間違いなく美味しい組み合わせ。ホルモンの脂をビールで流し込む。たまんないよね。

 イシマールさんの顔が赤いのは七輪の熱気とビールのせいだろう。だって、お婆は老婆の姿だもん。

 マナになっているカカシは、楽しそうに各テーブルを回って全部味見をしている。若返るとたくさん食べられるようになるからかな。

 メイ伯母さんはサーロインがお気に入りで、焼き場を離れず、好みの焼き加減のお肉をキープしている。

 庭の奥に居る護衛騎士は匂いだけかがされて、きつい任務だろうな。仕事って大変だな。


 ぼくは〆の一品を選び出した。

 ぼくはお目当てのテーブルで、椅子の上で膝立ちをして身をのり出して、七輪で海苔をあぶった。黒光りしていた海苔が青くなると手早くおにぎりにまいて食す。

 パリッとして磯の香りがする。

 ぼくが見た事のない少女だった頃の母が好きだった味。

 ぼくにとっても懐かしい味にちょっぴり涙が浮かんだ。

「どうしたの?兄ちゃん」

 尋ねたケインのそばには黒い兄貴も居る。

「みんなで美味しいものが食べられて、幸せだなあって思ったんだ」

「「ぼくも本当にしあわせ」」

 苦労を共にしたケインとボリスも同意してくれる。

「キャロもしあわせです」

 おにぎりをほおばりながら美少女が満面の笑みを見せる。眼福でなによりだ。

 これがぼくの新しい家族と関係者たちだ。

 今後、大人になれば明らかに身分が違い過ぎるから、こんな風に並んでおにぎりを食べることなんて、とてもできないだろう。

 でもこうやって今、幼児期だけでも穏やかに一緒に成長していけたらいいな。

 そんな風にしんみりしていたら、じいじがやって来た。

「マナさんがしばらくここに滞在されるようだから、キャロのじいじも時々遊びに来てもいいかな?」

 えええええええ!

 ありえない。

 毎回こんな、大騒ぎになるじゃないか。

 確かに、カカシと相談したい重要事項があるんだろうけど、うちに来るのは勘弁してほしい。

 断固反対だ。別会場を要求する!

「いやよ!じいじのスライムは強すぎるもの。わたくしのスライムが強くなるまで来ちゃダメ!!」

 キャロお嬢様のナイスアシストのおかげで、じいじの野望は潰えた。

「あれ?カイル。なんか出し物練習していなかったっけ?」

 思い出さなくていいのに、イシマールさんときたら、ぼくたちが出し物の練習していたことを思い出してしまった。

 お婆は声を出せないから欠席だけど、お婆のスライムは張り切って炭木琴をセットしている。

 あんなに練習したんだから『お前たちしっかりやれよ』っていう圧力を感じる。

 なんだろう。ケインのそばにいる黒い兄貴が笑っているような気がする。

「これは何だい。炭をつなげてあるだけのようだが」

 じいじが好奇心をあらわにしている。これは逃げられない。

 こんな予定じゃなかったんだ。

 親戚の緑の一族を喜ばせようとちょっと趣向を凝らしただけなんだ。

 領主一族に聞かせるような代物ではない。

 母さんも嫌がっているが、母さんのスライムもノリノリで『はやくは配置につけ』と言わんばかりに母さんの頭の上でぴょんぴょんしている。

 抵抗を諦めた父さんがうやうやしく母さんをエスコートしたことで、公演が実施されることが決定的になった。

 五台の炭木琴でスライムたちがイントロを演奏し始めた。トレモロをきかせた和音が美しい。

 ぼくたちは覚悟を決めて歌い出した。

 ケインの透き通るようなボーイソプラノの独唱からぼくがコーラスを重ねる。父さんの低音がコーラスにはりをだし、母さんの穏やかな高音と良くあっている。

 お婆のパートが欠けてしまったけど練習の成果は遺憾なく発揮されて、盛大な拍手をもらえた。

 恥ずかしそうにしていた母さんも上手に歌えたので嬉しそうだ。

 キャロお嬢様もじいじも、とても素晴らしかったと手離しに誉めてくれた。

 練習を見守っていたイシマールさんは、よかったいい出来だった、と何度も呟いている。

 マナとメイ伯母さんは感激で目を潤ませている。

 だが、ぼくは見たんだ。

 ぼくたちが歌っているときにマナの肩が小刻みに震えていた。

 あれは感極まってではない。きっともっと別の感情だ。

 みどりみどりと、原曲のまま歌っているのを精霊が翻訳したんだろう。

 ぼくだって歌いながら選曲ミスったと思ったもん。

おまけ ~とある護衛騎士の嘆き~

 俺は騎士団の選りすぐりのエリート集団である第一師団に所属する騎士だ。

 領の重鎮を警護するため、実力、家柄、容姿と三拍子そろった第一師団の中でも更にトップクラスの一軍に所属しているスーパーエリートだ。

 どこかの村からやってきた婆たちの警護は第三師団程度でまあいいだろう。

 だが、午後に急遽決まった。領主様のお忍びは、俺たちが担当だ。

 焼肉パーティーに領主様の格にあう肉など平民上がりの下級貴族には用意できまい。素早く肉屋を特定して購入内容聞くと、なんと、内臓ばかりではないか!

 領主様に”ほうりなげるようなもん”を提供するというのか!!

 平民貴族には丁度良いかもしれないが、領主様のお口に入れてはならない。最高級肉を手配しなければならないではないか。


 現場で早急に警備計画を検討していると、二匹の踊る猫が丸いものに乗って通り過ぎていった。見たもの全員があれは何だったのかと首を傾げるが、危険物の排除は我らの使命だ。さっさと捕まえに行かんか。

 追いかけい行くと、庭に寝転んで毛繕いをしている普通の子猫が二匹いた。肉球はぷにぷにで、お腹はぽちゃぽちゃで、毛はふわふわだ。

 うむ。

 もう一匹もきちんと調べよう。

 おやそこに居るのは噂のスライムではないか。

 こいつが領主様のスライムに果敢にも挑戦して敗れたスライムか。

 どれ、ひとつ技でも決めてみろ。

 なに、競技台がないと無理だと。

 ふむ。それもそうだ。だが、こいつ、俺のスライムよりプルンプルンで気持ちいい手触りだ。そっちのスライムも確認させなさい。

 おや、この子は張りがあってこれはこれでいい手触りだ。

 まあ危険物ではないだろう。


 簡単な仕事だと考えていた。

 敷地は広いが警戒箇所は多くなく、会場の周囲に死角無いように騎士を配備するだけでよい。

 参加者には第三師団長がいたが、こちらは友人として、個人で参加しているので、肥溜めに落ちた息子もいる。

 汚いだろ、お嬢様に近づくな。

 領主様はよぼよぼの老婆と四阿でお茶を飲んでいるが第三師団長がついているから問題ない。

 婆が部屋に戻ると入れ替わりで物凄い美女がやってきた。巨乳というほどではないが細身なので大きく見える。バストはあれぐらいの大きさが一番いい。

 第三師団長の隣に美女が座ったぞ。するいぞ!


それにしても、肉の脂が炭火に落ちると煙が酷い。風向きのよっては目に染みる。それよりも何よりも、匂いがキツイ。

 旨そうだ。この匂い。

 ホルモンの脂が落ちると、小さな竈から火が立ち上がる。

 それを、あらあら、と言いながら、美人の侍従がお肉を置いて消すんだ。羨ましい。

 ほかる(*1)はずの肉がなんであんなに旨そうなんだ。

 お嬢様が手づかみで丸いものを食べている。 やっぱり平民と付き合うと行儀が悪くなる。

 だが、美味しそうだ。お嬢様のほっぺが丸く膨らみ、何か言ったあと笑った。

 ああ、可愛らしい。

 庶民のくらしは楽しそうだ。

 うちの食卓はこんな笑顔はない。


 最後にすごいスライムを見た!

 あれは普通のすらいむではない!!

 楽器を弾きこなすなんてどうやったら、そんな風に育つんだ。

 ああ、歌も素晴らしい。

 ……。

 素晴らしいのはこの家族だ。

 こんな家庭を持ちたいものだ。

 スーパーエリートの俺なのに二十歳を越えても嫁が来ないのは何故だろう。



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*1 ほかる = 愛知県、岐阜県周辺の方言で『捨てる』を表す。

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[一言] 二重線以下《おまけ》部の誤字報告 ・ほかるはずの肉がなんであんなに旨そうなんだ。→捨てるはずの肉がなんであんなに旨そうなんだ。 「ほかる」は方言です。私の住む地方でも「ほかす」を使いますが…
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